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【862 ジョルジュの想い】
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「帝国にこれだけの雪が降るのは、いつ以来だ?」
玉座の間で皇帝は、窓の外に目を向けながら、段下に控える大臣ジャフ・アラムに問いかけた。
「恐れ入りますが、このジャフの記憶している限りでは、これ程の雪は初めてでございます。帝国では雪が降らない事が当たり。降ったとしてもせいぜい一日で消える量です。はっきり申しまして、異常天候でございます」
ネズミを思わせる風貌のジャフは、うやうやしく頭を下げて言葉を返した。
ジャフの返答に、皇帝も同意を示すようにうなずいた。
火の精霊の加護を受けている帝国では、めったに雪は降らない。
降ったとしてもジャフの言葉通り、翌日には消える程度の量なのだ。
ところがその帝国で、今現在大雪が吹き荒れている。
生涯を帝国で生きてきたジャフでさえ、初めて見るという大雪だった。
皇帝もこの異常事態には目を見張っていた。
「・・・カエストゥスが攻め込んできたこの日に、帝国でかつてない大雪とはな。まるでこの世界さえも参戦しているようではないか。この雪が帝国にもたらすのは勝利か、それとも破滅か・・・フハハハハ・・・っ!?」
皇帝が笑い声をあげたその時、突然すさまじいプレッシャーが外からぶつけられた。
それは城を軋ませ、足元を揺るがす程に強かった。天井のシャンデリアが音を鳴らして揺れ動き、大臣ジャフ・アラムは立っている事ができず、その場に膝を着いた。
「こ、皇帝!これはいったい!?」
「ほう・・・どうやら黒き破壊王が全力を出したようだ。この俺との戦いでも使わなかった本当の力を開放するとはな・・・ワイルダーめ、どうやら追い求めた相手と戦う事ができたようだな」
狼狽するジャフとは対照的に、皇帝は玉座から立ち上がると壁際の窓に近づいた。
「こ、皇帝!危険です!窓からお離れください!」
まだ揺れは続いている。強烈なプレッシャーをぶつけられた事で、窓には何本もの亀裂が入り、いつ砕け散ってもおかしくない状態だった。
「ふっふっふ・・・ジャフよ、面白いではないか。黒き破壊王デズモンデイ・ワイルダー、大陸最強の体力型であろうあの男が、生涯で一度しか使えんパンクラチオスの最終形態になったのだ。相手はおそらくジョルジュ・ワーリントンだ。ワイルダーは変身に値する体力型との出会いを求めていたからな。ジョルジュ・ワーリントンと刺し違えてくれれば、面倒な後始末もできて余の思い通りというわけだ」
その金色の眼に映るものは、叩きつけてくるような猛吹雪。
しかしその吹雪の中、城を囲む城壁の先に、黒き闘気を放つ巨大な男の姿が見えた。
「さぁワイルダーよ、余の敵を始末するのだ。ジョルジュ・ワーリントンをやれば、帝国の勝利は大きく近づく。パンクラチオスの末裔の意地を見せてみろ」
刺し貫いた眼球から腕を引き抜く。粘り気のある血液、肉の嫌な感触が伝わってくる。
ここまでの手段をとる事になるとは思わなかった。だが、この黒い肌の大男に勝つ為には、ここまでしなければならない。
指の折れている左手でワイルダーの眼を潰したのは、渾身の力を込めて右手を振るうため。
左手と違い五指が動く右手で手刀を作ると、纏わせた風を鋭く研ぎ澄ます。
「ハァァァーーーッツ!」
左目を押さえ、絶叫しているワイルダーの喉元を狙い、ジョルジュの風の刃が振り下ろされた!
たった今潰されたばかりの左目の激痛で、ワイルダーにはこの手刀に意識を向ける余裕など無い。
この一撃は無条件で入る。そう考えて当然であり、事実この一撃はワイルダーの首を斬り裂いた。
だが・・・・・
「なにッ!?」
「グォォォォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」
ジョルジュの風の手刀、渾身の右の一太刀は、ワイルダーの首を確かに斬り裂いたが、両断するには至らなかった。
そして右を振り抜いた間隙を突いて、ワイルダーの左の拳がジョルジュを殴り飛ばした。
「うぐぁッ!」
「ジョ、ジョルジュワーリントンーーーーーッ!やってくれたなぁぁぁーーーーーッ!だがこの程度で勝ったと思うな!まだ俺は生きている!戦いはこれからだァァァーーーーーッツ!」
視覚を奪われた事で狙いは正確ではない。だがそれでもワイルダーが力まかせに振り回した拳の威力は凄まじく、ジョルジュは地面に叩きつけられ、その体を土と雪にまみれさせた。
骨が軋み、脳が揺れる衝撃に意識が飛びそうになる。
「ぐっ・・・うぅ」
もはや足に力が入らない。だが右手を着いて体を起こすと、風を使って再び空を飛ぶ。
「はぁ・・・ぜぇ・・・あれで、首を断てないとはな・・・一太刀では、無理か・・・」
ワイルダーの首には一の字の線が入り、赤い血が滴り落ちているが、僅かな筋繊維を斬ったにすぎない。完全に断つには二の太刀、三の太刀が必要になる。
ワイルダーは眼を潰された瞬間、全身の力を防御に回し、風の刃でさえ一太刀では切り落とせない程の強度を作り上げていた。
力任せだと思わせているが、百戦錬磨、最強の体力型の一族は伊達ではない。
「ガァァァァァァァーーーーーーーッツ!」
その咆哮は空気を震わせた。両腕を振り回し、大地を踏みつける!その剛腕はかすめただけでも肉を裂き、骨をひしゃげるだろう。
視覚を失ったワイルダーが、やみくもに腕を振り回しているだけに見えるが、狙いは決して見当違いではなかった。
「くっ!?こ、これは!?」
鼻先数センチを黒く巨大な拳が突き抜ける!
すでにジョルジュの体は限界を迎えていた。風の防御で軽減しても、もう何発も耐える事はできない。
一発一発が死に繋がる攻撃であり、決して受ける事は許されなかった。
「はぁッ、はぁッ・・・俺の位置が、分かっているのか!?」
頭上から振り下ろされる巨腕を後ろに飛んで躱し、足元を薙ぎ払うように繰り出される蹴りを上空に飛んで避ける。ジョルジュはワイルダーの猛攻を躱し続けているが、見えていないはずのワイルダーが、ほぼ的確に自分の位置を掴んでいる事に、少なからず思考を惑わされていた。
光を失ったワイルダーに自分は見えていない。だがなんらかの手段で、ジョルジュの位置を掴んでいる。
「グオォォォォォォー-----ッツ!」
振り上げた左拳は天にも届きそうな程高く、そのまま勢いよくに地面に叩きつけた!
「なッ!?」
叩き割られた大地から飛び散った無数の石が、凄まじい勢いで上空へと噴出される!
風の盾で足元から護りを固めるが、何十、何百の石片の嵐は防ぎ切れるものではない。
ジョルジュの体は激しく撃ちつけられた!
「うぐぁー--ッ!」
風の盾を持ってしても防ぎ切れない衝撃、いや、ジョルジュが万全の状態であったならばどうという事もなかった。軽々と風の一薙ぎで叩き落していたであろう。だが今のジョルジュは、自分の体を宙に浮かす事で精一杯だった。風の盾も辛うじて作れているが、それはヒビの入った防波堤の如く、押し寄せる波を防ぎ切れるものではない。
噴射した無数の石に打ち上げられたジョルジュは、血しぶきを散らせながら、力なくその体を宙に舞わせた。
まだ・・・だ・・・まだ、このままでは・・・・・こいつは・・・
朦朧としていく意識を必死に繋ぎ止める。
「そこかぁぁぁぁー-----ッツ!ジョルジュワーリントンー-----ッッッツ!」
血に塗れ赤黒く染まった顔で、ワイルダーが上空に飛ばされたジョルジュに顔を向けた。
潰された両目は閉じており見えるはずがない。だがその表情には確信があった。
自分の本気を引きずり出した男がそこにいると。
両手を伸ばして掴み掛るワイルダー!この手に捕まれば逃れる術はないだろう。
ジャニス・・・こいつだけは・・・なんとしてもここで倒す・・・・・・
こいつだけは・・・絶対に・・・俺が・・・・・
反撃をする体力はもはや残っていない。だがジョルジュはまだ諦めていない。
「まだ、俺は・・・戦える・・・っぐああああッ!」
自分はまだ戦える。その意志を言葉にしたその時・・・
「掴んだぞ!ジョルジュワーリントンッ!」
それは絶対に捕まってはいけない巨大な魔手。
人の体など軽々と握り潰してしまうだろう。
この手に捕まった時点で、二人の男の決着はついた。
指の一本が常人の腕程にも太い。その巨大な左手がジョルジュの体を掴み捉えた。
「これで終わりだ!握りつぶしてくれるわァッツ!」
ジャニス・・・・・ジョセフ・・・・・
愛する妻と子の顔が脳裏に浮かび、消え入りそうなジョルジュの意識をかろうじて繋いでいた。
俺は・・・・・絶対に帰る
何かが弾け飛ぶ乾いた音と共に、真っ赤な血と肉が宙に飛び散った
玉座の間で皇帝は、窓の外に目を向けながら、段下に控える大臣ジャフ・アラムに問いかけた。
「恐れ入りますが、このジャフの記憶している限りでは、これ程の雪は初めてでございます。帝国では雪が降らない事が当たり。降ったとしてもせいぜい一日で消える量です。はっきり申しまして、異常天候でございます」
ネズミを思わせる風貌のジャフは、うやうやしく頭を下げて言葉を返した。
ジャフの返答に、皇帝も同意を示すようにうなずいた。
火の精霊の加護を受けている帝国では、めったに雪は降らない。
降ったとしてもジャフの言葉通り、翌日には消える程度の量なのだ。
ところがその帝国で、今現在大雪が吹き荒れている。
生涯を帝国で生きてきたジャフでさえ、初めて見るという大雪だった。
皇帝もこの異常事態には目を見張っていた。
「・・・カエストゥスが攻め込んできたこの日に、帝国でかつてない大雪とはな。まるでこの世界さえも参戦しているようではないか。この雪が帝国にもたらすのは勝利か、それとも破滅か・・・フハハハハ・・・っ!?」
皇帝が笑い声をあげたその時、突然すさまじいプレッシャーが外からぶつけられた。
それは城を軋ませ、足元を揺るがす程に強かった。天井のシャンデリアが音を鳴らして揺れ動き、大臣ジャフ・アラムは立っている事ができず、その場に膝を着いた。
「こ、皇帝!これはいったい!?」
「ほう・・・どうやら黒き破壊王が全力を出したようだ。この俺との戦いでも使わなかった本当の力を開放するとはな・・・ワイルダーめ、どうやら追い求めた相手と戦う事ができたようだな」
狼狽するジャフとは対照的に、皇帝は玉座から立ち上がると壁際の窓に近づいた。
「こ、皇帝!危険です!窓からお離れください!」
まだ揺れは続いている。強烈なプレッシャーをぶつけられた事で、窓には何本もの亀裂が入り、いつ砕け散ってもおかしくない状態だった。
「ふっふっふ・・・ジャフよ、面白いではないか。黒き破壊王デズモンデイ・ワイルダー、大陸最強の体力型であろうあの男が、生涯で一度しか使えんパンクラチオスの最終形態になったのだ。相手はおそらくジョルジュ・ワーリントンだ。ワイルダーは変身に値する体力型との出会いを求めていたからな。ジョルジュ・ワーリントンと刺し違えてくれれば、面倒な後始末もできて余の思い通りというわけだ」
その金色の眼に映るものは、叩きつけてくるような猛吹雪。
しかしその吹雪の中、城を囲む城壁の先に、黒き闘気を放つ巨大な男の姿が見えた。
「さぁワイルダーよ、余の敵を始末するのだ。ジョルジュ・ワーリントンをやれば、帝国の勝利は大きく近づく。パンクラチオスの末裔の意地を見せてみろ」
刺し貫いた眼球から腕を引き抜く。粘り気のある血液、肉の嫌な感触が伝わってくる。
ここまでの手段をとる事になるとは思わなかった。だが、この黒い肌の大男に勝つ為には、ここまでしなければならない。
指の折れている左手でワイルダーの眼を潰したのは、渾身の力を込めて右手を振るうため。
左手と違い五指が動く右手で手刀を作ると、纏わせた風を鋭く研ぎ澄ます。
「ハァァァーーーッツ!」
左目を押さえ、絶叫しているワイルダーの喉元を狙い、ジョルジュの風の刃が振り下ろされた!
たった今潰されたばかりの左目の激痛で、ワイルダーにはこの手刀に意識を向ける余裕など無い。
この一撃は無条件で入る。そう考えて当然であり、事実この一撃はワイルダーの首を斬り裂いた。
だが・・・・・
「なにッ!?」
「グォォォォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」
ジョルジュの風の手刀、渾身の右の一太刀は、ワイルダーの首を確かに斬り裂いたが、両断するには至らなかった。
そして右を振り抜いた間隙を突いて、ワイルダーの左の拳がジョルジュを殴り飛ばした。
「うぐぁッ!」
「ジョ、ジョルジュワーリントンーーーーーッ!やってくれたなぁぁぁーーーーーッ!だがこの程度で勝ったと思うな!まだ俺は生きている!戦いはこれからだァァァーーーーーッツ!」
視覚を奪われた事で狙いは正確ではない。だがそれでもワイルダーが力まかせに振り回した拳の威力は凄まじく、ジョルジュは地面に叩きつけられ、その体を土と雪にまみれさせた。
骨が軋み、脳が揺れる衝撃に意識が飛びそうになる。
「ぐっ・・・うぅ」
もはや足に力が入らない。だが右手を着いて体を起こすと、風を使って再び空を飛ぶ。
「はぁ・・・ぜぇ・・・あれで、首を断てないとはな・・・一太刀では、無理か・・・」
ワイルダーの首には一の字の線が入り、赤い血が滴り落ちているが、僅かな筋繊維を斬ったにすぎない。完全に断つには二の太刀、三の太刀が必要になる。
ワイルダーは眼を潰された瞬間、全身の力を防御に回し、風の刃でさえ一太刀では切り落とせない程の強度を作り上げていた。
力任せだと思わせているが、百戦錬磨、最強の体力型の一族は伊達ではない。
「ガァァァァァァァーーーーーーーッツ!」
その咆哮は空気を震わせた。両腕を振り回し、大地を踏みつける!その剛腕はかすめただけでも肉を裂き、骨をひしゃげるだろう。
視覚を失ったワイルダーが、やみくもに腕を振り回しているだけに見えるが、狙いは決して見当違いではなかった。
「くっ!?こ、これは!?」
鼻先数センチを黒く巨大な拳が突き抜ける!
すでにジョルジュの体は限界を迎えていた。風の防御で軽減しても、もう何発も耐える事はできない。
一発一発が死に繋がる攻撃であり、決して受ける事は許されなかった。
「はぁッ、はぁッ・・・俺の位置が、分かっているのか!?」
頭上から振り下ろされる巨腕を後ろに飛んで躱し、足元を薙ぎ払うように繰り出される蹴りを上空に飛んで避ける。ジョルジュはワイルダーの猛攻を躱し続けているが、見えていないはずのワイルダーが、ほぼ的確に自分の位置を掴んでいる事に、少なからず思考を惑わされていた。
光を失ったワイルダーに自分は見えていない。だがなんらかの手段で、ジョルジュの位置を掴んでいる。
「グオォォォォォォー-----ッツ!」
振り上げた左拳は天にも届きそうな程高く、そのまま勢いよくに地面に叩きつけた!
「なッ!?」
叩き割られた大地から飛び散った無数の石が、凄まじい勢いで上空へと噴出される!
風の盾で足元から護りを固めるが、何十、何百の石片の嵐は防ぎ切れるものではない。
ジョルジュの体は激しく撃ちつけられた!
「うぐぁー--ッ!」
風の盾を持ってしても防ぎ切れない衝撃、いや、ジョルジュが万全の状態であったならばどうという事もなかった。軽々と風の一薙ぎで叩き落していたであろう。だが今のジョルジュは、自分の体を宙に浮かす事で精一杯だった。風の盾も辛うじて作れているが、それはヒビの入った防波堤の如く、押し寄せる波を防ぎ切れるものではない。
噴射した無数の石に打ち上げられたジョルジュは、血しぶきを散らせながら、力なくその体を宙に舞わせた。
まだ・・・だ・・・まだ、このままでは・・・・・こいつは・・・
朦朧としていく意識を必死に繋ぎ止める。
「そこかぁぁぁぁー-----ッツ!ジョルジュワーリントンー-----ッッッツ!」
血に塗れ赤黒く染まった顔で、ワイルダーが上空に飛ばされたジョルジュに顔を向けた。
潰された両目は閉じており見えるはずがない。だがその表情には確信があった。
自分の本気を引きずり出した男がそこにいると。
両手を伸ばして掴み掛るワイルダー!この手に捕まれば逃れる術はないだろう。
ジャニス・・・こいつだけは・・・なんとしてもここで倒す・・・・・・
こいつだけは・・・絶対に・・・俺が・・・・・
反撃をする体力はもはや残っていない。だがジョルジュはまだ諦めていない。
「まだ、俺は・・・戦える・・・っぐああああッ!」
自分はまだ戦える。その意志を言葉にしたその時・・・
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それは絶対に捕まってはいけない巨大な魔手。
人の体など軽々と握り潰してしまうだろう。
この手に捕まった時点で、二人の男の決着はついた。
指の一本が常人の腕程にも太い。その巨大な左手がジョルジュの体を掴み捉えた。
「これで終わりだ!握りつぶしてくれるわァッツ!」
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