【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ

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絶望を打ち破る声

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 とん、とん、とんと弾むような足音に続けて勢いよく扉が空いた。

「お疲れーサルフ。交替の時間だよー」

 眩しい笑顔を振りまきながら、ソルがわざとらしいくらいに明るい声で部屋に入ってくる。

 けれどもその優しげな目元は真っ赤に腫れていた。頬にも薄っすらとだが、涙の跡が残っている。またずっと声を殺して泣いていたのだろう。

「……ありがとうソル。だが、もう少しだけここにいてもいいだろうか」

「へ? ……そりゃあオレは全然構わないけどさ。無理しちゃダメだよ?」

 心配そうに細められたオレンジの瞳が、俺の顔色を窺うようにじっと見つめている。

 こんな時にでも俺を気遣ってくれるソルは本当に強い男だと思う。何も出来ない俺と違って。

「……あんまりいじいじしてても状況は変わらないんだからさ、無理でも笑おう? オレ達が楽しそうにしてたらさ、シュンちゃんも気になって起きるかもよ?」

 相変わらず見透かされているようだ。的確に俺の心情を汲み取ってくる。

 ほらほら笑って? スマイル、スマイル、とソルが俺の頬を両手で包み込む。されるがままにしていると、細い指が無理矢理俺の口角をぐいっと引き上げてくる。

 傍から見たら明らかに歪な笑顔を浮かべているんだろう。想像すると何だか可笑しくなってきた。思わず目元を緩めた俺に、ソルは満足そうに口元を綻ばせる。

「……失礼するよ。おや、何だか楽しそうなことをしているね」

 グレイ先生がビニール袋を片手に部屋を訪れる。

 差し入れ、冷蔵庫に入れておくね、と台所へ向かっていくその背中は、何だか少し小さくなったように感じた。

「いつもありがとうございます、先生。その……何か進展はありましたか?」

 俺の質問に、今まで無反応だったダンの肩が僅かに動く。

 俺達は固唾を飲んで先生の返答を待つ。

 先生は顔を曇らせると俺達から目線だけを逸らして口を開いた。

「……すまない。私の方は何も」

 分かってはいた。

 だが、この時だけはいつも期待してしまう。

 たとえ何度絶望しようとも……何か少しでも、この状況が変わるんじゃないかと。

 部屋に重たい沈黙が訪れて息が苦しくなる。

 ……誰か、誰でもいい……俺の全てを渡すから、だからどうか、シュンを助けてくれ……

「……全く、実に辛気臭いな。どうなってるんだこの部屋は!」
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