【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ

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皆が居てくれるから

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「失礼します」

 連絡を受け、放課後、先生のアトリエに訪れると、花のような紅茶の香りが俺を出迎えた。

「いらっしゃい、シュン君。今日のお茶請けは、ガトーショコラにしてみたよ」

 穏やかな海のように深い青の瞳を細めるグレイ先生。手を止め、後ろで緩く結んだ髪を揺らしながら、俺の元へと歩み寄ってくる。

 きっちり着こなしたスーツ越しでも分かる逞しい腕が、さり気なく俺の背へと回された。優しく抱き寄せられ、手を取られ、木製のテーブルを囲む席へとエスコートされる。

 テーブルの上には鮮やかな赤がキレイな湯気立つ紅茶。隣に並ぶお皿には、たっぷりの粉砂糖をあしらったガトーショコラが準備されていた。

「わぁ、美味しそうですね……」

「どうぞ、召し上がれ。お代わりもあるからね」

「ありがとうございますっ。いただきます」

 早速ガトーショコラを頬張っていると、向かいの席へ腰掛けた先生が、これもオススメなんだ、とチョコチップがぎっしり詰まったクッキーの缶を手に微笑む。

 もう先生に餌付けされるのに慣れてしまった俺は、勧められるがままに次々とチョコレート菓子を平らげていく。

 先生が勧めてくれるお菓子はとても美味しい。何より、これも美味しいよ、と差し出す先生の無邪気な笑顔が可愛い過ぎて、ついつい食が進んでしまう。

 美味しいお菓子を食べられて、先生の笑顔も見られるなんて、ホントに素晴らしい時間だ。

 でも、今日の夕飯は少なめにしよう。

 俺の胃がチョコ菓子で満たされた頃、目尻を下げて眺めていた先生が、一転して真剣な面持ちで話を切り出す。

「……あの後、君のことを調べてみたんだけどね……何一つ手掛かりを掴めなかった。君に関する記録が一切見つからなかったんだ。それから……」

 先生がためらいがちに言葉を区切る。俺を見つめる青い双眸が僅かに揺れた。

 固く組まれた男らしい手にそっと触れると、先生の大きな肩がピクリと跳ねる。

「……ありがとうございます、先生。でも俺大丈夫ですから。一人じゃないって、側にいて欲しいって言ってくれた人達がいるから。だから、先生も俺のこと頼ってくれませんか? 俺も、先生には笑顔でいて欲しいんです」

 僅かな間、切なげに細められていた瞳が丸くなる。引き結ばれていた唇がふっと緩んで、柔らかい笑みが戻った。

「……ふふっ、私としたことが情けないな。君の方が、よっぽど不安に思っているだろうに」

「……不安じゃないって言ったら嘘になりますけど。それ以上に頼もしい仲間がついてますから。勿論、その中にはグレイ先生もいますよ」

「……シュン君には敵わないな。分かった、全部話すよ。君に、隠し事は出来そうもないからね」
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