【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

納得出来た疑問と新たな疑問

　慈愛のこもった先生の眼差しに、また俺は泣きそうになってしまった。

　やっぱり先生は俺の知ってる先生だ。いつも優しくて、必ず俺の味方になってくれる俺が好きになったグレイ先生だ。

「……先生は、俺の話、信じてくれるんですか？」

「もちろんだよ、君は嘘をつくような子じゃない。それに、確か古い魔術の中には別の次元のものを召喚する術があったはずだ。もしかしたら、君はその術に巻き込まれたのかもしれないよ」

　ゆったりと頭を撫でてくれていた手が、滑るようにするりと頬に添えられる。男らしい指が、目尻をそっと拭ってくれた。

「じゃあ、俺は誰かにこの世界に召喚されたってことですか？」

　それならば、辻褄が合う。疑問も湧くけれど。

　気が付いたらこの世界に居たのは召喚されたから。俺の住む場所や、お金が用意されていたのも神様の思し召しじゃなく、その誰かが用意してくれたってことになる。

　……一体誰が、何のために？

「……確証は何もないけどね。ひとまず、私の方で色々と調べてみるよ。その魔術のことや、この世界でのシュン君の状況をね。何か分かったらすぐ君に知らせるよ」

　考え込んでしまっていたからな。また心配をかけてしまったみたいだ。安心させるように柔らかく微笑みかけてくれながら、俺の頬を優しく撫でてくれている。

「……ありがとうございます先生。俺、先生に話せて本当に良かった」

「私も聞けて良かったよ」

　俺達の間で流れていた穏やかな空気。温かくほのぼのとしたそれが、徐々に変わっていくことになる。

「ところで、君はこの世界が……君が遊んでいたゲームの世界だ、と言っていたよね？」

「はい、そうですけど？」

「ゲームは恋愛シミュレーションで、私やダン君、サルファー君がその攻略対象だったと。それで合ってるかな？」

「はい、その通りでございます……」

　なんだろう……意地悪だ。滅茶苦茶いい笑顔をしていらっしゃるのに、楽しんでいらっしゃるのに。

　質問を重ねられれば重ねられるだけ、顔が熱くなっていく。ホントに穴があったら入りたい、いや今すぐ入らせてくれ！

「……じゃあ、少しは私も期待していいのかな？」

「え？」

　質問の意図が分からない。首を傾げたまま、しげしげと先生を見つめてしまっていると、俺の両頬を大きな手のひらが包んだ。

　彫りの深い顔がゆっくり近づいてくる。鮮やかな青い瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

　つい、その美しさに見惚れていると先生のおでこが俺のおでこにそっと合わされた。

「……シュン君が私のことも、そういう意味で好いてくれているかもしれないってね」

　そう言って先生はお茶目にウィンクした。今なら俺の顔の熱だけでお湯を沸かせる気がする。

　……くっそ……ゼロ距離ウィンクとか可愛過ぎる！　そういうところだぞ！　好き！！

「それから、もう一つ気になっていることがあるんだけど……聞いてもいいかな？」

　またしても空気が変わる。擽ったくなるふわふわしたものから、何だか皮膚がピリつくようなものへと。

「はい……何でしょう？」

　おでこをつき合わせたまま、先生の指が俺の首筋をなぞった。

「ここ、誰かに噛まれたみたいな跡があるよね？誰にされたのかな？」