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俺にとっては「なんか」じゃない
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スローモーションみたいによろけていく長身は、俺の望み通り伸びてきていた影の襲撃を避けることが出来た。
良かった……火事場の馬鹿力、俺にもあったんだな。
伸ばした俺の腕に迫りくる影。でも、俺はほっとしていた。あんなにも怯えていた瞬間がすぐそこまで近づいているのに。
「うぁ……っ……」
「レンッ!!」
痛い、痛い、痛い……
焼けたみたいだ。燃えて、なくなってしまったみたいだ。影によって奪われた手首より先が。
少量とはいえ獲物を喰らって満足したのか、現れた時と同じように床へと沈み、逃げていく。不幸中の幸いだ。今、追撃を受けてしまえばひとたまりもなかったから。
……こんなに痛かったのか。
……こんなに痛いのに、平気な顔、してたのかよ。俺のこと、安心させようとしてくれてたのかよ。
「やっぱり、スゴイな……赤木さんは……」
ぐらり視界が歪んで傾いていく。
そう言えば、聞いたことあるかもしれない。痛すぎると気絶しちゃうって。今は……マズいんだけどな……
表面が剥げた木の床へ真横に倒れ落ちていく。
まぁ、手よりは痛くないか、なんて完全に受け入れていた時だった。
「何で……何で庇ったんだよっ!?」
「ダイキ、さん……」
覗き込む彼は俺よりも苦しそうな顔をしていた。
泣かせてしまった。両の手首から黒い霧を揺らめかせている俺を抱き抱え、声を肩を震わせている。
「キミの方が大事なのに……俺なんかよりレンの方が」
「なんか、じゃないです……」
「……え?」
「俺にとって……ダイキさんは、なんかじゃない……大切です……怒りますよ……」
思わず口を挟んでしまっていた。カチンときたんだ。涙をこぼす彼の頬をむにっとつまみたくなるくらい。出来ないけど。
歪んでいた口がぽかんと開いて閉じて、また開いて……きゅっと引き結ばれる。
「何それ……ズルいなぁ……もう……」
ポツリと漏れた呟きと一緒にこぼれたしずくが光を失った結晶へ落ちる。途端に淡く輝き始める黄色の星。
「ダイキさん……」
「うん、分かってる」
頬を撫でられ、抱き寄せられて……再び触れ合った唇は少しだけしょっぱかった。
気を失ったのかと思った。目の前が真っ白に染まって、焼けるような痛みが消えたから。
でも、違った。温かい……温かい黄色の光が俺を優しく包みこんでくれている。指が動く……あれ、俺の手、戻って……
「……レン」
柔らかい声が俺を呼ぶ。白銀の光沢を纏った手が、俺の手をそっと繋いでくれた。
「ダイキ、さん?」
見上げた先でかち合った、煌めく星を宿した瞳。優しい微笑み。白銀の鎧を纏う彼の背から光の翼が広がり、俺達を守るみたいに包みこんでいる。
「……ますますカッコよくなってますね」
ホントにお話に出てくるような神様の守護者みたい。でも、やっぱりダイキさんはダイキさんだった。
「でしょ? 惚れちゃってもいいんだよ?」
得意げに笑う彼に釣られて笑っていた。くすくす見つめ合っていた柔らかい眼差しに、真剣な光が宿る。
「もう大丈夫だよ。今度はオレ、失敗しないから」
「はい……終わらせましょう、一緒に」
「うん」
繋がれた俺達の手に温かい光が満ちていく。激しいけれども柔らかい不思議な閃光。広がり、煌めいて床に天井に窓に蔓延る虚ろな闇を影達ごと祓っていく。
鮮やかな黄色が収まった頃、窓から差し込む茜色が廃れた床に俺達の影を描いた。
任務は大成功! なハズだ。
ダイキさんは変身出来たし。影だって殲滅出来た、これでまた行方不明になってしまっていた人達の何人かは助けることが出来ただろう。
途中多少のトラブルはあったけれど、結果二人共ケガ一つないどころか、覚醒的な変身まで出来たんだから成果としては十分過ぎるハズだ。なのに……
「あの……ダイキさん」
「…………」
ダイキさんは不機嫌だ。
一切口を聞いてくれない。ずっと俺を抱き抱えたまま眉を顰め、頬を膨らませ、口を尖らせている。絵に描いたような不機嫌っぷりだ。
「ごめんなさい……どうしたら、許してくれますか?」
「……しないで」
ようやく合った寂しそうな眼差し、成立した会話。何を求められても、はい喜んで! と応えるつもりだった。だったんだが。
「もう、あんなことしないでね……怖かったんだから」
「……ど、努力します」
はい、とは断言出来なかった。
だって、絶対にしてしまう。大切な人が守れるんだったら、何度だって俺は。
「もー……絶対、反省してないじゃん」
バレてる。そりゃあそうか。つい目逸らしちゃったし。
「すみません……でも」
言い訳は遮られた。困ったように微笑む唇によって。何度か優しく交わされた後、離れていった拗ねた瞳が俺を見つめる。
「ん……は……だ、ダイキさ?」
「泣くほど心配したんだから……責任、取ってよね」
「は、はい」
「レンからも、して……あと、抱き締めて……オレのこと」
「……はい」
ドキドキはした。でも、不思議と戸惑いはなかった。
俺も、したかったんだろうか。触れたかったんだろうか、ダイキさんに。
重ねて離した唇が緩やかに綻ぶ。ダイキさんは背が高いから、俺じゃあ包みこんであげることは出来ないけれど。それでも精一杯腕を広げて抱き締めた。
「もう、絶対にさせないから……しなくてもいいように、オレが全部ぶっ飛ばすから……今度こそ、絶対に」
「ありがとうございます……頼りにしてます。これからも一緒に頑張りましょうね」
「……うん」
約束してくれた言葉、抱き締め返してくれた腕。どちらも温かくて、でも少し震えていた。
良かった……火事場の馬鹿力、俺にもあったんだな。
伸ばした俺の腕に迫りくる影。でも、俺はほっとしていた。あんなにも怯えていた瞬間がすぐそこまで近づいているのに。
「うぁ……っ……」
「レンッ!!」
痛い、痛い、痛い……
焼けたみたいだ。燃えて、なくなってしまったみたいだ。影によって奪われた手首より先が。
少量とはいえ獲物を喰らって満足したのか、現れた時と同じように床へと沈み、逃げていく。不幸中の幸いだ。今、追撃を受けてしまえばひとたまりもなかったから。
……こんなに痛かったのか。
……こんなに痛いのに、平気な顔、してたのかよ。俺のこと、安心させようとしてくれてたのかよ。
「やっぱり、スゴイな……赤木さんは……」
ぐらり視界が歪んで傾いていく。
そう言えば、聞いたことあるかもしれない。痛すぎると気絶しちゃうって。今は……マズいんだけどな……
表面が剥げた木の床へ真横に倒れ落ちていく。
まぁ、手よりは痛くないか、なんて完全に受け入れていた時だった。
「何で……何で庇ったんだよっ!?」
「ダイキ、さん……」
覗き込む彼は俺よりも苦しそうな顔をしていた。
泣かせてしまった。両の手首から黒い霧を揺らめかせている俺を抱き抱え、声を肩を震わせている。
「キミの方が大事なのに……俺なんかよりレンの方が」
「なんか、じゃないです……」
「……え?」
「俺にとって……ダイキさんは、なんかじゃない……大切です……怒りますよ……」
思わず口を挟んでしまっていた。カチンときたんだ。涙をこぼす彼の頬をむにっとつまみたくなるくらい。出来ないけど。
歪んでいた口がぽかんと開いて閉じて、また開いて……きゅっと引き結ばれる。
「何それ……ズルいなぁ……もう……」
ポツリと漏れた呟きと一緒にこぼれたしずくが光を失った結晶へ落ちる。途端に淡く輝き始める黄色の星。
「ダイキさん……」
「うん、分かってる」
頬を撫でられ、抱き寄せられて……再び触れ合った唇は少しだけしょっぱかった。
気を失ったのかと思った。目の前が真っ白に染まって、焼けるような痛みが消えたから。
でも、違った。温かい……温かい黄色の光が俺を優しく包みこんでくれている。指が動く……あれ、俺の手、戻って……
「……レン」
柔らかい声が俺を呼ぶ。白銀の光沢を纏った手が、俺の手をそっと繋いでくれた。
「ダイキ、さん?」
見上げた先でかち合った、煌めく星を宿した瞳。優しい微笑み。白銀の鎧を纏う彼の背から光の翼が広がり、俺達を守るみたいに包みこんでいる。
「……ますますカッコよくなってますね」
ホントにお話に出てくるような神様の守護者みたい。でも、やっぱりダイキさんはダイキさんだった。
「でしょ? 惚れちゃってもいいんだよ?」
得意げに笑う彼に釣られて笑っていた。くすくす見つめ合っていた柔らかい眼差しに、真剣な光が宿る。
「もう大丈夫だよ。今度はオレ、失敗しないから」
「はい……終わらせましょう、一緒に」
「うん」
繋がれた俺達の手に温かい光が満ちていく。激しいけれども柔らかい不思議な閃光。広がり、煌めいて床に天井に窓に蔓延る虚ろな闇を影達ごと祓っていく。
鮮やかな黄色が収まった頃、窓から差し込む茜色が廃れた床に俺達の影を描いた。
任務は大成功! なハズだ。
ダイキさんは変身出来たし。影だって殲滅出来た、これでまた行方不明になってしまっていた人達の何人かは助けることが出来ただろう。
途中多少のトラブルはあったけれど、結果二人共ケガ一つないどころか、覚醒的な変身まで出来たんだから成果としては十分過ぎるハズだ。なのに……
「あの……ダイキさん」
「…………」
ダイキさんは不機嫌だ。
一切口を聞いてくれない。ずっと俺を抱き抱えたまま眉を顰め、頬を膨らませ、口を尖らせている。絵に描いたような不機嫌っぷりだ。
「ごめんなさい……どうしたら、許してくれますか?」
「……しないで」
ようやく合った寂しそうな眼差し、成立した会話。何を求められても、はい喜んで! と応えるつもりだった。だったんだが。
「もう、あんなことしないでね……怖かったんだから」
「……ど、努力します」
はい、とは断言出来なかった。
だって、絶対にしてしまう。大切な人が守れるんだったら、何度だって俺は。
「もー……絶対、反省してないじゃん」
バレてる。そりゃあそうか。つい目逸らしちゃったし。
「すみません……でも」
言い訳は遮られた。困ったように微笑む唇によって。何度か優しく交わされた後、離れていった拗ねた瞳が俺を見つめる。
「ん……は……だ、ダイキさ?」
「泣くほど心配したんだから……責任、取ってよね」
「は、はい」
「レンからも、して……あと、抱き締めて……オレのこと」
「……はい」
ドキドキはした。でも、不思議と戸惑いはなかった。
俺も、したかったんだろうか。触れたかったんだろうか、ダイキさんに。
重ねて離した唇が緩やかに綻ぶ。ダイキさんは背が高いから、俺じゃあ包みこんであげることは出来ないけれど。それでも精一杯腕を広げて抱き締めた。
「もう、絶対にさせないから……しなくてもいいように、オレが全部ぶっ飛ばすから……今度こそ、絶対に」
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