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4章
34話 道中にて
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——で。
「……なんでお前らが付いてきてんの」
半ば呆れながら。
ジト目で本人のあずかり知らぬところで勝手に同行する事となっていたメンバーに向けて可笑しいだろうと訴えかける。
「いやあ、ハーヴェン子爵家の次期当主様の護衛なんですから、それこそあっしぐらいの腕利きが同行する事になるなんて別に可笑しな事じゃありやせんでしょう?」
ねえ? と隣の人物に向けて。
「そうだそうだ。坊が隠してたガールフレンドだろう? そりゃ俺らも同行しなきゃいかんだろうに」
「ちょ、ボルグさん。本音が漏れてまさあ……。ここは嘘でも少数じゃないとヤダって言ってた坊ちゃんの気持ちを汲んで、少数精鋭にしようとしたらこうなったって伝えませんと……」
「全部聞こえてるからなお前ら……」
ここまで隠す気がないと怒る気すら萎えてくる。
というより、怒るに怒れないといった方が正しいか。
はぁぁあ、とため息を吐く他なかった。
「後、なんでヴェインまでいるんだよ……」
護衛が必要なのは理解できる。
記憶にこびりつくあの出来事を乗り越えてきたナガレだからこそ、その重要性は何者よりも理解していると言っても過言ではない。
だから百歩譲ってグレイスとボルグの同行はわかる。
大所帯は嫌といったからの対応であるとでさえちゃんと理解出来る。だが。
「坊ちゃんのお世話を、馬車の御者を、そして盾をとかって出ただけです。お気遣いなく」
「重すぎる」
何をどこで間違ったかなあ……。
なんて考えるも、まあ気にするなとバシバシ、ボルグが考える間もなく背中を叩いてくる。
正直言って、少し痛い。
「でも、良かったのか?」
「というと?」
「いや、な。私兵団の団長と副団長。いわばトップ2の二人共が不在なわけだ。そんな状況で大丈夫なのかと思っただけだ」
「あぁ、それですかい」
割と真面目に心配して出た言葉だったんだが、ボルグもグレイスと同様、そんな事かと快活に笑う。
「上の人間がいなくなった程度で機能しない私兵団なぞ、それは私兵団って呼ばねえよ。ただの木偶の集まりだ。それに、そんなやわな鍛え方はしてねえし、坊は知らねえだろうがハーヴェン子爵家の私兵団ってのは団長一人、副団長二人構成だ。一応まとめ役として副団長の片割れを残してきてるしもしもの時でも上手くやってくれるさ」
暫定とはいえ、次期当主だというのにそんな事初めて聞いたぞばかりに片眉が跳ねる。
それに、訓練の誘いは『貪狼』ことローレン=ヘクスティアに師事しているからとひたすら断り続けてはいるものの、私兵団の訓練場などには度々顔を出しているというのに、グレイス以外の副団長とやらを一度も見たことも聞いた事も無かった事に驚きを隠せないでいた。
「グレイス以外にも副団長がいたのか?」
「おうとも、って言ってもアイツは少し変わっててな……」
「……へえ」
流石、自衛力だけは頭抜けていると称されるハーヴェン子爵家。
二の矢、三の矢と用意する用意周到さは凄いの一言。
だが、その頭をどうして統治に回せないんだと頭を抱えたくなるレベルである。
「人前にあまり姿を現さないやつでよ。副団長でありながらそのスタンスは問題あり、って話なんだが、本当の切り札は隠してなんぼ。なんて言う子爵様の意向でな。とりあえず現状維持って事になってるな」
へえ、と思うも。
間髪入れずに問い返す。
「で、その人の実力は?」
「グレイス以上、俺以下ってところか。ああ、でも場合によっちゃ俺よりも強えかもしれねえ」
——なにせ。
「随分と意地の悪い戦い方をするやつでよ。そういった意味じゃ、アイツは誰よりも強えかもしれねえなあ」
カッカッカッと笑みをもらす。
「なら、ひとまずは安心、か」
「おぉ? 坊はそんな歳してもう人の心配かぁ? くぅー、随分と心に余裕があるようで羨ましいぜーッ」
「あっしらが餓鬼の頃なんざ、もう自分の事で精一杯。日々をがむしゃらに生きてやしたからねえ」
しみじみと。
ボルグは何処からか取り出した水筒の中身をあおり、ぷはぁと一息。
「そういや、『貪狼』のやつは壮健か?」
特に深い意味は無かったんだろう。
暇つぶしの一環。
だが、それを尋ねる事は。
『貪狼』に関する話題はタブーなんじゃないかと思っていたヴェインとグレイスは互いに目を剥き、驚きを隠せず視線を慌てて問いかけられたナガレへと向け、耳を傾ける。
「……師匠の知り合いなのか?」
「昔ちょっと、な。特別仲がいいわけじゃないが見知らぬ仲じゃあないってところか」
『貪狼』の話題を振られてもさして気にした雰囲気がないと感じ取ったのか。それならと、グレイスも話題に混ざってくる。
「そういや、ボルグさん前に話した時も『貪狼』の事を知った風な感じでしたよねえ。どんな関係だったのかあっしも気になりまさあ」
「そうは言っても、そんな面白いもんじゃねえよ。だが、まあ、坊の返答で大体分かった。元気してるならそれが一番だ。寒さには気をつけろって、今度会った時に伝えといてくれや」
「自分で伝えないのか?」
何気ない一言。
だけれど。
——はっ。
「言うわけがねえよ」
どうして?
そんな疑問を投げかける前に答えはポロリと口にされる。
「んな事したら、俺が殺されちまうじゃねえかよ」
カッカッカッと再び快活に笑い出す。
設えられたカーテンをめくり、外の景色を見渡す。
「おっ、そろそろ着く頃じゃねえか?」
何も無かったかのように振る舞うボルグはいつも通りの彼で。
俺とグレイスは、安易にボルグの過去に踏み込む気にはなれず、空返事であぁ。そうだなと。
小さくそう口にした。
「……なんでお前らが付いてきてんの」
半ば呆れながら。
ジト目で本人のあずかり知らぬところで勝手に同行する事となっていたメンバーに向けて可笑しいだろうと訴えかける。
「いやあ、ハーヴェン子爵家の次期当主様の護衛なんですから、それこそあっしぐらいの腕利きが同行する事になるなんて別に可笑しな事じゃありやせんでしょう?」
ねえ? と隣の人物に向けて。
「そうだそうだ。坊が隠してたガールフレンドだろう? そりゃ俺らも同行しなきゃいかんだろうに」
「ちょ、ボルグさん。本音が漏れてまさあ……。ここは嘘でも少数じゃないとヤダって言ってた坊ちゃんの気持ちを汲んで、少数精鋭にしようとしたらこうなったって伝えませんと……」
「全部聞こえてるからなお前ら……」
ここまで隠す気がないと怒る気すら萎えてくる。
というより、怒るに怒れないといった方が正しいか。
はぁぁあ、とため息を吐く他なかった。
「後、なんでヴェインまでいるんだよ……」
護衛が必要なのは理解できる。
記憶にこびりつくあの出来事を乗り越えてきたナガレだからこそ、その重要性は何者よりも理解していると言っても過言ではない。
だから百歩譲ってグレイスとボルグの同行はわかる。
大所帯は嫌といったからの対応であるとでさえちゃんと理解出来る。だが。
「坊ちゃんのお世話を、馬車の御者を、そして盾をとかって出ただけです。お気遣いなく」
「重すぎる」
何をどこで間違ったかなあ……。
なんて考えるも、まあ気にするなとバシバシ、ボルグが考える間もなく背中を叩いてくる。
正直言って、少し痛い。
「でも、良かったのか?」
「というと?」
「いや、な。私兵団の団長と副団長。いわばトップ2の二人共が不在なわけだ。そんな状況で大丈夫なのかと思っただけだ」
「あぁ、それですかい」
割と真面目に心配して出た言葉だったんだが、ボルグもグレイスと同様、そんな事かと快活に笑う。
「上の人間がいなくなった程度で機能しない私兵団なぞ、それは私兵団って呼ばねえよ。ただの木偶の集まりだ。それに、そんなやわな鍛え方はしてねえし、坊は知らねえだろうがハーヴェン子爵家の私兵団ってのは団長一人、副団長二人構成だ。一応まとめ役として副団長の片割れを残してきてるしもしもの時でも上手くやってくれるさ」
暫定とはいえ、次期当主だというのにそんな事初めて聞いたぞばかりに片眉が跳ねる。
それに、訓練の誘いは『貪狼』ことローレン=ヘクスティアに師事しているからとひたすら断り続けてはいるものの、私兵団の訓練場などには度々顔を出しているというのに、グレイス以外の副団長とやらを一度も見たことも聞いた事も無かった事に驚きを隠せないでいた。
「グレイス以外にも副団長がいたのか?」
「おうとも、って言ってもアイツは少し変わっててな……」
「……へえ」
流石、自衛力だけは頭抜けていると称されるハーヴェン子爵家。
二の矢、三の矢と用意する用意周到さは凄いの一言。
だが、その頭をどうして統治に回せないんだと頭を抱えたくなるレベルである。
「人前にあまり姿を現さないやつでよ。副団長でありながらそのスタンスは問題あり、って話なんだが、本当の切り札は隠してなんぼ。なんて言う子爵様の意向でな。とりあえず現状維持って事になってるな」
へえ、と思うも。
間髪入れずに問い返す。
「で、その人の実力は?」
「グレイス以上、俺以下ってところか。ああ、でも場合によっちゃ俺よりも強えかもしれねえ」
——なにせ。
「随分と意地の悪い戦い方をするやつでよ。そういった意味じゃ、アイツは誰よりも強えかもしれねえなあ」
カッカッカッと笑みをもらす。
「なら、ひとまずは安心、か」
「おぉ? 坊はそんな歳してもう人の心配かぁ? くぅー、随分と心に余裕があるようで羨ましいぜーッ」
「あっしらが餓鬼の頃なんざ、もう自分の事で精一杯。日々をがむしゃらに生きてやしたからねえ」
しみじみと。
ボルグは何処からか取り出した水筒の中身をあおり、ぷはぁと一息。
「そういや、『貪狼』のやつは壮健か?」
特に深い意味は無かったんだろう。
暇つぶしの一環。
だが、それを尋ねる事は。
『貪狼』に関する話題はタブーなんじゃないかと思っていたヴェインとグレイスは互いに目を剥き、驚きを隠せず視線を慌てて問いかけられたナガレへと向け、耳を傾ける。
「……師匠の知り合いなのか?」
「昔ちょっと、な。特別仲がいいわけじゃないが見知らぬ仲じゃあないってところか」
『貪狼』の話題を振られてもさして気にした雰囲気がないと感じ取ったのか。それならと、グレイスも話題に混ざってくる。
「そういや、ボルグさん前に話した時も『貪狼』の事を知った風な感じでしたよねえ。どんな関係だったのかあっしも気になりまさあ」
「そうは言っても、そんな面白いもんじゃねえよ。だが、まあ、坊の返答で大体分かった。元気してるならそれが一番だ。寒さには気をつけろって、今度会った時に伝えといてくれや」
「自分で伝えないのか?」
何気ない一言。
だけれど。
——はっ。
「言うわけがねえよ」
どうして?
そんな疑問を投げかける前に答えはポロリと口にされる。
「んな事したら、俺が殺されちまうじゃねえかよ」
カッカッカッと再び快活に笑い出す。
設えられたカーテンをめくり、外の景色を見渡す。
「おっ、そろそろ着く頃じゃねえか?」
何も無かったかのように振る舞うボルグはいつも通りの彼で。
俺とグレイスは、安易にボルグの過去に踏み込む気にはなれず、空返事であぁ。そうだなと。
小さくそう口にした。
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