37 / 122
俺なりのけじめ
しおりを挟む
「おはようシュン。朝ご飯、昨日と同じのでもいいか?」
「うん。ダンの料理何でも美味しいし、作ってくれるだけで滅茶苦茶ありがたいから」
「おう! じゃあ、俺が準備してる間に顔洗ってきな」
のんびり身支度を整え部屋に戻ると、すでにテーブルの上には朝食が準備されていた。
相変わらず手際がいい。将来良い旦那さんになるな、ダンは。お嫁さんになる人が羨ましい。
トーストを齧っていると不意に頭をぽん、ぽんっと撫でられる。
「……相棒? 聞いてるか? 俺の話」
気がつけば目の前にダンが居た。テーブルの上に大きな身体を乗り出して、男らしい眉を下げながら、俺の顔をじっと見つめている。
「あ、ごめん。何だっけ?」
まずい、変なこと考えてたせいで全然聞いてなかった。というか、ダンに話しかけられてる事にすら気づかないとか、まだ寝ぼけてんのか俺。
いや、ホントに寝ぼけていたようだ。おいおい、付いてんぞ、と伸びてきた太い指が口の端にそっと触れ、何かを摘む。
パンくずが付いていたようだ。ホント、しょうがねぇよなぁシュンは、と困ったように笑いながら、ごく自然にぱくんっと食べられてしまった。
……何か今、ものスゴいことを、さらっとしてもらえたのでは?
あれ? と頭をひねっていたのを、また勘違いされたらしい。本当に大丈夫か? と再び、ぐっと顔を近づけてくる。寝起きにイケメンのどアップは勘弁して欲しい。心臓に悪過ぎる。
「だ、大丈夫だよ」
「……なら、いいんだけどよ。ほら、昨日俺と先生にした話、相棒のことだから、どうせ先輩にも話すんだろ?」
どうせ、の部分をやたら強調したダンの箸が、勢いよく目玉焼きの黄身を刺す。トロリとこぼれた黄色を纏った白身を、大きな口がひと口で飲み込んだ。
「……うん。今日の放課後に体験入部する約束してたし、その時に話そうかなって。それがどうかしたのか?」
「いや……相棒、ゲームの中では先輩のこと、最推しだったか? とにかく、シュンにとって……特別だったんだろ? だから、一人で大丈夫なのか心配でよ」
どこか不満気に唇を尖らせながら、ダンが瞳を細める。真っ直ぐに見つめてくる赤い眼差しには、心配の色が見て取れた。
確かに、不安が全く無い訳ではない。でも俺には話す義務がある。
……いや、話したいんだ。ちゃんと話して、先輩にも本当の俺の事を知ってもらいたい。
それで万が一、先輩に嫌われたとしても後悔はしない。泣くけど。
「ありがとうダン。でも、これは俺にとってけじめみたいなものだから、一人で頑張るよ」
「そっか……よし、俺応援してるからよ! 一発ドカンとぶちかましてこい! ただ、相棒には俺がいるってことを忘れんなよ? シュンは一人じゃないんだからな」
ニカッと白い歯を見せたダンのゴツゴツした手が、俺の頭をわしわし撫でる。相変わらず無遠慮な手つきだけど、何だかスゴくホッとした。
「それは心強いな……頼りにしてるよ」
「おう! ってもうこんな時間か、さっさと食わないと遅刻するぞ!」
慌てて朝食を済ませ、鞄を引っ掴み部屋から飛び出す。やっぱり寮は便利だ。ギリギリセーフだね、と門の前でグレイ先生に笑われてしまったけれど。
◇
「ついに来てしまった……」
放課後、練習場の端にあるベンチに座りながら俺はうなだれていた。とっくに覚悟を決めたハズなのに、いざ先輩に話すとなると……つい尻込みしてしまう。
先輩に話をすることで頭が一杯で、授業にも身が入らなかったしなぁ。そのせいでまた、先生とダンに心配をかけてしまった。
先生からは、いつでも相談にのるよ、と頭を撫でられ、ダンからは、何かあったら直ぐ連絡しろよな! と念を押された。
幸い、先輩は顧問の先生と話があるらしく少し遅れると連絡があった。今の内に、ちゃんと心の準備をしておかないとな。
「もしかしてキミ、シュンちゃん? 体験入部の」
「うん。ダンの料理何でも美味しいし、作ってくれるだけで滅茶苦茶ありがたいから」
「おう! じゃあ、俺が準備してる間に顔洗ってきな」
のんびり身支度を整え部屋に戻ると、すでにテーブルの上には朝食が準備されていた。
相変わらず手際がいい。将来良い旦那さんになるな、ダンは。お嫁さんになる人が羨ましい。
トーストを齧っていると不意に頭をぽん、ぽんっと撫でられる。
「……相棒? 聞いてるか? 俺の話」
気がつけば目の前にダンが居た。テーブルの上に大きな身体を乗り出して、男らしい眉を下げながら、俺の顔をじっと見つめている。
「あ、ごめん。何だっけ?」
まずい、変なこと考えてたせいで全然聞いてなかった。というか、ダンに話しかけられてる事にすら気づかないとか、まだ寝ぼけてんのか俺。
いや、ホントに寝ぼけていたようだ。おいおい、付いてんぞ、と伸びてきた太い指が口の端にそっと触れ、何かを摘む。
パンくずが付いていたようだ。ホント、しょうがねぇよなぁシュンは、と困ったように笑いながら、ごく自然にぱくんっと食べられてしまった。
……何か今、ものスゴいことを、さらっとしてもらえたのでは?
あれ? と頭をひねっていたのを、また勘違いされたらしい。本当に大丈夫か? と再び、ぐっと顔を近づけてくる。寝起きにイケメンのどアップは勘弁して欲しい。心臓に悪過ぎる。
「だ、大丈夫だよ」
「……なら、いいんだけどよ。ほら、昨日俺と先生にした話、相棒のことだから、どうせ先輩にも話すんだろ?」
どうせ、の部分をやたら強調したダンの箸が、勢いよく目玉焼きの黄身を刺す。トロリとこぼれた黄色を纏った白身を、大きな口がひと口で飲み込んだ。
「……うん。今日の放課後に体験入部する約束してたし、その時に話そうかなって。それがどうかしたのか?」
「いや……相棒、ゲームの中では先輩のこと、最推しだったか? とにかく、シュンにとって……特別だったんだろ? だから、一人で大丈夫なのか心配でよ」
どこか不満気に唇を尖らせながら、ダンが瞳を細める。真っ直ぐに見つめてくる赤い眼差しには、心配の色が見て取れた。
確かに、不安が全く無い訳ではない。でも俺には話す義務がある。
……いや、話したいんだ。ちゃんと話して、先輩にも本当の俺の事を知ってもらいたい。
それで万が一、先輩に嫌われたとしても後悔はしない。泣くけど。
「ありがとうダン。でも、これは俺にとってけじめみたいなものだから、一人で頑張るよ」
「そっか……よし、俺応援してるからよ! 一発ドカンとぶちかましてこい! ただ、相棒には俺がいるってことを忘れんなよ? シュンは一人じゃないんだからな」
ニカッと白い歯を見せたダンのゴツゴツした手が、俺の頭をわしわし撫でる。相変わらず無遠慮な手つきだけど、何だかスゴくホッとした。
「それは心強いな……頼りにしてるよ」
「おう! ってもうこんな時間か、さっさと食わないと遅刻するぞ!」
慌てて朝食を済ませ、鞄を引っ掴み部屋から飛び出す。やっぱり寮は便利だ。ギリギリセーフだね、と門の前でグレイ先生に笑われてしまったけれど。
◇
「ついに来てしまった……」
放課後、練習場の端にあるベンチに座りながら俺はうなだれていた。とっくに覚悟を決めたハズなのに、いざ先輩に話すとなると……つい尻込みしてしまう。
先輩に話をすることで頭が一杯で、授業にも身が入らなかったしなぁ。そのせいでまた、先生とダンに心配をかけてしまった。
先生からは、いつでも相談にのるよ、と頭を撫でられ、ダンからは、何かあったら直ぐ連絡しろよな! と念を押された。
幸い、先輩は顧問の先生と話があるらしく少し遅れると連絡があった。今の内に、ちゃんと心の準備をしておかないとな。
「もしかしてキミ、シュンちゃん? 体験入部の」
45
あなたにおすすめの小説
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
陽七 葵
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる