どうか、教えて下さい人間様(毎日更新中)

白井のわ

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怖くは……なかった、ですか?

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「不安に思われるかもしれません。ですが、どうか信じて下さい。皆様はご無事です。生きております」

 大丈夫ですから。本当に大丈夫ですから。そう何度も心配してくれるだけはあった。見せてもらった映像は、俺の胸を握り潰さんばかりに締め付けてくるものばかり。
 青い液体の中、眠っているかのように目を閉じている人々や動物達。海底に沈んでしまった遺跡や沈没船のように、青に染まった見慣れた街並み。俺の国では誰もが知っている建物やタワー、自慢の山、世界遺産。全てが青に沈んでしまっていて。
 それは海の外の国も変わらなくて。本当に全部が、世界があの液体の中に沈んでしまったんだなって。アイツも、その中に居るんだなって。

「大丈夫、生きてます」

 何で? どうやって?

「あれは、全てを確実に守る為のもの。物理的な干渉から、時間的な干渉すらも。あの中に居る限り皆様は何の影響を受けることはありません。中に収めた命や建物は決して害されることはありません」

 守るって、一体、何から? 何で、そうまでして。

「貴方が住んでいる星を、巨大な隕石の衝突により生じる壊滅的な被害から守る為です」

「壊滅的な、被害……?」

 目にしている世界の終わりが、頭の中で塗り替えられていく。地球に衝突する巨大な隕石。その衝撃により壊れていく街並み、逃げ惑う人々。映画か何かで見たような、人ひとりの力じゃあどうしようもない絶望的な光景へと。

「それって、つまり……地球は滅びるってこと、なのか? 隕石が原因で?」

「はい。正確には、星に住む生命の86%が滅びてしまう予定でした」

「はちじゅ……っ、んなの、ほとんどじゃ……」

 また、鼻の奥がツンと痛くなる。胸が苦しい。息が出来なくなってしまって……あれ?

「……予定、でした?」

「はい、すでに隕石は私の手で破壊しました」

「は?」

 あんなに止まらなかった涙が、ぴたりと止まっていた。

「私の手で握り潰しました。しっかりと、跡形もなく」

「……手、で?」

 彼の手を見る。離れているから、手袋に覆われているから正確には分からない。とはいえ、その大きさは人間の俺と変わらない。だというのに彼は、力強く頷いてみせた。

「はい。ですから、貴方の星……地球には、もう何の問題はありません。もし、確認したいのであれば、その時の映像をお見せしましょうか?」

「あ、ああ……見せてもらえるんだったら」

 すでに俺は色々とキャパオーバーだったのかもしれない。

「くっ……ふふ、はははははっ!」

 見せられたのは、本当に彼が言っていた通りの光景。月と同じくらいの大きさの隕石が、跡形もなく握りつぶされていく摩訶不思議な光景。
 ただし、俺の想像していた手ではなかった。白いロングコートの裾からヘビのように這いずり出て、大きく伸びた二本の腕は、広がった手は、まるで影のような。黒い手は、みるみる内に隕石と同じ、いや、隕石すらも簡単に握り込めるように大きく広がっていって。
 そうして、くしゃりと。紙くずでも丸めるかのような容易さで握り潰してしまったのだ。こんなの、面白くない訳がない。

「すっご! はははっ、あははは!」

「みゅっ、みゃうっ!」

 ふわふわなこの子にとっても楽しくて、スペクタクルな映像なのだろう。長い尻尾を振りながら、いけっ、そこだっ、と応援するように元気に鳴いている。

「だよな? スゴいよな? はははは!」

 涙が出るほど、腹が痛くなっても笑い続けている俺に話しかけてきたのは心配そうな声。

「あの……人間様……?」

 いまだに一定の距離を保ったままでいる彼に、俺はテンションはそのままに近付いてしまっていた。彼は肩を僅かに揺らして驚いたような素振りは見せたものの、距離を空けようとはしなかった。

「アンタ、スゴいなぁ! あんなにバカでかい隕石を、こう……ぐっと掴んで止めて、ぎゅーって! カッコよかったよ! 俺が想像していた手じゃなかったけどさ!」

「カッコいい……私が……?」

「ああ! ごめんな、ずっと疑って……アンタは俺達を、地球を守る為に、一人で頑張ってくれてたってのにさ」

 何で? どうして?
 あの青い液体が世界中に注がれていく様を、注がれた末の光景を、涙にくれながら何度も俺が問い詰めてしまっても、彼は大丈夫だと優しい声で宥めてくれていた。彼にだって思うところはあったろうに。ただただ寄り添ってくれていた。

 長身がそわそわと揺れている。行儀よくしていた手で、自身の腕を宥めるように撫でている。僅かに見えている口元が、何だか照れているようにも見えた。

「それは……ただ私は、私の仕事をこなしただけ、ですから……それよりも」

 開きかけていた口が、戸惑うように引き結ばれる。気になるが、急かしてしまわぬよう待っていると彼は小さく息を吐いた。静かに息を吸ってから、意を決したかのように口を開く。

「怖くは……なかった、ですか?」
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