【完結】俺の愛が世界を救うってマジ?

白井のわ

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迫りくる影、襲いかかってくる恐怖

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 約束の時間。俺にとっても、俺と赤木さん二人で挑むのも初となる任務の場所は、薄暗い廃ビルの中だった。

 空の本棚に、取り残された机や倒れたままの椅子。所々に残る人が居た痕跡を、割れた窓から差し込む夕日がオレンジ色に染めている。

「足元、気をつけろよ、天音。ブーツは丈夫だから、硝子の破片位なんてことはないが……転ぶと大変だからな。ほら」

 黒い手袋に覆われた手が、差し出される。ひと回り大きな手を取れば、しっかり繋いでくれた。

「ありがとうございます、赤木さん」



 ビルの外。

 いつでも彼等をサポート出来るように、と万が一の為の治療設備や、二人のバイタルが分かるモニター等を乗せた専用車両内にて。

 追尾型カメラの映像を見ていた三人の内、黄川ダイキが、へぇ、と口の端を持ち上げた。

「何か、イイ感じじゃない? あかぎっち達」

「いいことじゃないか。なぁ、緑山君」

「……ええ、まぁ」

 青岩アサギに同意を求められ、緑山ヒスイが頷く。けれどもその口は面白くなさそうに、への字に曲がっていた。



 俺達の頭上を飛ぶ白い蝶。

 ぼんやりと輝く羽をはためかせているアレは、博士の発明したカメラらしい。機械だって分かってても、生きているとしか思えないんだけど。

 思い浮かべるのも、噂をすれば……になるんだろうか。不意に俺達の側まで舞い降りてきた蝶から、あの緊張感のない声が聞こえてきた。

「聞こえてるー? 聞こえてるよね?」

「はい。現在、天音と共にポイントまで到着。目標は、まだ確認出来ていません」

「オッケー。こっちは近くで待機してるし、キミ達の状況を常に確認してはいる。けど、少数とはいえ相手は影だ。危ないと思ったら、すぐに撤退するんだよ? いいね?」

 いつもの飄々とした声とは違う。でも、あの冷たく機械的な声とも違う。真剣な、俺達を本気で案じてくれている声。

「了解した」

「わ、分かりました」

 ……何だか、調子狂うな。頭上へと飛んでいく蝶を眺めていた時だ。俺を引っ張ってくれていた背中が、不意に止まった。

「赤木さん?」

 鍛え上げられた長身が俺を庇うように立ち、腰のベルトに装着していた赤い円柱型の筒を手に取る。

 昨日、ヒスイに手渡されたのと見た目そっくりな色違い。それの底面にあるスイッチを押した瞬間、刃の部分が赤く輝く大剣へと姿を変えた。

 手品にしか見えなかった。

 過程が、目で追える速度じゃなかったからな。唯一分かったのは、この世の色んな法則を無視した変形の仕方だったってだけだ。

 全く。蝶といい、武器といい、どういう技術なんだ。そんな風に考えてられたのも、余裕を持っていられたのも、この時までだった。

「……来たぞ。俺の側を絶対に離れるなよ、天音」

「は、はいっ」

 差し込んでいた茜色が、薄暗い霧によって奪われていく。淀んだ闇に覆われた天井。肌を撫でる不快な空気。ぼとぼとぼと、と落ちてきた黒い塊。

 ゆらりと伸び、人型へと姿を変えた影を見た瞬間、身体が勝手に震え出した。昨日の光景が、悲鳴が、絶望に染まった顔が、脳内を駆け巡って……弾けた。

「三体か……早速頼むぞ、天音。増援が来る前に確実に仕留め……天音?」

「あ、あ……」

 怖い、怖い、怖い……

「嫌だ……ヒスイ……何処? ヒスイ……」

 顔が見たい。声が聞きたい。手を握って欲しい。

 一言でいいんだ……大丈夫だよって、どうか。

「天音、天音っ! しっかりしろ!」

 誰かが俺の肩を掴む。頬を撫でる誰かの手のひら。

 違う。ヒスイじゃない……ヒスイ、ヒスイ……何処に、居るの?



 モニターに表示されていた波形。

 一定の揺れを保っていた線が激しく揺らぐ様を見ていた黒野キョウヤが眉間にシワを刻み、唇を噛む。

「フラッシュバックか、不味いな……」

 虚ろな目をして膝から崩れ落ちた天音レンを素早く抱き抱え、影から背を向け駆け出す赤木コウイチ。彼等を画面越しに見守っていた緑山が声を悲痛な声を上げる。

「レンッ……博士!!」

 親友の元へと今にも駆け出して行きそうな彼に、白花博士はモニターを見つめたまま制した。

「だーめ、キミの出番はまだまだ後。赤木クンが居るでしょ? そーれーにー……彼自身に乗り越えてもらわないとね」

 車内に漂う張り詰めた空気とはかけ離れた、良く言えば落ち着いた声、悪く言えば呑気な声。

「くっ……」

 心の叫びを噛み殺した緑山の拳は固く握り締められ、震えていた。

「みどりん……」

「黒野センセ」

「まだ、バイタルに問題は無い。心のコンディションは最悪だがな」

 淡々と返した言葉が、車内の空気をより一層重く苦しいものへと変えた。



 寒い、冷たい……でも、温かい。

 誰、だろう? 誰かが俺の手を握ってくれている。誰かが俺の身体を抱き締めてくれている。

 誰かが、俺を呼んでいる。

「天音、大丈夫だ……大丈夫だからな」

 ボヤけかかった視界に映ったのは、辛そうに顔を歪める青年。

 何で……苦しそうなんだろう? 何で……いや、彼は……

「…………赤木、さ?」

「良かった……やっと俺を見てくれたな」

 泣いてしまいそうな赤い瞳が、ますます潤んで細められる。頬へと落ちてきた雫は熱かった。

「ごめんなさ……俺、一体……」

「謝る必要はないさ。キミがこうなるかもしれないと、事前に予測出来ていなかった俺の責任だ。リーダー……いや、今はキミのパートナーなのにな」

 どちらも失格だな、と自嘲気味に笑う。

 大きな手が頬を優しく撫でてくれる。俺の輪郭をなぞるように触れる指先は、少し震えていた。

「赤木さん……」

「と反省はここまでだ。体調に問題は?」

「大丈夫です。どこも悪くありません。ちょっと寒かったけど、赤木さんのお陰で温まりました」

「そうか、キミの助けになれて何よりだ。それで……状況は、分かるか?」

 恐る恐る尋ねる声。聞いていいのか迷ってるみたいだった。

「状況……確か、俺達は作戦の為に廃ビルに来て、それで」

 頭に過る、曖昧な輪郭をした虚ろな影。人を人でないものへ変えてしまう恐ろしい黒。

「それ、で……俺、アレを見た瞬間……思い、出して……」

 また、聞こえようとした時だった。逃げ惑う人々の悲鳴が、影へと変えられる直前の女性の慟哭が。

 また、支配されそうな時だった。心が、身体が、今すぐ逃げ出したくなる恐怖に。

「大丈夫だ」

「あ……」

 力強い声が、抱き締めてくれた温もりが、忍び寄ってきていたあの日を吹き飛ばす。

「キミには俺が、俺達がついてる。言っただろう? 守るって。言ってくれただろう? 俺達は、もう仲間だって」

 大きな手が肩を掴み、ゆっくりと離れたことで見えた真っ直ぐで真っ赤な瞳。

「大丈夫、俺達なら出来るさ」

 太陽みたいに温かい笑顔に、気がつけば惹かれるように額を合わせていた。

 赤木さんの逞しい胸元で、星型多角形のペンダントが淡い光を帯びる。

「天音……」

「赤木さん……」

 どちらともなく、なくなっていく俺達の距離。静かに重なった体温。

 心音がドキドキと走り出して、目の奥が熱くなって、温かい赤の輝きが俺達を包み込んで……そして。

「へ?」

「は?」

 フッと蝋燭の火を消したみたいに消えてしまった。

 赤木さんの姿は変わってはいない。隊員服……赤いラインがアクセントなジャケットに、黒いズボンとブーツと手袋。変身、出来ていない。

 いやいや、おかしいでしょうよ、神様。なんか感動的でカッコいいBGMでもかかる場面だったでしょうが。自分で言うのもアレだけどさ。
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