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4章
44話 会食
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俺が目を覚ました時。
すでに日は暮れていた。
窓から差し込む夕焼けの光は目に優しく、時折入り込む風にカーテンが揺れる。
身体を横にしていたベッドの隣には椅子が1つ。
いや、車椅子が1つそこにあった。
「お目覚めになられましたか。ナガレ君」
「……誰だ、いや、あぁ、そうか。アリフィアか」
師匠との会話を夢で見ていた事もあってか、ここがボルソッチェオ邸という事がまるまる頭から抜け落ちてしまっていた。
俺を起こしにくる人間は、シヴィスくらい。
目が覚めて、はじめに認識したのは匂い慣れない香水の匂い。
もちろん、シヴィスが香水をつけているなんて事は一度とてない。だからこそ、俺は「誰だ」と言ってしまった。
「で、お前も居たのか」
そう言って俺は半眼で見覚えのあるメイドを見やる。
ドア付近で立ち尽くしており、表情には出ていないものの少しばかり疲労がうかがえる。
恐らく、アリフィアが無理でも言ったのだろう。
これでも、10に満ていないとはいえ男だ。
男女2人きりにする事は憚られたに違いない。
そこで折衷案としてメイドである彼女も一緒に、と言ったところか。
「アリフィア様が無理を言うもので」
「聞き分けの悪い主人を持つと大変だな」
「えぇ、ナガレ様の従者にも心底同情します」
皮肉には皮肉で。
権力を我儘に振りかざす貴族ではないと先の会話で知っているからか、少しだけ距離が近くなっている気がする。
「それはそうと、これですが」
「……ッ」
話は180度変わり。
メイドが無骨な作りの薬袋を俺に突き出すや否、俺は反射的にそれをひったくるようにして奪い取る。
薬は師匠の自家製。それを納める巾着の薬袋は、シヴィスが作ってくれたものだ。慣れていない裁縫をしてくれたと聞いている。
決して上手い出来ではなかったが、俺はそれを大事にしようとヴェインに頼み、薬を問題なく取り出せる範囲で服に縫いつけて貰っていたはずだ。
寝ている間に落ちた、なんて事はあり得ない。
「……どう言うつもりだ」
眼光に熱がこもる。
薬袋をメイドが持っていたと言う事は、俺の持ち物をメイドが漁ったという事。もしかするとそれはアリフィアがやった事なのかもしれない。だが、俺にとっては瑣末な違いであった。
「アリフィア様からお聞きしました。ナガレ様が薬を服用していたと。であれば、私共で何か手助けはできないものかと薬を見させて頂いた次第です」
「あの時か……」
迂闊だったと言わざるを得ない。
しかし、薬袋だけであれば俺が目を覚ます前に戻しておけば俺の怒りを買う事も無かったはずだ。
だけれど、彼女らはそうはしなかった。
そこに何かしら意味があるのだと、寝起きだったからこそ頭が上手く回らなかったものの、次第に気づいていく。
「単刀直入に言います」
これ以上なく真剣な表情で。
「その薬の服用はおやめ下さいナガレ様。薬こそ調べてはいませんが、巾着の袋に蔓延する特徴的な臭い。恐らくその薬にはデォルゾの葉が使われています」
メイドは身体の弱いアリフィアの側仕えであり、護衛。
アリフィアの薬の調合すらもメイドである彼女も携わっている。薬に詳しい人間であるからこそ言う。
「デォルゾの葉は鎮痛薬として有名ですが、劇薬でもあります。その劇薬の部分が問題視されて以降、おいそれと手に入る代物ではないんですが……、今はそこには目を瞑りましょう。デォルゾの葉は鎮痛薬の中でも効果は最上位。そこまで酷いんですか? 症状は」
「…………」
しばしの間黙考する。
ありのまま話すのであれば、『神秘』を扱かった代償。
それで済むが、彼女らに『神秘』と言って話が通じるとは到底思えない。
加えて、メイドの存在が厄介すぎた。
心配そうに今も見つめてくるアリフィアだけであれば煙にまけた自信がある。しかし、薬に詳しいメイドがいるとなれば話は大きく変わってくる。
下手に誤魔化せば事は更に厄介になる事は俺でも分かる。だからといって全てを話すわけにはいかない。
なので俺は、
「心配してくれているのは分かる。それについては感謝している。が、仮に僕が病人として、病状を話す程の仲では無いと思うが?」
強引に話を切った。
「そ、それは……そうですけど……」
「僕がアリフィアの事情に口を出せないのと同様、僕にも込み入った事情というものがある。なに、僕にその薬を渡した者からは今その袋に入っている分量しか今年は飲ませれないと口酸っぱく言われている。劇薬だろうが、飲み過ぎなければ問題にはなるまい」
ここまで言えば引くと思っていた。
だが、メイドにだけはむしろ逆効果。
目の色を変えて尋ねかけてくる。
「……薬を渡した者の名はどなたですか」
「どうしてそれを聞く?」
「デォルゾの葉の服用限界量を正しく見極めれる人間は過去昔合わせてもたった1人でした。ですがその者は10年前に死んでいます」
薬神——ソリトゥス=バーセナム。
神の子とまで言われた彼は、不治の病とまで呼ばれた病に対する特効薬をいくつも生み出し、劇薬と呼ばれていたデォルゾの葉の服用限界量を正しく見極めれていた1人だ。
しかし、彼は10年も前に自殺をしている。
ソリトゥスの名があまりに有名になり過ぎ、自分という存在が争いの種になることを恐れていたからと文献では書き記されている。
彼は国葬され、骨も埋められている。
だからこそ、ソリトゥスが生きているはずが無い。
だからこそ言う。
「デォルゾの葉を正しく扱える人間はもういません。ナガレ様、お願いですからどうか、服用はおやめください」
「貪狼」
「……はい?」
「名前を教えろと言っただろ。だから言った。貪狼、ローレン=ヘクスティア。それが僕に薬を渡した者の名前だ」
どんな道化の名前が出てくるかと思えば。
飛び出したのは貴族殺しの名前。
言わずと知れたその名はメイドとアリフィアを驚かせるには十分過ぎた。
相手は貴族殺しだ。
であれば、余計に危険だとメイドが言おうとするも、俺の言葉がそれを遮る。
「僕とローレンの関係は師弟だ。僕としては師匠はもう家族の1人と思っている。それに、教えを受けているからこそ分かるが、師匠は僕程度の人間なぞ、数秒で殺せる。そんな師匠が薬を使って殺すなんて回りくどい方法を取るとは思えない」
「ですが……ッ」
「——成る程」
それでも、引き下がろうとしないメイドの言葉に被せるように、ドア越しから響く1つの声。
その声の主がガチャリとドアノブを回し、ドアをゆっくりと押し開ける。
「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりではなかったんですが、どうにも興味深い話をしていたものですから」
現れた騎士めいた服装の人間に俺は心当たりがあった。
「お前はあの時の……」
「ローレン=ヘクスティアは悪名こそ先行していますが、実力だけで言うならばこの時代の五指に入る人間です。どうして私が負けたのか。その理由がはっきりして今はすっきりしていますよ」
俺と仕合を行なった騎士、フェイだった。
「体調はいかがです、ナガレ殿」
向けてくる言葉に最早、棘は感じられなかった。
「待って下さいフェイ。貴方が負けたんですか?」
「手加減をされた挙句、負けました。手も足も出ませんでしたね」
「……そんな馬鹿な話が」
あってたまるものですか。
そう言おうとするが、メイドである彼女とフェイの付き合いは長い。彼が嘘をつくとは到底思えない。
しかし、騎士として鍛錬を積んできたフェイが、10程の少年に負けるとは考え難い。
「いえ、ですが……」
百歩譲ってたしかに負けたのかもしれない。
だとしてもたまたま勝てたとか、そう言った類いをあえて誇張しているのではないか。
相手の方が爵位が高いから遠慮をしているのではないか。
そう邪推しているとフェイから諌めるように声が飛んでくる。
「これ以上恥をかかせないで下さいリーフィア。そんなに信じられないのなら当主様に聞けばいい。当主様もこの事実はご存知だ。それに、ローレン=ヘクスティアが貴族の中でアンタッチャブルにされたワケを知らない貴女ではないでしょう」
ただ、強いだけであれば討伐部隊でも編成して殺しにかかればいい。しかし、ローレン=ヘクスティアの強さは文字通り規格外過ぎた。一度編成された部隊は1人を残して皆殺しにされている。
生き残ったのはその時の部隊長。
名の知れた騎士だった。
ローレンはあえて強い者を1人生かすことでこれ以上の目障りな干渉を無くそうと試みたのだ。
そしてそれは身を結ぶ。
あまりの強さに手も足も出なかった当時の部隊の進言もあり、それ以来、アンタッチャブルとして認識されるようになっていた。
「……貴方がそこまで言うと言うならば、本当の事なんでしょう。ですが、それとデォルゾの葉の問題は別です」
渋々と言った様子でメイドであるリーフィアは漸く認める。
しかし、彼女はアリフィアの護衛である前に薬師でもあった。
ゆえにデォルゾの葉の服用を認めるわけにはいかないのだ。
「ええ、そうですね。ですが、あの貪狼が生前の薬神に会っていたとしたら?」
「……あり得ません」
薬神の存在は王家が手厚く保護をしていた。
気安く誰でも会える人物ではなかったはずだ。
それこそ、王家の重鎮クラスでもなければ。
「あくまで私の予想ですが昔、志願兵として従軍し、名を挙げて登城した傭兵の名前にローレン=ヘクスティアが居たはずです。それも、10年以上も前に。であればその際に会っていてもおかしくは無い。そうは思いませんか」
「……だとしても、その可能性は極めて薄い」
「少なくとも、私はローレン=ヘクスティアという人間は凡人の物差しで測れるような人間ではないと考えますがね」
フェイは俺と戦っているからこそ、俺の言い分の方を信じている。なにせ、自分が手も足も出なかった人間が、数秒で殺されると言い切った相手だ。
わざわざ薬で殺すような回りくどい方法を取る理由がない。
加えて、あの貪狼だ。
模倣のエキスパート。であるならば、薬神の技能を一度でも見ていたとしたら模倣出来る可能性は多大にある。
「さ、不毛な問答は後にしましょう。当主様がお呼びです。夕餉の支度が出来た、と。アリフィア様もご一緒下さい」
始まる会食でナガレに問いかけられるであろう質問の方がフェイにとってはどうしようもなく優先度が高く。
リーフィアには悪いが、フェイは強引に話を切った。
すでに日は暮れていた。
窓から差し込む夕焼けの光は目に優しく、時折入り込む風にカーテンが揺れる。
身体を横にしていたベッドの隣には椅子が1つ。
いや、車椅子が1つそこにあった。
「お目覚めになられましたか。ナガレ君」
「……誰だ、いや、あぁ、そうか。アリフィアか」
師匠との会話を夢で見ていた事もあってか、ここがボルソッチェオ邸という事がまるまる頭から抜け落ちてしまっていた。
俺を起こしにくる人間は、シヴィスくらい。
目が覚めて、はじめに認識したのは匂い慣れない香水の匂い。
もちろん、シヴィスが香水をつけているなんて事は一度とてない。だからこそ、俺は「誰だ」と言ってしまった。
「で、お前も居たのか」
そう言って俺は半眼で見覚えのあるメイドを見やる。
ドア付近で立ち尽くしており、表情には出ていないものの少しばかり疲労がうかがえる。
恐らく、アリフィアが無理でも言ったのだろう。
これでも、10に満ていないとはいえ男だ。
男女2人きりにする事は憚られたに違いない。
そこで折衷案としてメイドである彼女も一緒に、と言ったところか。
「アリフィア様が無理を言うもので」
「聞き分けの悪い主人を持つと大変だな」
「えぇ、ナガレ様の従者にも心底同情します」
皮肉には皮肉で。
権力を我儘に振りかざす貴族ではないと先の会話で知っているからか、少しだけ距離が近くなっている気がする。
「それはそうと、これですが」
「……ッ」
話は180度変わり。
メイドが無骨な作りの薬袋を俺に突き出すや否、俺は反射的にそれをひったくるようにして奪い取る。
薬は師匠の自家製。それを納める巾着の薬袋は、シヴィスが作ってくれたものだ。慣れていない裁縫をしてくれたと聞いている。
決して上手い出来ではなかったが、俺はそれを大事にしようとヴェインに頼み、薬を問題なく取り出せる範囲で服に縫いつけて貰っていたはずだ。
寝ている間に落ちた、なんて事はあり得ない。
「……どう言うつもりだ」
眼光に熱がこもる。
薬袋をメイドが持っていたと言う事は、俺の持ち物をメイドが漁ったという事。もしかするとそれはアリフィアがやった事なのかもしれない。だが、俺にとっては瑣末な違いであった。
「アリフィア様からお聞きしました。ナガレ様が薬を服用していたと。であれば、私共で何か手助けはできないものかと薬を見させて頂いた次第です」
「あの時か……」
迂闊だったと言わざるを得ない。
しかし、薬袋だけであれば俺が目を覚ます前に戻しておけば俺の怒りを買う事も無かったはずだ。
だけれど、彼女らはそうはしなかった。
そこに何かしら意味があるのだと、寝起きだったからこそ頭が上手く回らなかったものの、次第に気づいていく。
「単刀直入に言います」
これ以上なく真剣な表情で。
「その薬の服用はおやめ下さいナガレ様。薬こそ調べてはいませんが、巾着の袋に蔓延する特徴的な臭い。恐らくその薬にはデォルゾの葉が使われています」
メイドは身体の弱いアリフィアの側仕えであり、護衛。
アリフィアの薬の調合すらもメイドである彼女も携わっている。薬に詳しい人間であるからこそ言う。
「デォルゾの葉は鎮痛薬として有名ですが、劇薬でもあります。その劇薬の部分が問題視されて以降、おいそれと手に入る代物ではないんですが……、今はそこには目を瞑りましょう。デォルゾの葉は鎮痛薬の中でも効果は最上位。そこまで酷いんですか? 症状は」
「…………」
しばしの間黙考する。
ありのまま話すのであれば、『神秘』を扱かった代償。
それで済むが、彼女らに『神秘』と言って話が通じるとは到底思えない。
加えて、メイドの存在が厄介すぎた。
心配そうに今も見つめてくるアリフィアだけであれば煙にまけた自信がある。しかし、薬に詳しいメイドがいるとなれば話は大きく変わってくる。
下手に誤魔化せば事は更に厄介になる事は俺でも分かる。だからといって全てを話すわけにはいかない。
なので俺は、
「心配してくれているのは分かる。それについては感謝している。が、仮に僕が病人として、病状を話す程の仲では無いと思うが?」
強引に話を切った。
「そ、それは……そうですけど……」
「僕がアリフィアの事情に口を出せないのと同様、僕にも込み入った事情というものがある。なに、僕にその薬を渡した者からは今その袋に入っている分量しか今年は飲ませれないと口酸っぱく言われている。劇薬だろうが、飲み過ぎなければ問題にはなるまい」
ここまで言えば引くと思っていた。
だが、メイドにだけはむしろ逆効果。
目の色を変えて尋ねかけてくる。
「……薬を渡した者の名はどなたですか」
「どうしてそれを聞く?」
「デォルゾの葉の服用限界量を正しく見極めれる人間は過去昔合わせてもたった1人でした。ですがその者は10年前に死んでいます」
薬神——ソリトゥス=バーセナム。
神の子とまで言われた彼は、不治の病とまで呼ばれた病に対する特効薬をいくつも生み出し、劇薬と呼ばれていたデォルゾの葉の服用限界量を正しく見極めれていた1人だ。
しかし、彼は10年も前に自殺をしている。
ソリトゥスの名があまりに有名になり過ぎ、自分という存在が争いの種になることを恐れていたからと文献では書き記されている。
彼は国葬され、骨も埋められている。
だからこそ、ソリトゥスが生きているはずが無い。
だからこそ言う。
「デォルゾの葉を正しく扱える人間はもういません。ナガレ様、お願いですからどうか、服用はおやめください」
「貪狼」
「……はい?」
「名前を教えろと言っただろ。だから言った。貪狼、ローレン=ヘクスティア。それが僕に薬を渡した者の名前だ」
どんな道化の名前が出てくるかと思えば。
飛び出したのは貴族殺しの名前。
言わずと知れたその名はメイドとアリフィアを驚かせるには十分過ぎた。
相手は貴族殺しだ。
であれば、余計に危険だとメイドが言おうとするも、俺の言葉がそれを遮る。
「僕とローレンの関係は師弟だ。僕としては師匠はもう家族の1人と思っている。それに、教えを受けているからこそ分かるが、師匠は僕程度の人間なぞ、数秒で殺せる。そんな師匠が薬を使って殺すなんて回りくどい方法を取るとは思えない」
「ですが……ッ」
「——成る程」
それでも、引き下がろうとしないメイドの言葉に被せるように、ドア越しから響く1つの声。
その声の主がガチャリとドアノブを回し、ドアをゆっくりと押し開ける。
「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりではなかったんですが、どうにも興味深い話をしていたものですから」
現れた騎士めいた服装の人間に俺は心当たりがあった。
「お前はあの時の……」
「ローレン=ヘクスティアは悪名こそ先行していますが、実力だけで言うならばこの時代の五指に入る人間です。どうして私が負けたのか。その理由がはっきりして今はすっきりしていますよ」
俺と仕合を行なった騎士、フェイだった。
「体調はいかがです、ナガレ殿」
向けてくる言葉に最早、棘は感じられなかった。
「待って下さいフェイ。貴方が負けたんですか?」
「手加減をされた挙句、負けました。手も足も出ませんでしたね」
「……そんな馬鹿な話が」
あってたまるものですか。
そう言おうとするが、メイドである彼女とフェイの付き合いは長い。彼が嘘をつくとは到底思えない。
しかし、騎士として鍛錬を積んできたフェイが、10程の少年に負けるとは考え難い。
「いえ、ですが……」
百歩譲ってたしかに負けたのかもしれない。
だとしてもたまたま勝てたとか、そう言った類いをあえて誇張しているのではないか。
相手の方が爵位が高いから遠慮をしているのではないか。
そう邪推しているとフェイから諌めるように声が飛んでくる。
「これ以上恥をかかせないで下さいリーフィア。そんなに信じられないのなら当主様に聞けばいい。当主様もこの事実はご存知だ。それに、ローレン=ヘクスティアが貴族の中でアンタッチャブルにされたワケを知らない貴女ではないでしょう」
ただ、強いだけであれば討伐部隊でも編成して殺しにかかればいい。しかし、ローレン=ヘクスティアの強さは文字通り規格外過ぎた。一度編成された部隊は1人を残して皆殺しにされている。
生き残ったのはその時の部隊長。
名の知れた騎士だった。
ローレンはあえて強い者を1人生かすことでこれ以上の目障りな干渉を無くそうと試みたのだ。
そしてそれは身を結ぶ。
あまりの強さに手も足も出なかった当時の部隊の進言もあり、それ以来、アンタッチャブルとして認識されるようになっていた。
「……貴方がそこまで言うと言うならば、本当の事なんでしょう。ですが、それとデォルゾの葉の問題は別です」
渋々と言った様子でメイドであるリーフィアは漸く認める。
しかし、彼女はアリフィアの護衛である前に薬師でもあった。
ゆえにデォルゾの葉の服用を認めるわけにはいかないのだ。
「ええ、そうですね。ですが、あの貪狼が生前の薬神に会っていたとしたら?」
「……あり得ません」
薬神の存在は王家が手厚く保護をしていた。
気安く誰でも会える人物ではなかったはずだ。
それこそ、王家の重鎮クラスでもなければ。
「あくまで私の予想ですが昔、志願兵として従軍し、名を挙げて登城した傭兵の名前にローレン=ヘクスティアが居たはずです。それも、10年以上も前に。であればその際に会っていてもおかしくは無い。そうは思いませんか」
「……だとしても、その可能性は極めて薄い」
「少なくとも、私はローレン=ヘクスティアという人間は凡人の物差しで測れるような人間ではないと考えますがね」
フェイは俺と戦っているからこそ、俺の言い分の方を信じている。なにせ、自分が手も足も出なかった人間が、数秒で殺されると言い切った相手だ。
わざわざ薬で殺すような回りくどい方法を取る理由がない。
加えて、あの貪狼だ。
模倣のエキスパート。であるならば、薬神の技能を一度でも見ていたとしたら模倣出来る可能性は多大にある。
「さ、不毛な問答は後にしましょう。当主様がお呼びです。夕餉の支度が出来た、と。アリフィア様もご一緒下さい」
始まる会食でナガレに問いかけられるであろう質問の方がフェイにとってはどうしようもなく優先度が高く。
リーフィアには悪いが、フェイは強引に話を切った。
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