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1129 出発の時
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「よぉ、お前ら、とうとうこの日が来ちまったな」
台の上に立ったクインズベリー軍団長バーナード・ロブギンスは、開口一番に重く渋みのある声で、そう言葉を発した。
ニヤリと笑うと口周りの白い髭が持ち上がる。
白い歯が覗き見えると、ロブギンスは楽しそうに笑いだした。
「クックック・・・いやいや、ワシが生きてる間に帝国と戦争になるとはなぁ・・・まぁ始まったもんはしかたない。今の皇帝は元帝国軍の大将だったダスドリアン・ブルーナーか・・・クックック、ケツの青いヒヨッコが調子に乗りおって・・・」
楽しそうに肩を揺らして笑っているロブギンスだが、その深く青いコバルトブルーの目だけは、刃のように研ぎ澄まされていて、まったく笑っていなかった。
帝国の皇帝でさえヒヨッコと断じ、これから戦場へ向かうと言うのに笑ってのける胆力には、遠くから見ていたアラタも思わず見入ってしまった。
「あの人がクインズベリーの軍団長だ。今だから言うけどよ、去年の偽国王との戦いの時、あの人が敵に回っていたらどうなっていたか分からないぞ」
前を向いたまま、ヴァンはあの時の戦いについて話した。
そしてそれは、アラタも気になっていた事であった。
クインズベリー国に軍隊がある事は知っていた。
だがあの戦いで軍は一切出て来なかった。城で待ち構えていたのはほとんどが騎士団だったのだ。
偽国王はレイジェス側の動きを読んでいたのだから、騎士団と軍隊を一緒に出しておけば、結果は変わっていたかもしれない。
「ヴァン、実は俺も少し気になっていたんだ。四勇士とゴールド騎士まで出して来たんだから、それで十分だと思われていたかもしれないなって自分で結論付けてたけど、ヴァンは何か知ってるのか?」
「ああ、治安部隊って仕事柄、軍にも知り合いは多いからな。あの戦いの後で聞いたんだよ。そうしたらな、ロブギンスさんの判断で、軍はどちら側にもつかず中立を取る事になったらしい。言われてみればそれが一番だなって思ったよ。軍はあくまで国民を護るための戦いが最優先だって事で、偽国王に何を言われても動かなかったそうだ。ロブギンスさんはその時、どちらに正義があるかはいずれ分かる、そう言っていたらしい」
「へぇ、すごいな。国王の要請を断ったのか?普通は処分されそうだけど、今こうしてこの場にいるって事はお咎め無しだったんだろ?しかも、いずれ分かるって言ってたって事は、軍団長も国王がおかしい、もしかしたらって感じてたんじゃないのか?」
なぜあの戦いで軍が出てこなかったのか?
その理由を知り、アラタは驚きと同時に、軍団長の決断力に強く感心した。
「ああ、やっぱりおかしいとは思っていたようだ。薬で操られているとか、偽物の可能性も疑っていたらしい。けれど疑わしいってだけで行動は起こせないし、行動したらしたで軍の七万人に大きな影響を与えるだろ?だからロブギンスさんは中立を決めたんだ。そして反乱を起こした俺達に、本当の正義があれば勝つだろう・・・そう、話していたそうだ」
「なんか、全部見透かされて感じだな・・・でも、軍団長がすごい人だって事はよく分かったよ。ここに集まっている一万人も、真剣に軍団長の話しを聞いてるし、あの人が指揮官として全体を動かすんなら、何も心配いらなそうだな」
「そういう事だ。俺やフェリックスも、部隊長としては動くが、総大将はロブギンスさんだ。お前達レイジェスは独立部隊扱いだけど、ロブギンスさんの指示には従っておけ」
「そうだな・・・」
そこでヴァンとの会話を切ると、アラタはもう一度バーナード・ロブギンスに目を向けた。
170cmに満たない体格だが、台の上で兵達に向かって力強く演説をするロブギンスは、とても大きく頼もしく見えた。
一軍の大将とはこういうものだと、その姿から感じ取れるようだった。
「アラタ、私達は最後尾だ」
ロブギンスの演説が終わると、いよいよ出発の準備が始まった。
軍団長を先頭に、軍の幹部らしい男達が隊列の確認をしている。
それをアラタが見ていると、レイチェルが付いて来いと指を向けて来た。
「ん、ああ分かった」
「じゃあな、俺はこっちだから一旦ここでお別れだ。実は治安部隊も五百人くらいここに来てるんだよ」
呼ばれたアラタがレイチェルに付いて行こうとすると、ヴァンは軽く手を振って中庭に入って行った。
「騎士団も五百くらいはいるようだな、ゴールド騎士の三人もあっちにいるぞ」
レイチェルの後ろに付いて歩くと、見てみろと言うようにレイチェルが中庭を指差す。
そこに目を向けると、黄金の鎧を身につけた三人を先頭に、騎士団が隊列を組んでいた。
「あ、いたいた。あいつら鎧が金ぴかだから一発で分かるな」
「フッ、本当にあの鎧は目印みたいなものだな・・・さてと、ここだな。後は前が進むのを待てばいい」
少し場所を移動して、レイチェル達は軍の最後尾に付いた。
隊列は軍隊を中心として、騎士団と治安部隊が間に入る編成のようだ。
最後尾のレイジェスは、彼らの後をただ付いて歩いて行けばいい。
「ん、カチュア?・・・緊張してるの?」
ふと、アラタは自分の隣に立つカチュアが、表情を硬くしている事に気が付いた。
「・・・え、と・・・うん、いよいよ出発だなって思うと、だんだん怖くなってきて・・・・・」
俯きながら、小さな声で話すカチュア。
今まで会議にも参加して、戦いの準備を進めてきた。心構えはできたと思っていたが、こうして出発の時を迎えた事で、戦争に行くという事が実感としてその身に感じられてきたのだ。
「・・・カチュア」
アラタはカチュアの手を握った。
「・・・アラタ君・・・・・」
カチュアが顔を上げると、となりに立つ最愛の夫と目が合った。
いつもと変わらない。いつもと同じ優しい笑顔で、自分に笑いかけてくれた。
そして彼は戦いに出る時、必ず自分が安心できるように心強い言葉をかけてくれるのだ。
「大丈夫。俺がカチュアを護るから。一緒に帰って来よう・・・この国に」
「・・・うん、信じてる。絶対に一緒に帰ってこようね」
カチュアもまたアラタの手を強く握り、笑顔を返した。
台の上に立ったクインズベリー軍団長バーナード・ロブギンスは、開口一番に重く渋みのある声で、そう言葉を発した。
ニヤリと笑うと口周りの白い髭が持ち上がる。
白い歯が覗き見えると、ロブギンスは楽しそうに笑いだした。
「クックック・・・いやいや、ワシが生きてる間に帝国と戦争になるとはなぁ・・・まぁ始まったもんはしかたない。今の皇帝は元帝国軍の大将だったダスドリアン・ブルーナーか・・・クックック、ケツの青いヒヨッコが調子に乗りおって・・・」
楽しそうに肩を揺らして笑っているロブギンスだが、その深く青いコバルトブルーの目だけは、刃のように研ぎ澄まされていて、まったく笑っていなかった。
帝国の皇帝でさえヒヨッコと断じ、これから戦場へ向かうと言うのに笑ってのける胆力には、遠くから見ていたアラタも思わず見入ってしまった。
「あの人がクインズベリーの軍団長だ。今だから言うけどよ、去年の偽国王との戦いの時、あの人が敵に回っていたらどうなっていたか分からないぞ」
前を向いたまま、ヴァンはあの時の戦いについて話した。
そしてそれは、アラタも気になっていた事であった。
クインズベリー国に軍隊がある事は知っていた。
だがあの戦いで軍は一切出て来なかった。城で待ち構えていたのはほとんどが騎士団だったのだ。
偽国王はレイジェス側の動きを読んでいたのだから、騎士団と軍隊を一緒に出しておけば、結果は変わっていたかもしれない。
「ヴァン、実は俺も少し気になっていたんだ。四勇士とゴールド騎士まで出して来たんだから、それで十分だと思われていたかもしれないなって自分で結論付けてたけど、ヴァンは何か知ってるのか?」
「ああ、治安部隊って仕事柄、軍にも知り合いは多いからな。あの戦いの後で聞いたんだよ。そうしたらな、ロブギンスさんの判断で、軍はどちら側にもつかず中立を取る事になったらしい。言われてみればそれが一番だなって思ったよ。軍はあくまで国民を護るための戦いが最優先だって事で、偽国王に何を言われても動かなかったそうだ。ロブギンスさんはその時、どちらに正義があるかはいずれ分かる、そう言っていたらしい」
「へぇ、すごいな。国王の要請を断ったのか?普通は処分されそうだけど、今こうしてこの場にいるって事はお咎め無しだったんだろ?しかも、いずれ分かるって言ってたって事は、軍団長も国王がおかしい、もしかしたらって感じてたんじゃないのか?」
なぜあの戦いで軍が出てこなかったのか?
その理由を知り、アラタは驚きと同時に、軍団長の決断力に強く感心した。
「ああ、やっぱりおかしいとは思っていたようだ。薬で操られているとか、偽物の可能性も疑っていたらしい。けれど疑わしいってだけで行動は起こせないし、行動したらしたで軍の七万人に大きな影響を与えるだろ?だからロブギンスさんは中立を決めたんだ。そして反乱を起こした俺達に、本当の正義があれば勝つだろう・・・そう、話していたそうだ」
「なんか、全部見透かされて感じだな・・・でも、軍団長がすごい人だって事はよく分かったよ。ここに集まっている一万人も、真剣に軍団長の話しを聞いてるし、あの人が指揮官として全体を動かすんなら、何も心配いらなそうだな」
「そういう事だ。俺やフェリックスも、部隊長としては動くが、総大将はロブギンスさんだ。お前達レイジェスは独立部隊扱いだけど、ロブギンスさんの指示には従っておけ」
「そうだな・・・」
そこでヴァンとの会話を切ると、アラタはもう一度バーナード・ロブギンスに目を向けた。
170cmに満たない体格だが、台の上で兵達に向かって力強く演説をするロブギンスは、とても大きく頼もしく見えた。
一軍の大将とはこういうものだと、その姿から感じ取れるようだった。
「アラタ、私達は最後尾だ」
ロブギンスの演説が終わると、いよいよ出発の準備が始まった。
軍団長を先頭に、軍の幹部らしい男達が隊列の確認をしている。
それをアラタが見ていると、レイチェルが付いて来いと指を向けて来た。
「ん、ああ分かった」
「じゃあな、俺はこっちだから一旦ここでお別れだ。実は治安部隊も五百人くらいここに来てるんだよ」
呼ばれたアラタがレイチェルに付いて行こうとすると、ヴァンは軽く手を振って中庭に入って行った。
「騎士団も五百くらいはいるようだな、ゴールド騎士の三人もあっちにいるぞ」
レイチェルの後ろに付いて歩くと、見てみろと言うようにレイチェルが中庭を指差す。
そこに目を向けると、黄金の鎧を身につけた三人を先頭に、騎士団が隊列を組んでいた。
「あ、いたいた。あいつら鎧が金ぴかだから一発で分かるな」
「フッ、本当にあの鎧は目印みたいなものだな・・・さてと、ここだな。後は前が進むのを待てばいい」
少し場所を移動して、レイチェル達は軍の最後尾に付いた。
隊列は軍隊を中心として、騎士団と治安部隊が間に入る編成のようだ。
最後尾のレイジェスは、彼らの後をただ付いて歩いて行けばいい。
「ん、カチュア?・・・緊張してるの?」
ふと、アラタは自分の隣に立つカチュアが、表情を硬くしている事に気が付いた。
「・・・え、と・・・うん、いよいよ出発だなって思うと、だんだん怖くなってきて・・・・・」
俯きながら、小さな声で話すカチュア。
今まで会議にも参加して、戦いの準備を進めてきた。心構えはできたと思っていたが、こうして出発の時を迎えた事で、戦争に行くという事が実感としてその身に感じられてきたのだ。
「・・・カチュア」
アラタはカチュアの手を握った。
「・・・アラタ君・・・・・」
カチュアが顔を上げると、となりに立つ最愛の夫と目が合った。
いつもと変わらない。いつもと同じ優しい笑顔で、自分に笑いかけてくれた。
そして彼は戦いに出る時、必ず自分が安心できるように心強い言葉をかけてくれるのだ。
「大丈夫。俺がカチュアを護るから。一緒に帰って来よう・・・この国に」
「・・・うん、信じてる。絶対に一緒に帰ってこようね」
カチュアもまたアラタの手を強く握り、笑顔を返した。
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