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理太郎

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【270 王位継承の儀 ③】

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エンスウィル城の王位継承が行われた式場から離れ、式場へ入れなかったブロートン帝国の、残り四人の護衛が控えている二階の応接室。

その応接室に入る通路の角の陰に、ブレンダン・ランデル達は身をひそめていた。

通路の窓は開けられており、僅かだが式場の拍手や歓声が耳に届いてくる。



無事にマルコ様へ王位が継承されたようじゃな・・・・・
ブレンダンは安堵した。

式場でブロートンが何かをしかけ、継承の儀が台無しにされる事も考えてはいたが、どうやらその心配は去ったようだ。


「ブレンダン様、無事に継承の儀はすんだようですね」

ブレンダンの心の内を察したように、隣に立つパトリックが小さな声で言葉をかけた。

「うむ・・・式場にはクインズベリー、ロンズデールも来ておる。さすがにあそこで何かしかけて来る可能性は低いとは思うておったが、油断はできんからのう。じゃが、これからパーティーも行われる。夜は長い、決して気を抜く出ないぞ」

ブレンダンの言葉に、パトリックは、はい、と頷いた。


「それで、俺達はこのままずっとあの部屋を見張ってりゃいいんですか?」

ブレンダンの正面に立っているのは、白魔法使いのエロール・タドゥラン。
18歳になったエロールは、団長のロビン、副団長パトリックに次ぐ三番手として、魔法兵団を支えていた。

耳の下くらいで切りそろえたダークグリーンの髪、小顔で切れ長の目。女性のような中世的な顔立ちだ。
身長は165cm程で、カエストゥス国の白魔法使いのローブに身を包み、自分の身長より長いマフラーを首に巻いている。


「そうじゃ。継承の儀が終われば侍女が声をかけに来る。それまではあの部屋から目を離してはならん」

「ふ~。しかたねぇか・・・それにしても、あれがブロートン帝国の師団長か・・・」

エロールは、通路の角の陰から、顔半分だけ出す形で、帝国の護衛4人が待機している部屋の扉に目を向けた。







今からおよそ二時間前、皇帝と、皇帝に付く三人の護衛と別れた四人の護衛は、継承の儀がすむまでの間、控室として用意された応接室へ入って行った。

「一人は覚えておる。五年前の話し合いの場で、ロペスに掴みかかろうとした、コバレフとか言う巨躯の男じゃ。典型的な体力型じゃな。他三人じゃが、赤い髪の男は体力型、そして残り二人は魔法使い・・・しかし、あの魔法使い・・・あんな若いヤツら、五年前にはおらんかったと思うがのう・・・」


「代わったんじゃないんスか?」

エロールの隣で壁に寄りかかっていたペトラが、大剣の柄に両手を乗せ、重心を預けるようにしながら軽い口調で呟いた。

「代わった?」

ペトラの言葉に反応したパトリックが、そのまま同じ言葉を返す。

「はい。五年前はいなかったんスよね?五年もあれば、代替わりしてもおかしくないと思うんスよ。引退したのか、死んだのか、まぁ理由なんていくらでもありますよ。今はあの若い魔法使い二人が、護衛になるくらいの実力者って事なんじゃないんスかね」

「・・・なるほど。ペトラの言う通りかもしれんのう。ワシは難しく考え過ぎておったようじゃ」

ブレンダンが得心のいったように、二度三度頷くと、ペトラの隣に立つルチルも、ペトラと同じ見解を述べた。

「私もそう思いますよ。帝国は実力主義ですからね。あのセシリア・シールズなんて、確か二十歳の時に師団長になったって聞いた事あります。まぁ、あの部屋に入って行った二人の魔法使いは、それより若いかもしれませんが、強ければ出世できるというのは分かりやすいし、兵達の競争力も上がるでしょうね」



ペトラとルチルの二人は、五年前に弥生と出会った。

弥生に手も足も出ずに敗北したペトラと、その戦いを見ていたルチルは、それから少しづつ弥生と打ち解けていき、やがて弥生に師事するようになった。

弥生の武器は薙刀である。
剣士の二人とは、戦い方もまるで違うが、弥生は手合わせを中心にした稽古をつけた。
その中で、間の取り方や、技に入るときの呼吸、自分がペトラとルチルの太刀筋を受けて感じた改善点、武器の違いはあるが、戦いにおいて通じる事を弥生は伝えていった。

剣士隊隊長のドミニクも、ペトラとルチルの素質は認めていた。
だが、優れた素質にあぐらをかいていた二人の鼻っ柱を、弥生は見事にへし折った。
そして、へし折っただけではなく、二人と友として絆を深め、剣にいたっては師弟関係にまでなった。

驕りを無くし、ひたむきに修練を積み始めたペトラとルチルは、今や剣士隊屈指の実力者になっていた。




「ブレンダン様、私とルチルの二人は、あのコバレフとかいうデカブツでいいですか?」

ペトラは、帝国の四人の護衛が入っていった応接室に目を向けながら、ブレンダンに確認をとった。

ペトラ一人ではとても勝てない。
だが、ルチルと二人であれば、ブロートン帝国第四師団長セルヒオ・コバレフとだって戦える。

「うむ。ドミニクがこの場にお主ら二人をよこしたのは、二人ならば勝てると見込んでの事じゃ。もし戦闘になったら、コバレフはお主ら二人に任せるぞ」

ブレンダンが快諾すると、ペトラとルチルは顔を見合わせ、互いの気持ちを一つにするように、拳と拳を打ち合わせた。


「じゃあ、俺はあの二人の魔法使いのうちの一人、白魔法使いの方を相手してやるか。白い髪の女の方だ」

もしもの時、自分が相手をする者を決める流れになり、エロールがペトラに続き、自分の相手を口にした。

四人の中で一番後ろを歩いていた、深紅のローブに身を包み、小柄で腰まで伸びた白い髪が印象的な女だった。年もまだ二十歳前に見える程若かった。

「うむ。後ろを歩いていた白髪の女じゃな。感じる魔力から、お主と同じ白魔法使いで間違いなかろう。分かっておると思うが、どんな魔道具を持っておるか分からんぞ?決して油断するでないぞ」

「もちろん。それに俺にはブレンダン様に見てもらって、改良を重ねた、反作用の糸がありますからね。後れをとるつもりはありませんよ」

エロールは、首に巻いたマフラーを手に取り、ブレンダンに見せるように軽く左右に振った。

エロールは六年前、孤児院を襲撃してきた三人の殺し屋の一人、ミック・メリンドに不覚をとって以来、魔道具、反作用の糸を改良し、ブレンダンにも教えを受けていた。
かつては人の話しを聞かず、自分勝手な行動も目に付いたが、ブレンダンやジャニス達との付き合いの中で、協調性を学び成長していった。



「じゃあ、俺はもう一人の若いヤツ、同じ白髪の魔法使いの男だ。多分白い髪の女と兄妹だろう」

パトリックがエロールに続いて、自分の相手を告げる。


「おそらく血の繋がりはあろうな。そしてここにおるという事は、黒魔法兵団の団長じゃろう。パトリック、青魔法使いと白魔法使いが、黒魔法使いと戦い勝利するにはどう戦うべきか・・・分かるな?」

「先制攻撃。もしくは黒魔法使いの攻撃に耐えながら、魔道具による反撃の機会を待つ、ですね?」

「そうじゃ。魔道具による攻撃しかできん以上、青と白は戦闘ではどうしても攻撃の型が限られる。相手に攻撃の準備をさせず一気に仕留めるか、辛抱強く反撃の機会を待つかじゃ。・・・パトリック、お主は大丈夫そうじゃな」

白い髪の女の前を歩いていた、同じく白い髪の男。
深紅のローブに身を包み、女とは対照的に長身で、男らしく短く刈った髪だった。


「では、最後の一人・・・まとめ役じゃろうな。先頭を歩いていた赤い髪の男はワシがやろう」

三十歳手前くらいだろう。
深紅の鎧に身を包み、背中には二本の斧を交差させていた。背丈は180cm無さそうに見える。
体格的には体力型として平凡なものだが、堂々と先頭を歩くこの男には、とてつもないなにかが隠されているようにも思えた。

それぞれの相手を確認した五人は、いざ戦闘になった時の覚悟を決めた。




そして二時間・・・カエストゥスの侍女が応接室を訪れる。
扉を開け対応したのは、長い白髪の小柄な女。

カエストゥスの侍女は、王位継承の儀が終了した事を告げる。白い髪の女は、分かりましたと最低限の返事だけで済ませる。

白い髪の女は、言葉は少ないが物腰は柔らかく、侍女に少し微笑んで見せると、おしとやかなお嬢様という印象を与えた。

カエストゥスの侍女も、その人当たりの良さそうな微笑みに、相手が帝国の護衛という事の緊張が少し解けたのか、会食の用意ができたらまたお呼びに来ますと笑顔で伝え、一礼をしてその場を後にした。





エロールがふいに感じたそれは、第六感というものだったのかもしれない。

身を隠している通路の角の陰から顔半分だけを出し、応接室の扉の前で侍女と話をする、白い髪の女の様子を伺っていた。

意外に優しそうな微笑みを見せる白い髪の女を見て、ほんの少し気が緩んだのかもしれない。

その瞬間本能が危険を察知し、今すぐ体を隠せと命じた。


意識するよりも早く身を引いたエロールが、呼吸を止め壁に背中を張り合わせたその時。

応接室の扉の前では、深紅のローブに身を包んだ長く白い髪の女が、
ほんの一瞬前までエロールが顔を出していた通路の角を、目を大きく開き凝視していた。

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