【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ

文字の大きさ
56 / 122

ソレイユ先輩に服をコーディネートしてもらったんだが?

しおりを挟む
 駆け抜けていく景色に、全身を吹き抜けていく風。まるで、空気の壁を突き破っているみたいだ。風になるって例えが何となく分かった気がする。

 終始ドキドキしっぱなしの俺に、大丈夫? と声をかけてくれる先輩の優しさと、頼もしい背中にますます胸が騒がしくなってしまう。

 落ち着く温もりにしがみつき、全身で風を感じている内に目的地へと辿り着いていた。

 駅前のバイク駐車場に停めてから、俺達はショッピングモールに入った。

「お疲れシュンちゃん。どうだった? 乗り心地は」

「風がスゴく気持ちよかったです! 最初はちょっと怖かったけど」

「良かった、気に入ってくれたみたいだね。あっココだよ」

 擽ったそうに細められていたオレンジ色の瞳が、はたと瞬く。目の前の店舗を指差した手が、ごく自然に俺の肩へ回り、抱き寄せる。そのまま、エスコートしてくれるみたいにお店の中へ歩き始めた。

 低価格が売りのブランド、だったよな。CMで何度か見たことがある。

 まさか、服のブランドまで前の世界と一緒だとは。ホント、文明的に元の世界と違うのって、魔術だけなんじゃないか?

「シュンちゃんは、どんな服が好きなの?」

 ズラリと並ぶ多種多様なデザインの服を横目に、尋ねる。

「着やすい服が好きですね。パーカーとか」

「色とかは?」

「特に、こだわりは……あーでも白はあんまり買わないですね。汚れ目が目立つんで」

 白を着こなせる人って、なんかおしゃれな気がするんだよな。いや、まぁ、おしゃれのおの字も知らないから、何となくなんだけどさ。

「ふむふむ……じゃあ、ちょっと大人っぽい服に挑戦してみようか」

 店内をゆっくり一周しながら物色し始める。服を手にとっては俺にあてがい、顎に手を当てて何やらブツブツと呟いている。

 見たことのない真剣な表情。それだけでも、何だかそわそわしてしまうのに、鋭くカッコいい眼差しで見つめられるもんだから、余計に心が落ち着かない。

 なんせ、顔がいい。ダンやグレイ先生、サルファー先輩とはタイプが違うけど。ソレイユ先輩もイケメンだもんな。

「……よし、これ着てみて」

 ついつい見惚れている内に決まったみたいだ。ウェーブのかかったオレンジの髪をかき上げ、満足そうに微笑む。

 手に持った、チャコールのカーディガンに七分丈の白いVネックTシャツ。細目の黒いスキニーパンツをまとめて俺の胸元に押し付けてくる。

「こんなの、着たことないんですけど……俺」

「いいから。サイズ合ってると思うけど、合わなかったら呼んでね」

 どうやら、俺には選択権もないらしい。まぁ、わざわざ選んで貰ってるのに、文句を言うのもおかしいよな。

 背中を押すように試着室へと連れて行かれる。カーテンを開けてくれたかと思えば、中へ押し込まれてしまった。

 ……取り敢えず、着替えるか。持っている服を壁のフックにかけてから、パーカーの裾を両手で掴んで上に引き抜き、荷物置き場っぽいカゴへと放る。

 白のシャツを手に取り腕を通し、カーディガンを上から羽織る。ハーフパンツもさっさと脱いでからカゴへ。黒いスキニーの釦を外し、ジッパーを下げてから足を通した。

 不思議なことに、全部ぴったりフィットした。先輩に服のサイズ、教えたっけ?

「……サイズ、大丈夫でした」

 カーテンを開けた途端、またしても真剣な眼差しが向けられる。でも、すぐにゆるりと細められた。

 嬉しそうにうんうんと頷いてから、グッと親指を立てながら口の端を持ち上げる。

「いいね、いいね! ステキだよ、シュンちゃん! これで、幼なじみくんもイチコロだね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...