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失われた禁術
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組んでいた手が解かれる。節くれだった大人の手が、触れていた俺の手を包み込むようにやんわりと握る。
「……校長先生に、直接伺いにいったんだ。学園のデータベースを調べるには、彼の許可が必要だったからね」
「……許可、もらえなかったんですか?」
「それならまだ、良かったんだけどね……」
含みのある言い方で、言葉を切った青い瞳に影が落ちる。
……怖かった。続きを聞くのが。でも、問わない訳にはいかなかった。
「……どういうこと、ですか?」
「話を逸らされるんだ。いや、逸らすなんてものじゃないな。何度君のことを尋ねても、まるでその間だけ記憶が抜けているかのように振る舞われてしまってね」
長く、重い、肺の中身を全て吐き出すような、溜め息。
「……まるで、シュン君の存在を口にすること自体がタブーみたいだったよ。あの時の彼は、とても正気とは思えなかった。魔術にかかっているとしか……」
はたと目を見開いてから、先生は口を閉ざした。少し冷たくなっていた手を握り返すと、沈んだ瞳に光が戻る。
「……失われた禁術の中に人の心や記憶、認識を操るものがある。君のことを聞くことが、術が発動するトリガーになっているんだろう」
「その術をかけた人物が、俺をこの世界に召喚したんでしょうか?」
「十中八九、そうだろうね。でなければ身分証も何もない君が、この学園に入学すること自体不可能だ」
ますます、意図が分からなくなってきたな。俺が学園に入ることに、何かメリットでもあるのだろうか?
「とにかく、気を付けた方がいい。禁術のこともだけど……何処に、その人物の手が回っているか、分からないからね。学園にいる間は、私やダン君達がついているから大丈夫だろうけど……あまり、一人になってはいけないよ?」
確かに先生の言う通りだ。襲うにしろ、接触を図るにしろ、狙うとしたら確実に一人の時だよな。
でも、それにしては悠長すぎないか? もし、俺に何かするつもりだったんなら、召喚した直後を狙うと思うんだけど。
俺だったらそうする。一番油断しているだろうし。
「……大丈夫かい? ごめんね……君の憂いを絶つ筈が、こんな結果になってしまって……」
心配そうに瞳を細める先生の眉間には、深いシワが刻まれてしまっている。胸の奥がきゅっと締めつけられた気がした。
……俺のことなのに、俺よりも落ち込んでくれている。そんな先生の優しさが嬉しくて、自然と頬が綻んでいた。
「そんな、先生のおかげで色々分かったんですから。これからも頼りにしてますからね、グレイ先生」
青い瞳が僅かに見開かれ、瞬く。ずっと握ってくれていた、ひと回り大きな手が離れていく。
「……先生?」
静かに席を立った先生が、俺の側へとやって来た。俯いているせいだ。表情が見えない。
視界がブレたと同時に感じた浮遊感。同時にガタンと激しい音が鼓膜を揺らす。
目の前には紺のネクタイに白いシャツ。鼻を擽る優しくてどこか落ち着く香り。全身を、温かくて少し固い感触が包み込んでいる。
……あ、抱き締められてるんだ、俺、先生に。
落とした視線の先で、ほんの少し前まで腰掛けていたイスが仰向けに倒れていた。
高鳴り始めた胸の鼓動が、先生に伝わってしまいそうだ。隙間なくぎゅうぎゅうと抱き締められているせいで。
「……君は一体、どれほど私を夢中にさせたら気がすむのかな?」
「……校長先生に、直接伺いにいったんだ。学園のデータベースを調べるには、彼の許可が必要だったからね」
「……許可、もらえなかったんですか?」
「それならまだ、良かったんだけどね……」
含みのある言い方で、言葉を切った青い瞳に影が落ちる。
……怖かった。続きを聞くのが。でも、問わない訳にはいかなかった。
「……どういうこと、ですか?」
「話を逸らされるんだ。いや、逸らすなんてものじゃないな。何度君のことを尋ねても、まるでその間だけ記憶が抜けているかのように振る舞われてしまってね」
長く、重い、肺の中身を全て吐き出すような、溜め息。
「……まるで、シュン君の存在を口にすること自体がタブーみたいだったよ。あの時の彼は、とても正気とは思えなかった。魔術にかかっているとしか……」
はたと目を見開いてから、先生は口を閉ざした。少し冷たくなっていた手を握り返すと、沈んだ瞳に光が戻る。
「……失われた禁術の中に人の心や記憶、認識を操るものがある。君のことを聞くことが、術が発動するトリガーになっているんだろう」
「その術をかけた人物が、俺をこの世界に召喚したんでしょうか?」
「十中八九、そうだろうね。でなければ身分証も何もない君が、この学園に入学すること自体不可能だ」
ますます、意図が分からなくなってきたな。俺が学園に入ることに、何かメリットでもあるのだろうか?
「とにかく、気を付けた方がいい。禁術のこともだけど……何処に、その人物の手が回っているか、分からないからね。学園にいる間は、私やダン君達がついているから大丈夫だろうけど……あまり、一人になってはいけないよ?」
確かに先生の言う通りだ。襲うにしろ、接触を図るにしろ、狙うとしたら確実に一人の時だよな。
でも、それにしては悠長すぎないか? もし、俺に何かするつもりだったんなら、召喚した直後を狙うと思うんだけど。
俺だったらそうする。一番油断しているだろうし。
「……大丈夫かい? ごめんね……君の憂いを絶つ筈が、こんな結果になってしまって……」
心配そうに瞳を細める先生の眉間には、深いシワが刻まれてしまっている。胸の奥がきゅっと締めつけられた気がした。
……俺のことなのに、俺よりも落ち込んでくれている。そんな先生の優しさが嬉しくて、自然と頬が綻んでいた。
「そんな、先生のおかげで色々分かったんですから。これからも頼りにしてますからね、グレイ先生」
青い瞳が僅かに見開かれ、瞬く。ずっと握ってくれていた、ひと回り大きな手が離れていく。
「……先生?」
静かに席を立った先生が、俺の側へとやって来た。俯いているせいだ。表情が見えない。
視界がブレたと同時に感じた浮遊感。同時にガタンと激しい音が鼓膜を揺らす。
目の前には紺のネクタイに白いシャツ。鼻を擽る優しくてどこか落ち着く香り。全身を、温かくて少し固い感触が包み込んでいる。
……あ、抱き締められてるんだ、俺、先生に。
落とした視線の先で、ほんの少し前まで腰掛けていたイスが仰向けに倒れていた。
高鳴り始めた胸の鼓動が、先生に伝わってしまいそうだ。隙間なくぎゅうぎゅうと抱き締められているせいで。
「……君は一体、どれほど私を夢中にさせたら気がすむのかな?」
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