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「────喜べ、カレン。お前の婚約者が決まった。名前を、ゼフィール・ノールド殿下。この国の王子殿下であらせられるお方だ」
十歳の誕生日を迎えたその日、私は父から呼び出され、己の婚約者が決まったと告げられた。
ノールド王国の王子殿下であり、王位継承権第一位であるお方。
そんな人物との縁談という事もあり、父はとても喜んでいた。
それは打算もあっただろうが、私のこれからの人生も輝かしいものになるであろう。
そう信じて疑っていない父からの祝福でもあった。
だが、ゼフィール・ノールドという名を聞いた瞬間、私の頭に割れるような痛みが走った。
直後、頭の中に流れ込んでくる膨大な情報────記憶。
カレン・ルシアータとして生きてきた自分のものではない誰かの記憶。
それは、綺咲 葵として現代日本でOLとして働いていた一人の人間の人生だった。
ただの記憶であれば、自分の前世を偶然思い出してしまった、で済んだ事だろう。
……いや、済むわけがないのだけれど、まだどうにかする事ができた。
多少の人格変化は起こり得ただろうが、それでもまだ些細な事として私の中で受け入れる事ができた筈なのだ。
しかし、その前世の記憶がカレン・ルシアータの未来に関係のあるものであったならば。
カレンとして生きてきたこの生が、BADエンドが確定したプレイヤー泣かせの乙女ゲー世界であって。
かつ、王子殿下との婚約を一方的に破棄される挙句、そのせいで色々と不幸に見舞われる事となる作中随一に近い不遇キャラこと、カレン・ルシアータに転生してしまったと知ったならば。
「………ぇ、えええええええええええ!!」
綺咲葵としての自分の記憶と、カレン・ルシアータとしての記憶が混ざり合う事に戸惑いを覚えながら、現在進行形で私を襲っていた頭痛にに対する悲鳴と言わんばかりに私は大声で叫び、そしてそのまま意識を失った。
†
────クラヴィスの華。
それは、プレイヤー泣かせとして知られる乙女ゲー。
基本的に、BADエンドしか用意されておらず、出てくるヒーローは大体主人公に依存し、BADエンドを尽く引き寄せるという本当にこれ、乙女ゲーなの?
と疑いたくなるような世界観を持つゲームである。
「……ここは、『クラヴィスの華』の世界で、私はゼフィール殿下の婚約者として転生をしてしまったって事、か」
なにその罰ゲーム。
意識を失ったあの後、誰かしらが運んでくれたであろうベッドの上で私は呟いた。
目の前の現実が信じられなくて、十歳児の握力で頬をむにーっと引っ張ってみる。
でも、夢が覚める気配はない。
てっきり、『クラヴィスの華』の内容に納得がいかなかった私が見せた夢なのかと思ったけれど、どうにも違ったらしい。
「今の私は十歳だから……ちゃんと進めば原作開始は八年後、か」
〝クラヴィスの華〟は端的に言えば、主人公であるユリア・シュベルグがこの国の聖女候補に選ばれた時点よりスタートし、この世界に八人しかいない魔法使い達と打ち解けながら絆を深め、立ち塞がる事件を解決してゆくゲームである。
それだけ見れば全然普通のゲームだし、BADエンドだらけのプレイヤー泣かせゲーとか嘘っぱちじゃないの?
とか思うのだが────というか私はそう思って購入したプレイヤーなんだけど、これがなんと言うか、ヒーロー達の抱える過去と立ち塞がる事件の数々の闇があまりに深すぎた。
だから正直、こんなにBADエンドだらけにしなくても良かったんじゃないかって思うけど、深すぎる闇のせいでそれ以外に無理だよねって最後の方は半ば諦めてすらいた。
「これからどうするか、だよね」
私は原作開始以降からしか物語を知らない。
その上、この身は作中随一の不遇キャラであるカレン・ルシアータ。
恙無く物語を進める為に、己がどうすれば良いのかは分かっている。
だけど、それで良いのだろうか。
作中随一の不遇キャラとして、これから不幸に見舞われながら生きていく────?
クラヴィスの華の原作通りに進めるならば、そうするしか道はない。
だけど、それはつまり作中で誰一人として報われなかったヒーロー達に、もう一度あのやりきれない生を送れと言っているも同義ではないだろうか。
プレイヤーとして。
カレン・ルシアータとして、それを容認してしまって良いのだろうか。
「……恐らくだけど、私の行動次第でこれから先の未来が変わる」
登場人物であったカレン・ルシアータが、原作にそぐわない行動を起こせば、まず間違いなく現実に大きな波紋が生まれる。
それが、事態が好転するものか、そうでないかは私に分かりようもない。
なにせ、その可能性は原作には存在しなかったから。
そしてそれは、とてもリスキーな賭けなのだと思う。でも、だからといって原作通りに進めていいのだろうか。
ヒーロー達の報われない未来を。
カレン・ルシアータになってしまった己の最悪の未来を、ただ黙って受け入れる事が正しいのだろうか。
もしも。
もしも、私がこの問い掛けに答えるとするならば────。
『いやだ』
ぽつりと出て来たのは一滴の言葉。
そしてそれを皮切りに、次が溢れる。
『いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだ』
黙って、最悪の未来を受け入れるだなんて認められない。認められる筈がない。
勿論、分不相応という言葉は分かっている。
そもそも、私は万能な主人公ではない。
それどころか、作中随一の不遇キャラカレン・ルシアータだ。
原作という知識は持っているが、言ってみれば、たったそれだけなのだ。
誰が信じてくれるかも分からない原作知識で誰も彼もを救えるハッピーエンドに導けると思ってるならば、それは間違いなく思い上がりでしかないし、私はきっと原作通りに進めるべきなのだろう。
でも私は────。
「誰もが幸せになれるハッピーエンドに、私が導けるとは思わない」
実際に〝クラヴィスの華〟をプレイしたから、それが如何に難しいかなんて、よく分かっている。
「だけど、こうしてこの世界にいるからには、出来る限りの人が不幸せにならないで済むようにしたい」
BADエンドばかりの〝クラヴィスの華〟の世界で、誰も不幸せにならないで済む未来を掴み取る。
それは決して、土台無理な話ではない。
なにせ、まだ原作は始まってすらいないのだ。
十歳の誕生日を迎えたその日、私は父から呼び出され、己の婚約者が決まったと告げられた。
ノールド王国の王子殿下であり、王位継承権第一位であるお方。
そんな人物との縁談という事もあり、父はとても喜んでいた。
それは打算もあっただろうが、私のこれからの人生も輝かしいものになるであろう。
そう信じて疑っていない父からの祝福でもあった。
だが、ゼフィール・ノールドという名を聞いた瞬間、私の頭に割れるような痛みが走った。
直後、頭の中に流れ込んでくる膨大な情報────記憶。
カレン・ルシアータとして生きてきた自分のものではない誰かの記憶。
それは、綺咲 葵として現代日本でOLとして働いていた一人の人間の人生だった。
ただの記憶であれば、自分の前世を偶然思い出してしまった、で済んだ事だろう。
……いや、済むわけがないのだけれど、まだどうにかする事ができた。
多少の人格変化は起こり得ただろうが、それでもまだ些細な事として私の中で受け入れる事ができた筈なのだ。
しかし、その前世の記憶がカレン・ルシアータの未来に関係のあるものであったならば。
カレンとして生きてきたこの生が、BADエンドが確定したプレイヤー泣かせの乙女ゲー世界であって。
かつ、王子殿下との婚約を一方的に破棄される挙句、そのせいで色々と不幸に見舞われる事となる作中随一に近い不遇キャラこと、カレン・ルシアータに転生してしまったと知ったならば。
「………ぇ、えええええええええええ!!」
綺咲葵としての自分の記憶と、カレン・ルシアータとしての記憶が混ざり合う事に戸惑いを覚えながら、現在進行形で私を襲っていた頭痛にに対する悲鳴と言わんばかりに私は大声で叫び、そしてそのまま意識を失った。
†
────クラヴィスの華。
それは、プレイヤー泣かせとして知られる乙女ゲー。
基本的に、BADエンドしか用意されておらず、出てくるヒーローは大体主人公に依存し、BADエンドを尽く引き寄せるという本当にこれ、乙女ゲーなの?
と疑いたくなるような世界観を持つゲームである。
「……ここは、『クラヴィスの華』の世界で、私はゼフィール殿下の婚約者として転生をしてしまったって事、か」
なにその罰ゲーム。
意識を失ったあの後、誰かしらが運んでくれたであろうベッドの上で私は呟いた。
目の前の現実が信じられなくて、十歳児の握力で頬をむにーっと引っ張ってみる。
でも、夢が覚める気配はない。
てっきり、『クラヴィスの華』の内容に納得がいかなかった私が見せた夢なのかと思ったけれど、どうにも違ったらしい。
「今の私は十歳だから……ちゃんと進めば原作開始は八年後、か」
〝クラヴィスの華〟は端的に言えば、主人公であるユリア・シュベルグがこの国の聖女候補に選ばれた時点よりスタートし、この世界に八人しかいない魔法使い達と打ち解けながら絆を深め、立ち塞がる事件を解決してゆくゲームである。
それだけ見れば全然普通のゲームだし、BADエンドだらけのプレイヤー泣かせゲーとか嘘っぱちじゃないの?
とか思うのだが────というか私はそう思って購入したプレイヤーなんだけど、これがなんと言うか、ヒーロー達の抱える過去と立ち塞がる事件の数々の闇があまりに深すぎた。
だから正直、こんなにBADエンドだらけにしなくても良かったんじゃないかって思うけど、深すぎる闇のせいでそれ以外に無理だよねって最後の方は半ば諦めてすらいた。
「これからどうするか、だよね」
私は原作開始以降からしか物語を知らない。
その上、この身は作中随一の不遇キャラであるカレン・ルシアータ。
恙無く物語を進める為に、己がどうすれば良いのかは分かっている。
だけど、それで良いのだろうか。
作中随一の不遇キャラとして、これから不幸に見舞われながら生きていく────?
クラヴィスの華の原作通りに進めるならば、そうするしか道はない。
だけど、それはつまり作中で誰一人として報われなかったヒーロー達に、もう一度あのやりきれない生を送れと言っているも同義ではないだろうか。
プレイヤーとして。
カレン・ルシアータとして、それを容認してしまって良いのだろうか。
「……恐らくだけど、私の行動次第でこれから先の未来が変わる」
登場人物であったカレン・ルシアータが、原作にそぐわない行動を起こせば、まず間違いなく現実に大きな波紋が生まれる。
それが、事態が好転するものか、そうでないかは私に分かりようもない。
なにせ、その可能性は原作には存在しなかったから。
そしてそれは、とてもリスキーな賭けなのだと思う。でも、だからといって原作通りに進めていいのだろうか。
ヒーロー達の報われない未来を。
カレン・ルシアータになってしまった己の最悪の未来を、ただ黙って受け入れる事が正しいのだろうか。
もしも。
もしも、私がこの問い掛けに答えるとするならば────。
『いやだ』
ぽつりと出て来たのは一滴の言葉。
そしてそれを皮切りに、次が溢れる。
『いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだ』
黙って、最悪の未来を受け入れるだなんて認められない。認められる筈がない。
勿論、分不相応という言葉は分かっている。
そもそも、私は万能な主人公ではない。
それどころか、作中随一の不遇キャラカレン・ルシアータだ。
原作という知識は持っているが、言ってみれば、たったそれだけなのだ。
誰が信じてくれるかも分からない原作知識で誰も彼もを救えるハッピーエンドに導けると思ってるならば、それは間違いなく思い上がりでしかないし、私はきっと原作通りに進めるべきなのだろう。
でも私は────。
「誰もが幸せになれるハッピーエンドに、私が導けるとは思わない」
実際に〝クラヴィスの華〟をプレイしたから、それが如何に難しいかなんて、よく分かっている。
「だけど、こうしてこの世界にいるからには、出来る限りの人が不幸せにならないで済むようにしたい」
BADエンドばかりの〝クラヴィスの華〟の世界で、誰も不幸せにならないで済む未来を掴み取る。
それは決して、土台無理な話ではない。
なにせ、まだ原作は始まってすらいないのだ。
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