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4章
36話 当然の反応
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「……それを認めれる筈がないでしょう。貴方は客人であり、貴族だ。貴方を傷つけたとあってはハーヴェン卿に申し訳が立たない」
「つまりそれは、僕程度では力量不足と。そう言いたいので?」
「不測の事態は常に付きものです。ですから、観戦であるならば是非に歓迎致しましょう。ですが、客人である貴方が参加する事は認められません」
「ふむ」
忠誠心は厚い。
見たところ、僕をバカにしてるというより危ぶんでいるような。
まあ、ボルソッチェオ男爵家に仕えているのだから、噂くらいは聞いたのかもしれない。僕が、格上である伯爵家の婚約者にと父上が推挙なされたものの見向きもされず断られた愚図な子供。それに似た噂を一部始終。
で、あるならば父上であるアハトが俺を捨て駒に、こういった場でボルソッチェオ男爵家の者に傷つけさせ……。
そんなシナリオでも頭に描いてるのかもしれない。
なんと愚か。
なんと矮小。
そんな事を考え、実行にでも移してみろ、その下らなさにローレン=ヘクスティアに。ナガレに。シヴィスに笑われるだろう。見損なわれるだろう。
「く、くははッ」
どうしてこれを笑わずにいられようか。
腹の底から笑いがもれる。ナガレであればあり得なさすぎる選択肢を念頭に入れる騎士に対してどうしようもなく腹が立つ。
だが、それを顔に出してはならない。
だから笑う。笑い叫ぶ。
「ソーマ。紙か何かを持ってこい。誓約書でも何でも書いてやろう。それなら問題あるまい?」
相手のプライドを逆撫でるようにあえて挑発をする。
それでも、眉間にシワを寄せるも、騎士の答えは変わらない。
「冗談が過ぎます。貴方は貴族で私は騎士だ。しかも、見たところ10すら満ているか怪しい。そんな貴方を相手にして勝ったところで我々が悪役になるではありませんか。子供をいたぶった騎士。貴方は我々を貶めたいのですか?」
この騎士を相手にしていてはいつまで経ってもラチがあかない。俺はそう判断し、ソーマに視線を移す。
ソーマ自身、ボルグ達が評価する俺の力量を見たいのだ。それが自分を納得させられるだけの力量なのか。
護衛を僅か2人にする程の力量なのか、を。
であるならば、自ずと結果は決まってくる。
「……命令だ。ナガレ君の相手を頼む」
「ソーマ様?!」
「決まり、だな」
事が漸く思い通りに進んだ事で不敵に笑う。
「……蛮勇だったと、後悔しますよ」
「それはどうだろうな」
驕りがない、といえば嘘になる。
向こうは俺の事を確実にナメている。ボルグやグレイスが何を言ったところで聞く耳は持たないだろう。
ただの身内びいきと思われるだけだ。
だが、俺にもプライドはある。
これでも一応、短期間ではあるが死に物狂いで鍛錬を積んできた身。
だというのに見た目、貴族だからとバカにされるのは納得がいかない。度肝を抜いてやってもバチは当たらないはずだ。
「視野が狭いと、足元すくわれるぞ」
親切心から出た言葉。
しかし騎士の男にとっては自分を愚弄する言葉に聞こえたのか。
鋭い目線を向けてくるだけ。
そんな行為にボルグとグレイスは面白おかしく笑う。
「はっはっは、まぁ、本来はこんなもんだ。気にしてもしかたねえだろうよ?」
ソーマと騎士の男は用意でもあるのか、先に行くと言って足早に前を歩き出す。
それを確認してから小さな声でボルグは続けて話す。
「でも、良いのか?」
「何がだ」
「レミューゼ伯爵の件だ」
どういう事かと思うも、続く言葉のおかげですぐにその意味は理解する。
「実力をそれまで隠す事が前提だろう? こうしてホイホイと見せても良いのかって事だ。もちろん、坊が腹を立てるのもわかる。オレから見ても間違いなく実力は坊の方が上だしな」
「その話か」
たしかに、本来はその予定だった。
だが、あえて実力をひけらかし、向こうが逃げるようであれば臆病風に吹かれたと吹聴するのも一興と考えたゆえにこうして指南を、なんて口にしたのだ。
もちろん、父上にその事も話してある。
だからこそ、俺と父上との約束に齟齬は生じ得ない。
「僕なりの考えがあってのことだ。父上だって納得している。であれば問題ないだろう?」
「……ふ、ふははっ。流石だ流石。隙1つ見当たらねえなあ」
「それに、ソーマは僕の友人だ。その友人に仕える騎士の持つ偏見を無くしてやるのも悪くないかもなと思っただけだ」
「おうおう、お優しい事で」
「本気で僕を心配してくれたソーマに対する礼代わりにすぎん」
ナガレにとっての最終的な目標はハーヴェン子爵領を富ませる事。であるならば、比較的近隣であるボルソッチェオ男爵家と仲良くして不利を被ることはないだろう。
だが、今は父上であるアハトが最高権力者だ。
だから適度に父上の機嫌も取らなくてはならない。
先の婚約の件、まだ父上の怒りは燻り続けている。であれば、この際にボルソッチェオ男爵家に仕える騎士を模擬試合で倒した、なんて土産話でも持って機嫌をとるのも悪くはない。
さまざまな思惑が交わった結果、このような展開に至っていた。
あぁ、やっぱり貴族という生き物は生き辛い。
俺はそう思わざるを得なかった。
「つまりそれは、僕程度では力量不足と。そう言いたいので?」
「不測の事態は常に付きものです。ですから、観戦であるならば是非に歓迎致しましょう。ですが、客人である貴方が参加する事は認められません」
「ふむ」
忠誠心は厚い。
見たところ、僕をバカにしてるというより危ぶんでいるような。
まあ、ボルソッチェオ男爵家に仕えているのだから、噂くらいは聞いたのかもしれない。僕が、格上である伯爵家の婚約者にと父上が推挙なされたものの見向きもされず断られた愚図な子供。それに似た噂を一部始終。
で、あるならば父上であるアハトが俺を捨て駒に、こういった場でボルソッチェオ男爵家の者に傷つけさせ……。
そんなシナリオでも頭に描いてるのかもしれない。
なんと愚か。
なんと矮小。
そんな事を考え、実行にでも移してみろ、その下らなさにローレン=ヘクスティアに。ナガレに。シヴィスに笑われるだろう。見損なわれるだろう。
「く、くははッ」
どうしてこれを笑わずにいられようか。
腹の底から笑いがもれる。ナガレであればあり得なさすぎる選択肢を念頭に入れる騎士に対してどうしようもなく腹が立つ。
だが、それを顔に出してはならない。
だから笑う。笑い叫ぶ。
「ソーマ。紙か何かを持ってこい。誓約書でも何でも書いてやろう。それなら問題あるまい?」
相手のプライドを逆撫でるようにあえて挑発をする。
それでも、眉間にシワを寄せるも、騎士の答えは変わらない。
「冗談が過ぎます。貴方は貴族で私は騎士だ。しかも、見たところ10すら満ているか怪しい。そんな貴方を相手にして勝ったところで我々が悪役になるではありませんか。子供をいたぶった騎士。貴方は我々を貶めたいのですか?」
この騎士を相手にしていてはいつまで経ってもラチがあかない。俺はそう判断し、ソーマに視線を移す。
ソーマ自身、ボルグ達が評価する俺の力量を見たいのだ。それが自分を納得させられるだけの力量なのか。
護衛を僅か2人にする程の力量なのか、を。
であるならば、自ずと結果は決まってくる。
「……命令だ。ナガレ君の相手を頼む」
「ソーマ様?!」
「決まり、だな」
事が漸く思い通りに進んだ事で不敵に笑う。
「……蛮勇だったと、後悔しますよ」
「それはどうだろうな」
驕りがない、といえば嘘になる。
向こうは俺の事を確実にナメている。ボルグやグレイスが何を言ったところで聞く耳は持たないだろう。
ただの身内びいきと思われるだけだ。
だが、俺にもプライドはある。
これでも一応、短期間ではあるが死に物狂いで鍛錬を積んできた身。
だというのに見た目、貴族だからとバカにされるのは納得がいかない。度肝を抜いてやってもバチは当たらないはずだ。
「視野が狭いと、足元すくわれるぞ」
親切心から出た言葉。
しかし騎士の男にとっては自分を愚弄する言葉に聞こえたのか。
鋭い目線を向けてくるだけ。
そんな行為にボルグとグレイスは面白おかしく笑う。
「はっはっは、まぁ、本来はこんなもんだ。気にしてもしかたねえだろうよ?」
ソーマと騎士の男は用意でもあるのか、先に行くと言って足早に前を歩き出す。
それを確認してから小さな声でボルグは続けて話す。
「でも、良いのか?」
「何がだ」
「レミューゼ伯爵の件だ」
どういう事かと思うも、続く言葉のおかげですぐにその意味は理解する。
「実力をそれまで隠す事が前提だろう? こうしてホイホイと見せても良いのかって事だ。もちろん、坊が腹を立てるのもわかる。オレから見ても間違いなく実力は坊の方が上だしな」
「その話か」
たしかに、本来はその予定だった。
だが、あえて実力をひけらかし、向こうが逃げるようであれば臆病風に吹かれたと吹聴するのも一興と考えたゆえにこうして指南を、なんて口にしたのだ。
もちろん、父上にその事も話してある。
だからこそ、俺と父上との約束に齟齬は生じ得ない。
「僕なりの考えがあってのことだ。父上だって納得している。であれば問題ないだろう?」
「……ふ、ふははっ。流石だ流石。隙1つ見当たらねえなあ」
「それに、ソーマは僕の友人だ。その友人に仕える騎士の持つ偏見を無くしてやるのも悪くないかもなと思っただけだ」
「おうおう、お優しい事で」
「本気で僕を心配してくれたソーマに対する礼代わりにすぎん」
ナガレにとっての最終的な目標はハーヴェン子爵領を富ませる事。であるならば、比較的近隣であるボルソッチェオ男爵家と仲良くして不利を被ることはないだろう。
だが、今は父上であるアハトが最高権力者だ。
だから適度に父上の機嫌も取らなくてはならない。
先の婚約の件、まだ父上の怒りは燻り続けている。であれば、この際にボルソッチェオ男爵家に仕える騎士を模擬試合で倒した、なんて土産話でも持って機嫌をとるのも悪くはない。
さまざまな思惑が交わった結果、このような展開に至っていた。
あぁ、やっぱり貴族という生き物は生き辛い。
俺はそう思わざるを得なかった。
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