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貴方と、番になる為には
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お腹いっぱいで満足したのか、ふわふわは俺の膝の上で丸まっている。しばらくは長い尾をふよふよ揺らしながら、小さな口をあうっと開けて欠伸を繰り返していたか、口元についていた米粒を取ってあげている内にいつの間にか、ぷうぷうと寝息を立てていた。
彼もまた三度目のお代わりを終えて、のんびりとお茶を飲んでいる。俺もコップを手に取り、口を付けた。熱めのお湯で淹れたからか、まだお茶はほんのりと温かい。
それにしても、怒涛の一日だったな。
穏やかなひと時の中、自然と思い出されたのはここに来るまでの出来事。急に空が青く光ったかと思えば、シャボン玉の雨が降ってきて、それらからあの液体が出てきて、そして。
そう言えば、あの人影は? 俺と目が合ったのは、もしかして。
「……なぁ」
「はい」
「地球での任務についていたのって……アンタだけ、なんだろう?」
「はい、兄さ……他の方々は別の星を担当してます」
「ふぅん」
さっきも言いかけて誤魔化していたな。兄が居るって。俺には言いにくいことなんだろうか。そりゃあ、初対面ではあるけどさ。でも、一応、これからは話し友達として、一ヶ月過ごしていく仲にはなるだろうに。
何だか胸の辺りがモヤっとする。言いたくないのなら、仕方がないだろうに。
顔に出ていたのか、彼がどこか不安そうにしている。慌てて微笑みかければ、不思議そうにしながらも何も尋ねてはこなかった。
助かった。聞かれたところで俺にだって分からなかったから。何でモヤっとしていたかなんて。
気を取り直して、俺は気になることを尋ねてみた。
「じゃあ、あの液体を注いでいた時、空に浮かんでいたのもアンタなのか?」
「はい」
「……俺と……目が合ったのも?」
「っ……」
彼が音もなく、立ち上がる。変なことを聞いている自覚はあった。けれどもそこまで驚かれることだったとは。
「ごめん、別に大したことじゃ」
「気付いて、いたのですか?」
「え」
「私と目が合ったと、貴方も気付いていてくれたのですか?」
「ああ、そう、だけど?」
「そう、でしたか……そうだったんですね……」
噛み締めるように繰り返し呟きながら、彼は再び椅子へと腰を落ち着かせた。俺はというと、逆に落ち着かなくなってしまっていたんだけれども。
彼の様子を見る限り、どうやら驚いただけだったらしい。それもそうか。あんなに距離が離れていたんだし。隕石を簡単に潰せる彼ならまだしも、俺が見えていたなんて思う訳が。
もしかして、俺の勘違い? あのキレイな瞳も、気を失う前に見ていた幻だったり?
「あのさ、ちょっと、お願いがあるんだけど……」
「はい、なんでしょう?」
何だかご機嫌そうな様子の彼に、胸の辺りがちくりと痛む。でも、今更やっぱり何でもないだなんて。
「……嫌ならいいんだけど」
「……はい」
「そのフードを脱いで欲しいっていうか……アンタの目を、見せて欲しいんだ」
言い終えた瞬間から後悔していた。体験したことのある空気になってしまっていたから。自分の鼓動ばかりが大きく聞こえてしまう、静まり返った空気へと。
「あっ、いや……ごめんな、変なこと言っ」
馴染みのない温もりが俺の手を優しく掴んだ。白い手袋をしていなくても白い彼の手だった。
「見て、下さい……っ」
「え、あ……?」
思わず顔を上げていたところで、彼は勢いよくフードを外してみせた。
黒い髪がふわりと揺れ、目鼻立ちの整った顔が現れる。まるで人形のような。人並み外れた魅力を感じさせる顔立ちは、ただ単にカッコいいだけではなく美しいとも思ってしまっていた。
凛々しくも細い眉、長い睫毛、高い鼻、形のいい唇。そして、俺が見たいと思っていた瞳。何かを堪えるように細められた瞳は不思議な夜を、神秘的な宇宙の色を閉じ込めたようで。
心惹かれたあの瞳と変わらない。幻なんかじゃなかったんだ。
「……キレイだ」
「っ……」
驚きに見開かれた瞳が、またすぐに気恥ずかしそうに細められていく。その最中でも色が変わっていく。万華鏡みたいだ。他の色への黒の滲み方や、星々のような煌めき、グラデーションがかかった不思議な色合い。何ひとつ、同じものなんて見られない。
「やっぱり、キレイな色だな……」
息を呑むような音が聞こえてきて、俺の左右の視界の端に映ったのはぼんやりとした黒。
「お、わ……」
俯く彼が身に纏う、白いコートの裾から這い出ている長い影はあの映像で見たのと同じ。俺の手を握る手とは違う大きな手が、俺へと伸びてきていた。まるで、あの隕石みたいに俺のことまで握り込もうとしているみたいに。
悪い想像は浮かんでしまったが、不思議と恐怖は感じない。信じているのかもしれない。彼はそういうことはしないと。
だから俺は出来るだけ優しく尋ねてみた。
「……どうしたんだ?」
「……下さい」
「大丈夫、ゆっくりでいいよ」
彼はまだ顔を隠すように伏せたままだ。けれども、少しだけ彼の雰囲気が和らいだような。
「どうか……教えて下さい、人間様……」
「っ、ああ……俺で、教えられることなら」
「……どうすれば、いいですか?」
ゆるりと彼が顔を上げる。端正な顔は、やはり歪んでしまっていた。眉間にシワが刻まれ、頬はほんのりと赤く染まって。その様子は切羽詰まっているというか……何だか、緊張しているような?
震える唇が小さく開いた。
「貴方と、番になる為には」
「は?」
聞き慣れない単語が頭の中を駆け巡る。
「えーっと……つ、がい? ……つがいってーと」
「人間様で言うところの……夫婦、伴侶、生涯のパートナーです。私は貴方のそれになりたい。だから、どうか」
「わ、分かった。分かったから、ちょっと待って」
「教えてくれるのですかっ?」
何で俺は分かったなどと。前向きな言葉を、了承と取られても仕方がない言葉を口にしてしまっていたのだろうか。
不思議には思うものの、嫌な気はしていない。おまけに嬉しそうに表情を綻ばせた彼を見て、安心したどころか、何でか俺まで嬉しくなってしまっていて。
「あー……取り敢えず、自己紹介から始めないか? 俺もアンタも、まだお互いの名前すら知らないだろう?」
「あ」
まるで、今思い出したかのように彼は目を丸くした。やってしまったとばかりのその表情が、何だかとてもおかしくて。
「ふふ、俺は人吉海斗。カイトでいいよ。アンタは?」
つい笑ってしまっていたけれど、彼は全く気にしていない。俺の名前を何度も声でなぞっている。
なぁ、ともう一度呼びかけたところで、ようやく名前を教えてくれた。
「私は……アンスリウム……」
「あんす? ごめん、もう一回」
「リアムでお願いします」
食い気味に言ってきたのは、彼の兄さんとやらも呼んでいる愛称だろうか。とにもかくにも、随分と呼びやすくなったので有難い。
「分かった、リアムな。よろしく」
「よろしくお願いします。カイト様」
それで、番の件ですが。
都合よく忘れてくれることもなく。見つめてくる眼差しは期待と不思議な熱を孕んでいて。このままじゃあ、絶対にマズいのに目が離せなくて。
夢の中にいるふわふわが小さく鳴く。呑気で愛らしいその声が、不思議な緊張感が漂う部屋にぽつりと響いた。
彼もまた三度目のお代わりを終えて、のんびりとお茶を飲んでいる。俺もコップを手に取り、口を付けた。熱めのお湯で淹れたからか、まだお茶はほんのりと温かい。
それにしても、怒涛の一日だったな。
穏やかなひと時の中、自然と思い出されたのはここに来るまでの出来事。急に空が青く光ったかと思えば、シャボン玉の雨が降ってきて、それらからあの液体が出てきて、そして。
そう言えば、あの人影は? 俺と目が合ったのは、もしかして。
「……なぁ」
「はい」
「地球での任務についていたのって……アンタだけ、なんだろう?」
「はい、兄さ……他の方々は別の星を担当してます」
「ふぅん」
さっきも言いかけて誤魔化していたな。兄が居るって。俺には言いにくいことなんだろうか。そりゃあ、初対面ではあるけどさ。でも、一応、これからは話し友達として、一ヶ月過ごしていく仲にはなるだろうに。
何だか胸の辺りがモヤっとする。言いたくないのなら、仕方がないだろうに。
顔に出ていたのか、彼がどこか不安そうにしている。慌てて微笑みかければ、不思議そうにしながらも何も尋ねてはこなかった。
助かった。聞かれたところで俺にだって分からなかったから。何でモヤっとしていたかなんて。
気を取り直して、俺は気になることを尋ねてみた。
「じゃあ、あの液体を注いでいた時、空に浮かんでいたのもアンタなのか?」
「はい」
「……俺と……目が合ったのも?」
「っ……」
彼が音もなく、立ち上がる。変なことを聞いている自覚はあった。けれどもそこまで驚かれることだったとは。
「ごめん、別に大したことじゃ」
「気付いて、いたのですか?」
「え」
「私と目が合ったと、貴方も気付いていてくれたのですか?」
「ああ、そう、だけど?」
「そう、でしたか……そうだったんですね……」
噛み締めるように繰り返し呟きながら、彼は再び椅子へと腰を落ち着かせた。俺はというと、逆に落ち着かなくなってしまっていたんだけれども。
彼の様子を見る限り、どうやら驚いただけだったらしい。それもそうか。あんなに距離が離れていたんだし。隕石を簡単に潰せる彼ならまだしも、俺が見えていたなんて思う訳が。
もしかして、俺の勘違い? あのキレイな瞳も、気を失う前に見ていた幻だったり?
「あのさ、ちょっと、お願いがあるんだけど……」
「はい、なんでしょう?」
何だかご機嫌そうな様子の彼に、胸の辺りがちくりと痛む。でも、今更やっぱり何でもないだなんて。
「……嫌ならいいんだけど」
「……はい」
「そのフードを脱いで欲しいっていうか……アンタの目を、見せて欲しいんだ」
言い終えた瞬間から後悔していた。体験したことのある空気になってしまっていたから。自分の鼓動ばかりが大きく聞こえてしまう、静まり返った空気へと。
「あっ、いや……ごめんな、変なこと言っ」
馴染みのない温もりが俺の手を優しく掴んだ。白い手袋をしていなくても白い彼の手だった。
「見て、下さい……っ」
「え、あ……?」
思わず顔を上げていたところで、彼は勢いよくフードを外してみせた。
黒い髪がふわりと揺れ、目鼻立ちの整った顔が現れる。まるで人形のような。人並み外れた魅力を感じさせる顔立ちは、ただ単にカッコいいだけではなく美しいとも思ってしまっていた。
凛々しくも細い眉、長い睫毛、高い鼻、形のいい唇。そして、俺が見たいと思っていた瞳。何かを堪えるように細められた瞳は不思議な夜を、神秘的な宇宙の色を閉じ込めたようで。
心惹かれたあの瞳と変わらない。幻なんかじゃなかったんだ。
「……キレイだ」
「っ……」
驚きに見開かれた瞳が、またすぐに気恥ずかしそうに細められていく。その最中でも色が変わっていく。万華鏡みたいだ。他の色への黒の滲み方や、星々のような煌めき、グラデーションがかかった不思議な色合い。何ひとつ、同じものなんて見られない。
「やっぱり、キレイな色だな……」
息を呑むような音が聞こえてきて、俺の左右の視界の端に映ったのはぼんやりとした黒。
「お、わ……」
俯く彼が身に纏う、白いコートの裾から這い出ている長い影はあの映像で見たのと同じ。俺の手を握る手とは違う大きな手が、俺へと伸びてきていた。まるで、あの隕石みたいに俺のことまで握り込もうとしているみたいに。
悪い想像は浮かんでしまったが、不思議と恐怖は感じない。信じているのかもしれない。彼はそういうことはしないと。
だから俺は出来るだけ優しく尋ねてみた。
「……どうしたんだ?」
「……下さい」
「大丈夫、ゆっくりでいいよ」
彼はまだ顔を隠すように伏せたままだ。けれども、少しだけ彼の雰囲気が和らいだような。
「どうか……教えて下さい、人間様……」
「っ、ああ……俺で、教えられることなら」
「……どうすれば、いいですか?」
ゆるりと彼が顔を上げる。端正な顔は、やはり歪んでしまっていた。眉間にシワが刻まれ、頬はほんのりと赤く染まって。その様子は切羽詰まっているというか……何だか、緊張しているような?
震える唇が小さく開いた。
「貴方と、番になる為には」
「は?」
聞き慣れない単語が頭の中を駆け巡る。
「えーっと……つ、がい? ……つがいってーと」
「人間様で言うところの……夫婦、伴侶、生涯のパートナーです。私は貴方のそれになりたい。だから、どうか」
「わ、分かった。分かったから、ちょっと待って」
「教えてくれるのですかっ?」
何で俺は分かったなどと。前向きな言葉を、了承と取られても仕方がない言葉を口にしてしまっていたのだろうか。
不思議には思うものの、嫌な気はしていない。おまけに嬉しそうに表情を綻ばせた彼を見て、安心したどころか、何でか俺まで嬉しくなってしまっていて。
「あー……取り敢えず、自己紹介から始めないか? 俺もアンタも、まだお互いの名前すら知らないだろう?」
「あ」
まるで、今思い出したかのように彼は目を丸くした。やってしまったとばかりのその表情が、何だかとてもおかしくて。
「ふふ、俺は人吉海斗。カイトでいいよ。アンタは?」
つい笑ってしまっていたけれど、彼は全く気にしていない。俺の名前を何度も声でなぞっている。
なぁ、ともう一度呼びかけたところで、ようやく名前を教えてくれた。
「私は……アンスリウム……」
「あんす? ごめん、もう一回」
「リアムでお願いします」
食い気味に言ってきたのは、彼の兄さんとやらも呼んでいる愛称だろうか。とにもかくにも、随分と呼びやすくなったので有難い。
「分かった、リアムな。よろしく」
「よろしくお願いします。カイト様」
それで、番の件ですが。
都合よく忘れてくれることもなく。見つめてくる眼差しは期待と不思議な熱を孕んでいて。このままじゃあ、絶対にマズいのに目が離せなくて。
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