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73 壁越しの友人
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ヴァン・エストラーダが目を開けると、見慣れた石造りの天井が最初に目に入った。
周囲に目を向けると、木造りのベッドがいくつもあるが、寝ているのは自分だけのようだった。
上半身を起こし、薄手のタオルケットをとると、土の寝間着を着ている事に気付く。
どうやら医務室で寝ていたようだ。
あれからどうなった?
アンカハスを刺した後、倒れた事までは覚えているが、それからどうなったかは分からない。
刺された肩と、腹部に手を当てると、痛みは全くない。完治しているようだ。
治安部隊には、王宮から派遣された白魔法使いが常在し、負傷者が出ると治療にあたる事になっている。
かなりの深手だったから覚悟もしたが、治療が間に合ったのかと一つ息をついた。
カーテンが大きく揺れ、少し強い風が入ってくる。この時期の風は、日によって冷たさが大分違うが、今日の風は心地よかった。
だが、頭が少し寒い気がして手を当てると、幽閉されている間に伸びっぱなしだった髪が、綺麗に切られ、坊主頭になっている事に気付く。
顎に手を当てると、顎髭も無く、鼻の下の髭も無い。
「・・・寝てる間に、ずいぶんサッパリさせられてんな・・・」
「あ、ヴァン隊長!良かった、やっと目が覚めたんですね」
ドアが開き、少し短めの金色の髪を無造作にフワッとさせた少年が入ってきた。
エルウィン・レブロンだ。
ニコニコとした愛嬌ある顔は相変わらずだ。
「よぉ、エルウィンじゃねぇか。元気そうだな?」
「はい!俺、毎日頑張ってますよ。アラタさんと約束しましたから!」
「約束?」
「はい!ヴァンさんが隊長になったら、支えるって話したじゃないですか?だから、俺頑張りますよ!ヴァン隊長!」
エルウィンの言葉にヴァンは眉間にシワを寄せた。
「・・・え?そりゃ隊長やるって言ったけど、いつの間に決まったんだ?」
「あ、ヴァンさん二日も寝てましたし、そりゃ分からないですよね。すみません。俺、説明不足でした。
えっと、マルコス前隊長が除隊になりましたので、正式決定ではありませんが、ヴァンさんが新隊長になる予定です。まぁ、隊の中では賛成が多数ですし、ほぼ決定ですよ。後は国の承認待ちです」
エルウィンの言葉を聞くと、ヴァンは少しだけ下を向き目をつむった。
「隊長?」
「・・・あぁ、なんでもない。そうか・・・マルコスが除隊か・・・、ならば俺達は勝ったんだな?それで、他の皆はどうなった?二日も寝てたようだし、色々状況を教えてくれ」
「はい。結果からお伝えしますと、アラタさんがマルコス前隊長に勝ちました。マルコス前隊長は除隊です。それと、アンカハスさん、ヤファイさんも除隊です。こちらのお三方は騎士団によって、現在騎士団の収容所に囚われています。アローヨさんは籍は残っていますし、収容所には入ってませんが、騎士団の団長から待機命令がでていて、協会から出る事はできません」
「・・・そうか、勝ったか・・・大したヤツだ。つまり今、治安部隊は騎士団の指揮下に入っているわけか?」
「はい。現在、騎士団団長のトレバー・ベナビデス様が、治安部隊も指揮下に置いております。あの方はベナビデス家の長男です。今回の件で、国王陛下から直々に治安部隊もまかされて、それはそれはお喜びだったそうです」
言葉は丁寧だが、エルウィンは口元を歪ませ憎々し気に語った。
「あぁ、トレバーは公爵だからな。エリザベート王女とのご婚約も視野に入れてんだろ?反発している治安部隊と、騎士団を一つにまとめ上げて国防力が上がれば多大な功績だ。国王もそれで王女とのご縁に繋げようとお考えなんじゃないか?」
「えー、俺嫌ですよ!トレバー様、いっつも治安部隊を馬鹿にしてたじゃないですか?誰でも入れるゴロツキ集団みたいに言って。そんな人にいつまでも上にいて欲しくないです」
大げさに首と手を横に何度も振り、エルウィンが露骨な態度を見せると、ヴァンは笑って、エルウィンの肩を叩いた。
「クックックッ・・・お前も面白いな。確かに大貴族のトレバーから見れば、治安部隊はゴロツキの集団だ。だがよ、お前よくアラタに言ってたよな?俺は俺って。トレバーは関係ねぇよ。お前はお前で、お前の信念を大事に行動しろ」
「・・・やっぱヴァン隊長もカッケーです!そうですよね!その通りです!俺、騎士団に負けないように頑張りますよ!」
「クックック、お前、なんとなくアラタに似てるな。素直って言うか、真面目って言うか、それでカリウスとフェンテスは?」
「あ、はい。カリウスさんは現在、隊長代行として職務にあたってます。ご本人は一度は固辞されたのですが、今回の戦いで隊の皆、なんとなくですけど・・・カリウスのさんに対する見方が変わったようです。
隊の皆の再三の要望もあって、ヴァンさんが正式に就任するまでの間だけという事ですが、了承してもらえました。補佐にはフェンテスさんがついてます。本当はフェンテスさんも待機命令が出そうだったんですが、隊のみんなの支持と、現役の補佐官がせめて一人は残らないと、とても回せないという事でフェンテスさんは処分保留状態で、現場に出てます」
カリウスが隊長代行と聞き、ヴァンは驚きを感じたが、それ以上に安心感が心に広がった。
頑なだったカリウスの心が、今は隊に向いている。カリウスは前を向き始めた。
そして、フェンテス。今回の戦いで、フェンテスは大きく成長を遂げた。
いずれ隊長にもなれる器だろう。
だが、今回の件で何らかの処分が出る事はしかたないだろう。
俺は一貫して拷問、処刑など理不尽な命令は反対したが、フェンテスは基本的には従っていた。
それに伴う罰は受けねばならない。
ヴァンの表情が和らいでいるのを見て、エルウィンも目尻が下がった。
良かった。まだまだ混乱は大きいし、これからが大変だけど、この人の元で自分も街のために隊を盛り上げていこう。エルウィンはそう心に決めた。
「あと、アラタさん達ですが、一旦帰る事はできました。戦いが終わったあと、騒ぎを聞きつけた騎士団が到着したら、マルコス前隊長が倒れてるし、建物の一部が破壊されてるし、レイジェスの皆さんは一般人じゃないですか?なんで勢揃いでここにいるんだとか、そもそもなんで協会でこんな騒動が起きたんだって、とにかく説明が大変でした」
エルウィンは一つ息を付いて、話を続けた。
そうだ。協会であれだけの戦いがおこったんだ。騎士団が出るしかないだろう。
普段、安全地帯にいて、めったに仕事らしい仕事をしない分、さぞ手際も悪く大変だった事だろう。
ヴァンが皮肉を込めた含み笑いをすると、エルウィンは口を尖らせた。
「ヴァン隊長、本当に大変だったんですよ!騎士団の方達、なんだこれは?って騒いであたふたしてるばかりだし、俺が説明しようとしても、見習いでは話にならんって言って、最初から聞く耳もたないし、何しに来たんだ?って本気で思いましたもん!結局、経緯を知っていて、意識を取り戻したフェンテスさんが、説明して話をまとめてくれましたけど」
「クックック、悪い悪い、いつも通りで笑っちまったよ。そうだ、騎士団は基本坊ちゃんだからな。まぁ、許してやれよエルウィン、アイツらもそういう育てられ方をしただけなんだ。だが、まぁ騎士団全部がそうじゃない。少ないが優秀なヤツも確かにいるんだ。あまり一括りでものを見ないようにな」
ヴァンに窘められ、エルウィンは少し慌てた様子で姿勢を正した。
「あ、すみませんでした・・・、病み上がりのヴァン隊長に、なんか俺グチグチ文句ばかり言ってしまって」
「いや、いいんだ。俺達二人だけの時は気にすんな。そういう感情も外に出さねぇとな。こうやって話せば気付く事もあるだろ?なんかあったら溜め込まずいつでも言いに来いよ。それで、アラタ達は無事に帰ったんだな?」
ヴァンの言葉にエルウィンは安心感と頼もしさを感じた。
これからの治安部隊は、この人を中心に変わっていくんだ。自分もこの人の背中を見て、立派な隊員になろう。
そして、思った事をすぐに口にした事を反省した。
ヴァンが大人だから良かったが、騎士団を良く思ってなくても、それは自分の胸の内にしまっておこう。
不満があれば、ヴァンに相談して考えよう。
この日から、エルウィンはヴァンに師事するようになる。
「アラタさん達はとりあえずは帰れました。でも、これだけの騒ぎになったので、日を改めて城に召還される事になりました。ヴァン隊長が目を覚ましたら、知らせに来るようにと、騎士団の方から言われてますので、隊長と、カリウスさん、フェンテスさんが揃ったタイミングで、アラタさんにも召還が行くと思います」
「そうか・・・とりあえず、無事には帰れたんだな。良かったよ・・・」
ヴァンは一つ大きく息をついた。
サカキアラタ・・・牢で知り合った不思議な男だった。
隊に見切りを付けて、田舎に引っ込もうと思っていたところに、突然アイツが現れた。
暇つぶし程度の気持ちで声をかけてみたら、意外に話が合い、色々な事を話すようになった。
少し変だなと思ったのは、アラタは自分の出自になると口が重くなる。
そして、クインズベリーに住んでいる割には、この国の情勢に疎く、ブロートンやロンズデールの話になると、子供でも知ってそうな事すら知らなかった。
訳有りなようだから、深くは聞かなかった。
皆何か抱えて生きているんだ。
話したくなれば、そのうち自分から話してくるだろう。
俺はベッドから降りると、エルウィンに着替えを頼んだ。
部屋から出ていくエルウィンを見送ると、背伸びをして体をほぐした。
半年も幽閉されて、鈍りきった体を戻さないとな。
これからはやる事が山のようにある。忙しくなるな・・・
「アラタ・・・お前がマルコスに勝ったせいで、忙しくなりそうだぞ」
窓の外に向かって呟くと、自然と口から笑いが漏れた。
思えば俺とアラタはお互い顔は知っていても、一度も顔を合わせて話した事が無い。
不思議な関係だ。
だが、アラタが召還されれば、今度は顔を合わせて話す事ができるだろう。
年は10も離れているが、壁越しの友人に会える日を楽しみにしよう・・・・
周囲に目を向けると、木造りのベッドがいくつもあるが、寝ているのは自分だけのようだった。
上半身を起こし、薄手のタオルケットをとると、土の寝間着を着ている事に気付く。
どうやら医務室で寝ていたようだ。
あれからどうなった?
アンカハスを刺した後、倒れた事までは覚えているが、それからどうなったかは分からない。
刺された肩と、腹部に手を当てると、痛みは全くない。完治しているようだ。
治安部隊には、王宮から派遣された白魔法使いが常在し、負傷者が出ると治療にあたる事になっている。
かなりの深手だったから覚悟もしたが、治療が間に合ったのかと一つ息をついた。
カーテンが大きく揺れ、少し強い風が入ってくる。この時期の風は、日によって冷たさが大分違うが、今日の風は心地よかった。
だが、頭が少し寒い気がして手を当てると、幽閉されている間に伸びっぱなしだった髪が、綺麗に切られ、坊主頭になっている事に気付く。
顎に手を当てると、顎髭も無く、鼻の下の髭も無い。
「・・・寝てる間に、ずいぶんサッパリさせられてんな・・・」
「あ、ヴァン隊長!良かった、やっと目が覚めたんですね」
ドアが開き、少し短めの金色の髪を無造作にフワッとさせた少年が入ってきた。
エルウィン・レブロンだ。
ニコニコとした愛嬌ある顔は相変わらずだ。
「よぉ、エルウィンじゃねぇか。元気そうだな?」
「はい!俺、毎日頑張ってますよ。アラタさんと約束しましたから!」
「約束?」
「はい!ヴァンさんが隊長になったら、支えるって話したじゃないですか?だから、俺頑張りますよ!ヴァン隊長!」
エルウィンの言葉にヴァンは眉間にシワを寄せた。
「・・・え?そりゃ隊長やるって言ったけど、いつの間に決まったんだ?」
「あ、ヴァンさん二日も寝てましたし、そりゃ分からないですよね。すみません。俺、説明不足でした。
えっと、マルコス前隊長が除隊になりましたので、正式決定ではありませんが、ヴァンさんが新隊長になる予定です。まぁ、隊の中では賛成が多数ですし、ほぼ決定ですよ。後は国の承認待ちです」
エルウィンの言葉を聞くと、ヴァンは少しだけ下を向き目をつむった。
「隊長?」
「・・・あぁ、なんでもない。そうか・・・マルコスが除隊か・・・、ならば俺達は勝ったんだな?それで、他の皆はどうなった?二日も寝てたようだし、色々状況を教えてくれ」
「はい。結果からお伝えしますと、アラタさんがマルコス前隊長に勝ちました。マルコス前隊長は除隊です。それと、アンカハスさん、ヤファイさんも除隊です。こちらのお三方は騎士団によって、現在騎士団の収容所に囚われています。アローヨさんは籍は残っていますし、収容所には入ってませんが、騎士団の団長から待機命令がでていて、協会から出る事はできません」
「・・・そうか、勝ったか・・・大したヤツだ。つまり今、治安部隊は騎士団の指揮下に入っているわけか?」
「はい。現在、騎士団団長のトレバー・ベナビデス様が、治安部隊も指揮下に置いております。あの方はベナビデス家の長男です。今回の件で、国王陛下から直々に治安部隊もまかされて、それはそれはお喜びだったそうです」
言葉は丁寧だが、エルウィンは口元を歪ませ憎々し気に語った。
「あぁ、トレバーは公爵だからな。エリザベート王女とのご婚約も視野に入れてんだろ?反発している治安部隊と、騎士団を一つにまとめ上げて国防力が上がれば多大な功績だ。国王もそれで王女とのご縁に繋げようとお考えなんじゃないか?」
「えー、俺嫌ですよ!トレバー様、いっつも治安部隊を馬鹿にしてたじゃないですか?誰でも入れるゴロツキ集団みたいに言って。そんな人にいつまでも上にいて欲しくないです」
大げさに首と手を横に何度も振り、エルウィンが露骨な態度を見せると、ヴァンは笑って、エルウィンの肩を叩いた。
「クックックッ・・・お前も面白いな。確かに大貴族のトレバーから見れば、治安部隊はゴロツキの集団だ。だがよ、お前よくアラタに言ってたよな?俺は俺って。トレバーは関係ねぇよ。お前はお前で、お前の信念を大事に行動しろ」
「・・・やっぱヴァン隊長もカッケーです!そうですよね!その通りです!俺、騎士団に負けないように頑張りますよ!」
「クックック、お前、なんとなくアラタに似てるな。素直って言うか、真面目って言うか、それでカリウスとフェンテスは?」
「あ、はい。カリウスさんは現在、隊長代行として職務にあたってます。ご本人は一度は固辞されたのですが、今回の戦いで隊の皆、なんとなくですけど・・・カリウスのさんに対する見方が変わったようです。
隊の皆の再三の要望もあって、ヴァンさんが正式に就任するまでの間だけという事ですが、了承してもらえました。補佐にはフェンテスさんがついてます。本当はフェンテスさんも待機命令が出そうだったんですが、隊のみんなの支持と、現役の補佐官がせめて一人は残らないと、とても回せないという事でフェンテスさんは処分保留状態で、現場に出てます」
カリウスが隊長代行と聞き、ヴァンは驚きを感じたが、それ以上に安心感が心に広がった。
頑なだったカリウスの心が、今は隊に向いている。カリウスは前を向き始めた。
そして、フェンテス。今回の戦いで、フェンテスは大きく成長を遂げた。
いずれ隊長にもなれる器だろう。
だが、今回の件で何らかの処分が出る事はしかたないだろう。
俺は一貫して拷問、処刑など理不尽な命令は反対したが、フェンテスは基本的には従っていた。
それに伴う罰は受けねばならない。
ヴァンの表情が和らいでいるのを見て、エルウィンも目尻が下がった。
良かった。まだまだ混乱は大きいし、これからが大変だけど、この人の元で自分も街のために隊を盛り上げていこう。エルウィンはそう心に決めた。
「あと、アラタさん達ですが、一旦帰る事はできました。戦いが終わったあと、騒ぎを聞きつけた騎士団が到着したら、マルコス前隊長が倒れてるし、建物の一部が破壊されてるし、レイジェスの皆さんは一般人じゃないですか?なんで勢揃いでここにいるんだとか、そもそもなんで協会でこんな騒動が起きたんだって、とにかく説明が大変でした」
エルウィンは一つ息を付いて、話を続けた。
そうだ。協会であれだけの戦いがおこったんだ。騎士団が出るしかないだろう。
普段、安全地帯にいて、めったに仕事らしい仕事をしない分、さぞ手際も悪く大変だった事だろう。
ヴァンが皮肉を込めた含み笑いをすると、エルウィンは口を尖らせた。
「ヴァン隊長、本当に大変だったんですよ!騎士団の方達、なんだこれは?って騒いであたふたしてるばかりだし、俺が説明しようとしても、見習いでは話にならんって言って、最初から聞く耳もたないし、何しに来たんだ?って本気で思いましたもん!結局、経緯を知っていて、意識を取り戻したフェンテスさんが、説明して話をまとめてくれましたけど」
「クックック、悪い悪い、いつも通りで笑っちまったよ。そうだ、騎士団は基本坊ちゃんだからな。まぁ、許してやれよエルウィン、アイツらもそういう育てられ方をしただけなんだ。だが、まぁ騎士団全部がそうじゃない。少ないが優秀なヤツも確かにいるんだ。あまり一括りでものを見ないようにな」
ヴァンに窘められ、エルウィンは少し慌てた様子で姿勢を正した。
「あ、すみませんでした・・・、病み上がりのヴァン隊長に、なんか俺グチグチ文句ばかり言ってしまって」
「いや、いいんだ。俺達二人だけの時は気にすんな。そういう感情も外に出さねぇとな。こうやって話せば気付く事もあるだろ?なんかあったら溜め込まずいつでも言いに来いよ。それで、アラタ達は無事に帰ったんだな?」
ヴァンの言葉にエルウィンは安心感と頼もしさを感じた。
これからの治安部隊は、この人を中心に変わっていくんだ。自分もこの人の背中を見て、立派な隊員になろう。
そして、思った事をすぐに口にした事を反省した。
ヴァンが大人だから良かったが、騎士団を良く思ってなくても、それは自分の胸の内にしまっておこう。
不満があれば、ヴァンに相談して考えよう。
この日から、エルウィンはヴァンに師事するようになる。
「アラタさん達はとりあえずは帰れました。でも、これだけの騒ぎになったので、日を改めて城に召還される事になりました。ヴァン隊長が目を覚ましたら、知らせに来るようにと、騎士団の方から言われてますので、隊長と、カリウスさん、フェンテスさんが揃ったタイミングで、アラタさんにも召還が行くと思います」
「そうか・・・とりあえず、無事には帰れたんだな。良かったよ・・・」
ヴァンは一つ大きく息をついた。
サカキアラタ・・・牢で知り合った不思議な男だった。
隊に見切りを付けて、田舎に引っ込もうと思っていたところに、突然アイツが現れた。
暇つぶし程度の気持ちで声をかけてみたら、意外に話が合い、色々な事を話すようになった。
少し変だなと思ったのは、アラタは自分の出自になると口が重くなる。
そして、クインズベリーに住んでいる割には、この国の情勢に疎く、ブロートンやロンズデールの話になると、子供でも知ってそうな事すら知らなかった。
訳有りなようだから、深くは聞かなかった。
皆何か抱えて生きているんだ。
話したくなれば、そのうち自分から話してくるだろう。
俺はベッドから降りると、エルウィンに着替えを頼んだ。
部屋から出ていくエルウィンを見送ると、背伸びをして体をほぐした。
半年も幽閉されて、鈍りきった体を戻さないとな。
これからはやる事が山のようにある。忙しくなるな・・・
「アラタ・・・お前がマルコスに勝ったせいで、忙しくなりそうだぞ」
窓の外に向かって呟くと、自然と口から笑いが漏れた。
思えば俺とアラタはお互い顔は知っていても、一度も顔を合わせて話した事が無い。
不思議な関係だ。
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