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522 追跡 ①
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「・・・どうやら帰りの馬車の御者は、エルウィンではないようだな。城の兵士だ」
「そうか、まぁエルウィンは治安部隊の仕事もあるし、いつ終わるか分からない謁見を待ってもいられないよな。お、馬車が出るようだぞ」
俺達は一階の窓から、城門に付けていた馬車を見ていた。
リンジーさん達がロンズデールに帰るための馬車だ。
使者が謁見の後、どこに移動するにも待たせる事のないように、ずっと待機していたらしい。
馬車が走り出すと、俺とレイチェルは正門を出て中庭を走り抜け、城門を出た。
リンジーさん達を乗せた馬車は町へは戻らず、反対方向へと進んでいる。
「ほぅ、この方角だとロンズデールだな。このまま真っすぐ帰ってくれると楽なんだがな」
額に手を当て、どんどん小さくなっていく馬車を眺めながら、レイチェルは小さく笑った。
「さて、レイチェル、俺達は走って追いかけるんだろ?行こうぜ」
この状況、俺は走って馬車を追いかけるしかないと悟っていた。
屈伸して膝を伸ばし、両手を組ませ頭の上で伸びをする。
今は11時を回ったところで陽も高い。11月とはいっても日中の日差しは暖かく、体をほぐしやすい。
準備運動をしながらレイチェルに話しかけると、レイチェルは軽く跳躍をしながら俺に顔を向けた。
「話しが早いじゃないか。ロンズデールまでの距離を考えると、今日はナック村で一泊するはずだ。馬車で4~5時間というところかな。アラタ、付いてこれなければおいていくぞ?」
笑っているが、それは俺を試すような挑戦的な笑みだった。
どうやらレイチェルは俺と勝負したいようだ。
「なめんなよ?レイチェルこそ大丈夫なのか?俺、持久力は自信あるんだぜ」
日本にいた時も走り込みは欠かさなかった。
それは、こっちの世界に来てからも変わらない。
更にこの世界で身体能力が大幅に上がっている今、その位の距離なら十分に走れる自信があった。
「考えてみれば、キミとは手合わせもした事がなかったな。まずは体力勝負といこう」
俺は口の端を上げてニヤリと笑って見せ、受けて立つと頷いて見せた。
どちらからという事はなく、自然と二人で呼吸を合わせ、俺達は同時に地を蹴った。
「リンジー、やはりダメだったな。これからどうする?」
イスに深く腰をかけ、膝の上に肘をつき、手の平に顎を乗せながら、ガラハドが向かいのイスに座るリンジーに話しを向けた。
揺れる馬車の振動に体を震わせられながら、リンジーは努めて明るく言葉を返した。
「そうですね・・・今日はナック村で一泊しましょう。ちょっと疲れちゃいましたし、時間を考えれば、そこから先には行けませんしね」
「うむ、まぁそうするしかないか。ファビアナ、どうだ?」
ガラハドはリンジーの隣に座るファビアナを見る。
「え、えっと・・・い、今のところ、だ、誰も付いて来て、な、ないよう、です・・・」
ファビアナは帽子を深くかぶり、顔を隠しながらガラハドの問いに答えた。
「ふむ・・・そうか、十中八九、誰かを追跡させると思ったのだがな。お前の魔蝶(まちょう)は周囲1000メートルは見れるんだったよな?」
顎を撫でながら、ガラハドはファビアナに念を押すように確認してくる。
「は、はい、わ、私の魔蝶の飛行距離に、せ、制限は、あ、ありません。魔蝶の周囲1000メートルは、魔蝶を通して、見れます」
「ファビアナの魔蝶は、視認して確認しなければならないから、青魔法のサーチと比べると察知は苦手よね?でも、それを補ってあまりあるメリットがあるわ」
リンジーが誉め言葉を口にすると、ファビアナは頬を赤く染め両手で帽子を掴み下げ、顔を隠した。
ファビアナの魔道具、魔蝶。
ファビアナが作ったこの魔道具は、魔力を餌に飛び回る、文字通り蝶の形をした探索型の魔道具である。
青魔法のサーチと似ているが、使い手を中心に円状に魔力を飛ばし探るサーチと違い、魔蝶はファビアナの意思で自由に飛び回らせ、その視界は1000メートルまで捉える事ができる。
距離の制限がないため、その気になれば10キロ先まで飛ばし情報を得る事も可能であり、偵察としてこれ程優れた魔道具は無かった。
「で、でも・・・もし、樹の影に隠れてたり、したら・・・魔蝶で調べきれないから・・・」
ファビアナがあえて自らの魔道具の欠点を口にすると、ガラハドが笑い声を上げた。
「ハッハッハ!分かってる分かってる!取りこぼしは気にするな。俺らも警戒を緩めるつもりはない。あんな書状を出したんだ。女王は最後に好意的な言葉をくれたが、クインズベリーからしたら、胸中穏やかではなかろう。これから俺達が帝国と接触すると考えて、追跡者は絶対に出すはずだ。魔蝶に見つからないあたり、隠密行動に長けた者でも出したのだろう。もし見つけたら、その時は俺が叩き潰してやる」
そう言って不敵な笑みを浮かべると、ガラハドは手にしている鉄の棒を、ファビアナに見せつけるように前に出した。
「え、ちょ、や、やめてください・・・」
「ハッハッハ、ファビアナになにかするわけなかろう!お前はオドオドし過ぎだぞ?いい加減に慣れてもらわんとなぁ、俺らと何年の付き合いだ?」
「ガラハド、ファビアナにはファビアナのペースがあるんですよ?最初に比べたら、ずいぶん良くなったじゃないですか?今はこれでいいんです。ファビアナ、気にしないでね」
「・・・は、はい・・・」
リンジーにたしなめられ、ガラハドは頭をボリボリ掻くと、口を曲げ鼻から息を吐いた。
「・・・でも、まぁ、そうだな。ファビアナの事情を知ってるのに、今の言い方は俺が悪かった。すまんな」
「い、いえ、そ、そんな・・・わ、私こそ・・・すみません」
頭を下げるガラハドに、ファビアナも慌ててもっと深く頭を下げる。
そんな二人を見て、リンジーはクスリと笑った。
「あらあら、なんだかんだで、二人は仲良しですね」
リンジーが小さくそう言葉にすると、突然ガラハドが勢いよく顔を上げ、馬車の窓から外を鋭く睨み付けた。右手に握る鉄の棒を今にも振り回しそうに構え、全身から殺気が滲みです。
「・・・ガラハド、いるのですか?」
今さっきまでにこやかに笑っていたガラハドの豹変に、リンジーは追跡者の存在を問いかけた。
「・・・・・一瞬だが、視線を感じた。今はもう分からん。俺が反応した事に気付き気配を消したのなら、相当な使い手だな・・・・・確実な事は言えんが、追跡者はいるものとして行動した方がいい」
「そうですか・・・ガラハドがそう言うのでしたら、そうしましょう。ところで、追跡者はあの二人でしょうか?」
リンジーが口にした二人が、誰を指したのかものなのか、ガラハドはすぐに理解し言葉を返した。
「玉座の間まで案内したレイジェスの二人だな?レイチェルとアラタ、だったか?俺と同じ体力型だったからすぐに分かったぜ。あの二人は強い、十分考えられる。あとは、女王の隣にいた女二人だな。騎士達もなかなかのレベルだったが、俺が脅威に思う程ではない」
ガラハドの説明に、リンジーは得心がいったように、そうですか、と頷いた。
「では、考えなければいけませんね」
「うむ、そこはお前とファビアナに任せる。俺は細かい事は苦手だ」
それきりガラハドとリンジーは口を閉ざし、馬車の中には沈黙が降りた。
「・・・気付かれたな」
「マジか?百メートル以上は離れてんのに・・・化け物だな」
アラタとレイチェルは、リンジー達の乗る馬車をはるか後方から追跡していた。
木陰に身を隠しながら並んで走っていたが、レイチェルが僅かにスピードを緩め、前を向いたまま言葉を発した。
「アラタ、この距離がギリギリだ。これ以上は距離を詰めるな。それと強く意識するな。意識を向けるのもマズイ。異常に感覚の鋭いヤツだ」
「分かった。このまま追跡して大丈夫なのか?」
言葉を返しながらアラタも若干スピードを落とす。
馬車との間には一定の距離が開き、二人はそれ以上の距離を詰めないように、速度を保ちながら追跡を続けた。
「やむをえまい。だが、おそらく何者かが付けてきている、程度の感覚だろう。私達の位置までは特定できていないはずだ。そもそも向こうも追跡者の想定くらいはしているだろうし、今更とも言える。アンリエール様は万一先頭になった場合、生きて帰って来れる者として、私達を指名したんだ。状況によっては撤退する事もあるが、今は進むんだ」
「分かった」
レイチェルの考えに一言だけ同意して返すと、アラタもそれ以降は会話を止め、目の前の任務に集中し足を動かした。
「そうか、まぁエルウィンは治安部隊の仕事もあるし、いつ終わるか分からない謁見を待ってもいられないよな。お、馬車が出るようだぞ」
俺達は一階の窓から、城門に付けていた馬車を見ていた。
リンジーさん達がロンズデールに帰るための馬車だ。
使者が謁見の後、どこに移動するにも待たせる事のないように、ずっと待機していたらしい。
馬車が走り出すと、俺とレイチェルは正門を出て中庭を走り抜け、城門を出た。
リンジーさん達を乗せた馬車は町へは戻らず、反対方向へと進んでいる。
「ほぅ、この方角だとロンズデールだな。このまま真っすぐ帰ってくれると楽なんだがな」
額に手を当て、どんどん小さくなっていく馬車を眺めながら、レイチェルは小さく笑った。
「さて、レイチェル、俺達は走って追いかけるんだろ?行こうぜ」
この状況、俺は走って馬車を追いかけるしかないと悟っていた。
屈伸して膝を伸ばし、両手を組ませ頭の上で伸びをする。
今は11時を回ったところで陽も高い。11月とはいっても日中の日差しは暖かく、体をほぐしやすい。
準備運動をしながらレイチェルに話しかけると、レイチェルは軽く跳躍をしながら俺に顔を向けた。
「話しが早いじゃないか。ロンズデールまでの距離を考えると、今日はナック村で一泊するはずだ。馬車で4~5時間というところかな。アラタ、付いてこれなければおいていくぞ?」
笑っているが、それは俺を試すような挑戦的な笑みだった。
どうやらレイチェルは俺と勝負したいようだ。
「なめんなよ?レイチェルこそ大丈夫なのか?俺、持久力は自信あるんだぜ」
日本にいた時も走り込みは欠かさなかった。
それは、こっちの世界に来てからも変わらない。
更にこの世界で身体能力が大幅に上がっている今、その位の距離なら十分に走れる自信があった。
「考えてみれば、キミとは手合わせもした事がなかったな。まずは体力勝負といこう」
俺は口の端を上げてニヤリと笑って見せ、受けて立つと頷いて見せた。
どちらからという事はなく、自然と二人で呼吸を合わせ、俺達は同時に地を蹴った。
「リンジー、やはりダメだったな。これからどうする?」
イスに深く腰をかけ、膝の上に肘をつき、手の平に顎を乗せながら、ガラハドが向かいのイスに座るリンジーに話しを向けた。
揺れる馬車の振動に体を震わせられながら、リンジーは努めて明るく言葉を返した。
「そうですね・・・今日はナック村で一泊しましょう。ちょっと疲れちゃいましたし、時間を考えれば、そこから先には行けませんしね」
「うむ、まぁそうするしかないか。ファビアナ、どうだ?」
ガラハドはリンジーの隣に座るファビアナを見る。
「え、えっと・・・い、今のところ、だ、誰も付いて来て、な、ないよう、です・・・」
ファビアナは帽子を深くかぶり、顔を隠しながらガラハドの問いに答えた。
「ふむ・・・そうか、十中八九、誰かを追跡させると思ったのだがな。お前の魔蝶(まちょう)は周囲1000メートルは見れるんだったよな?」
顎を撫でながら、ガラハドはファビアナに念を押すように確認してくる。
「は、はい、わ、私の魔蝶の飛行距離に、せ、制限は、あ、ありません。魔蝶の周囲1000メートルは、魔蝶を通して、見れます」
「ファビアナの魔蝶は、視認して確認しなければならないから、青魔法のサーチと比べると察知は苦手よね?でも、それを補ってあまりあるメリットがあるわ」
リンジーが誉め言葉を口にすると、ファビアナは頬を赤く染め両手で帽子を掴み下げ、顔を隠した。
ファビアナの魔道具、魔蝶。
ファビアナが作ったこの魔道具は、魔力を餌に飛び回る、文字通り蝶の形をした探索型の魔道具である。
青魔法のサーチと似ているが、使い手を中心に円状に魔力を飛ばし探るサーチと違い、魔蝶はファビアナの意思で自由に飛び回らせ、その視界は1000メートルまで捉える事ができる。
距離の制限がないため、その気になれば10キロ先まで飛ばし情報を得る事も可能であり、偵察としてこれ程優れた魔道具は無かった。
「で、でも・・・もし、樹の影に隠れてたり、したら・・・魔蝶で調べきれないから・・・」
ファビアナがあえて自らの魔道具の欠点を口にすると、ガラハドが笑い声を上げた。
「ハッハッハ!分かってる分かってる!取りこぼしは気にするな。俺らも警戒を緩めるつもりはない。あんな書状を出したんだ。女王は最後に好意的な言葉をくれたが、クインズベリーからしたら、胸中穏やかではなかろう。これから俺達が帝国と接触すると考えて、追跡者は絶対に出すはずだ。魔蝶に見つからないあたり、隠密行動に長けた者でも出したのだろう。もし見つけたら、その時は俺が叩き潰してやる」
そう言って不敵な笑みを浮かべると、ガラハドは手にしている鉄の棒を、ファビアナに見せつけるように前に出した。
「え、ちょ、や、やめてください・・・」
「ハッハッハ、ファビアナになにかするわけなかろう!お前はオドオドし過ぎだぞ?いい加減に慣れてもらわんとなぁ、俺らと何年の付き合いだ?」
「ガラハド、ファビアナにはファビアナのペースがあるんですよ?最初に比べたら、ずいぶん良くなったじゃないですか?今はこれでいいんです。ファビアナ、気にしないでね」
「・・・は、はい・・・」
リンジーにたしなめられ、ガラハドは頭をボリボリ掻くと、口を曲げ鼻から息を吐いた。
「・・・でも、まぁ、そうだな。ファビアナの事情を知ってるのに、今の言い方は俺が悪かった。すまんな」
「い、いえ、そ、そんな・・・わ、私こそ・・・すみません」
頭を下げるガラハドに、ファビアナも慌ててもっと深く頭を下げる。
そんな二人を見て、リンジーはクスリと笑った。
「あらあら、なんだかんだで、二人は仲良しですね」
リンジーが小さくそう言葉にすると、突然ガラハドが勢いよく顔を上げ、馬車の窓から外を鋭く睨み付けた。右手に握る鉄の棒を今にも振り回しそうに構え、全身から殺気が滲みです。
「・・・ガラハド、いるのですか?」
今さっきまでにこやかに笑っていたガラハドの豹変に、リンジーは追跡者の存在を問いかけた。
「・・・・・一瞬だが、視線を感じた。今はもう分からん。俺が反応した事に気付き気配を消したのなら、相当な使い手だな・・・・・確実な事は言えんが、追跡者はいるものとして行動した方がいい」
「そうですか・・・ガラハドがそう言うのでしたら、そうしましょう。ところで、追跡者はあの二人でしょうか?」
リンジーが口にした二人が、誰を指したのかものなのか、ガラハドはすぐに理解し言葉を返した。
「玉座の間まで案内したレイジェスの二人だな?レイチェルとアラタ、だったか?俺と同じ体力型だったからすぐに分かったぜ。あの二人は強い、十分考えられる。あとは、女王の隣にいた女二人だな。騎士達もなかなかのレベルだったが、俺が脅威に思う程ではない」
ガラハドの説明に、リンジーは得心がいったように、そうですか、と頷いた。
「では、考えなければいけませんね」
「うむ、そこはお前とファビアナに任せる。俺は細かい事は苦手だ」
それきりガラハドとリンジーは口を閉ざし、馬車の中には沈黙が降りた。
「・・・気付かれたな」
「マジか?百メートル以上は離れてんのに・・・化け物だな」
アラタとレイチェルは、リンジー達の乗る馬車をはるか後方から追跡していた。
木陰に身を隠しながら並んで走っていたが、レイチェルが僅かにスピードを緩め、前を向いたまま言葉を発した。
「アラタ、この距離がギリギリだ。これ以上は距離を詰めるな。それと強く意識するな。意識を向けるのもマズイ。異常に感覚の鋭いヤツだ」
「分かった。このまま追跡して大丈夫なのか?」
言葉を返しながらアラタも若干スピードを落とす。
馬車との間には一定の距離が開き、二人はそれ以上の距離を詰めないように、速度を保ちながら追跡を続けた。
「やむをえまい。だが、おそらく何者かが付けてきている、程度の感覚だろう。私達の位置までは特定できていないはずだ。そもそも向こうも追跡者の想定くらいはしているだろうし、今更とも言える。アンリエール様は万一先頭になった場合、生きて帰って来れる者として、私達を指名したんだ。状況によっては撤退する事もあるが、今は進むんだ」
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