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皆まとめて幸せにしてみせますよっ!
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人の噂も何とやら。
連日世間を騒がせていた男女無差別行方不明事件は、今やテレビやネットの話題に上ることはほとんどない。お国の圧力も関係してそうだけど。
すっかり平穏を取り戻した世界、けれども俺の生活は変わったままだ。
「……まさか、この年で就職先が決まっちゃうなんてなぁ」
「だね」
「しかも、三食個室部屋付きだよっ」
「安泰だな!」
困ったように笑うヒスイ、目を輝かせ指を三本ビシリと立てるダイキさん、得意気に分厚い胸を張るコウイチさん。当たり前のように皆が居てくれる日常に頬が緩んでしまう。
……あの時、目覚めた俺を出迎えたのは、明るい景色と泣きながら笑う皆だった。
古びた遺跡は中世の城内みたく様変わりし、厳ついけれども優しい顔をした男性が俺に頭を下げてきた。
続けて彼に寄り添っていた、キョウヤさんにそっくりな綺麗な女の人。そして二人を慕うように囲んでいた人々も、泣きながら俺に微笑んだ。
そう、俺達は掴み取ったんだ。邪神を封印するだけでなく、世界の為に身を捧げていたセレネさん達を助け出すことが出来たんだ。
ブライさん達の話によると、元々邪神は悪い神ではなかったらしい。負の感情に侵され過ぎたせいで暴走し、止むなく神と神子、守護者達が協力して封印したんだと。
激しい戦いによる傷で顕現出来なくなった神は最後の力を振り絞り、影の人々に恩恵を与えたらしい。因みに俺達がお世話になっていた輝石は、神様の亡き骸の欠片だったんだって。
それで恩恵、不老長寿のお陰で邪神の封印を守り続けていたんだけれど……後はブライさんに言われた通り。
俺達が全部忘れて暮らしている内に影の力が増していき、自分達の身を柱にするしか封印を保てなくなったんだって。そりゃあ何百年に渡って延々と国民を、大事な人を生贄にしてたらおかしくなっちゃうよな……
……くん? ……レン君?
「へ、あ、アサギさん?」
考え事をし過ぎたみたいだ。青い瞳が心配そうに見つめている。緑、赤、黄の三色も。
「何か、不安があるのかい?」
「……はい……変わらず皆と一緒に過ごせるのは嬉しいんです。不謹慎かも、ですけどね」
周りの空気が少し緩んだ気がした。
世界に平穏は戻った。でも、影の力が高まっていくのは止められない。世界から悲しみが、怒りが、苦しみが消えることはないんだから。
それで俺達は、未然に防いでいくことにしたんだ。
セレネさん達は、世界に生まれた負の感情を形にすることが出来る。影として生み出すことが。それを俺達が倒すことで影の力を増やさないようにしようって。
使命に専念する為に、俺達は正式に組織の一員になった。この施設で引き続き皆と暮らしていくことに決めたんだ。前と違って外出は自由になった分、余計に快適だ。でも。
「仕事も誇りに思います。ただ、俺達の後は……どうなるんだろうな、って……」
「人がいる限り負の感情は生まれる……か」
「どう頑張っても、いずれは戦えなくなっちゃうしね、オレ達」
白い室内に訪れる沈黙。それを破るみたいに、ポップでピンクな星柄の箱が置かれた。俺達が囲むテーブルのど真ん中に。
「心配するな。君がどの様な姿に生まれ変わっても、必ず私が探し出してみせよう」
「キョウヤさんっ」
「万が一の対策も、ちゃんと進めてるしね」
微笑んで俺の頭を撫でてくれた彼に続いて博士が部屋に入ってくる。我が物顔で箱を開けカラフルなアイス達の中からバニラを選び、スプーンを手に取り食べ始めた。
遠慮がないな。約束してもらった皆へのお詫びなんだから、当然の権利ではあるんだけどさ。目を瞬かせている皆をよそに、アサギさんが首を傾げる。
「対策とは何でしょう?」
「誰でも使える輝石の輝きを放つ武器の生産安定化と、光の力を高める研究さ。君達が生み出した愛の輝石に代わるね」
俺達を助けてくれた輝石は役割を果たしたかのように消えていた。その後生み出そうとしたけれど出来なかったんだ。
「成る程、俺達以外でも問題なく戦えるようになれば、生まれ変わりを見つける間の時間稼ぎになる」
「愛の輝石と同じのを作り出せたら、そもそも、戦わなくてもよくなるってことだよね!」
納得した様子のコウイチさんを補足するみたいに、ダイキさんがはいはいっと手を上げる。頷き微笑む博士が掬ったバニラを口に含んだ。
「……これで、少しは君の憂いを拭えただろうか?」
「はい、ありがとうございます。嬉しかったです……俺のこと、見つけてくれるって……」
博士の対策もだけれど、嬉しかった。どんな姿に生まれ変わってもっていう彼の約束が。
静かに跪いたキョウヤさんが、恭しく取った俺の手の甲に口づける。
「礼はいらないよ。愛する妻の為だからな」
「ふぇ?」
「「「「は?」」」」
重なった苛立ちを含んだ声と注がれる鋭い視線。そんなのは痛くも痒くもないと言いたげに、艷やかな黒髪を耳にかけ微笑む。
「ああ、大丈夫だよ。私は寛容だからな。君が緑山君達とも契を結ぼうとも構わない。歓迎するよ、家族として」
「え?」
今度は俺の番だった。困惑するのも、口を開けたまま固まってしまうのも。
「レンが……俺のお嫁さんに……」
「……いいな」
「賑やかで楽しそうだね!」
「僕は、レン君と一緒に年を重ねていけるなら、それだけで幸せだよ」
花が舞っているように見えた。頬を染め、うっとりと瞳を細める皆の周りでほわほわと。
嬉しそうな笑顔に俺まで嬉しくほっこりしてくる……って和んでる場合じゃなかった。
「ちょっ……まだ、俺、何も……」
待ったをかけようとした俺の手を、キョウヤさんが握り締める。
「私のことが、好きなんだろう?」
「それは……そう、ですけど……」
怯んだ俺を見て好機だと思ったのか、ヒスイが、コウイチさんが、ダイキさんが、アサギさんが、次々と畳み掛けてきた。
「側に居てくれるんだよね?」
「俺を、俺達を愛してるんだろう?」
「ずっと一緒だよね?」
「……駄目かい?」
「う……」
レン……レン君、と皆が呼ぶ。好きな人達の寂しそうな声を、縋るように見つめる五色の眼差しを、突っぱねるなんて出来る訳がなかった。
「あー……もうっ! 俺も男です! 皆まとめて幸せにしてみせますよっ!」
途端に皆の顔が綻んで、ぱあっと輝き出す。抱きつかれ、撫で回されている俺を、博士が笑いながら見つめていた。
了
連日世間を騒がせていた男女無差別行方不明事件は、今やテレビやネットの話題に上ることはほとんどない。お国の圧力も関係してそうだけど。
すっかり平穏を取り戻した世界、けれども俺の生活は変わったままだ。
「……まさか、この年で就職先が決まっちゃうなんてなぁ」
「だね」
「しかも、三食個室部屋付きだよっ」
「安泰だな!」
困ったように笑うヒスイ、目を輝かせ指を三本ビシリと立てるダイキさん、得意気に分厚い胸を張るコウイチさん。当たり前のように皆が居てくれる日常に頬が緩んでしまう。
……あの時、目覚めた俺を出迎えたのは、明るい景色と泣きながら笑う皆だった。
古びた遺跡は中世の城内みたく様変わりし、厳ついけれども優しい顔をした男性が俺に頭を下げてきた。
続けて彼に寄り添っていた、キョウヤさんにそっくりな綺麗な女の人。そして二人を慕うように囲んでいた人々も、泣きながら俺に微笑んだ。
そう、俺達は掴み取ったんだ。邪神を封印するだけでなく、世界の為に身を捧げていたセレネさん達を助け出すことが出来たんだ。
ブライさん達の話によると、元々邪神は悪い神ではなかったらしい。負の感情に侵され過ぎたせいで暴走し、止むなく神と神子、守護者達が協力して封印したんだと。
激しい戦いによる傷で顕現出来なくなった神は最後の力を振り絞り、影の人々に恩恵を与えたらしい。因みに俺達がお世話になっていた輝石は、神様の亡き骸の欠片だったんだって。
それで恩恵、不老長寿のお陰で邪神の封印を守り続けていたんだけれど……後はブライさんに言われた通り。
俺達が全部忘れて暮らしている内に影の力が増していき、自分達の身を柱にするしか封印を保てなくなったんだって。そりゃあ何百年に渡って延々と国民を、大事な人を生贄にしてたらおかしくなっちゃうよな……
……くん? ……レン君?
「へ、あ、アサギさん?」
考え事をし過ぎたみたいだ。青い瞳が心配そうに見つめている。緑、赤、黄の三色も。
「何か、不安があるのかい?」
「……はい……変わらず皆と一緒に過ごせるのは嬉しいんです。不謹慎かも、ですけどね」
周りの空気が少し緩んだ気がした。
世界に平穏は戻った。でも、影の力が高まっていくのは止められない。世界から悲しみが、怒りが、苦しみが消えることはないんだから。
それで俺達は、未然に防いでいくことにしたんだ。
セレネさん達は、世界に生まれた負の感情を形にすることが出来る。影として生み出すことが。それを俺達が倒すことで影の力を増やさないようにしようって。
使命に専念する為に、俺達は正式に組織の一員になった。この施設で引き続き皆と暮らしていくことに決めたんだ。前と違って外出は自由になった分、余計に快適だ。でも。
「仕事も誇りに思います。ただ、俺達の後は……どうなるんだろうな、って……」
「人がいる限り負の感情は生まれる……か」
「どう頑張っても、いずれは戦えなくなっちゃうしね、オレ達」
白い室内に訪れる沈黙。それを破るみたいに、ポップでピンクな星柄の箱が置かれた。俺達が囲むテーブルのど真ん中に。
「心配するな。君がどの様な姿に生まれ変わっても、必ず私が探し出してみせよう」
「キョウヤさんっ」
「万が一の対策も、ちゃんと進めてるしね」
微笑んで俺の頭を撫でてくれた彼に続いて博士が部屋に入ってくる。我が物顔で箱を開けカラフルなアイス達の中からバニラを選び、スプーンを手に取り食べ始めた。
遠慮がないな。約束してもらった皆へのお詫びなんだから、当然の権利ではあるんだけどさ。目を瞬かせている皆をよそに、アサギさんが首を傾げる。
「対策とは何でしょう?」
「誰でも使える輝石の輝きを放つ武器の生産安定化と、光の力を高める研究さ。君達が生み出した愛の輝石に代わるね」
俺達を助けてくれた輝石は役割を果たしたかのように消えていた。その後生み出そうとしたけれど出来なかったんだ。
「成る程、俺達以外でも問題なく戦えるようになれば、生まれ変わりを見つける間の時間稼ぎになる」
「愛の輝石と同じのを作り出せたら、そもそも、戦わなくてもよくなるってことだよね!」
納得した様子のコウイチさんを補足するみたいに、ダイキさんがはいはいっと手を上げる。頷き微笑む博士が掬ったバニラを口に含んだ。
「……これで、少しは君の憂いを拭えただろうか?」
「はい、ありがとうございます。嬉しかったです……俺のこと、見つけてくれるって……」
博士の対策もだけれど、嬉しかった。どんな姿に生まれ変わってもっていう彼の約束が。
静かに跪いたキョウヤさんが、恭しく取った俺の手の甲に口づける。
「礼はいらないよ。愛する妻の為だからな」
「ふぇ?」
「「「「は?」」」」
重なった苛立ちを含んだ声と注がれる鋭い視線。そんなのは痛くも痒くもないと言いたげに、艷やかな黒髪を耳にかけ微笑む。
「ああ、大丈夫だよ。私は寛容だからな。君が緑山君達とも契を結ぼうとも構わない。歓迎するよ、家族として」
「え?」
今度は俺の番だった。困惑するのも、口を開けたまま固まってしまうのも。
「レンが……俺のお嫁さんに……」
「……いいな」
「賑やかで楽しそうだね!」
「僕は、レン君と一緒に年を重ねていけるなら、それだけで幸せだよ」
花が舞っているように見えた。頬を染め、うっとりと瞳を細める皆の周りでほわほわと。
嬉しそうな笑顔に俺まで嬉しくほっこりしてくる……って和んでる場合じゃなかった。
「ちょっ……まだ、俺、何も……」
待ったをかけようとした俺の手を、キョウヤさんが握り締める。
「私のことが、好きなんだろう?」
「それは……そう、ですけど……」
怯んだ俺を見て好機だと思ったのか、ヒスイが、コウイチさんが、ダイキさんが、アサギさんが、次々と畳み掛けてきた。
「側に居てくれるんだよね?」
「俺を、俺達を愛してるんだろう?」
「ずっと一緒だよね?」
「……駄目かい?」
「う……」
レン……レン君、と皆が呼ぶ。好きな人達の寂しそうな声を、縋るように見つめる五色の眼差しを、突っぱねるなんて出来る訳がなかった。
「あー……もうっ! 俺も男です! 皆まとめて幸せにしてみせますよっ!」
途端に皆の顔が綻んで、ぱあっと輝き出す。抱きつかれ、撫で回されている俺を、博士が笑いながら見つめていた。
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今のところ続きは予定しておりませんが、いいアイデアが浮かんだら書くかもしれません。その時に、よろしければ楽しんで頂けたら幸いです。ありがとうございます。