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84 セインソルボ山 ⑤
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アタシと店長がセインソルボ山に入って4ヶ月が立った。
今は標高6000メートルを探しているが、花は一向に見つからない。
この高さまで上がると、とても空気が薄い。
気温と気圧の調整はできる。雨風も防げる。足場も作れるから気にならない。
だけど、空気は作り出せない。
これほど空気が薄いとは思わなかった。
地上の半分も無いのではないか?
頭も痛いし、気持ち悪い・・・ジーンに会いたい・・・ジーン今何してるかな・・・ジーン・・・
「ケイト!」
「あ・・・ジーン・・・」
そこでアタシの意識は途切れた。
真っ黒な世界だった。
一筋の光も無い真っ黒な世界にアタシはいた。
どこに目を向けてもアタシの目には何も映らない。
【ジーン・・・ジーン!どこー!?】
返事は無い。
立ち上がって歩いてみる。
浮いているようなおかしな感覚だった。
立って真っ直ぐ歩いているつもりが、いつのまにか頭を下にして、逆さまになって歩いている。
不思議な事だが重力を無視したように、一切の負荷を感じる事なく逆さまなのだ。
【ジーン!どこー!お願い出てきてー!】
どれだけ声を出しても返事は無い。
出口はどこだろう?
ふと、異変に気付く。
歩幅が狭い・・・手足の感覚がおかしい。アタシの手足がなんだか小さい気がする。
今度はいつの間にか真っ直ぐに立って歩いていた。
しかし、どこか地に足がついていないような、ふわふわとしたおかしな感覚だった。
そして真っ黒な空間がどこまでも続いている。
歩幅はさっきよりも狭くなった気がする。手足もそうだ。進むほどに体が小さくなっていく。
まるで子供に戻って行くようだ。
アタシはどこに向かっているのだろう・・・
やがて真っ黒の世界で、アタシの体はぐるぐると回り出し、どこが上でどこが下かも分からなくなってきた。
ジーン・・・ジーンに会いたい・・・ジーンどこ?
【お前の娘さ・・・なんとかならねぇ?】
【そうね・・・こんなことなら・・・元旦那に引き取ってもらえば良かった】
どこからか突然声が聞こえた・・・これは・・・
この声は・・・アタシの心臓の鼓動が早まる・・・
【今からでも渡す事できねぇの?俺達の生活に邪魔じゃん?】
【そうよね・・・あなたと二人きりの生活がしたいわ】
体中が震えてる・・・
全身から冷たい汗が滲み出る・・・
呼吸も早くなる・・・
足が動かない・・・怖い・・・これは思い出したくない・・・
嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ・・・
ジーン!ジーン!ジーン!
お願い!出てきて!ジーン!お願い!
ジーンお願い!アタシを助けて!
「うあぁぁぁー!ジーン!」
目を覚ますと、見慣れた木造りの天井があるだけだった。
手を伸ばしていたが、握った手は空を掴むだけだけで、ジーンはそこにいなかった。
「ケイト!大丈夫か!?」
「あ・・・てん、ちょう・・・」
標高6000メートルを探索中、アタシは具合が悪くなって気を失ってしまったらしい。
ロープでアタシと店長の体を結んでいなかったら・・・そう考えてぞっとする・・・
店長はアタシを抱えて、山を降りたそうだ。
小屋に戻り、寝かせている間も、ずっとうなされていて、ジーンの名前を呼び続けていたらしい。
「高度が上がれば酸素が薄くなる・・・今回は標高6000メートルだった。地上の半分も酸素がなかったただろう。そうなると、頭痛や吐き気を起こす事がある・・・ケイトの場合は、幻覚も見たのかもしれない・・・すまない。俺に油断があった。俺の責任だ・・・」
店長はアタシに頭を下げて謝った。
低酸素の対策に、水をこまめに飲んだり、かなりゆっくり登って、体を慣れさせたつもりだが、足りなかったようだ。事前に聞いていたじゃないか・・・これはアタシの体調管理の問題で、店長は悪くない・・・店長が謝る事じゃない。全く、損な性格ですね・・・・・・
そうか・・・幻覚か・・・しばらく見ていなかったな・・・あの夢・・・
10才のアタシは居場所が無かった。
思い出すのは毎日遊びに来てくれたジーンだけ。
帰ろう・・・ジーンのところへ・・・
アタシの居場所はジーンのところだけ・・・
ジーンだけはアタシと一緒にいてくれるはず・・・
でも・・・もしジーンもアタシを拒絶したら?
そうなったら・・・アタシは・・・
来る日も来る日もジーンの事だけを考えた・・・
そして2年・・・12歳になった時、アタシはとうとう我慢できずに家を飛び出した。
いらない・・・何もいらない・・・
だから・・・アタシを受け止めて・・・アタシを受け入れて・・・
お願いジーン!ジーンだけがアタシの・・・アタシの居場所!
そう願い走り続けた・・・
ロンズデール国からクインズベリーまで、何日かかっただろう・・・
アタシは神様はいると思う。
だって、クインズベリーに入って、
あの街に戻って・・・アタシはジーンをすぐに見つけられたから・・・
昔アタシが住んでいた家・・・その近所の食堂だった・・・
お父さん・・・お母さん・・・三人仲良く食べに来た事があったな・・・
懐かしさと楽しかった思い出に、胸が締め付けられた。
ドアが開いて出て来た人は、アタシが会いたかった青い髪の男の子だった。
アタシは神様を信じる。
だって、ジーンに会わせてくれたから・・・
名前を呼ぶと、ジーンは振り向いてくれた・・・
とっても驚いたのは、顔を見れば分かった。
近づいていいのかな? だってアタシはこんなにボロボロだ・・・
迷惑にならないかな? だってアタシはこんなに髪もボサボサだ・・・
嫌われないかな? だってアタシは親にも邪魔者扱いされた・・・いらない子・・・
「ケイト!」
ジーンはアタシを力いっぱい抱きしめてくれた。
痛いくらいだった。でも、この痛みは心を温かくしてくれる痛みだった。
ジーンはずっとアタシの名前を呼び続けてくれた・・・
そのうち、アタシの名前と一緒に、嗚咽が聞こえてきた・・・
なんだか、アタシがジーンを慰めなきゃいけない気持ちになって、ジーンの背中をそっと撫でた。
どのくらいそうしてただろう・・・
落ち着いた頃、ジーンはアタシから体を離して・・・手を握ってくれた。
「帰ろう・・・僕達の家に」
「・・・うん」
嬉しかった・・・・・・アタシの人生で一番嬉しかった。
この時の記憶があれば、アタシはどんな辛い事があっても負けない。何にだって立ち向かえる。
「ケイト・・・探索は中止だ。帰ろう・・・本当にすまなかった」
店長がもう一度アタシに頭を下げた。
この人の背負っているものは、きっと想像もつかない程重いものなのだろう。
優しい人だ。
アタシのために、探索を中止するなんて・・・王妃様のご依頼だよ?いいの?
どれだけの費用がかかってるのか・・・
アタシは知っている。店長は本当に中止する。そういう人だ。
でも、店長はアタシの事を、まだ分かってないのかな?しかたない、教えてやるか。
「何言ってんですか?さすがに今日は休みますけど、明日はまた山に登りますよ」
ジーン。アタシ頑張るよ・・・あの日、ジーンがアタシを受け止めてくれたから。
こんな事でアタシは負けない。
それに店長は放っておけないでしょ?この人、強いけど弱いから。
アタシの言葉に店長は驚いたようだ。目を丸くしている。
店長の胸に拳を打ち付けると、やっと表情が少しだけほぐれた。
「・・・ケイト、君は強いな・・・ありがとう」
「そうですよ。女は強いんだから・・・覚えといてくださいね」
今は標高6000メートルを探しているが、花は一向に見つからない。
この高さまで上がると、とても空気が薄い。
気温と気圧の調整はできる。雨風も防げる。足場も作れるから気にならない。
だけど、空気は作り出せない。
これほど空気が薄いとは思わなかった。
地上の半分も無いのではないか?
頭も痛いし、気持ち悪い・・・ジーンに会いたい・・・ジーン今何してるかな・・・ジーン・・・
「ケイト!」
「あ・・・ジーン・・・」
そこでアタシの意識は途切れた。
真っ黒な世界だった。
一筋の光も無い真っ黒な世界にアタシはいた。
どこに目を向けてもアタシの目には何も映らない。
【ジーン・・・ジーン!どこー!?】
返事は無い。
立ち上がって歩いてみる。
浮いているようなおかしな感覚だった。
立って真っ直ぐ歩いているつもりが、いつのまにか頭を下にして、逆さまになって歩いている。
不思議な事だが重力を無視したように、一切の負荷を感じる事なく逆さまなのだ。
【ジーン!どこー!お願い出てきてー!】
どれだけ声を出しても返事は無い。
出口はどこだろう?
ふと、異変に気付く。
歩幅が狭い・・・手足の感覚がおかしい。アタシの手足がなんだか小さい気がする。
今度はいつの間にか真っ直ぐに立って歩いていた。
しかし、どこか地に足がついていないような、ふわふわとしたおかしな感覚だった。
そして真っ黒な空間がどこまでも続いている。
歩幅はさっきよりも狭くなった気がする。手足もそうだ。進むほどに体が小さくなっていく。
まるで子供に戻って行くようだ。
アタシはどこに向かっているのだろう・・・
やがて真っ黒の世界で、アタシの体はぐるぐると回り出し、どこが上でどこが下かも分からなくなってきた。
ジーン・・・ジーンに会いたい・・・ジーンどこ?
【お前の娘さ・・・なんとかならねぇ?】
【そうね・・・こんなことなら・・・元旦那に引き取ってもらえば良かった】
どこからか突然声が聞こえた・・・これは・・・
この声は・・・アタシの心臓の鼓動が早まる・・・
【今からでも渡す事できねぇの?俺達の生活に邪魔じゃん?】
【そうよね・・・あなたと二人きりの生活がしたいわ】
体中が震えてる・・・
全身から冷たい汗が滲み出る・・・
呼吸も早くなる・・・
足が動かない・・・怖い・・・これは思い出したくない・・・
嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ・・・
ジーン!ジーン!ジーン!
お願い!出てきて!ジーン!お願い!
ジーンお願い!アタシを助けて!
「うあぁぁぁー!ジーン!」
目を覚ますと、見慣れた木造りの天井があるだけだった。
手を伸ばしていたが、握った手は空を掴むだけだけで、ジーンはそこにいなかった。
「ケイト!大丈夫か!?」
「あ・・・てん、ちょう・・・」
標高6000メートルを探索中、アタシは具合が悪くなって気を失ってしまったらしい。
ロープでアタシと店長の体を結んでいなかったら・・・そう考えてぞっとする・・・
店長はアタシを抱えて、山を降りたそうだ。
小屋に戻り、寝かせている間も、ずっとうなされていて、ジーンの名前を呼び続けていたらしい。
「高度が上がれば酸素が薄くなる・・・今回は標高6000メートルだった。地上の半分も酸素がなかったただろう。そうなると、頭痛や吐き気を起こす事がある・・・ケイトの場合は、幻覚も見たのかもしれない・・・すまない。俺に油断があった。俺の責任だ・・・」
店長はアタシに頭を下げて謝った。
低酸素の対策に、水をこまめに飲んだり、かなりゆっくり登って、体を慣れさせたつもりだが、足りなかったようだ。事前に聞いていたじゃないか・・・これはアタシの体調管理の問題で、店長は悪くない・・・店長が謝る事じゃない。全く、損な性格ですね・・・・・・
そうか・・・幻覚か・・・しばらく見ていなかったな・・・あの夢・・・
10才のアタシは居場所が無かった。
思い出すのは毎日遊びに来てくれたジーンだけ。
帰ろう・・・ジーンのところへ・・・
アタシの居場所はジーンのところだけ・・・
ジーンだけはアタシと一緒にいてくれるはず・・・
でも・・・もしジーンもアタシを拒絶したら?
そうなったら・・・アタシは・・・
来る日も来る日もジーンの事だけを考えた・・・
そして2年・・・12歳になった時、アタシはとうとう我慢できずに家を飛び出した。
いらない・・・何もいらない・・・
だから・・・アタシを受け止めて・・・アタシを受け入れて・・・
お願いジーン!ジーンだけがアタシの・・・アタシの居場所!
そう願い走り続けた・・・
ロンズデール国からクインズベリーまで、何日かかっただろう・・・
アタシは神様はいると思う。
だって、クインズベリーに入って、
あの街に戻って・・・アタシはジーンをすぐに見つけられたから・・・
昔アタシが住んでいた家・・・その近所の食堂だった・・・
お父さん・・・お母さん・・・三人仲良く食べに来た事があったな・・・
懐かしさと楽しかった思い出に、胸が締め付けられた。
ドアが開いて出て来た人は、アタシが会いたかった青い髪の男の子だった。
アタシは神様を信じる。
だって、ジーンに会わせてくれたから・・・
名前を呼ぶと、ジーンは振り向いてくれた・・・
とっても驚いたのは、顔を見れば分かった。
近づいていいのかな? だってアタシはこんなにボロボロだ・・・
迷惑にならないかな? だってアタシはこんなに髪もボサボサだ・・・
嫌われないかな? だってアタシは親にも邪魔者扱いされた・・・いらない子・・・
「ケイト!」
ジーンはアタシを力いっぱい抱きしめてくれた。
痛いくらいだった。でも、この痛みは心を温かくしてくれる痛みだった。
ジーンはずっとアタシの名前を呼び続けてくれた・・・
そのうち、アタシの名前と一緒に、嗚咽が聞こえてきた・・・
なんだか、アタシがジーンを慰めなきゃいけない気持ちになって、ジーンの背中をそっと撫でた。
どのくらいそうしてただろう・・・
落ち着いた頃、ジーンはアタシから体を離して・・・手を握ってくれた。
「帰ろう・・・僕達の家に」
「・・・うん」
嬉しかった・・・・・・アタシの人生で一番嬉しかった。
この時の記憶があれば、アタシはどんな辛い事があっても負けない。何にだって立ち向かえる。
「ケイト・・・探索は中止だ。帰ろう・・・本当にすまなかった」
店長がもう一度アタシに頭を下げた。
この人の背負っているものは、きっと想像もつかない程重いものなのだろう。
優しい人だ。
アタシのために、探索を中止するなんて・・・王妃様のご依頼だよ?いいの?
どれだけの費用がかかってるのか・・・
アタシは知っている。店長は本当に中止する。そういう人だ。
でも、店長はアタシの事を、まだ分かってないのかな?しかたない、教えてやるか。
「何言ってんですか?さすがに今日は休みますけど、明日はまた山に登りますよ」
ジーン。アタシ頑張るよ・・・あの日、ジーンがアタシを受け止めてくれたから。
こんな事でアタシは負けない。
それに店長は放っておけないでしょ?この人、強いけど弱いから。
アタシの言葉に店長は驚いたようだ。目を丸くしている。
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