【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ

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夕焼けの中で

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 迷いに迷い、目移りしてしまっていると、ふと隙間から覗く朱色に目が止まった。

 惹かれるがまま、手前のコップを慎重にずらしてそっと取り出す。

 夕焼けの空が描かれたマグカップ。二つ並べると一枚の絵になるようだ。

「へぇ……これ、二つとも繋がってんだな」

 感嘆の息を吐き、取り出したコップをしげしげと眺めるダン。重なって見えた気がした。隣で輝く赤の瞳が、水彩風の鮮やかな夕焼けと。

「……ダン、俺、これがいい! これにする!」

「いいんじゃねーか、キレイだし。じゃ包んでもらおーぜ」

 ペアのマグカップを手に意気揚々とレジへ向かう。勿論、プレゼント用で包んでもらった。

「はい、ダンの分」

 お揃いのカップの片方が入ったビニール袋をダンに手渡す。受け取ると、嬉しそうに白い歯をこぼす。

「ありがとな。これからどうする?」

「うーん……結構いい時間だし、そろそろ帰る?」

 時間が過ぎるのは、あっという間だ。ポケットから取り出した端末。画面に表示された時刻はすでに17時を回っていた。

 隣から覗き込んでいたダンが、おずおずと尋ねる。

「……そう、だな。じゃあ、最後によりたい所があるんだけど、付き合ってもらっていいか?」

「勿論! じゃあ、行こっか」




「来たかった所って、ここ?」

「あぁ。でも正確にはもうちょい登った所だな」

 俺達は、駅から離れた広い公園に足を踏み入れていた。園内に入り、どんどん奥に進み、高台へと登って行く。

 少し開けた場所に着くと目の前には、茜色の景色が広がっていた。

 青空に朱色の光が混じり、薄いピンクのグラデーションがかかっている。白い雲が所々ピンクに染まり、青紫色の影を帯びて流れていく。

「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ」

 すっかり見入ってしまっていた。ぽつりと呟くダ柔らかい声に現実へと引き戻される。

「……綺麗だな」

 眼前の景色に圧倒されて、月並みな言葉しか出てこない。

「シュンに見せたかったんだ。また一つ、ここでの思い出が増えただろ?」

 夕陽に照らされて、赤く染まったダンの笑顔に目を奪われる。気がつけば、繋いだその手に力を込めていた。

 握り返しされた手がゆっくり引かれる。太い筋肉質な腕が腰に回され、抱き寄せられて、身体がすぽりとダンの胸元へ収まった。

 ……ドキドキしてる。俺も、ダンも。頬で感じる鼓動にすっかり聞き入っていると、肩をそっと掴まれた。

 少しだけ、空いてしまった俺達の距離。何だか妙に寂しくて見上げると頬に大きな手が添えられた。スローモーションのように、整ったダンの顔が近付いてくる。

 真剣な光を宿した鋭い瞳。夕焼けよりも燃える赤。焦がれるような輝きに見惚れているうちに、柔らかい感触が口に触れた。

 ……キスされたんだ。ダンとキス、したんだ。

 そっと触れただけで離れていく唇。緩やかな笑みを描いて、優しく見つめる眼差しに、一際大きく心臓が高鳴った。

 思わず、分厚い胸板に顔を押しつけてしまっていた。広く頼もしい体躯にしがみついてしまっていた。

 身体中が燃えるように熱い。まるで、全力疾走した後みたいに心臓がバクバクと音を立てている。

「……その、嫌、だったか?」
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