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3章
23話 神秘の色は
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2300文字ちょいしかないのでいつか22話と23話は近いうちに統合予定です。ご了承下さい!
————————
「……やっとお目覚めか。待たせ過ぎだよナガレ」
目の下にクマを僅かに作った師匠の顔が視界に飛び込んでくる。
疲労感漂うその姿を目にし、アレから何日経ったのかと黙考。
待たせ過ぎ。という言葉からも1日2日の話ではないんだろう。
「気分はどうだい?」
ニヒルに笑う。
アンタの予想は当たってたよと言おうとするが、ことこの場においては言葉が違うと思った。
悲しく、哀れな少年の記憶を追憶してきた。
そして託され、俺の中にも少なからず重石がのしかかった。
責任という名の重石。
ナガレは笑顔で逝った。だけどアイツの心は俺の中にまだ存在する。アイツの生き様はちゃんとナガレが覚えてる。
あの白い世界で形成されたものがナガレの全て。
その全てを見てきた。受け入れた。
およそ少年が抱くとは思えない感情を肯んじた。
「ああ、ほんとに。ほんっとうに」
ことさらに言葉を区切る。
「————最っ高に最悪な気分だ。ローレン=ヘクスティア」
その言葉が意味するものは。
本当の自分と向き合ってきたという言葉の裏返しであり、
「……そうか。それは、本当に良かったよ」
察した師匠は意地の悪い笑みを向けてくる。
「じゃあ、確認といこうか」
徐に握り拳を作り、俺に見えるように拳を掲げた。
以前、「纒い」を見せて貰った時とどこか疑似してるように思える。だけど決定的に違うものがあった。
師匠の腕に、白い靄が纏わり付いていた。
「見えるかい? 今度は。魔力の色が、神秘の色が」
以前には見えなかったものが見えていた。
白い靄。その色は少年が作り上げたあの世界の色に似ている。
ああ、見えるとも。
俺の目に、ちゃんと映っているよ。
その儚い色が、ちゃんと。
「見える。その×××色は正しくナガレの色だ。僕にこれ以上なく相応しい」
色を言葉にしたというのにノイズが走る。
世界が、俺が色を口にするのを嫌がったかのような。
「神秘の色は人それぞれ見え方が違うらしいよ。でも、神秘の色だけは教え合うことは出来ない。だからオレ達は魔力の色を『神秘の色』と呼んでる。世界がナガレの言葉を拒んだ。それが意味する事は、君が確かに魔力を感じれている事に他ならない」
成る程、と理解する。
世界が言葉を口にさせない。ああ、その響きは実に甘美だ。
知ってたかナガレ。
こんな神秘がまだ世界にはあったらしい。
お前の考えは間違っちゃいなかった。世界は美しいよ。本当に。
「神秘の色とは、各々の本質を体現する。ゆえに己と向き合わねば神秘を目にする事は叶わない。誰しもの己の中に、神秘ってやつは存在してるんだよ」
「なるほど、な」
「人間の可能性とはかくも美しい。生きることで生まれるモノは。希望であり、苦難であり、幸せであり、憎悪でもある。その結果として神秘がついてくる。生まれる」
己の裏側を乗り越えたばかりのナガレにとって、この説明は不可欠だ。神秘を扱うならば、己に嘘はご法度だ。だからこうして神秘を説く。
「人の心っていうのは、いつだって己を照らし、助けてくれる。ナガレが選択する行動をナガレ自身は何があっても疑うな。否定するな。迷うな。たとえ万人が間違っていると指摘すると分かっていても自分だけは信じろ。自分が下した選択を。もし間違っていたとしても、それは君にとっての間違いでは無いはずさ」
——人の心ってのはいつだって己を助ける道を照らしてくれるんだぜ?
幼き日。
ナガレに領主を説いてきたドレッドヘアの男の言葉とダブって聞こえたような気がした。
どこまでもその言葉はナガレの心を刺激してくる。
全てを受け入れると決めた。だから拒まないさ。嘘もつかない。
ナガレに託されたんだ。中途半端な事は出来ないし、するつもりもない。だけど、
「……煩い。僕は難しい話が苦手なんだよ」
難しい話を聞くと彼を思い出す。だから苦手だ。物凄く。
いつしかのやり取りを思い出し、泣き笑う。
「おっと、そうは見えなかったよ」
「無性に人を思い出すから、苦手なんだ」
ナガレにとっては掛け替えのない恩人達を想う。
生き残った者は今何をしているか、そんな事はわからない。
でも、死んだ者達が眠る場所には一度足を運ぼう。
俺なりの、決別をしに。
「僕にとっての神秘の色とは本来のナガレの色だ。あの時あの場で口にした言葉に嘘偽りはない。そんな心配そうに語らなくとも、僕がこれから進む道に迷いはない」
「くは、ははははッ!! いやあ、保険のつもりだったんだけどやっぱりナガレには余計なお世話だったみたいだね」
だが、師匠のお節介はこれだけではなかった。
——せめて。せめて、ナガレの周りの人間くらいは守れるだけの力を身につけさせてあげよう。立ち見してしまったチップ代わりだよ。
もっとも、その意味を知るのは修練が本格化した時なのだが。
「……」
日の落ち始めた青空を見上げる。
目にとまる一つの雲。
凸凹とした雲だった。
どれだけ醜くてもいい。
どれだけ格好悪くてもいい。
お前の代わりに俺が、あの雲のように広い世界を謳歌してやる。
恐怖に怯えても、その恐怖さえも乗り越えてみせようと思えばこんな世界を目にする事が出来たんだと。
お前に証明してやるよ。
それがいつになるかは分からない。
でも、必ず。必ずだ。
——俺とお前の最初で最後の約束だ——。
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「……やっとお目覚めか。待たせ過ぎだよナガレ」
目の下にクマを僅かに作った師匠の顔が視界に飛び込んでくる。
疲労感漂うその姿を目にし、アレから何日経ったのかと黙考。
待たせ過ぎ。という言葉からも1日2日の話ではないんだろう。
「気分はどうだい?」
ニヒルに笑う。
アンタの予想は当たってたよと言おうとするが、ことこの場においては言葉が違うと思った。
悲しく、哀れな少年の記憶を追憶してきた。
そして託され、俺の中にも少なからず重石がのしかかった。
責任という名の重石。
ナガレは笑顔で逝った。だけどアイツの心は俺の中にまだ存在する。アイツの生き様はちゃんとナガレが覚えてる。
あの白い世界で形成されたものがナガレの全て。
その全てを見てきた。受け入れた。
およそ少年が抱くとは思えない感情を肯んじた。
「ああ、ほんとに。ほんっとうに」
ことさらに言葉を区切る。
「————最っ高に最悪な気分だ。ローレン=ヘクスティア」
その言葉が意味するものは。
本当の自分と向き合ってきたという言葉の裏返しであり、
「……そうか。それは、本当に良かったよ」
察した師匠は意地の悪い笑みを向けてくる。
「じゃあ、確認といこうか」
徐に握り拳を作り、俺に見えるように拳を掲げた。
以前、「纒い」を見せて貰った時とどこか疑似してるように思える。だけど決定的に違うものがあった。
師匠の腕に、白い靄が纏わり付いていた。
「見えるかい? 今度は。魔力の色が、神秘の色が」
以前には見えなかったものが見えていた。
白い靄。その色は少年が作り上げたあの世界の色に似ている。
ああ、見えるとも。
俺の目に、ちゃんと映っているよ。
その儚い色が、ちゃんと。
「見える。その×××色は正しくナガレの色だ。僕にこれ以上なく相応しい」
色を言葉にしたというのにノイズが走る。
世界が、俺が色を口にするのを嫌がったかのような。
「神秘の色は人それぞれ見え方が違うらしいよ。でも、神秘の色だけは教え合うことは出来ない。だからオレ達は魔力の色を『神秘の色』と呼んでる。世界がナガレの言葉を拒んだ。それが意味する事は、君が確かに魔力を感じれている事に他ならない」
成る程、と理解する。
世界が言葉を口にさせない。ああ、その響きは実に甘美だ。
知ってたかナガレ。
こんな神秘がまだ世界にはあったらしい。
お前の考えは間違っちゃいなかった。世界は美しいよ。本当に。
「神秘の色とは、各々の本質を体現する。ゆえに己と向き合わねば神秘を目にする事は叶わない。誰しもの己の中に、神秘ってやつは存在してるんだよ」
「なるほど、な」
「人間の可能性とはかくも美しい。生きることで生まれるモノは。希望であり、苦難であり、幸せであり、憎悪でもある。その結果として神秘がついてくる。生まれる」
己の裏側を乗り越えたばかりのナガレにとって、この説明は不可欠だ。神秘を扱うならば、己に嘘はご法度だ。だからこうして神秘を説く。
「人の心っていうのは、いつだって己を照らし、助けてくれる。ナガレが選択する行動をナガレ自身は何があっても疑うな。否定するな。迷うな。たとえ万人が間違っていると指摘すると分かっていても自分だけは信じろ。自分が下した選択を。もし間違っていたとしても、それは君にとっての間違いでは無いはずさ」
——人の心ってのはいつだって己を助ける道を照らしてくれるんだぜ?
幼き日。
ナガレに領主を説いてきたドレッドヘアの男の言葉とダブって聞こえたような気がした。
どこまでもその言葉はナガレの心を刺激してくる。
全てを受け入れると決めた。だから拒まないさ。嘘もつかない。
ナガレに託されたんだ。中途半端な事は出来ないし、するつもりもない。だけど、
「……煩い。僕は難しい話が苦手なんだよ」
難しい話を聞くと彼を思い出す。だから苦手だ。物凄く。
いつしかのやり取りを思い出し、泣き笑う。
「おっと、そうは見えなかったよ」
「無性に人を思い出すから、苦手なんだ」
ナガレにとっては掛け替えのない恩人達を想う。
生き残った者は今何をしているか、そんな事はわからない。
でも、死んだ者達が眠る場所には一度足を運ぼう。
俺なりの、決別をしに。
「僕にとっての神秘の色とは本来のナガレの色だ。あの時あの場で口にした言葉に嘘偽りはない。そんな心配そうに語らなくとも、僕がこれから進む道に迷いはない」
「くは、ははははッ!! いやあ、保険のつもりだったんだけどやっぱりナガレには余計なお世話だったみたいだね」
だが、師匠のお節介はこれだけではなかった。
——せめて。せめて、ナガレの周りの人間くらいは守れるだけの力を身につけさせてあげよう。立ち見してしまったチップ代わりだよ。
もっとも、その意味を知るのは修練が本格化した時なのだが。
「……」
日の落ち始めた青空を見上げる。
目にとまる一つの雲。
凸凹とした雲だった。
どれだけ醜くてもいい。
どれだけ格好悪くてもいい。
お前の代わりに俺が、あの雲のように広い世界を謳歌してやる。
恐怖に怯えても、その恐怖さえも乗り越えてみせようと思えばこんな世界を目にする事が出来たんだと。
お前に証明してやるよ。
それがいつになるかは分からない。
でも、必ず。必ずだ。
——俺とお前の最初で最後の約束だ——。
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