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【973 追い詰められた男】
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ブロートン帝国皇帝ローランド・ライアンは、灰色の雲を突き破り、空の彼方へと消えていく光弾を、ただ茫然と見ている事しかできなかった。
「ば・・・ばかな・・・余の、光源爆裂弾が・・・そんな・・・・・」
自身最大の魔法が、こうも容易く無力化された衝撃は大きい。
己が大陸最強だという自信があった。
過剰な自信ではあったかもしれないが、己の力で帝国の皇帝に君臨したという確たる実力もあった。
しかし、その自信に亀裂が入った。
必殺の光源爆裂弾。
ウィッカーにも破られはしたが、互いにギリギリのせめぎ合いの末だった。
しかしこの男、タジーム・ハメイドはどうだ?
汗一つかく事無く、涼しい顔で放り投げるように空へと飛ばして退けたのだ。
「・・・皇帝、次はどうするんだ?灼炎竜か?それともとっておきの魔道具でもあるのか?」
「ぐっ!」
タジームの言葉に、顔を下ろして正面に向き直る。
魔道具を指摘された事が、ひどく癇に障った。
時を止める魔道具、砂時計。
あれさえあれば、カエストゥスの制圧など容易いものだった。
だが帝国に攻めてきたウィッカーとの一戦で、あろう事か破壊されてしまったのだ。
取返しのつかない失態だった。そのせいで今こうしてタジーム・ハメイドに追い詰められている。
「・・・どうやら、もう何も無いようだな?貴様を支えているものはその魔力だ。確かに強い。ウィッカーよりも上の黒魔法使いがいるとは驚かされた。だが俺はお前より上だった。それだけの事だ」
一定の距離を保って、空中で睨み合っていた二人だったが、ここでタジームが前に出た。
一歩距離を詰めるごとに、タジームの体から発する魔力が高まっていく。
タジームの圧力に、皇帝は一歩二歩と、後ろに下がらされた。
意識しての行動ではなかった。だがこの下がらされたという事実が、タジームと皇帝の力関係を決定付けたといっていいだろう。
「ぐっ、き、貴様なんぞに・・・」
皇帝は満身創痍だった。タジームの火球によって負わされた大火傷は、本来ならば動けるものではない。
今こうして立っているのは、皇帝としてのプライドだった。
帝国の頂点に君臨する自分が、倒れるなどあってはならない。皇帝とは大陸を統べる者である。
常軌を逸する程に強い自尊心が、皇帝を動かしていた。
「貴様なんぞにやられてたまるかァァァァァー-------ッツ!」
獣のような咆哮を上げて、皇帝はタジームに両手の平を差し向けた!
絶対の自信を持っていた光源爆裂弾が通用しない以上、皇帝にできる事は、もはや魔力の続く限り撃つ事しかなった。
「死ね!死ね!死ね!死んでしまえェェェー--ッツ!タジィィィムゥゥゥゥウー----ッツ!」
「大口を開けて喚き散らす・・・余裕が無くなり品性までも失ったようだな」
矢継ぎ早に飛んでくる爆裂弾だったが、タジームは風魔法で全身を包む風の鎧を作り出し、まるで意に介する事なく防ぎきった。
黒魔法使いの防御の基本は風であり、言ってしまえば誰でもできる特別な防御ではない。
だがそれゆえに個々の力量がハッキリと分かる魔法でもある。
ずば抜けた魔力を持つ皇帝の爆裂弾は、着弾するごとに耳をつんざく爆音を上げ、爆風が空気を震わせ火の粉を巻き散らす。その衝撃は相当なもののはずだが、タジームは眉の一つも動かす事無く、身に纏う風で衝撃の全てを受け流していた。
皇帝を相手にここまで圧倒できるタジームは、最強の黒魔法使いと名乗る事に、疑いの余地は無いだろう。
「・・・もう諦めたらどうだ?貴様は俺には勝てない」
軽く右手を振って目の前の爆風を消し飛ばす。
タジームは目の前に立つ皇帝を冷たく見据えた。
肩で大きく息を切らし、顎の先から汗を滴らせている。全身の大火傷に加え、何をやっても通用しないという現実が、肉体的にも精神的にも皇帝を追い詰めていた。
「ぐっ・・・うぅ・・・・・余は・・・余は、皇帝だぞ・・・・・」
「貴様は口を開けばそれだな?他に語れるものがないのか?国王だろうと皇帝だろうと、そんな称号には何の価値も無い。国を治める者が何者であろうと、民が幸福であるならばその名は歴史に残る。そこに称号は関係ない。俺には貴様は皇帝という称号に捕らわれた、ただの哀れな男にしか見えない」
「・・・・・フッ・・・くっくっく・・・」
それまで苦しそうに息を吐いていた皇帝だったが、タジームの言葉に唐突に笑い出した。
皇帝ローランド・ライアンの人生は、皇帝になる事が全てだったと言っていい。
肉親の情を捨て、兄弟達を蹴落とし、命を懸けて皇帝の座を掴み取った。
皇帝という地位、称号を否定される事は、ローランド・ライアンの人生全てを否定する事である。
「・・・フハハハハハ・・・・認めてやろう、タジーム・ハメイド。貴様は強い。余など足元にも及ばん程に強い」
「・・・何が言いたい?」
ここからの逆転など誰が見ても不可能だろう。待っているのは死のみ。
そこまで追い詰められているにも関わらず、俯きながら笑う皇帝に、タジームは不気味なものを感じ、声に僅かに緊張が含まれた。
「・・・なに、簡単な事よ。余は貴様には勝てん。ここで余は殺されるのだろう。だが・・・むざむざ殺られるのは悔しいだろう?」
顔を上げた皇帝の金色の目には、ある種の覚悟を決めた者の狂気の炎が見えた。
「貴様・・・・・何を?」
タジームの胸がざわついた。皇帝は何をするつもりだ?この状態でできる事など何もないはずだ。
だがこの目には明確な意思が見える。それはいったい・・・・・
皇帝の足に纏う風が吹くと、ゆっくりと上昇していった。
「フッフッフ・・・タジーム・・・余はな、昔から欲しいものはなんでも手に入れてきた。皇帝の息子だったからな、余が一声かければ簡単なものだったよ。だがな、それでも極稀に思い通りにならない事もあった。持ち主がどうしても譲りたくないと言うのだよ。金ではどうにもならない事もあるのだ・・・そういう場合どうすると思う?」
空高く登っていく皇帝を、タジームは視線を上げて追って行った
なんだ?こいつは何を言っている?
互いの表情が見え、そして互いの言葉がギリギリ届く位置で止まると、皇帝はタジームの視線を受け止めながら両手に魔力を集中させる。
手の平から発せられる巨大な光、大気を震わせる轟音、破壊の力を込めたその魔法は・・・・・
「光源爆裂弾だと?・・・今更なぜ・・・」
タジームが眉根を寄せ、怪訝な表情を見せたその時、皇帝は口の端を大きく歪めて嗤った。
「手に入らんのなら・・・ぶっ壊してやるんだよォォォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」
皇帝はぐるっとタジームに背を向けると、両手に漲らせた破壊の魔力を町に向かって撃ち放った!
「なにッ!?」
予想だにしない行動に、タジームが目を見開いた。
破壊の光弾が撃ち放たれた方角は、ブレンダン・ランデルの孤児院が建つ場所だった。
「ば・・・ばかな・・・余の、光源爆裂弾が・・・そんな・・・・・」
自身最大の魔法が、こうも容易く無力化された衝撃は大きい。
己が大陸最強だという自信があった。
過剰な自信ではあったかもしれないが、己の力で帝国の皇帝に君臨したという確たる実力もあった。
しかし、その自信に亀裂が入った。
必殺の光源爆裂弾。
ウィッカーにも破られはしたが、互いにギリギリのせめぎ合いの末だった。
しかしこの男、タジーム・ハメイドはどうだ?
汗一つかく事無く、涼しい顔で放り投げるように空へと飛ばして退けたのだ。
「・・・皇帝、次はどうするんだ?灼炎竜か?それともとっておきの魔道具でもあるのか?」
「ぐっ!」
タジームの言葉に、顔を下ろして正面に向き直る。
魔道具を指摘された事が、ひどく癇に障った。
時を止める魔道具、砂時計。
あれさえあれば、カエストゥスの制圧など容易いものだった。
だが帝国に攻めてきたウィッカーとの一戦で、あろう事か破壊されてしまったのだ。
取返しのつかない失態だった。そのせいで今こうしてタジーム・ハメイドに追い詰められている。
「・・・どうやら、もう何も無いようだな?貴様を支えているものはその魔力だ。確かに強い。ウィッカーよりも上の黒魔法使いがいるとは驚かされた。だが俺はお前より上だった。それだけの事だ」
一定の距離を保って、空中で睨み合っていた二人だったが、ここでタジームが前に出た。
一歩距離を詰めるごとに、タジームの体から発する魔力が高まっていく。
タジームの圧力に、皇帝は一歩二歩と、後ろに下がらされた。
意識しての行動ではなかった。だがこの下がらされたという事実が、タジームと皇帝の力関係を決定付けたといっていいだろう。
「ぐっ、き、貴様なんぞに・・・」
皇帝は満身創痍だった。タジームの火球によって負わされた大火傷は、本来ならば動けるものではない。
今こうして立っているのは、皇帝としてのプライドだった。
帝国の頂点に君臨する自分が、倒れるなどあってはならない。皇帝とは大陸を統べる者である。
常軌を逸する程に強い自尊心が、皇帝を動かしていた。
「貴様なんぞにやられてたまるかァァァァァー-------ッツ!」
獣のような咆哮を上げて、皇帝はタジームに両手の平を差し向けた!
絶対の自信を持っていた光源爆裂弾が通用しない以上、皇帝にできる事は、もはや魔力の続く限り撃つ事しかなった。
「死ね!死ね!死ね!死んでしまえェェェー--ッツ!タジィィィムゥゥゥゥウー----ッツ!」
「大口を開けて喚き散らす・・・余裕が無くなり品性までも失ったようだな」
矢継ぎ早に飛んでくる爆裂弾だったが、タジームは風魔法で全身を包む風の鎧を作り出し、まるで意に介する事なく防ぎきった。
黒魔法使いの防御の基本は風であり、言ってしまえば誰でもできる特別な防御ではない。
だがそれゆえに個々の力量がハッキリと分かる魔法でもある。
ずば抜けた魔力を持つ皇帝の爆裂弾は、着弾するごとに耳をつんざく爆音を上げ、爆風が空気を震わせ火の粉を巻き散らす。その衝撃は相当なもののはずだが、タジームは眉の一つも動かす事無く、身に纏う風で衝撃の全てを受け流していた。
皇帝を相手にここまで圧倒できるタジームは、最強の黒魔法使いと名乗る事に、疑いの余地は無いだろう。
「・・・もう諦めたらどうだ?貴様は俺には勝てない」
軽く右手を振って目の前の爆風を消し飛ばす。
タジームは目の前に立つ皇帝を冷たく見据えた。
肩で大きく息を切らし、顎の先から汗を滴らせている。全身の大火傷に加え、何をやっても通用しないという現実が、肉体的にも精神的にも皇帝を追い詰めていた。
「ぐっ・・・うぅ・・・・・余は・・・余は、皇帝だぞ・・・・・」
「貴様は口を開けばそれだな?他に語れるものがないのか?国王だろうと皇帝だろうと、そんな称号には何の価値も無い。国を治める者が何者であろうと、民が幸福であるならばその名は歴史に残る。そこに称号は関係ない。俺には貴様は皇帝という称号に捕らわれた、ただの哀れな男にしか見えない」
「・・・・・フッ・・・くっくっく・・・」
それまで苦しそうに息を吐いていた皇帝だったが、タジームの言葉に唐突に笑い出した。
皇帝ローランド・ライアンの人生は、皇帝になる事が全てだったと言っていい。
肉親の情を捨て、兄弟達を蹴落とし、命を懸けて皇帝の座を掴み取った。
皇帝という地位、称号を否定される事は、ローランド・ライアンの人生全てを否定する事である。
「・・・フハハハハハ・・・・認めてやろう、タジーム・ハメイド。貴様は強い。余など足元にも及ばん程に強い」
「・・・何が言いたい?」
ここからの逆転など誰が見ても不可能だろう。待っているのは死のみ。
そこまで追い詰められているにも関わらず、俯きながら笑う皇帝に、タジームは不気味なものを感じ、声に僅かに緊張が含まれた。
「・・・なに、簡単な事よ。余は貴様には勝てん。ここで余は殺されるのだろう。だが・・・むざむざ殺られるのは悔しいだろう?」
顔を上げた皇帝の金色の目には、ある種の覚悟を決めた者の狂気の炎が見えた。
「貴様・・・・・何を?」
タジームの胸がざわついた。皇帝は何をするつもりだ?この状態でできる事など何もないはずだ。
だがこの目には明確な意思が見える。それはいったい・・・・・
皇帝の足に纏う風が吹くと、ゆっくりと上昇していった。
「フッフッフ・・・タジーム・・・余はな、昔から欲しいものはなんでも手に入れてきた。皇帝の息子だったからな、余が一声かければ簡単なものだったよ。だがな、それでも極稀に思い通りにならない事もあった。持ち主がどうしても譲りたくないと言うのだよ。金ではどうにもならない事もあるのだ・・・そういう場合どうすると思う?」
空高く登っていく皇帝を、タジームは視線を上げて追って行った
なんだ?こいつは何を言っている?
互いの表情が見え、そして互いの言葉がギリギリ届く位置で止まると、皇帝はタジームの視線を受け止めながら両手に魔力を集中させる。
手の平から発せられる巨大な光、大気を震わせる轟音、破壊の力を込めたその魔法は・・・・・
「光源爆裂弾だと?・・・今更なぜ・・・」
タジームが眉根を寄せ、怪訝な表情を見せたその時、皇帝は口の端を大きく歪めて嗤った。
「手に入らんのなら・・・ぶっ壊してやるんだよォォォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」
皇帝はぐるっとタジームに背を向けると、両手に漲らせた破壊の魔力を町に向かって撃ち放った!
「なにッ!?」
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