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理太郎

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1498 クリチコの人格の一つ

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「人格の一つ、だと?」

レイマートは目の前の男を訝し気に見る。

瘦せ型で少しコケた頬、金色の髪はオールバックに撫でつけられている。
青い目は柔和な笑みをたたえながら、レイマートを見つめていた。

さっきまでは敵意を剥き出しにして、射殺すような目で睨みつけてきたが、この表情の変わりようはなんだ?背格好は同じでもまるで別人のようだ。

「はい、もう一度言いましょう。僕はフランジミール・クリチコの人格の一つで、プレフと申します。ここからは僕がお相手をさせていただきます。いい戦いをしましょう」

胸に手を当て、軽く腰を曲げて頭を下げる。やたらと礼儀正しく、それ自体は好ましいものだろう。
だが今現在戦っている相手に対してする行いではない。

どう反応すればいいものか?クリチコの中の人格の一つと言われても、レイマートは戸惑いが大きかった。だがあれこれ考えても、何かが変わるわけではない。レイマートは一つ呼吸をして切り替えた。

「ふぅ・・・まぁいい、てめぇの人格とやらは知った事じゃない。とにかく俺の前にいるお前を斬れば終わりだ。それでいい」

レイマートは右足を後ろに引いて、左手を軽く前に出して構えた。
闘気を集中させた左手は空気をビリビリと震わせ、目の前のクリチコ、いやプレフの体を叩いた。


「ふ~ん、クリチコの体の中で見てましたけど、その技、闘気でしたっけ?すごいですね。その左手でやられたら僕なんて一発ですよ。さすがクインズベリーのゴールド騎士様だ」

興味深そうにレイマートの左手を見るプレフの顔は、偽りなく感心しているようだった。
しかし闘気の力を称賛しつつも、まるで脅威に感じている様子がない。そう、この男プレフは、レイマートの闘気の爪を恐れていないのだ。

「・・・そうか、だったら一発で死んでもらうぞ。これから城に行って皇帝の首をとらなきゃならないんでな、やる事が多いんだ」

「それはお忙しいところ失礼しました。ではおしゃべりはこのくらいにして、そろそろ始めましょうか」

レイマートがやや前傾姿勢になり、ぐっと足に力を入れると、プレフは右手を前に出して、かかって来いと言うように手招きをして見せた。


それは一見すると、まったくの無防備にしか見えなかった。
なにか武器を持っているわけではない。深紅の鎧も胸部を抉られ破損しているため、次もレオンクローを防げるとは思えない。これでいったいどうやって対抗するというのだ?

それとも体術によほどの自信があるのだろうか?この男は自分がクリチコの人格の一つだと言った。
最初に戦った男は己をフランジミール・クリチコと名乗ったのだから、最初に戦った男が主人格で本体のクリチコという事だ。そのクリチコは自分の体術に防戦一方だった。その上でこのプレフに変わったのだから、こいつは主人格のクリチコよりも体術が上だという事だろう。

「・・・まぁいい、俺のやる事に変わりはない。ここでお前を斬る。それだけだ」

おそらくこいつの体術が、最初のヤツより上というのは当たっているはずだ。

武器も持たずに俺のレオンクローをどう防ぐのか?まず受けは無い。だから回避するしかないはずだ。
そこから導き出せる答えは、こいつがスピードタイプの体力型という事だ。

素早い動きで撹乱して、打撃を中心にした攻撃がこいつの戦い方だろう。そして何か武器を隠し持っている可能性もある。注意すべきはそのあたりだな。


いくぞ!


キッと視線鋭くプレフを睨み、右足で砂を蹴って飛び出した。

右手がまだ使えないため、左手のみに闘気を集中させている事から、レイマートの攻撃が左手を軸に組み立てられている事は、プレフもここまでの戦闘で十分に分かっている。そしてレイマートも知られている事は百も承知である。

攻撃手段が知られている。だがそれがどうした?
分かっていても防げない攻撃が、このレオンクローである。

「レオンクロー!受けて見ろ!」

一瞬にしてプレフの眼前に迫ると、脇に構えた左腕の闘気の爪を、顔面に向かって突き出した!



レイマートのレオンクローに対し、プレフは防ぐ素振りも躱す様子もまったく見せなかった。
深紅の鎧でさえ切り裂く闘気の爪である。顔面に食らえば絶命は免れない。
少なくとも最初に戦った主人格であるクリチコは、レオンクローを目で追う事はできていた。しかしこのプレフは見えているのかいないのか、顔を動かす事さえしない。


なんだ、こいつ?俺の動きを目で追う事さえできないのか?
その程度の実力なのか?それでなぜ出てきた?このままくらえばお前の顔面は切り飛ばされるんだぞ?
分かっているのか?体力型の貴様がここからどうやって防ぐ?もう回避も防御も間に合わんぞ?
本当にこの程度だったのか?思わせぶりな登場をしてこの程度なのか?

だったら死ぬしかないな!


「ッ!?」

レオンクローがあと指一本分という距離まで迫ったその時、レイマートは確かに見た。

それまで柔和な笑みを絶やさずに、敵である自分に対しても紳士的な態度で向き合っていたこの男の表情が、邪悪に歪(ゆが)んだその瞬間を・・・・・


「爆裂空破弾」


爆音が鳴り響いた次の瞬間、レイマートの体は爆発による黒煙に包まれながら上空へと吹き飛ばされた。


「ぷっ・・・あははははははははは!まんまと引っ掛かりましたねぇぇぇぇぇ!僕は黒魔法使いなんですよ!同じ体だから僕も体力型と思ってたんでしょ!?人格が違えば能力も違う!当然僕達全員が体力型であるはずがないんですよ!あはははははははは!」


紳士の仮面が剥がれたプレフには、もはやさっきまでの礼節ある言葉使いも何もなかった。
ニヤニヤしながら上空のレイマートを見上げ、手を叩いて嘲笑する姿は、品性など欠片もない。

吹き飛ばされたレイマートが受け身も取れずに地面に落下すると、プレフは下卑た笑みを浮かべたまま近付き、そしてレイマートの胸を踏みつけた。


「ぐぅッ・・・き、貴様・・・!」

全身からブスブスと黒煙が立ち昇る。
黄金の鎧と闘気を纏っていたおかげで即死は免れた。しかし近距離での中級魔法の直撃は、ダメージが大きかった。体がいう事をきかず、魔法使いに踏みつけられても払いのける事さえできない。

「おぉ、さすがゴールド騎士様、直撃でも一発では死ななかったか?でもダメージは大きいみたいですねぇ!あ、そうそう、騎士様は勘違いしてるようだから、これも教えておいてあげましょう。あんた最初に戦った彼をクリチコだと思ってるようだけど違いますよ?あいつはガラム。クリチコじゃないんです」

「なッ!?」

「プライドが高くて、そのうえ僕らの中で一番攻撃力が高いから勘違いしてるんですよ。自分こそがクリチコだって。ちょっと思い込みがアレなんですよね。だから普段はもめないように、あいつを表に出してるだけなんですよ。でもあいつの名前はガラム。クリチコじゃない。どういう意味か分かります?」

話しを聞いて驚きをあらわにしているレイマートを見て、プレフはニタリと口を歪ませ笑った。

「あーーーはははははははははは!つまりあんたはまだ、僕らの本体にさえ辿り着いてないって事ですよ!」

高らかに笑いながら、プレフは右手の平をレイマートの顔に向けた。
さっきの爆裂空破弾と同等程の魔力が集められる。

「じゃあ、そういう事で謎解き終わりです。覚悟はいいですか?」

プレフの右手の平に集まった魔力が、バチバチと音を立てて膨らんでいく。

「くっ、貴様!」

ギリっと歯を噛み締めても、体に力が入らずレイマートはプレフの足を撥ね退ける事ができない。

「無駄ですよ、じゃあそろそろ死んでくださーい」

爆発の中級魔法、爆裂空破弾。

この距離で顔面にくらえば、今度こそレイマートの命は無いだろう。
そしてそれが撃ち放たれるまさにその時だった。


「むッ!?」

視界の端で何かが光った。それと同時に鋭い風切り音が耳に飛び込んで来て、プレフは咄嗟に頭を下げた。
それと同時にザクッと音がして、何かが地面に突き刺さった。

「・・・これは、矢ですか。この戦いに割り込んでくるとは、いい度胸ですね」

砂に突き刺さった矢を一瞥すると、プレフは矢が放たれた方向に顔を向けた。

すると混戦状態の中、帝国兵達の頭を踏みつけながら、軽やかに跳び跳ねている男がプレフの数メートル手前に降り立った。

透き通るようなエメラルドグリーンの瞳、無造作に後ろでまとめた同色の髪。
緑色の長袖に鉄の胸当て、革の手袋を付けており、肘から手首までを鉄の腕当てでカバーしている。
黒のロングパンツには、膝から足首までを鉄の脛当てを付けている。

そして弓矢を手にし、油断なくプレフを見据えているこの男は、レイジェスのリカルド・ガルシアである。

「・・・お、お前」


レイマートがリカルドに顔を向けると、リカルドは得意気に鼻を鳴らしてニヤリと笑った。

「よぉ、レイマート。危なかったんじゃね?誰のおかげで助かった?このリカルドさんのおかげだよな?感謝しろよ」
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