どうか、教えて下さい人間様(毎日更新中)

白井のわ

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ところで、お腹が空きませんか?

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 ただただ疑問が深まっただけの俺に、彼はことの経緯を説明してくれた。

 曰く、あの液体が完全に固まってしまうまでには俺達の時間だと、まる一日はかかってしまうとのこと。
 すでに液体に浸かっている命は生命活動を維持したまま、液体に含まれている鎮静成分により穏やかな眠りにつくとのこと。だから、俺は、街の人達は落ち着いていられたんだろう。液体に触れるだけでも効果があるらしいから。
 そして、俺にとっては一番重要なポイント。液体の中に居るものは眠ってしまっていて動くことは出来ない。けれども完全に固まってしまう前ならば、中の生き物を取り出すことは出来るらしいとのことで。

「それで……隕石の破壊を無事終えた後、話し相手にって選んだ俺だけを助け出してくれたってこと……でいいのか?」

「はい……」

 だったら、他の人は。咄嗟に、そう思いはしたが。冷静に考えれば無理だということはすぐに理解出来た。
 もしも、俺以外の人々も助け出したところで、それぞれに説明が必要だし、住む場所も確保しなければいけない。なんせ、地球全体が液体に沈んだまま。元の生活に戻る為には、一ヶ月待たなければいけないのだから。

 ……現実的じゃないよな。

 俺一人に説明するだけでも、この有り様だ。群衆相手となれば不安や恐怖、疑念がより強くなるかもしれない。彼が助けてくれたんだって説明する前に、彼のことを敵だと見なしてしまうかも。

「ところで、お腹が空きませんか?」

「え? あ……」

 唐突な提案に驚きはしたものの、すぐに気が付くことが出来た。気遣ってくれているのだと。少しでも俺の気分が上向くようにと。

「ふふ、そうだな、お腹が空いたよ。出来れば、水ももらえると嬉しいな」

「はい! 食べ物とお水ですねっ、すぐに用意しますからっ」

 やっぱり、彼のすぐってのは瞬きの間で。白いテーブルとイスが、元からそこにあったかのように鎮座していた。
 嬉しそうな彼に促されるまま座れば、何も無かったテーブルに再び瞬きの間に、こぼれてしまうギリギリまで水が注がれたグラスが現れていて、そして。

「ビスケット? いや、携行食……か?」

「完全栄養食です!」

 自信満々な彼の言う通り、ほんのりと黄みがかった棒状のブロックのようなビスケットは、食事する暇すら無い時にお世話になった物と似ていた。
 試しに指で摘んでみても、固さといい、感触といいそれに近い。カロリーと一日に必要な栄養がお手軽に取れる物に。

「ビタミン、ミネラル、タンパク質、カルシウム、必須アミノ酸等々……人間様に必要な栄養を全て取れるようにしてみました! 合理的でしょう? 自信作です!」

「自信作ってことは、アンタがわざわざ作ってくれたのか? 俺の為に?」

「はい! 快適な暮らしの為に衣食住は大切だと兄さ、ほ、他の経験豊富な方々にお聞きしましたのでっ」

 ちゃんとカロリーも調整しております、きっかり男性の一食分ですよ、と彼は続ける。意気揚々と話してくれるその感じは、何だか幼い子供が初めての手作りを両親へと披露しているかのようで。

「ありがとう、いただきます」

「っ、どうぞ!」

 温かな気持ちのままひと口齧れば、サクリとした食感とは裏腹にホロホロと口の中で溶けていく。蜂蜜を使っているのだろうか。優しい甘さに心が和らぐ。飽きることなく食べ進められそうだ。
 その美味しさについ夢中になっていると、不安が滲んだ声が遠慮がちに尋ねてきた。

「お味は、いかがでしょうか?」

「ん……美味しいよ。程よい甘さで、サクサクしてて」

「良かった……」

 安堵の息と共にポツリとこぼれた一言が、きっと彼の素なんだろう。

 大事に頂こうとしたものの、思っていたよりはお腹が空いてしまっていたようだ。あっという間に食べ終えて、お水も二杯目をお代わりしてしまっていた。咀嚼回数的に満腹中枢は働いていそうもないが、しっかりと満たされている気がする。

 余裕が生まれたからだろう。良いことを思いついた。

「お礼に俺からもアンタに何か作りたいな」

「えっ」

「この部屋に、俺にとって必要な物を揃えてくれるって話だったよな? だったらさ、台所とか、冷蔵庫にレンジ……それから必要な食材とかってのも用意出来たり」

「みゃっ、みゃっ」

 ずっと大人しく膝の上で丸まっていたふわふわが、ひょいっと伸び上がった。小さな前足で俺の胸元ちょいちょい押しながら、ドングリみたいな目を輝かせている。

「もしかして……お前も食べたいのか?」
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