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1337 シャンテル・ガードナーの信念と苦悩 ②
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抵抗がなかったわけではありません。
ですが身の危険を感じる程に迫られて、私はしかたないと自分に言い訳をして治療を行う事にしました。
バーツさんには椅子に座ってもらい、私は彼が怪我をしたという右腕を見せてもらいました。
「・・・腫れてますね、どこかにぶつけたのですか?」
「はい、ちょっとうっかりして。折れてはいないと思うんですが・・・」
肘の上あたりが赤く腫れていますが、このくらいなら骨には異常がなさそうでした。
患部を触って状態を確認していると、気を良くしたのかバーツさんの声は、元の穏やかなものに戻っていました。
ギラギラして殺気だった目は落ち着きを取り戻し、こわばっていた口元は照れくさそうに笑みを浮かべています。
さっきまでの怖い感じはどこにいったのでしょう?まるで別人と思える変わりようです。
私が知っているバーツさんはいつも穏やかで、周りに対して気遣いのできる人でした。
それがこんな二面性があったなんて、驚きしかありません。
そして・・・・・本当に怖い人だと思いました。
「・・・シャンテルさん?どうかしましたか?」
「あ、いえ・・・なんでもありません。では、治療を行いますね」
平静を装っているつもりでしたが、少なからず内心が顔に出ていたのかもしれません。
バーツさんに見つめられて、私はハッと意識を戻しました。
一歩引いてしまったからでしょうか、これまではよく笑って、愛想の良い方だなという印象でした。
でも今ではその笑顔が、張り付けた仮面のように見えました。
一度そう感じてしまうと、もう無理でした。
もちろん怪我人を治したいという気持ちは変わりません。バーツさんの怪我も癒してあげたいと思っています。けれどそれ以上に、強い拒否反応が出てしまったのです。
この人から離れたい。
この時の私は、バーツさんと同じ空間にいる事さえ耐えがたく、一刻も早く離れたい気持ちでいっぱいでした。だからまだ自分の力がどうなっているのか確認ができていないのに、多分大丈夫、なんとかなるはず、そういう何の根拠もない言い訳を自分にして、彼にヒールをかけました。
思えば私はこの時、白魔法使いとして大切なものを失ったのだと思います。
なぜなら命を失うかもしれない治療を、このようなてきとうな考えで行うという事は、相手にもしもの事があってもしかたない。そういう考えが頭になくてはできないからです。
どんな命でも大切にする。患者によりそう心を忘れない。
その考えを私は白魔法使いとしての矜持としていました。
ですがもう、その志を掲げたシャンテル・ガードナーは、いなくなってしまったのです。
私の内心を察しているのか、バーツさんの目にはどこか冷たさが見え隠れしています。
やはりこの人の本性は恐ろしい。あまり感情に触れないようにして、急ぎ治療を済ませましょう。
私はバーツさんの視線には気づかないふりをして、癒しの魔力を彼の右腕に流し込みました。
「・・・シャンテルさん、さっきお伺いした事情は分かりましたが、復帰はいつ頃になりそうですか?」
「え?復帰、ですか?治療施設に?・・・それはまだ、何も決まってません」
「そうですか、じゃあまた怪我をしたらここに来ていいですか?」
「え?・・・すみません、ご説明した通り、本当はまだ治療を行ってはいけないんです。ですから、もしまた怪我をされたら、施設の方に行ってください」
「いえ、俺はシャンテルさんに治療してほしいんです。だからまたここに来ますね」
「いえ、あの、私は本当に今回だけで・・・」
「来ますから。いいですよね?」
「あの、本当に・・・」
「いいですよね?」
「・・・・・・・」
「じゃあ、また来ますね」
「あのっ・・・」
「また来ますね」
「・・・・・・・」
「また、明日も来ますから」
冷たい汗が頬を伝い、手の甲にポタリと落ちました。
血の気が引くというのは、こういう時に使う言葉なのでしょう。
寒いわけでもないのに体が震え、動悸が激しくなります。魔力の操作が乱れ、バーツさんに流していた癒しの力がうまく働きません。
「はっ・・・はぁっ、はぁっ・・・!」
呼吸がうまくできずに胸を押さえると、バーツさんが表情の無い顔で私に向き直りました。
「・・・シャンテルさん、どうしたんですか?治療、途中ですよね?」
「あっ、う、はぁっ!・・・はぁっ!・・・」
「・・・・・調子、悪そうですね?じゃあ、今日はもういいです。続きは明日お願いします」
無機質な声でそう言い切ると、バーツさんは椅子から立ち上がりました。
・・・明日?
明日もこの人の相手をしなければならないの?
・・・・・・・・・・・また、明日も・・・・・・・・・・・
「バ、バーツさん!だ、大丈夫です!き、今日終わらせます!座ってください!」
治療はもうほとんど終わってます。もう一度癒しの魔力を流せば完治するでしょう。
この人が明日もまた来るなんて耐えれません!今もう一度ヒールをかけて、それで終わりにするんです!
この人との縁はここで終わらせなければ。
治療ができなくても明日からは私も施設に行って、カカーチェ叔父様の傍にいよう。
私はバーツさんの右腕を掴み、これが最後と癒しの魔力を流しました。
「え?なんでヒールしてんの?・・・明日も来るって言ってんだろぉおぉぉぉおおおぉぉぉッ!」
振り向いたバーツさんの顔は、これまで見た事もないくらい怖い顔でした。
目は吊り上がり青筋を立て、唾を飛ばしながら私を怒鳴りつけるその顔は、もう私の知っているバーツさんではありませんでした。
「ひっ!あ、あの!ち、治療は、終わりました!も、もうこれで大丈夫です!」
今にも掴みかかってきそうなバーツさんから距離を取り、私は言わなければならない事だけを伝えました。今の一瞬で治療は終えました。私は役目は果たしたのです。
けれど感情的になっているバーツさんには、何一つ言葉は届きませんでした。
「・・・明日も来るって言ってんだろ?治療は終わった?じゃあまた怪我して来ればいいんだろ?」
「えっ!?そ、それは、どういう?」
まさか・・・私に会うために、わざと・・・?
「怪我をすれば来ていいんだろ?」
こ、この人は、普通じゃない・・・・・・
一歩、また一歩、バーツさんはゆっくりと私に詰め寄って来ました。
バーツさんが近寄ってくる分、私も下がりましたが、室内という限られた空間では逃げはありません。
やがて壁際に追い込まれた私に、バーツさんがゆっくりと手を伸ばします。
「っ!」
恐怖に耐えきれず、私は固く目を瞑りました。
捕まったら何をされるの?怖い・・・ただただ怖い。
怖いという感情に頭は埋め尽くされ、他の事は一切何も考えられません。
しかし・・・・・
数秒?十秒くらいでしょうか?私の体にバーツさんが触れる事はありませんでした。
いつまで待っても私に触れない事、そして低い呻き声が聞こえたので、私は恐る恐る瞼を開けました。
すると私の瞳には、白目を剥いて喉を掻きむしるバーツさんが映ったのです。
「・・・っ!」
あまりに異常な光景に私は言葉さえ失い、ただ立ち尽くしてしまいました。
立ち尽くすしかできなかったのです。
「カッ・・・ハッ・・・・・ァ・・・・・・・・・ 」
数十秒、一分、二分?そのままバーツさんはしばらくの間苦しみもがいた後、息を引き取りました。
私が殺しました
ですが身の危険を感じる程に迫られて、私はしかたないと自分に言い訳をして治療を行う事にしました。
バーツさんには椅子に座ってもらい、私は彼が怪我をしたという右腕を見せてもらいました。
「・・・腫れてますね、どこかにぶつけたのですか?」
「はい、ちょっとうっかりして。折れてはいないと思うんですが・・・」
肘の上あたりが赤く腫れていますが、このくらいなら骨には異常がなさそうでした。
患部を触って状態を確認していると、気を良くしたのかバーツさんの声は、元の穏やかなものに戻っていました。
ギラギラして殺気だった目は落ち着きを取り戻し、こわばっていた口元は照れくさそうに笑みを浮かべています。
さっきまでの怖い感じはどこにいったのでしょう?まるで別人と思える変わりようです。
私が知っているバーツさんはいつも穏やかで、周りに対して気遣いのできる人でした。
それがこんな二面性があったなんて、驚きしかありません。
そして・・・・・本当に怖い人だと思いました。
「・・・シャンテルさん?どうかしましたか?」
「あ、いえ・・・なんでもありません。では、治療を行いますね」
平静を装っているつもりでしたが、少なからず内心が顔に出ていたのかもしれません。
バーツさんに見つめられて、私はハッと意識を戻しました。
一歩引いてしまったからでしょうか、これまではよく笑って、愛想の良い方だなという印象でした。
でも今ではその笑顔が、張り付けた仮面のように見えました。
一度そう感じてしまうと、もう無理でした。
もちろん怪我人を治したいという気持ちは変わりません。バーツさんの怪我も癒してあげたいと思っています。けれどそれ以上に、強い拒否反応が出てしまったのです。
この人から離れたい。
この時の私は、バーツさんと同じ空間にいる事さえ耐えがたく、一刻も早く離れたい気持ちでいっぱいでした。だからまだ自分の力がどうなっているのか確認ができていないのに、多分大丈夫、なんとかなるはず、そういう何の根拠もない言い訳を自分にして、彼にヒールをかけました。
思えば私はこの時、白魔法使いとして大切なものを失ったのだと思います。
なぜなら命を失うかもしれない治療を、このようなてきとうな考えで行うという事は、相手にもしもの事があってもしかたない。そういう考えが頭になくてはできないからです。
どんな命でも大切にする。患者によりそう心を忘れない。
その考えを私は白魔法使いとしての矜持としていました。
ですがもう、その志を掲げたシャンテル・ガードナーは、いなくなってしまったのです。
私の内心を察しているのか、バーツさんの目にはどこか冷たさが見え隠れしています。
やはりこの人の本性は恐ろしい。あまり感情に触れないようにして、急ぎ治療を済ませましょう。
私はバーツさんの視線には気づかないふりをして、癒しの魔力を彼の右腕に流し込みました。
「・・・シャンテルさん、さっきお伺いした事情は分かりましたが、復帰はいつ頃になりそうですか?」
「え?復帰、ですか?治療施設に?・・・それはまだ、何も決まってません」
「そうですか、じゃあまた怪我をしたらここに来ていいですか?」
「え?・・・すみません、ご説明した通り、本当はまだ治療を行ってはいけないんです。ですから、もしまた怪我をされたら、施設の方に行ってください」
「いえ、俺はシャンテルさんに治療してほしいんです。だからまたここに来ますね」
「いえ、あの、私は本当に今回だけで・・・」
「来ますから。いいですよね?」
「あの、本当に・・・」
「いいですよね?」
「・・・・・・・」
「じゃあ、また来ますね」
「あのっ・・・」
「また来ますね」
「・・・・・・・」
「また、明日も来ますから」
冷たい汗が頬を伝い、手の甲にポタリと落ちました。
血の気が引くというのは、こういう時に使う言葉なのでしょう。
寒いわけでもないのに体が震え、動悸が激しくなります。魔力の操作が乱れ、バーツさんに流していた癒しの力がうまく働きません。
「はっ・・・はぁっ、はぁっ・・・!」
呼吸がうまくできずに胸を押さえると、バーツさんが表情の無い顔で私に向き直りました。
「・・・シャンテルさん、どうしたんですか?治療、途中ですよね?」
「あっ、う、はぁっ!・・・はぁっ!・・・」
「・・・・・調子、悪そうですね?じゃあ、今日はもういいです。続きは明日お願いします」
無機質な声でそう言い切ると、バーツさんは椅子から立ち上がりました。
・・・明日?
明日もこの人の相手をしなければならないの?
・・・・・・・・・・・また、明日も・・・・・・・・・・・
「バ、バーツさん!だ、大丈夫です!き、今日終わらせます!座ってください!」
治療はもうほとんど終わってます。もう一度癒しの魔力を流せば完治するでしょう。
この人が明日もまた来るなんて耐えれません!今もう一度ヒールをかけて、それで終わりにするんです!
この人との縁はここで終わらせなければ。
治療ができなくても明日からは私も施設に行って、カカーチェ叔父様の傍にいよう。
私はバーツさんの右腕を掴み、これが最後と癒しの魔力を流しました。
「え?なんでヒールしてんの?・・・明日も来るって言ってんだろぉおぉぉぉおおおぉぉぉッ!」
振り向いたバーツさんの顔は、これまで見た事もないくらい怖い顔でした。
目は吊り上がり青筋を立て、唾を飛ばしながら私を怒鳴りつけるその顔は、もう私の知っているバーツさんではありませんでした。
「ひっ!あ、あの!ち、治療は、終わりました!も、もうこれで大丈夫です!」
今にも掴みかかってきそうなバーツさんから距離を取り、私は言わなければならない事だけを伝えました。今の一瞬で治療は終えました。私は役目は果たしたのです。
けれど感情的になっているバーツさんには、何一つ言葉は届きませんでした。
「・・・明日も来るって言ってんだろ?治療は終わった?じゃあまた怪我して来ればいいんだろ?」
「えっ!?そ、それは、どういう?」
まさか・・・私に会うために、わざと・・・?
「怪我をすれば来ていいんだろ?」
こ、この人は、普通じゃない・・・・・・
一歩、また一歩、バーツさんはゆっくりと私に詰め寄って来ました。
バーツさんが近寄ってくる分、私も下がりましたが、室内という限られた空間では逃げはありません。
やがて壁際に追い込まれた私に、バーツさんがゆっくりと手を伸ばします。
「っ!」
恐怖に耐えきれず、私は固く目を瞑りました。
捕まったら何をされるの?怖い・・・ただただ怖い。
怖いという感情に頭は埋め尽くされ、他の事は一切何も考えられません。
しかし・・・・・
数秒?十秒くらいでしょうか?私の体にバーツさんが触れる事はありませんでした。
いつまで待っても私に触れない事、そして低い呻き声が聞こえたので、私は恐る恐る瞼を開けました。
すると私の瞳には、白目を剥いて喉を掻きむしるバーツさんが映ったのです。
「・・・っ!」
あまりに異常な光景に私は言葉さえ失い、ただ立ち尽くしてしまいました。
立ち尽くすしかできなかったのです。
「カッ・・・ハッ・・・・・ァ・・・・・・・・・ 」
数十秒、一分、二分?そのままバーツさんはしばらくの間苦しみもがいた後、息を引き取りました。
私が殺しました
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