75 / 122
届いた声
しおりを挟む
おかしいな……いつまでたっても痛みも衝撃も来ない。
代わりに黄色い閃光が俺の目の前で弾けた。甲高い悲鳴を上げながら獣がよろめく。開けた視界の先に待ち望んでいた姿があった。
「……貴様の相手は俺だ」
額から血を流し鋭い瞳で見据えながら、サルファー先輩が獣に向かって手をかざしている。
「サルファー先輩!!」
俺に向かってニコリと微笑むと剣を槍のように構える。
「シュンから離れろ!!」
飛ぶように地面を蹴り、真っ直ぐに駆けていく。捨て身の突進だった。怯んでいる獣の胴体に刺さった切っ先に全体重をかけ、深々と突き立てていく。
唸り、藻掻き、暴れていた獣は凄まじい断末魔を上げ息絶えた。
獣が完全に息絶えたのを確認してから、先輩が俺の元へ歩み寄り、跪く。
「大丈夫か!? シュン! 怪我はないか?」
大きな手が俺の頬にそっと触れてくれる
……温かい。優しい手のひらの感触に緊張の糸がぷつりと切れた。涙腺が壊れたみたいにボロボロこぼれだして止まらない
「せんぱ、い、俺、こわかっ、た……先輩が、死んじゃったんじゃ、ないかって……」
「ははっ大丈夫、これくらいじゃ死なないさ。頑丈なのが俺の取り柄だからな」
何でもないように笑って、逞しい腕が俺を優しく包みこんだ。嗚咽をあげながらしがみつく俺を先輩はいつまでも抱き締め続けてくれた。
「シュン君! サルファー君!」
俺が落ち着きを取り戻した頃、グレイ先生達が息を切らせながら俺達の元に駆けつけてくれた。
俺達の側で倒れているキメラの亡骸を見て、女性の先生が小さな悲鳴を上げた。
「二人とも無事かい!?」
眉間に深いシワを刻んだグレイ先生の顔は真っ青だ。
「俺は大丈夫です……でもサルファー先輩が」
「問題ありません。かすり傷みたいなものですから」
「血が出てるじゃないか! 早く応急処置をしないと」
ますます顔を青くしたグレイ先生が、鞄から応急セットを取り出して治療を始める。慣れた手つきで瞬く間に血濡れた患部が消毒され、ガーゼや包帯で処置されていく。
他の先生達も続々と集まってくる。騒ぎを聞き付けたのか、生徒達も続々と山頂から降りてきた。その中には、ダンとソレイユ先輩の姿もあった。
代わりに黄色い閃光が俺の目の前で弾けた。甲高い悲鳴を上げながら獣がよろめく。開けた視界の先に待ち望んでいた姿があった。
「……貴様の相手は俺だ」
額から血を流し鋭い瞳で見据えながら、サルファー先輩が獣に向かって手をかざしている。
「サルファー先輩!!」
俺に向かってニコリと微笑むと剣を槍のように構える。
「シュンから離れろ!!」
飛ぶように地面を蹴り、真っ直ぐに駆けていく。捨て身の突進だった。怯んでいる獣の胴体に刺さった切っ先に全体重をかけ、深々と突き立てていく。
唸り、藻掻き、暴れていた獣は凄まじい断末魔を上げ息絶えた。
獣が完全に息絶えたのを確認してから、先輩が俺の元へ歩み寄り、跪く。
「大丈夫か!? シュン! 怪我はないか?」
大きな手が俺の頬にそっと触れてくれる
……温かい。優しい手のひらの感触に緊張の糸がぷつりと切れた。涙腺が壊れたみたいにボロボロこぼれだして止まらない
「せんぱ、い、俺、こわかっ、た……先輩が、死んじゃったんじゃ、ないかって……」
「ははっ大丈夫、これくらいじゃ死なないさ。頑丈なのが俺の取り柄だからな」
何でもないように笑って、逞しい腕が俺を優しく包みこんだ。嗚咽をあげながらしがみつく俺を先輩はいつまでも抱き締め続けてくれた。
「シュン君! サルファー君!」
俺が落ち着きを取り戻した頃、グレイ先生達が息を切らせながら俺達の元に駆けつけてくれた。
俺達の側で倒れているキメラの亡骸を見て、女性の先生が小さな悲鳴を上げた。
「二人とも無事かい!?」
眉間に深いシワを刻んだグレイ先生の顔は真っ青だ。
「俺は大丈夫です……でもサルファー先輩が」
「問題ありません。かすり傷みたいなものですから」
「血が出てるじゃないか! 早く応急処置をしないと」
ますます顔を青くしたグレイ先生が、鞄から応急セットを取り出して治療を始める。慣れた手つきで瞬く間に血濡れた患部が消毒され、ガーゼや包帯で処置されていく。
他の先生達も続々と集まってくる。騒ぎを聞き付けたのか、生徒達も続々と山頂から降りてきた。その中には、ダンとソレイユ先輩の姿もあった。
45
あなたにおすすめの小説
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
モラトリアムは物書きライフを満喫します。
星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息
就職に失敗。
アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。
自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。
あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。
30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。
しかし……待てよ。
悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!?
☆
※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる