どうか、教えて下さい人間様(毎日更新中)

白井のわ

文字の大きさ
24 / 24

でなけりゃ、名残惜しいだなんて

しおりを挟む
「貴方に心配してもらえたので。貴方から気遣ってもらえた、少しでも私のことを考えてもらえた……その事実が嬉しくて堪らないのです」

「っ、お前なぁ……」

「私は大丈夫ですよ。私にとって今現在与えてもらえている仕事量は過度なものではありませんし、長時間でもありません。それに大変やり甲斐があるお仕事ですので」

 それって、やり甲斐搾取ってヤツなんじゃ。
 思いはしたものの、これ以上は俺が口を出せることじゃないだろう。だって、そもそも俺は知らないのだから。リアムのことも、彼が今までしてきた仕事のことも、何も。

「なら、良いけど……キツかったりしたら、ちゃんと相談するんだぞ? 同僚の人とかにさ」

「はい」

 ぷぅ、ぷぅ……と耳元で呑気な寝息が聞こえてくる。首元を温めてくれていたネモネは疲れてしまったのか夢の中にいるようだ。どうりで今まで随分と静かだったなと。
 眠気というものは移るものなのか、自然と俺も欠伸をしていた。そんな俺を見て、リアムがにわかに慌て出す。

「申し訳ございません、疲れてしまいましたよね? ただでさえ本日は、色々とお付き合いして頂きましたのに」

「はは、そんなのお互い様だよ。出来れば他の部屋も見てみたかったけど……」

「明日に致しましょう。カイト様には、ごゆっくりお休み頂かなければ……大切な、お約束もありますし……」

「そうだな。リアムに色んな味のドーナツ、食べさせてあげないとだもんな」

「はいっ、楽しみにしております」

 結局、ほんの僅かな滞在しか出来なかった彼の部屋を出て、来た道を手を引かれながら戻っていく。
 当たり前のように部屋まで送っていこうとしてくれている彼に対して、わざわざ悪いなという気持ちはあった。けれども帰るだけならと、俺一人でも大丈夫だからとは言えなかった。
 きっと心細かったんだと思う。いくらここが安全だって分かっていても。でなけりゃ、名残惜しいとは思わなかっただろう。この手をまだ離したくはない。後少しだけ握っていたいだなんて。

 彼に連れられながら戻ってきた部屋は、やはりまだ殺風景だった。
 一人分にしては十分に大きいベッド。俺の要望によって設置された台所に冷房庫。二人で囲むのには丁度いいテーブル、二脚の椅子。必要最低限とも言える家具しかまだ置かれていない部屋は暮らしていく分には問題ないだろう。居心地も悪い訳ではない。ただ、馴染みがないだけで。

 繋いでいた手が優しく離される。思わず追い縋るように掴みそうになっていたことに、無自覚だったとはいえ少し驚いた。

「では、お休みなさい、カイト様」

「お休み……リアム」

 扉が閉まる寸前、ふと振り向けば視線が交わった。けれども俺は何も言えなかった。彼もまた、何も言わなかった。

 扉が閉まり、彼の姿が完全に見えなくなる。静まり返った真白な部屋に残されたのは。

「みぅ……」

「ああ、ごめん、起こしちゃったんだな。大丈夫、大丈夫だよ……お前が居てくれるもんな」

「みぁっ」

 頬に擦り寄ってきてくれる柔らかな温もりを指先でそっと撫でる。ネモネは嬉しそうに鳴いて、もっと、もっとと擦り寄ってきてくれる。俺とは違う温度に触れているからだろう。ざわめきかけていた胸の内が少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「……とにかく寝るか。疲れてる時は、何か理由もなく落ち込んじまうもんな」

 賛成、とでも言ってくれているのだろうか。ネモネは、明るい声で鳴いてから俺の頬に擦り寄って、首元からするりと離れていく。小さな前足で白い床へと華麗に着地、ついさっきまで寝息を立てていたとは思えない素早さで、ベッドの上へと駆けていく。
 そこそこな高さも軽やかに飛び上がり、早々に辿り着いた枕元にてまた鳴いた。早く、こっちっ、とばかりに小さな前足で、てしてしとシーツを叩いてみせる。

「はいはい、今行くよ」

 首を長くして待つ。それを体現しているみたいだ。俺がベッドへと向かう間ネモネは後ろ足で立ちながら、そのどこからが首でどこからが胴体なのか分からない長い身体を更にぐっと伸ばしていた。

「ネコもスゴく伸びるらしいけど、お前もなかなかだな」

「みぅっ」

 どこまでこっちの言葉を理解しているんだろうか。ベッドに腰掛け、得意気に鳴いたネモネの頭を撫でる。布団の中に潜り込むと、ふわふわな彼は枕元で丸くなった。

「そういや、電気は……」

 どうやって消すんだろう。
 独り言を言い終わるよりも先に、何で明るさを保っているのか分からない部屋が程よく薄暗くなっていく。

「リアム、なのか?」

 高い天井へと向かって尋ねてみたものの、ファーストコンタクトの時とは違って返事は返ってはこなかった。

「……とにかくありがとう、助かったよ」

 聞いてはいないかもだけど。
 頭の中に浮かべた明日やることリスト。すでにドーナツを作る、他の部屋を案内してもらう、と書かれてあるそこへと、もう一つ付け加えておこう。電気の付け方、消し方を聞くって。

 視界から夜の訪れを知ったからか、薄ぼんやりとした眠気が這い寄ってきた。色々とあり過ぎた一日だったからな。今日は良く眠れそうだ。
 目を閉じて、思考も止める。柔らかな布地に包まれたことで始めて自覚しつつある倦怠感も、この眠気の背中を押して。

 ……くれなかった。
 眠たいのに眠くない。一番嫌な矛盾が起こってしまっていた。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

もくれん
2026.01.24 もくれん

不思議な世界観ですが、可愛い2人ですね!

とっても奥手?で臆病ですが、強そうなリアム

素直でまっすぐなカイト

この2人がどうなっていくのか楽しみです〜✨まだまだ秘密がいっぱいありそうな宇宙人?くんたちも活躍してくれるでしょうか🤭

2026.01.24 白井のわ

ありがとうございます! 楽しみにして頂けてとても嬉しく励みになります!

二人のこれからを見守って頂けると嬉しいです。他の皆も活躍させられたらなと思っています。

解除

あなたにおすすめの小説

副会長の青春は、恋とポンコツで出来ている。

さんから
BL
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。 こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。 ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

ストーカー後輩を放置できなくて矯正してたら、なぜか付き合うことになった

ささい
BL
教育学部の後輩・真白蓮は、俺にとって「流せる範囲の変な奴」だった。 目が合うと妙に嬉しそうで、困ったタイミングでやたら近くにいる。 偶然にしては出来すぎている。でも、追及するほどの根拠もない。 ——図書館でノートを拾うまでは。 『日向先輩動向ログ』 時間、場所、席の位置。俺の一日が几帳面に記録されていた。 普通なら距離を置く。けど真白の目に悪意はなかった。 あるのは、壊れそうなほど真っ直ぐな執着。 放っておいたら関係なく壊れる。だから俺が見ることにした。 「書くな。連絡しろ」 日向×真白(先輩×後輩)

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。