843 / 1,560
【842 心の変化】
しおりを挟む
「ペトラ隊長、私も行かせてください!」
ジョルジュが走り出すと、一連の様子を見ていたエリンが、直属の上司であるペトラへ申し出た。
突然の事にペトラは眉根を寄せる。ジョルジュの単騎特攻は、外ならぬジョルジュだからこそ認められたものである。
一人で敵陣に飛び込んでなお、目的を遂げてくれると信じられるジョルジュであるから、ウィッカー達は送り出した。
「・・・エリン、どうして?」
普段ならばエリンの申し出は却下である。
だがエリンの目を見て、ペトラはその強い眼差しを生んだ理由を聞いてみたくなった。
なぜエリンは行きたいのだ?
「私の能力なら、ジョルジュ様のお役に立てるはずです!投擲の瞬間を見極め、回避のタイミングをお伝え出来ます!お願いします!私もヤヨイさんとルチルさんのように戦いたいのです!」
「エリン・・・・・」
ヤヨイもルチルも、死を恐れずに勇敢に戦った。
憧れた二人に追いつきたい、恥じぬ戦いをしたい、そして自分の力をカエストゥスのために役立てたい。
その想いがエリンを動かしていた。
「・・・ヤヨイさんもルチルも、エリンに生きていて欲しいと願っているはずだよ。いい、死ぬことを美化するんじゃない。生きて勝利を勝ち取るんだ」
言い聞かせるようにエリンの両肩を掴む。
自分の想いを真剣に聞き、そして無事を願ってくれている。掴まれた両肩からペトラの気持ちが伝わってきて、エリンの胸を強く打った。
「行ってこい、エリン。絶対に死ぬんじゃないよ」
はい!と力強く返事をすると、エリンはその身を翻し、ジョルジュの後を追って駆けた。
「・・・ペトラ、いいのか?」
二人のやりとりを見ていたウィッカーが、ペトラに歩み寄った。
決してエリンを軽視しているわけではない。だが、あの投擲を見れば、敵の戦闘力がどれほどの分かろうものだった。
ブレンダンでさえ、正面からは受けきれないと認める破壊力。
ジョルジュをもってしても、懸念がぬぐえない相手なのである。
「・・・エリンは今、殻を破ろうとしています。あれほど強い目を見てしまっては、止められません」
遠く小さくなっていくエリンの背を見つめながら、ペトラは背中から大剣を抜き取った。
「ウィッカー様、私達は私達の役目を果たしましょう」
ジョルジュもエリンも、自分達の戦うべきステージへ向かった。
「・・・ああ、そうだなペトラ。俺達は俺達の役目を・・・その通りだ」
まだ敵の姿は視認できない。だがペトラは大剣を抜いた。
まるで己を奮い立たせるかのように。
ペトラの身体から発せられる充実した気に、ウィッカーも当てられていたのだろう。
「みんな聞いてくれ!今ジョルジュとエリンが先行して敵陣に駆けた!二人は必ずこの巨槍を投げた敵を仕留める!俺はそう信じている!だからみんなも信じて付いて来てくれ!ここからの巨槍は俺とブレンダン師匠で防いで見せる!」
敵陣から放たれた巨大な槍の一撃は、カエストゥス軍の士気を削ぎ落すには十分過ぎるものだった。
たった一撃で数百人の命を奪い、引き千切られた死体から流れる流動体は、赤き海を作り出していた。
つい先刻まで隣で語り合っていた仲間が、一瞬にして無残な姿となり朽ち果てた。
動揺は広がり、恐怖にかられ、多くの兵が戦意を失いかけていた。
だが、ウィッカーの言葉は、戦意を失いかけていた兵達に力を取り戻させた。
確かな自信に満ちた力強い言葉、大陸一の黒魔法使いのウィッカーに、崩れかけていたカエストゥス軍は立ち上がった。
「そ、そうだ・・・俺達の大将はウィッカー様だ!」
「ジョルジュ様なら、どんな相手でも負けはしない!」
「俺は行くぞ!カエストゥスの強さを見せてやるんだ!」
次々と声を上げて立ち上がる兵達を見て、ペトラはウィッカーに目を向けた。
高々と拳を上げて兵達を鼓舞する姿には、もう以前のようにどこかあまい印象は感じなかった。
「・・・弱いリーダー、あなたは自分の事をそうおっしゃてましたが、そんな事はない。もう立派に強いリーダーですよ」
自分だけにしか聞こえない呟きだった。
ウィッカーの変化を好ましく見つめ、口元に小さな笑みを作ると、ペトラは空を見上げた。
髪を、頬を雪が濡らす
瞳を閉じればいつでも鮮明に思い出せる
三人で飲むコーヒーが好きだった
楽しく笑い合ったあの充実した日々は一生の宝物だ
・・・ヤヨイさん、ルチル・・・見ててね、私達は絶対に勝ってこの戦争を終わらせるから
大剣を握る手に決意を込めて、ペトラは自分達の大将に声をかけた
「ウィッカー様、行きましょう」
ジョルジュが走り出すと、一連の様子を見ていたエリンが、直属の上司であるペトラへ申し出た。
突然の事にペトラは眉根を寄せる。ジョルジュの単騎特攻は、外ならぬジョルジュだからこそ認められたものである。
一人で敵陣に飛び込んでなお、目的を遂げてくれると信じられるジョルジュであるから、ウィッカー達は送り出した。
「・・・エリン、どうして?」
普段ならばエリンの申し出は却下である。
だがエリンの目を見て、ペトラはその強い眼差しを生んだ理由を聞いてみたくなった。
なぜエリンは行きたいのだ?
「私の能力なら、ジョルジュ様のお役に立てるはずです!投擲の瞬間を見極め、回避のタイミングをお伝え出来ます!お願いします!私もヤヨイさんとルチルさんのように戦いたいのです!」
「エリン・・・・・」
ヤヨイもルチルも、死を恐れずに勇敢に戦った。
憧れた二人に追いつきたい、恥じぬ戦いをしたい、そして自分の力をカエストゥスのために役立てたい。
その想いがエリンを動かしていた。
「・・・ヤヨイさんもルチルも、エリンに生きていて欲しいと願っているはずだよ。いい、死ぬことを美化するんじゃない。生きて勝利を勝ち取るんだ」
言い聞かせるようにエリンの両肩を掴む。
自分の想いを真剣に聞き、そして無事を願ってくれている。掴まれた両肩からペトラの気持ちが伝わってきて、エリンの胸を強く打った。
「行ってこい、エリン。絶対に死ぬんじゃないよ」
はい!と力強く返事をすると、エリンはその身を翻し、ジョルジュの後を追って駆けた。
「・・・ペトラ、いいのか?」
二人のやりとりを見ていたウィッカーが、ペトラに歩み寄った。
決してエリンを軽視しているわけではない。だが、あの投擲を見れば、敵の戦闘力がどれほどの分かろうものだった。
ブレンダンでさえ、正面からは受けきれないと認める破壊力。
ジョルジュをもってしても、懸念がぬぐえない相手なのである。
「・・・エリンは今、殻を破ろうとしています。あれほど強い目を見てしまっては、止められません」
遠く小さくなっていくエリンの背を見つめながら、ペトラは背中から大剣を抜き取った。
「ウィッカー様、私達は私達の役目を果たしましょう」
ジョルジュもエリンも、自分達の戦うべきステージへ向かった。
「・・・ああ、そうだなペトラ。俺達は俺達の役目を・・・その通りだ」
まだ敵の姿は視認できない。だがペトラは大剣を抜いた。
まるで己を奮い立たせるかのように。
ペトラの身体から発せられる充実した気に、ウィッカーも当てられていたのだろう。
「みんな聞いてくれ!今ジョルジュとエリンが先行して敵陣に駆けた!二人は必ずこの巨槍を投げた敵を仕留める!俺はそう信じている!だからみんなも信じて付いて来てくれ!ここからの巨槍は俺とブレンダン師匠で防いで見せる!」
敵陣から放たれた巨大な槍の一撃は、カエストゥス軍の士気を削ぎ落すには十分過ぎるものだった。
たった一撃で数百人の命を奪い、引き千切られた死体から流れる流動体は、赤き海を作り出していた。
つい先刻まで隣で語り合っていた仲間が、一瞬にして無残な姿となり朽ち果てた。
動揺は広がり、恐怖にかられ、多くの兵が戦意を失いかけていた。
だが、ウィッカーの言葉は、戦意を失いかけていた兵達に力を取り戻させた。
確かな自信に満ちた力強い言葉、大陸一の黒魔法使いのウィッカーに、崩れかけていたカエストゥス軍は立ち上がった。
「そ、そうだ・・・俺達の大将はウィッカー様だ!」
「ジョルジュ様なら、どんな相手でも負けはしない!」
「俺は行くぞ!カエストゥスの強さを見せてやるんだ!」
次々と声を上げて立ち上がる兵達を見て、ペトラはウィッカーに目を向けた。
高々と拳を上げて兵達を鼓舞する姿には、もう以前のようにどこかあまい印象は感じなかった。
「・・・弱いリーダー、あなたは自分の事をそうおっしゃてましたが、そんな事はない。もう立派に強いリーダーですよ」
自分だけにしか聞こえない呟きだった。
ウィッカーの変化を好ましく見つめ、口元に小さな笑みを作ると、ペトラは空を見上げた。
髪を、頬を雪が濡らす
瞳を閉じればいつでも鮮明に思い出せる
三人で飲むコーヒーが好きだった
楽しく笑い合ったあの充実した日々は一生の宝物だ
・・・ヤヨイさん、ルチル・・・見ててね、私達は絶対に勝ってこの戦争を終わらせるから
大剣を握る手に決意を込めて、ペトラは自分達の大将に声をかけた
「ウィッカー様、行きましょう」
0
あなたにおすすめの小説
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界でカイゼン
soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)
この物語は、よくある「異世界転生」ものです。
ただ
・転生時にチート能力はもらえません
・魔物退治用アイテムももらえません
・そもそも魔物退治はしません
・農業もしません
・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます
そこで主人公はなにをするのか。
改善手法を使った問題解決です。
主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。
そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。
「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」
ということになります。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる