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257 レイチェルの気持ち
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「もう8時か、じゃあそろそろ続きを話すか・・・最初にも言ったけど、俺は結末までは知らねぇぞ。エリザ様は全部知ってるようですが、やっぱり話せないんですか?」
ジャレットに話しを向けられると、エリザベートは小さく首を横に振った。
「はい。申し訳ありませんが、私の口からお話しする事はできません。詳しい事情もお話しできませんが、バリオス様がお話しになられていない事は、私もお話しできません。ただ、ジャレットがお話しする中で、補足すべきところがあれば補足いたします」
「・・・分かりました。店長の事ですから、しかたないですね。レイチー、落ち着いたか?」
ジャレットはレイチェルに顔を向ける。
さっきまで、バリオスが一人、カエストゥス領土に入ったと聞いたレイチェルは、バリオスの身を案じ少し落ち着かない様子でいたからだ。
「あぁ・・・心配をかけたな。もう大丈夫だ・・・今は私が責任者だから、しっかりしないとな」
「・・・レイチーよぉ、確かにお前が責任者だけど、あんま一人で気張ってんじゃねぇぞ?
お前の店長に対する気持ちは分かってる。あんな危ねぇとこに一人で行ったのを、心配すんのは当たり前なんだよ。もうちょっとよ、責任者ってのに捕らわれねぇで、キツイ時は言えよ。時間はあんだから、もう少し休んだらどうだ?」
レイチェルの表情もいつも通りで、確かに大丈夫そうに見える。
だが、さっきまで難しい顔をして考え込んでいた様子を見て、ジャレットはフロアに出入りドアに目を向けた。
「もう夜だから外の空気は吸えねぇけど、店の中でも一周して来いよ。あ、カっちゃん付いて行ってやってな」
「ジャレット、私は本当にもう・・・」
「レイチェル、行こう?」
ジャレットに声をかけられ、カチュアが、うん、と返事をして席を立った。
心配ないと言葉を続けようとしたレイチェルの手を、カチュアがそっと取る。
「カチュア・・・」
「レイチェル、お散歩して来ようよ。ね?」
レイチェルは少しだけ思案したが、カチュアのくったくのない笑顔を見て、表情をやわらげた。
「・・・分かった。じゃあ、ジャレット、みんな、悪いけど少しカチュアと歩いて来るよ」
レイチェルはそう言うと席を立ち、カチュアと一緒に事務室を出て行った。
「・・・ジャレットって、見た目と違って本当によく気が効くわね」
レイチェルとカチュアが事務室を出ると、シルヴィアが隣に座るジャレットにチラリと目を向け、紅茶を口にした。
「え?なにそれ?俺の見た目がなんかおかしいか?」
「だって、そんな頭して、チャラチャラしてそうじゃない?私だって初めて会った時は、絶対にお話しできない人だと思ったわ。夏はタンクトップしか着ないし、タンクトップばかりすすめてくるし。おかげで私、タンクトップ着れなくなったのよ?あなたのイメージが強すぎて無理」
サラリと毒を吐くシルヴィアに、ジャレットは眉間にシワを寄せて詰め寄った。
「おいおいシーちゃんよぉ、そりゃちょっとバカにし過ぎ・・・」
「でも、一緒に働いて、すごく仲間想いだって分かって、私、今はジャレットの事とっても信頼してるのよ。なかなか言う機会がなかったけど、あの時だって、私が協会でカチュアに命の石の話しをして、つい泣いちゃった時、泣き顔を見せないように隠してくれたでしょ?・・・・・ジャレット、あの時はありがとう」
紅茶のカップを置いて、シルヴィアはジャレットに体を向け、真っすぐに目を見て微笑んだ。
「・・・な、なんだよ急に、調子くるうなぁ・・・」
「嬉しかったから・・・ジャレットのそういう優しいところ、私好きよ」
「・・・はぁ?な、おい・・・」
ジャレットが言葉を返せず、座ったままイスごとシルヴィアから体を引くと、引いた分だけシルヴィアが近寄った。
「あら?ジャレット、なんで下がるのかしら?」
「い、いやシーちゃんよぉ、そんな急に言われても」
「あら?急にってなにが急なの?優しいところが好きって言っただけでしょ?」
「いやいや、だからそれはよ、つまりよ・・・あ~!なんだこの状況!」
シルヴィアに顔をぐいっと近づけられて、ジャレットはめずらしくたじろいでいた。
チャライ言動も多いが、いつも堂々としていて、男らしく行動力もあるジャレットが、女性に詰め寄られてタジタジになっている姿に、アラタは目を丸くした。
「ジャレットさんが、顔赤くしてうろたえるなんて、驚きだな・・・」
ボソっとアラタが呟くと、斜め向かいに座っているミゼルが口の横に手を当てて、内緒話しをするように声をかけてきた。
「おい、アラタ、分かってると思うけど、ジャレットはな、見た目は遊び人っぽいけど、けっこう硬派でよ、ぐいぐい来られると弱いんだよ。今まで付き合った人数だって、そんな多くはないんだ。2~3人くらいじゃないか?それでシルヴィアがあの性格だろ?付き合ったら絶対尻に敷かれるな」
「ミゼルー、聞こえてるわよー」
ミゼルには顔を向けず、あくまでジャレットの方に体を向けたまま、シルヴィアは少し大きめの声でミゼルに言葉を投げかけると、ビクリと大きくミゼルが反応し、錆びたゼンマイ人形のように固い動きで、シルヴィアに顔を向けた。
「・・・き、聞こえてらっしゃいましたか?」
「ミゼル、言葉使いが変よ?どうしたの?」
振り向いたシルヴィアの微笑みは、いつもと変わらないものだった。
「・・・いや、その・・・」
「ミゼル」
「あ、はい・・・」
「女性の陰口は駄目よ?」
「・・・はい」
「キッチン・モロニーの新作のクッキーが評判良いの」
「明日・・・買ってきます」
「あら!いいの?嬉しいわ!ありがとうミゼル!」
両手を合わせて大きな笑顔を咲かせるシルヴィアに対し、ミゼルは長身を丸め、ただ小さくなっていた。
「ねぇ、レイチェル、聞いてもいいかな?」
昼間は大勢のお客で賑わう店内も、当然だが閉店後は一切の物音がせず静まり返り、
カチュアとレイチェル、二人の足音しか聞こえない。
「ん?なんだい?」
見慣れた古着や、剣に盾、毎日働いている店の中でも、こうして閉店後、しかも夜歩くのは少し新鮮だった。
レイチェルの前を歩くカチュアは、腰の後ろで両手を組みながら、クルッと回ってレイチェルに顔を向けた。
「あのね、突然だけど・・・レイチェルって、バリオス店長の事が好きなの?」
「・・・・・分からない」
レイチェルは足を止め、視線を床に落とし、少し考えた後に答えた。
「・・・そっか」
カチュアは優しく微笑みながら、明るい声で一言だけ返した。
「私は、店長を尊敬している。いつも街の人の事を考えて、傷薬や魔力回復薬だってあんなに安く販売して、利益よりも使う人の事を考えるところも尊敬している。私に商売を教えてくれて、力の使い方を教えてくれて・・・私は店長の力になりたいと思ってる。店長は、いつもどこか寂しそうなんだ。笑ってても、心から笑ってない・・・それは分かるんだ。だから・・・いつか店長が心から笑えるようになれればいいなって・・・私が、店長を笑顔にできればいいなって・・・・・そう思ってる」
レイチェルの気持ちを聞いたカチュアは、下を向いているレイチェルの頭を軽く指でつついた。
「ん?」
レイチェルが顔を上げると、カチュアはニコリと笑いかける。
「レイチェル、その気持ちはね、好きっていうんだよ」
「・・・そう、なのか?」
「うん。私もね、アラタ君に同じ事思ってるよ。私がアラタ君を笑顔にして、幸せにしたいなって。レイチェルの気持ちと同じでしょ?」
「・・・あぁ、同じだな。そうか・・・・・私の気持ちは、尊敬だけじゃなくて・・・好き、だったんだな・・・そうか・・・うん・・・あはは、なんで気付かなかったんだろ?自分の事なのに」
「レイチェルって、人の事はけっこう気付くけど、自分の事になると、ちょっと鈍かったりするよね」
カチュアがおかしそうに笑うと、レイチェルもつられて笑った。
誰もいない店内に、二人の笑い声だけが溢れる。
「レイチェル、私ね、アラタ君が協会に連れて行かれた時、ずっと落ち込んでたでしょ?でもね、みんな優しくて、私、本当に助けられたんだ。レイチェルはさ、私の事、協会に一緒に連れて行ってくれたでしょ。本当に嬉しかったんだよ。私もね、レイチェルの力になりたい。だから、何でも話してね?」
「あはは、そんなの恩に着る事ないのに。・・・でも、ありがとう。頼りにさせてもらうよ」
私は、きっと気付かなかったんじゃない。気付かないように、尊敬という言葉で自分をごまかしていたんだ。
前に、店長と話した時、店長には奥さんがいたと聞いた事がある。
そう・・・いたんだ・・・・・
過去形で話していたから、おそらく今はもう・・・・・
そして、あの時の店長の表情と、話し方から、店長が今もずっと奥さんを想っている事は分かった。
私は、自分の気持ちに気付いて傷つく事が怖かったんだ。
だから、気付かないふりをしていたんだ。
「・・・・・エルウィンに、謝らないとな」
「え?何か言った?」
前を歩くカチュアが振り返る。
私は、なんでもないよ、と小さく笑って答えた。
エルウィンが私に気があるのは分かっている。
私もエルウィンは嫌いじゃないし、大人になったら彼氏として考えてもいいかな、なんて思ってもいた。
でも、私はバリオス店長が好きなんだ。
そしてこの想いはおそらく叶わない。
気持ちを伝えるかどうか、今はまだ分からない。でも、私が店長を好きだと自覚してしまった。
こんな気持ちのまま、エルウィンに思わせぶりな態度は続けられない。
私には好きな人がいるとハッキリ伝える事が礼儀だ。
「カチュア」
「ん、なに?」
「恋愛ってさ・・・難しいね」
「うん、難しいよね。でもね、気持ちが伝わるとすっごい幸せになれるよ。私、レイチェルにも幸せになってほしいんだ!」
真っすぐなカチュアの笑顔に、なんだか心が癒される感じがした。
言葉は返さなかったけれど、私も笑顔を返した。
「さて、店内一周旅行はおしまいだね!事務所に帰って来たよ」
「あぁ、楽しい旅行だったな・・・それじゃ、入るか」
店長・・・信じてますよ。無事に帰って来るって・・・
やはりまだ、心配はしてしまうけれど、さっきまでよりずっと気持ちは楽になった。
自分の気持ちと向き合えたからだろうか・・・・・
私とカチュアが事務所に戻ると、ジャレットは私の顔を見て、納得したように頷いた。
「よし、じゃあ、話しの続きを始めよう」
200年前の、カエストゥスとブロートン帝国、その戦争の話しが始まった。
ジャレットに話しを向けられると、エリザベートは小さく首を横に振った。
「はい。申し訳ありませんが、私の口からお話しする事はできません。詳しい事情もお話しできませんが、バリオス様がお話しになられていない事は、私もお話しできません。ただ、ジャレットがお話しする中で、補足すべきところがあれば補足いたします」
「・・・分かりました。店長の事ですから、しかたないですね。レイチー、落ち着いたか?」
ジャレットはレイチェルに顔を向ける。
さっきまで、バリオスが一人、カエストゥス領土に入ったと聞いたレイチェルは、バリオスの身を案じ少し落ち着かない様子でいたからだ。
「あぁ・・・心配をかけたな。もう大丈夫だ・・・今は私が責任者だから、しっかりしないとな」
「・・・レイチーよぉ、確かにお前が責任者だけど、あんま一人で気張ってんじゃねぇぞ?
お前の店長に対する気持ちは分かってる。あんな危ねぇとこに一人で行ったのを、心配すんのは当たり前なんだよ。もうちょっとよ、責任者ってのに捕らわれねぇで、キツイ時は言えよ。時間はあんだから、もう少し休んだらどうだ?」
レイチェルの表情もいつも通りで、確かに大丈夫そうに見える。
だが、さっきまで難しい顔をして考え込んでいた様子を見て、ジャレットはフロアに出入りドアに目を向けた。
「もう夜だから外の空気は吸えねぇけど、店の中でも一周して来いよ。あ、カっちゃん付いて行ってやってな」
「ジャレット、私は本当にもう・・・」
「レイチェル、行こう?」
ジャレットに声をかけられ、カチュアが、うん、と返事をして席を立った。
心配ないと言葉を続けようとしたレイチェルの手を、カチュアがそっと取る。
「カチュア・・・」
「レイチェル、お散歩して来ようよ。ね?」
レイチェルは少しだけ思案したが、カチュアのくったくのない笑顔を見て、表情をやわらげた。
「・・・分かった。じゃあ、ジャレット、みんな、悪いけど少しカチュアと歩いて来るよ」
レイチェルはそう言うと席を立ち、カチュアと一緒に事務室を出て行った。
「・・・ジャレットって、見た目と違って本当によく気が効くわね」
レイチェルとカチュアが事務室を出ると、シルヴィアが隣に座るジャレットにチラリと目を向け、紅茶を口にした。
「え?なにそれ?俺の見た目がなんかおかしいか?」
「だって、そんな頭して、チャラチャラしてそうじゃない?私だって初めて会った時は、絶対にお話しできない人だと思ったわ。夏はタンクトップしか着ないし、タンクトップばかりすすめてくるし。おかげで私、タンクトップ着れなくなったのよ?あなたのイメージが強すぎて無理」
サラリと毒を吐くシルヴィアに、ジャレットは眉間にシワを寄せて詰め寄った。
「おいおいシーちゃんよぉ、そりゃちょっとバカにし過ぎ・・・」
「でも、一緒に働いて、すごく仲間想いだって分かって、私、今はジャレットの事とっても信頼してるのよ。なかなか言う機会がなかったけど、あの時だって、私が協会でカチュアに命の石の話しをして、つい泣いちゃった時、泣き顔を見せないように隠してくれたでしょ?・・・・・ジャレット、あの時はありがとう」
紅茶のカップを置いて、シルヴィアはジャレットに体を向け、真っすぐに目を見て微笑んだ。
「・・・な、なんだよ急に、調子くるうなぁ・・・」
「嬉しかったから・・・ジャレットのそういう優しいところ、私好きよ」
「・・・はぁ?な、おい・・・」
ジャレットが言葉を返せず、座ったままイスごとシルヴィアから体を引くと、引いた分だけシルヴィアが近寄った。
「あら?ジャレット、なんで下がるのかしら?」
「い、いやシーちゃんよぉ、そんな急に言われても」
「あら?急にってなにが急なの?優しいところが好きって言っただけでしょ?」
「いやいや、だからそれはよ、つまりよ・・・あ~!なんだこの状況!」
シルヴィアに顔をぐいっと近づけられて、ジャレットはめずらしくたじろいでいた。
チャライ言動も多いが、いつも堂々としていて、男らしく行動力もあるジャレットが、女性に詰め寄られてタジタジになっている姿に、アラタは目を丸くした。
「ジャレットさんが、顔赤くしてうろたえるなんて、驚きだな・・・」
ボソっとアラタが呟くと、斜め向かいに座っているミゼルが口の横に手を当てて、内緒話しをするように声をかけてきた。
「おい、アラタ、分かってると思うけど、ジャレットはな、見た目は遊び人っぽいけど、けっこう硬派でよ、ぐいぐい来られると弱いんだよ。今まで付き合った人数だって、そんな多くはないんだ。2~3人くらいじゃないか?それでシルヴィアがあの性格だろ?付き合ったら絶対尻に敷かれるな」
「ミゼルー、聞こえてるわよー」
ミゼルには顔を向けず、あくまでジャレットの方に体を向けたまま、シルヴィアは少し大きめの声でミゼルに言葉を投げかけると、ビクリと大きくミゼルが反応し、錆びたゼンマイ人形のように固い動きで、シルヴィアに顔を向けた。
「・・・き、聞こえてらっしゃいましたか?」
「ミゼル、言葉使いが変よ?どうしたの?」
振り向いたシルヴィアの微笑みは、いつもと変わらないものだった。
「・・・いや、その・・・」
「ミゼル」
「あ、はい・・・」
「女性の陰口は駄目よ?」
「・・・はい」
「キッチン・モロニーの新作のクッキーが評判良いの」
「明日・・・買ってきます」
「あら!いいの?嬉しいわ!ありがとうミゼル!」
両手を合わせて大きな笑顔を咲かせるシルヴィアに対し、ミゼルは長身を丸め、ただ小さくなっていた。
「ねぇ、レイチェル、聞いてもいいかな?」
昼間は大勢のお客で賑わう店内も、当然だが閉店後は一切の物音がせず静まり返り、
カチュアとレイチェル、二人の足音しか聞こえない。
「ん?なんだい?」
見慣れた古着や、剣に盾、毎日働いている店の中でも、こうして閉店後、しかも夜歩くのは少し新鮮だった。
レイチェルの前を歩くカチュアは、腰の後ろで両手を組みながら、クルッと回ってレイチェルに顔を向けた。
「あのね、突然だけど・・・レイチェルって、バリオス店長の事が好きなの?」
「・・・・・分からない」
レイチェルは足を止め、視線を床に落とし、少し考えた後に答えた。
「・・・そっか」
カチュアは優しく微笑みながら、明るい声で一言だけ返した。
「私は、店長を尊敬している。いつも街の人の事を考えて、傷薬や魔力回復薬だってあんなに安く販売して、利益よりも使う人の事を考えるところも尊敬している。私に商売を教えてくれて、力の使い方を教えてくれて・・・私は店長の力になりたいと思ってる。店長は、いつもどこか寂しそうなんだ。笑ってても、心から笑ってない・・・それは分かるんだ。だから・・・いつか店長が心から笑えるようになれればいいなって・・・私が、店長を笑顔にできればいいなって・・・・・そう思ってる」
レイチェルの気持ちを聞いたカチュアは、下を向いているレイチェルの頭を軽く指でつついた。
「ん?」
レイチェルが顔を上げると、カチュアはニコリと笑いかける。
「レイチェル、その気持ちはね、好きっていうんだよ」
「・・・そう、なのか?」
「うん。私もね、アラタ君に同じ事思ってるよ。私がアラタ君を笑顔にして、幸せにしたいなって。レイチェルの気持ちと同じでしょ?」
「・・・あぁ、同じだな。そうか・・・・・私の気持ちは、尊敬だけじゃなくて・・・好き、だったんだな・・・そうか・・・うん・・・あはは、なんで気付かなかったんだろ?自分の事なのに」
「レイチェルって、人の事はけっこう気付くけど、自分の事になると、ちょっと鈍かったりするよね」
カチュアがおかしそうに笑うと、レイチェルもつられて笑った。
誰もいない店内に、二人の笑い声だけが溢れる。
「レイチェル、私ね、アラタ君が協会に連れて行かれた時、ずっと落ち込んでたでしょ?でもね、みんな優しくて、私、本当に助けられたんだ。レイチェルはさ、私の事、協会に一緒に連れて行ってくれたでしょ。本当に嬉しかったんだよ。私もね、レイチェルの力になりたい。だから、何でも話してね?」
「あはは、そんなの恩に着る事ないのに。・・・でも、ありがとう。頼りにさせてもらうよ」
私は、きっと気付かなかったんじゃない。気付かないように、尊敬という言葉で自分をごまかしていたんだ。
前に、店長と話した時、店長には奥さんがいたと聞いた事がある。
そう・・・いたんだ・・・・・
過去形で話していたから、おそらく今はもう・・・・・
そして、あの時の店長の表情と、話し方から、店長が今もずっと奥さんを想っている事は分かった。
私は、自分の気持ちに気付いて傷つく事が怖かったんだ。
だから、気付かないふりをしていたんだ。
「・・・・・エルウィンに、謝らないとな」
「え?何か言った?」
前を歩くカチュアが振り返る。
私は、なんでもないよ、と小さく笑って答えた。
エルウィンが私に気があるのは分かっている。
私もエルウィンは嫌いじゃないし、大人になったら彼氏として考えてもいいかな、なんて思ってもいた。
でも、私はバリオス店長が好きなんだ。
そしてこの想いはおそらく叶わない。
気持ちを伝えるかどうか、今はまだ分からない。でも、私が店長を好きだと自覚してしまった。
こんな気持ちのまま、エルウィンに思わせぶりな態度は続けられない。
私には好きな人がいるとハッキリ伝える事が礼儀だ。
「カチュア」
「ん、なに?」
「恋愛ってさ・・・難しいね」
「うん、難しいよね。でもね、気持ちが伝わるとすっごい幸せになれるよ。私、レイチェルにも幸せになってほしいんだ!」
真っすぐなカチュアの笑顔に、なんだか心が癒される感じがした。
言葉は返さなかったけれど、私も笑顔を返した。
「さて、店内一周旅行はおしまいだね!事務所に帰って来たよ」
「あぁ、楽しい旅行だったな・・・それじゃ、入るか」
店長・・・信じてますよ。無事に帰って来るって・・・
やはりまだ、心配はしてしまうけれど、さっきまでよりずっと気持ちは楽になった。
自分の気持ちと向き合えたからだろうか・・・・・
私とカチュアが事務所に戻ると、ジャレットは私の顔を見て、納得したように頷いた。
「よし、じゃあ、話しの続きを始めよう」
200年前の、カエストゥスとブロートン帝国、その戦争の話しが始まった。
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