悪徳領主の息子に転生しました

アルト

文字の大きさ
36 / 46
4章

34話 道中にて

しおりを挟む
 ——で。


「……なんでお前らが付いてきてんの」


 半ば呆れながら。
 ジト目で本人のあずかり知らぬところで勝手に同行する事となっていたメンバーに向けて可笑しいだろうと訴えかける。


「いやあ、ハーヴェン子爵家の次期当主様の護衛なんですから、それこそあっしぐらいの腕利きが同行する事になるなんて別に可笑しな事じゃありやせんでしょう?」


 ねえ? と隣の人物に向けて。


「そうだそうだ。坊が隠してたガールフレンドだろう? そりゃ俺らも同行しなきゃいかんだろうに」
「ちょ、ボルグさん。本音が漏れてまさあ……。ここは嘘でも少数じゃないとヤダって言ってた坊ちゃんの気持ちを汲んで、少数精鋭にしようとしたらこうなったって伝えませんと……」
「全部聞こえてるからなお前ら……」


 ここまで隠す気がないと怒る気すら萎えてくる。
 というより、怒るに怒れないといった方が正しいか。


 はぁぁあ、とため息を吐く他なかった。


「後、なんでヴェインまでいるんだよ……」


 護衛が必要なのは理解できる。
 記憶にこびりつくあの出来事を乗り越えてきたナガレだからこそ、その重要性は何者よりも理解していると言っても過言ではない。
 だから百歩譲ってグレイスとボルグの同行はわかる。
 大所帯は嫌といったからの対応であるとでさえちゃんと理解出来る。だが。


「坊ちゃんのお世話を、馬車の御者を、そして盾をとかって出ただけです。お気遣いなく」
「重すぎる」


 何をどこで間違ったかなあ……。
 なんて考えるも、まあ気にするなとバシバシ、ボルグが考える間もなく背中を叩いてくる。
 正直言って、少し痛い。


「でも、良かったのか?」
「というと?」
「いや、な。私兵団の団長と副団長。いわばトップ2の二人共が不在なわけだ。そんな状況で大丈夫なのかと思っただけだ」
「あぁ、それですかい」


 割と真面目に心配して出た言葉だったんだが、ボルグもグレイスと同様、そんな事かと快活に笑う。


「上の人間がいなくなった程度で機能しない私兵団なぞ、それは私兵団って呼ばねえよ。ただの木偶の集まりだ。それに、そんなやわな鍛え方はしてねえし、坊は知らねえだろうがハーヴェン子爵家の私兵団ってのは団長一人、副団長二人構成だ。一応まとめ役として副団長の片割れを残してきてるしもしもの時でも上手くやってくれるさ」


 暫定とはいえ、次期当主だというのにそんな事初めて聞いたぞばかりに片眉が跳ねる。


 それに、訓練の誘いは『貪狼』ことローレン=ヘクスティアに師事しているからとひたすら断り続けてはいるものの、私兵団の訓練場などには度々顔を出しているというのに、グレイス以外の副団長とやらを一度も見たことも聞いた事も無かった事に驚きを隠せないでいた。


「グレイス以外にも副団長がいたのか?」
「おうとも、って言ってもアイツは少し変わっててな……」
「……へえ」


 流石、自衛力だけは頭抜けていると称されるハーヴェン子爵家。
 二の矢、三の矢と用意する用意周到さは凄いの一言。
 だが、その頭をどうして統治に回せないんだと頭を抱えたくなるレベルである。


「人前にあまり姿を現さないやつでよ。副団長でありながらそのスタンスは問題あり、って話なんだが、本当の切り札は隠してなんぼ。なんて言う子爵様の意向でな。とりあえず現状維持って事になってるな」



 へえ、と思うも。
 間髪入れずに問い返す。


「で、その人の実力は?」
「グレイス以上、俺以下ってところか。ああ、でも場合によっちゃ俺よりも強えかもしれねえ」


 ——なにせ。


「随分と意地の悪い戦い方をするやつでよ。そういった意味じゃ、アイツは誰よりも強えかもしれねえなあ」


 カッカッカッと笑みをもらす。


「なら、ひとまずは安心、か」
「おぉ? 坊はそんな歳してもう人の心配かぁ? くぅー、随分と心に余裕があるようで羨ましいぜーッ」
「あっしらが餓鬼の頃なんざ、もう自分の事で精一杯。日々をがむしゃらに生きてやしたからねえ」



 しみじみと。
 ボルグは何処からか取り出した水筒の中身をあおり、ぷはぁと一息。


「そういや、『貪狼』のやつは壮健か?」


 特に深い意味は無かったんだろう。
 暇つぶしの一環。


 だが、それを尋ねる事は。
 『貪狼』に関する話題はタブーなんじゃないかと思っていたヴェインとグレイスは互いに目を剥き、驚きを隠せず視線を慌てて問いかけられたナガレへと向け、耳を傾ける。


「……師匠の知り合いなのか?」
「昔ちょっと、な。特別仲がいいわけじゃないが見知らぬ仲じゃあないってところか」


 『貪狼』の話題を振られてもさして気にした雰囲気がないと感じ取ったのか。それならと、グレイスも話題に混ざってくる。


「そういや、ボルグさん前に話した時も『貪狼』の事を知った風な感じでしたよねえ。どんな関係だったのかあっしも気になりまさあ」
「そうは言っても、そんな面白いもんじゃねえよ。だが、まあ、坊の返答で大体分かった。元気してるならそれが一番だ。寒さ、、には気をつけろって、今度会った時に伝えといてくれや」
「自分で伝えないのか?」


 何気ない一言。
 だけれど。


 ——はっ。


「言うわけがねえよ」


 どうして?
 そんな疑問を投げかける前に答えはポロリと口にされる。


「んな事したら、俺が殺されちまうじゃねえかよ」


 カッカッカッと再び快活に笑い出す。
 設えられたカーテンをめくり、外の景色を見渡す。


「おっ、そろそろ着く頃じゃねえか?」


 何も無かったかのように振る舞うボルグはいつも通りの彼で。
 俺とグレイスは、安易にボルグの過去に踏み込む気にはなれず、空返事であぁ。そうだなと。


 小さくそう口にした。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...