異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
705 / 1,560

704 浅い眠り

しおりを挟む
とても静かな夜だった。
外にはどっさりと雪が積もっているが、店内は空気を暖かくする魔道具で快適な温度を保たれているため、冬の寒さの影響はない。
そのためフロアにマットを敷いて、掛け布団一枚という備えでも風邪をひく心配はなかった。

女同士の話しが終わり、男達よりは早く眠りについたが、レイチェルは一時間程の浅い眠りで目が覚めてしまい体を起こした。

窓から差し込む月明かりを頼りに回りを見ると、みんなぐっすりと眠っている事が分かる。
レイチェルは音を立てないようにゆっくりと立ち上がると、静かにその場を離れた。


自分の担当する武器コーナーに行き、イスに腰を下ろす。
カウンターを見ると、買い取り台帳、日誌、作業を記録したノート類は、カウンターの端に平積みにされている。とりあえずまとめて置いたという印象だ。
レジ横には矢尻や弦、研ぎ石なども置いてあるが、レイチェルがロンズデールに発つ前と比べて、陳列は雑になっているし、補充も足りない。

「リカルドのヤツ、こういうところは本当にやる気がないんだな・・・」

フッと笑って、台帳や日誌をあるべき場所に戻しカウンターを整理していると、近づいて来る足音に気が付き顔を向けた。


「レイチェル、何してるの?」

ピンク色のパジャマに白いショールを肩からかけて、カチュアが武器カウンターの前に立った。

「カチュア、起こしちゃったかな?」

「うぅん、そんな事ないよ。なんとなく目が覚めちゃったの、そしたらレイチェルが歩いて行くのが見えたから、どうしたのかなって思って」

レイチェルがカウンター内に入ってくるように手招きすると、カチュアは回り込んで入り、レイチェルの隣の丸椅子に腰を下ろした。

「あ、レイチェル、このクッションすごく柔らかいね。どこで買ったの?」

適度な弾力と優しい座り心地のクッションに、カチュアが関心を持った顔を見せると、レイチェルは目を閉じて堪(こら)えるように笑い声を漏らした。

「・・・どうしたの?」

「カチュア、それはリカルドのだ」

「・・・・・うそ!リカルド君!?」

驚きのあまり、少し高い声を出してしまったカチュアに、レイチェルが口の前で人差し指を立てて、カチュアに笑いかける。

「あ、ご、ごめんね・・・でも、このクッションすごい高そうだよ?すごく柔らかいのに、反発力もあるし、中身もしっかり詰まってるみたい。リカルド君、こういうの気にしないよね?服だって着れればいいって感じだし、クッションにお金使うんなら、食べ物にまわすと思うんだけど・・・」

「そう思うでしょ?あいつ意外にデリケートで、お尻が痛いのは我慢できないみたいだよ?私もそのクッショに座らせてもらったけどすごいよね。それ、リカルドが実家から持ってきたんだって。お母さんの手作りみたいだよ」

リカルドの意外な一面にカチュアは笑いをこらえ、レイチェルも思い出したように小さく肩を震わせている。


「・・・静かだね」

「あぁ・・・静かだな」

笑いが治まると、カチュアは天井近くの高い窓に顔を向けた。
微かに差し込む月の明かりが店内に優しく注がれる。


「あまり、じっと見つめない方がいいぞ。トバリに気付かれる」

「うん・・・そうだね」

夜を支配するトバリは、家内にいれば食べられる事はない。
だが、外に視線を向けていればトバリに感づかれる事もある。
トバリに睨まれれば、それだけで体に大きな負担がかかる。それゆえに、夜は外に目を向ける事も躊躇(ためら)われているのだ。


「・・・レイチェル、何か心配ごとでもあるの?」

深夜に起きて、一人で寝床を出て行った。
その事にカチュアは、レイチェルが何かを抱えているのではと感じていた、

天井から視線を外し、顔半分程をレイチェルに向けると、レイチェルは目を閉じて前を向いたまま口を開いた。


「・・・色々と考えてしまってね・・・少し物思いにふけってしまったよ」

どこか寂し気な表情を見せるレイチェル。

「・・・うん、最近色々あったもんね」

マルゴン、偽国王、そして今回のロンズデールでの戦い。
ここ数か月の出来事を考えると、身の回りが慌ただしいなんて、生易しい言葉ではすまないレベルだった。

レイチェルが考えている事を推察したが、レイチェルの反応を見ると、どうやら少し違っていたようだ。

「あぁ、本当に色々あった。たった数ヶ月の間に、こんなに戦う事になるとは思わなかったよ・・・ところでカチュア、アラタとはいつ結婚式を挙げるんだ?」

「え、うん・・・アラタ君とは、ロンズデールから帰ってきたら結婚式を挙げようって話しはしてたの。だから年が明けたらかな、まだ具体的な日は決めてないけど」

「そうか・・・キミ達は本当にお互いを想い合っているのがよく分かる。カチュア、幸せになってくれよ」

「・・・レイチェル、うん、ありがとう」

かけてくれる言葉は優しいが、どこか寂し気な響きがある。
レイチェルの様子がいつもと違うと感じながら、カチュアはそれを確認する事はできなかった。


・・・多分、店長の事を考えているんだ。


「・・・さて、そろそろ戻ろうか。明日は早いからな」

「・・・うん、じゃあ戻ろっか」

立ち上がって前を行こうとするレイチェルの手を、カチュアがギュッと握ると、レイチェルは少し驚いたようにカチュアを見た。


「レイチェルの手、少し冷たいよ。こうすれば温かいよね」

「あはは、そうだな。カチュアの手は温かいな・・・うん、じゃあ行こうか」


月明かりが微かに照らす店内。
静寂の中、二人は温もりを確かめるように手を繋ぎながら歩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜

伽羅
ファンタジー
 事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。  しかも王子だって!?  けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。  助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。  以前、投稿していた作品を加筆修正しています。

処理中です...