悪徳領主の息子に転生しました

アルト

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2章

7話 勝つしかない!!

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 どこまでも広がる澄んだ碧空。
 そこに曇りはなく。まるで一人の執事のこころをあらわすように、長年の蟠りが払拭されたような晴れ渡る晴天であった。


 空というものは何者の影響も受けない。
 空は何者にも支配されない自由の身である。なれど、怒ることも無ければ喜ぶ事もない。
 曇天、晴天、雨天によって感情を判断する者はいるかも知れないが、実際問題として、空に感情はない。


 空が一人の人間ごときの言動を気にしないように、彼もまた、誰にどう思われようが気に留める事はなかった。


 自己犠牲が激しい。
 他人の感情に無関心。
 それもまた、彼を表現するに相違ない言葉である。


 自分の事は二の次。
 まさしく献身利他。それが最近のとある執事の主の嫡子たる「ナガレ」に受ける印象であるが、少し前まではその真逆であった。


 まるで何かに吹っ切れたかのように性格が変わってしまった。
 もちろん、いい意味で、だ。


 今の彼は良くも悪くもお人好しだろう。
 だが、そんな言葉のみでは足りないと思わされる言動がいくつも見受けられる。


 ゆえに執事は。
 ヴェインは呟いた。


 坊ちゃんナガレのこころは、まるで空のようであると。







「して、用とはなんだ? 欲しいものがあるならフェイリアに言え。私も暇ではないのだ」


 不機嫌そうに筆を走らせる小太りの男。
 彼こそが「ナガレ」である俺の親父さまであり、ハーヴェン子爵家現当主にして領主であるアハト=ハーヴェンだ。


 少し前に顔だけは美人な母上であるフェイリアがヒステリックに騒ぎ立てていた内容を耳にしたヴェイン曰く、とある伯爵家の次女をこのハーヴェン子爵家嫡子である俺の婚約者にと話を持ちかけたところ、やんわりと断られたそうな。


 相手は格上の伯爵家。
 断られた事は残念に思えど、双方の理がかみ合わなかったという事でまだ納得が出来た。だが、かの伯爵家はあろう事か、その日のうちに別の家に話に上がっていた次女を婚約者にどうかという話を持って行ったのだ。


 その相手は新興貴族も新興貴族。
 つい昨年に準男爵から男爵家に陞爵されたばかりのボルソッチェオ男爵家の嫡男であった。


 いわば苗木買い。
 領民から悉く嫌われており、特にこれといった成長も見られず停滞しているハーヴェン子爵家よりは将来性があると見てか。
 はたまた、ハーヴェン子爵家に嫁がせるくらいならと暗に侮辱したかったからか。
 理由は何であれ、親父さまのプライドを酷く傷つけていた。


 今筆を走らせているのも、件の伯爵家への嫌がらせ関連なんだろう。


 親父さまの機嫌は最悪。
 ここで何か変な事を言えば廃嫡だ!なんて騒がれるかもしれないくらいに。


 だが、俺はこの最悪過ぎる状況を利用する。
 これ以上ないくらいに。


「ちちうえ。聞けば、かのレミューゼ伯爵家の御令嬢を僕の婚約者にどうかと推して貰ったとか」
「……そうだ。だが! あの伯爵家はあろう事か、ハーヴェン子爵家よりも格下であるボルソッチェオの倅を選びおった! 社交界にて私を辱めたのだ! 相応の罰を下さねばなるまい?!」


 レミューゼ伯爵家の次女。
 たしか名をフランと言ったか。


 レミューゼ伯爵家は「武」を買われて伯爵という位置にまで上り詰めた一族だ。
 現当主の次女であるフランにもその血は濃く流れており、中々好戦的というか、勝ち気な感じの少女だった気がする。


 前に会った社交界では、俺は親父さまの後ろに隠れて終始無言を決め込んでいたはず。
 勝ち気な少女からすれば、そんな軟弱そうな男はお断りだろう。


 ハーヴェン子爵家とボルソッチェオ男爵の将来性。
 加えて、あの頃の俺の性格諸々が相まって婚約を成立させる事が出来なかったんだろう。


 心の中で思う。
 ごめんなさい……!


「そうですね! レミューゼ伯爵ご本人の目は節穴の様子! ここは一つ、あちらにも恥をかいてもらうというのはどうでしょう」



 親父さまと母上にのみ、尊大な態度は取らないらしい。
 御都合主義過ぎるだろう!この身体!


「ほう? 恥とな?」
「はい。レミューゼ伯爵家といえばあの『武』の一門。あそこの次男は確か僕よりも二つ年上だったはず。もし、武名の響かない貴族家に。しかも年下に。あの『武』で知られ、その中でも天才と呼ばれる次男坊に勝てたならば、これ以上ない恥を与えられるとは思いませんか?」
「くくくっ、確かに。そんな事が現実となれば名誉は地に落ちるな。これ以上ない恥だ。だが——」


 懸念すべき点が一つ。


「勝てるのか? ナガレがレミューゼの倅めに」


 そう、俺が勝てるのかという事だ。
 もちろん、今のままでは天地がひっくり返っても無理だろう、
 だが、運が良いことに『ナガレ』の身体能力は高い。
 腕のいい戦士に教えを請えれさえすれば可能性はあるはずだ。


 ここで、あの下女少女であるシヴィスの存在がいきてくる。
 彼女に教えてもらった一人の男性の存在が。


「今のままでは夢物語でしょう」
「……だろうな」


 理解していたのか。
 そこまで言葉に落胆の色は見られない。


「ですが、一年ほど時間を貰えるならば、事は違ってきます。ボルソッチェオ男爵との縁談も、今すぐというわけではないでしょう。男爵と伯爵家が縁を結ぶとなれば様々な障害、しがらみが存在する。およそではありますが、一年は掛かると僕は見てます」
「ほう?」


 今までにない聡明さを発揮する俺に対し、続けろと言葉を言い放つ。


「そして、披露パーティーの際に、余興として僕とレミューゼの次男坊が剣技を披露する状況に持っていく。そして僕がこれ以上なくコテンパンにし、父上が言うのです。『レミューゼ伯爵家は実のところ、「武」に重きを置いていない様子。武名に乏しいうちの倅に負けるとは、たかが知れますな』と」
「く、くくくっ」


 くつくつと笑い出し、


「はははははははッ!! 面白い!面白いぞ!ナガレ!! 良いだろう。そこまで言うからには勝算があるんだろう?」
「勿論です」
「必要なものは用意しよう。何か入り用なものはあるか?」
「では二つほど」
「ほう、欲を出したな。だが、まあいい。言ってみろ」


 当初は見栄云々を使って言いくるめようと思っていたが、親父さまの機嫌から察するにそんな話では納得してくれなくなった可能性が高かった。


 ならばと即席であるが、次手に移った。
 それがこれ。


「一つは、既に僕が一人の男性に教えを請いたいと言ったところ、条件があると言われまして。その条件を父上にも認めて頂きたいのです」
「言ってみろ」
「先5年。領民に対する税収を2割に削減する事」
「……」

 途端に親父さまの表情が歪む。
 このままでは拙いので追い込みにかかる。


「税収を減らせばその噂を聞きつけ、新たに領民が増える可能性が高まり、結果的に税収が増える可能性があります。それに、天才と知られるかのレミューゼの者を打倒すれば、その経済的効果は計り知れません。もちろん、父上のステイタスにもなるでしょう。将来有望な息子がいる、と」


 ステイタスという言葉に揺れる。
 やはり貴族というものは見栄を気にする。
 親父さまも途轍もないステイタスと認識したんだろう。


「今年1年は認める。残りはナガレが有言実行した場合に限る」


 ここが落としどころだろう。
 元々、領民の生活をできる限り穏やかなものにしてほしいという条件だったのだ。
 税収が5割だった事を考えれば十分すぎる結果だろう。


「わかりました。そう伝え、納得してもらいましょう」
「それで、二つ目の条件はなんだ?」


 途端にぃ、と口角を歪める。


「双剣を一対。僕が使っても問題のない長さのモノを手に入れて貰えないでしょうか」
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