恋人は名探偵

409号室

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最終話 悲しい真実

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深夜の病室。

ゆっくりとドアノブが回り、ドアが開いた。

影は滑り込むように室内に入り込むと、ポケットから何かを取り出した。

それは、カーテンの隙間から覗く月光に、怪しく光るナイフだった。

影は大きく身体を震わせると、そのナイフを振り上げた。

「あんたのせいで!!由紀子は………由紀子は………ああああああっ!!」

耳障りな音を立てて、布団にナイフが突き刺さった。

が、その手応えは、あまりに「軽い」ものだったらしい。

「犯人」の戸惑いに答えるように、ナイフが抜かれたそこからは、羽毛が舞い散った。

「えっ!?何これ!?」

そう。「犯人」が突き刺したのは、布団の下に隠された枕だったのだ。


「待ってたよ。先輩」


そう声が上がると、暗闇の病室は一気に目映い光を取り戻した。

光に浮かび上がった相手を見据え、「犯人」は声を上げた。

「あ、あんたは!!」

「ごめんね。草野先輩。今、桜町先生は、安全なところにいるよ」

光はそう言ってベッドから起き上がると、「犯人」=草野先輩をその澄んだ瞳で、まっすぐに見据えた。

「なんですって………!?こ、この~!!」

そうナイフをかざした草野先輩だったが、

「きゃっ!!」

と声が上がると、銀色に光るナイフは、鋭い音を立てて、床を滑った。

それは、光の回し蹴りが綺麗に決まった結果だった。


ここは、桜町先生の病室。

今は、光が先生の身代わりで寝ていたんだけど。


「さすが、光ちゃん。ナイフだけを蹴り落とすなんて、上級技だねぇ~。ほれぼれするよ~!!」

「洋司さん!!本来こういうのは警察の仕事だろう!!光に何かあったら、どうするつもりだったんだよ!!」

「あ、ごめん」

僕はベッドの光に駆け寄った。

「光、怪我はないかい?」

「うん。大丈夫」

「こ………これは………」

草野先輩は、呆然とその場に立ち尽くしていた。

そんな彼女に光は言った。


「待ってたよ。先輩たち」


「えっ………?先輩たち………?」

「出てきてよ。先輩たち。いるんだよね?」

「な、何言ってるのよ………。あたし以外に………」

草野先輩の声に、被さるように聞こえた足音。

それに続いて現れたのは………。

「ええっ!?岡林先輩に………野上先輩まで………」

「美幸………!!晶子………!!なんで出てきたんだよ!!そのまま………逃げればよかったじゃないか!!」

「そんなこと、できないよ~!!」

「恵美さん………」

「ど………どういうことだっ!?」

混乱する洋司さんに、光は言った。

「どうもこうもないよ。先輩たちは、みんなで協力して、本木先輩を殺したんだ。そして、今、桜町先生も殺そうとしていた。………そうだよね?先輩」

「なっ………何を言ってるの!?あ、頭おかしいんじゃないの?こ、こんな人たち………あたし、知らないわよ。
あたしが………あたしが一人で桜町先生を殺そうとした。ただ、それだけよ!!」

「恵美!!」

「恵美さん!!」

悲鳴のような声を上げる岡林先輩と野上先輩から必死に目をそらしながら、草野先輩は叫んだ。

「うるさいわね!!あんたらなんて、関係ないったら!!ねえ!!刑事さん。さっさとあたしを逮捕しなさいよ」

「先輩………。もうやめようよ。こんなことしても、由紀子さんは喜ばないよ」

「う………うるさいわね!!あんたに何がわかるのよ!!だいたい………今、なんて言ったの?
私たちが本木由香里を殺した………ですって?ば、馬鹿みたい」

「そ、そうだよ。わたしたち、そんなこと、知らないよ~」

岡林先輩は、そう言って笑みを作った。

そんな様子を、野上先輩は悲しそうな目で見つめている。

「二人とも………」

「江木先輩の行為に報いようって思う気持ちはわかるよ。でも、真実を曲げちゃいけないんだよ?」

「ひ、光………これは一体………どういうことなんだ?先輩方は………仲が悪いんじゃないのか?」

「先輩達は、この犯行の為に普段から仲が悪いように見せかけていたんだよ。
本当は、先輩達はとても仲がいいんだ………。こうして、犯罪を共に行うくらいに」

「ば………馬鹿な………!!じゃ、じゃあ、き、聞かせてもらいましょうか?あんたがたどり着いた真実って奴をね」

「あの犯行は、偶然にかなり頼った部分があるんだよ。例えば、本木先輩がお化け屋敷に入らなかったら?とか、
もしお化け屋敷に人がいて、実際の犯行を目撃されたら?とか。そんな砂のお城みたいな犯罪、起こす人はまず、いない。
あのシチュエーションは、本当は偶然なんかじゃなくて、必然的につくられた舞台だったんだよ」

「舞台………?」

「そう。まず、本木先輩をけしかける役目を担ったのが、岡林先輩だよね?負けず嫌いな本木先輩に吹っかけて、お化け屋敷に誘い込む。
それが、先輩の役目だった」

「ううっ………。私………そんな………」

岡林先輩は、今にも泣き出しそうな顔で、後ずさった。

「野上先輩は受付係として、お化け屋敷の入場者の制限などを行ったんだよね。
もし、私達より先に入ってまだお化け屋敷に残っている人がいたら、犯行を目撃されるかもしれない。
そうなったら、カセットテープのアリバイとかぜんぜん機能しなくなっちゃうもん」

野上先輩は、怯えたように胸の前で両手を握り締めた。

「草野先輩は、江木先輩が私達と合流した後、先回りして遺体を運んだんだよね?江木先輩のアリバイを作る為に………」

「そう言えば………草野先輩の声………最初の方であんまりしなかった!!」

「くっ………」

「もう、限界だよ!!私、耐えられない!!麻衣子に全部押し付けたまま、沈黙しているなんて!!」

岡林先輩が、そうキャンディボイスで叫ぶと、草野先輩が叱りつけるように叫び返した。

「馬鹿!!麻衣子がどんな思いで自殺したと思ってるんだよ!!あたしたちに迷惑がかからないようにだろう!?
あいつは全部の罪を抱いて死を選んだんだ!!あいつの思いに報いないでどうするんだよ!!」

「でも!!」

「もう………やめましょう?恵美さん」

「晶子!!」

「もう………全てを話して………楽になりましょうよ」

そう静かに微笑んだ野上先輩の目には、涙が光っていた。

「ね?」

「みんな………みんな馬鹿だよ………。馬鹿………。うっ………うっ………」

草野先輩は、そう言うと、泣き崩れた。

「麻衣子………ごめん………」







「その通りだよ………。本木由香里を殺したのは………あたし達だ………」

「ありがとう………。でも………まだ、役者は揃っていないよね?先輩」

「わ、私達が自白したのよ?他に………何があるってのよ!!」


突然開いたドア………そして、そこに立っていたのは………。


神鳥さんだった。


「緋美子!!どうして!!あんたは、今、警察にいるんじゃなかったのか?これくらい完璧なアリバイはないと思って、今夜決行したのに!!」

「まさか………飛天さん。今夜、私達が動くことを予想して?」

「やれやれ~。私たちの負けだね~。完敗だよ~。本木さんの時だって………評判の名探偵さんをアリバイの証人にしたら、
うまく行くと思ったのに………。裏目に出ちゃったもんね」

「本当ですね。悪いことはできないものです………。ちゃんと、真実を見据える澄んだ瞳の持ち主が、
ここにこうして存在しているんですから………」

「そうだね。えへへ………」

草野先輩は、大きくため息をつくと、観念したように言った。

その顔も声も、先ほどまでの怒りはなく、ただ悲しげながら、どこかほっとしたようなそんなものがにじみ出ている。

「あ~。参っちゃうなあ………。緋美子。あんたも一体どうしちまったんだよ。
あんたが計画したのに、なんで計画ぶち壊すような行動ばっかり………」

「ごめんなさい………。でも、私………きっと………こうなることを望んでいたんだと思うの………」

「えっ?どういうこと?」

きょとんとした岡林先輩に、神鳥さんは、

「私………今度の計画思いついて………つい、みんなに話してしまったこと………心のどこかで………きっと、後悔していたんだと思うんです………」

とうつむいた。

「緋美子さん………」

野上先輩が優しく神鳥さんの肩を抱いた。

「みんなを巻き込んでしまったこと………。私………私………」

「馬鹿………。あんたはどうせ、一人でもやるんだったんだろう?悔しい思いをしたのは、緋美子。あんただけじゃないんだ。
あたしたちだって、許せなかったから参加したんだよ。あんただけの責任じゃないって」

「恵美………」

「そうですわよ。連帯責任。いつだって私達、一緒だったじゃないですか。ずっと………ずっと昔から………」

「そうだよ~。緋美子ぉ~」

「どういうことだい?神鳥さんもこの犯行に加担していたっていうのかい?
えっと………じゃあ、犯人は江木君も入れて………ご、五人!?」

これは………この事件は、江木先輩と「四美神」全員による犯行だったのか………!!

「そうです………。私も犯行に参加していました。いいえ。
私がこの犯行を計画し、みんなに………。全部………私の責任なんですわ」

「そんな………」

僕は言葉を失っていた。

「そして………すみません。………桜町先生を突き飛ばしたのは………私です」

「どうして、そんな真似を………」

野上先輩は、そう言うと唇を噛んだ。

恐らく、この件も当初の計画では予定されていなかったのだろう。

「もうこれ以上………みんなに罪を犯して欲しくなかったんです………」

「緋美子………」

「神鳥さん………。どうして………。どうして君がこんなことを……」

僕の問いかけに、彼女はふと寂しげに微笑むと、

「私、あの日………偶然聞いてしまったんです」

と視線を泳がせた。

まるで、過去の何かを辿るように……。







学校の屋上。

神鳥緋美子は、休学前からここでよく一人の時間を過ごしていた。

学園長の娘である彼女に取って、自分の家の敷地内にある学園は、まさに庭であった。

だから、病気で休学した後も、よくここを訪れていた。

復学を一週間後に控えたその日も、彼女は一足先にその自分の特等席で、ただ風に吹かれていた。


その声が聞こえたのは、肌寒さを感じた彼女が、そろそろ戻ろうと立ち上がった時だった。


「まさか………あれが………郡さんだったなんて………」

「郡」という珍しい名字。突然、理不尽にも命を奪われた親友の名字に、緋美子は思わず反応していた。

そして、無意識のうちにフェンスの陰にさっと身を隠していた。

耳だけは、その声に集中させたまま。

声はクラス担任の桜町恵子と、クラスメイトである本木由香里のものだった。

「怖気づくのはおやめになって。先生。私、もともと郡さんが大嫌いだったんですの。せいせいしましたわ」

その瞬間、緋美子の身体が電流でも食らったかのように震えた。

「も、本木さん………。あなた………。まさか………」

「そうよ。私、あの人が郡さんだから、放っておいたのよ。だいたい、大事なバレエの発表会にあの人の為に遅れるなんて、
ナンセンスですわよ」

「そ、そんなっ!!」

「ね?先生も、あんな人のことで気に病むなんて、馬鹿馬鹿しいですわよ?ほほほほほ」

緋美子は、身体中の血が逆流するような激しい怒りを覚えた。

彼女にとって、感じたことのないその感情に、身体がガタガタと震えた。

そして、後から後から涙がこぼれた。

彼女は二人が屋上を立ち去った後も、ただフェンスの陰で涙を流し続けた。






「私………どうしても許せなかった………。由紀子を殺しておいてあんな………」

「それは、私たちだって同じだよ。緋美子。だから………。だから………」

草野先輩は、もうそこから先、言葉にできないようだった。

そんな彼女の言葉を引き取るように、野上先輩が静かに続けた。

「私たち………本当は幼稚園の頃からの友達なんです」

草野先輩は、必死に涙を拭うと言った。

「みんな、育った環境は違うけど、とても仲がよかったんだ。あたしたち………5人は………。由紀子は本当にいい奴だった………。
誰にでも優しくて………あたし、尊敬していたんだ。
あたし、どうしてもつんつんとしちまって………優しくなれない時があるから………。でも、由紀子はそんなあたしの内面もちゃんと理解してくれたんだ………」

「由紀子、事故の前、なんか好きな人できたらしくて………すごく喜んでたんだよ」

岡林先輩は、そう言うと、視線を落とした。

「高校卒業したら………結婚するって、幸せそうに言ってたんです。相手のことは何故か教えてくれなかったんだけど………。
そんな………由紀子の命を………私………悔しくて………悲しくて………。そんな理不尽なことが………許されていい訳………ないじゃないですか!!」

そう涙ながらに声を上げる神鳥さんに、僕はただ、

「神鳥さん………」

と、彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。

「でも………私………とても苦しかった………。悟さんや、光ちゃんを欺くことが………」

そう言うと、神鳥さんはうつむいた。

「桜町先生の件でも………二人に嘘をつきました。私はまだ………目的を達成するまでは………
つかまる訳には行かなかったから………許してもらえるなんて………思ってません。
でも………。あなたたちと過ごした短い期間………本当に楽しかった………。とても………心が癒された………。ダメですよね。私………人殺しなのに………」

「神鳥さん………」

「ところで………飛天さん………本木由香里殺害の時………私は一体、どんな役割を担っていたと思いますか?」

神鳥さんは、そう優しく微笑むと、光を見据えた。

「緋美子ちゃんは、心霊が見えるフリをして、桜町先生を揺さぶる役目だったんだよね………
もし………怯えた桜町先生が警察に本当のことを言ったら………許すつもりだったんじゃないのかな?」

「なんでもお見通しですのね。飛天さん………」

そう言うと、神鳥さんは寂しげに、でも、どこか嬉しそうに微笑んだ。

「緋美子………。なんであの時、お前までお化け屋敷に入ったんだよ。
ちゃんと、他のところ回ってアリバイ作っておけって言ったじゃないか」

「私………みんなで………お化け屋敷とか………入ってみたかったの………。もう………仲が悪いフリとかするの………苦しかったから………」

「緋美子………」

神鳥さんは、涙を拭き、まっすぐに光を見据えると、にっこりと微笑んだ。

「飛天さん………こんな私でも………友達でいてくれます?」

「うん!もちろんだよ!!私、待ってるね。ずっと………ずっと。
それに、緋美子ちゃんには、こんなに素敵なともだち、いっぱいいるじゃない。だから、大丈夫だよね?やり直せるよね?」

「あ、ありがとう………」

神鳥さんの目に、再び涙が光った。

その時、洋司さんのスマホが鳴った。

「たった今、病院から連絡があって、江木君が意識を取り戻したって!!」

「ほんと!?」

光の顔に、ぱっと明るい笑みが上った。

「四美神」たちも、

「よかった………。よかったよ………うっ………うっ………」

「恵美~!!」

「みんな………」

と、声を上げて抱き合った。


こうして………この学校を舞台とした事件は終ったかに見えた。

が、翌朝………。


「大変だよ!!悟!!桜町先生が自殺したって!!」

そう学園一の地獄耳が、血相を変えて教室に飛び込んできた。

「なんだって!?」

僕たちは、警視庁の洋司さんのところに押しかけた。

「おお、悟。早いなあ」

「ああ。学校一の地獄耳のおかげでね。で、桜町先生………本当に………?」

「ああ。残念ながらね。恐らく………良心の呵責に耐えられなかったんだろう………。自分の引き起こした事故によって教え子たちがあんなことになって………」

「先生………」

感傷的になった僕の耳元で、突然光が声を上げた。

どうやら、鑑識の報告書を見ていたらしい。


「えっ?水差しから指紋が出なかったの?」

「あ?ああ、綺麗に洗って閉まってあったよ。それが………どうかしたかい?ぴかりん」

「桜町先生は自殺したんじゃないよ」

「えっ!?」

「事件はまだ………終ってなんかない」







「は~。いい天気だなぁ。おい、飛天に鏑木。俺を屋上なんかに呼び出して………。なんの話だ?ま、どうやら、日向ぼっこではなさそうだな」

ここは、屋上。

神鳥さんが、桜町先生と本木先輩の話を立ち聞きしてしまった場所。

いわば、今回の事件の発端とでもいうべき場所で、僕と光、そして風祭先生は対峙していた。

いつもと変わらず、柔らかな光の差し込むこの場所は、今日も静かに僕たちを包み込んでいた。


「桜町先生を殺したのは………先生だよね?」


光がそう声を上げると、風が一層強くなった。

それは、風祭先生の髪をさあっとかき上げていく。

「飛天………。何を言い出すんだ?桜町先生は自殺したんだろう?」

「自殺じゃないよ」

「ほぉ………。根拠は?」

風に吹かれた先生は、正面を見据えたまま尋ねた。

「水差し………綺麗に洗ってしまわれてた。自殺する人間はそんなことしない」

「なるほど………。それは………うっかりしたな。指紋が残るとまずいと思ったんだが………やれやれ………」

「せ、先生?」

僕はその「肯定」とも取れる返答に、戸惑いの声を上げた。

「何をうろたえてる。鏑木。お前は飛天を信じているんだろう?だったら、自信持っていいぞ」

「ええっ?」


「飛天の言う通りだ。俺が桜町先生を殺した」


「そんな………。ど、どうして先生が!?し、信じられない!!」

僕は思わず、声を上げていた。

頭が激しく混乱している。

それは、昨日、「四美神」と江木先輩の犯行を聞いた時とは、比べものにならないくらいのものだった。

クラス担任であり、生徒会の担当でもある先生が。

いつも僕たちを優しく、時に厳しく導いてくれていた先生が。

どうして?

僕の戸惑いを見透かすように、先生は答えた。

風に溶けてしまいそうなくらいに、儚げな笑みで。

「俺が教師だからか?それなら、とんだお門違いだ。教師だって人を殺す。違うか?」

「違う………そんな、そんな理由からじゃないです!!教えて下さい!!
どうして、先生が桜町先生を殺さなきゃならなかったんですか!!どうして………」

「草野たちと同じだよ………」

そう言うと、先生はうつむいた。

「俺も………郡由紀子がひき逃げされたことが………許せなかった一人だ」

「えっ………」


「俺は………郡を………由紀子を愛していた」


僕はだいぶ経ってから、声を上げていた。

「そ………そんな………」

「言っただろう?教師が恋しちゃいけないのか………と」

「あっ………」


そうか………。

郡由紀子さんは、卒業したら結婚すると言っていたらしい。

でも、親友の草野先輩たちにさえ、その相手を明かさなかった………。

それは………相手が風祭先生だったから………言えなかったんだ………。


「俺は………教師をやめて………あいつと結婚しようと思っていた。あいつの為なら、教師をやめてもいいと思っていた。信じられなかったよ………。あいつが………死んだなんて………体の一部が千切れるようだった。悲しくて苦しくて………どうにかなりそうだった。しかも………死因がひき逃げだって聞いて………身体が震えた。
どうしようもない怒りでな………。俺は必死で探した。
警察なんてあてになるもんか………。そうだ………司法の手になんて渡さない………。俺がこの手で殺してやる。そう思ったんだ。
正直………それが桜町先生と本木だったとわかった時には………本当に気が狂うかと思った。
まさか、自分の同僚として、生徒として笑っている奴らが………もっとも憎むべき罪人どもだったんだからな」

「本木先輩も………殺すつもりだったんですか?」

僕の問いに、先生はふと微笑んだ。

「ああ。そのつもりだった………だけど………先………越されちまったんだよ………。俺が全部背負い込んでやるつもりだったのに………先走りやがって………。ほんと、あいつらの元学級担任として、頭が痛くなる………」

「先生………」

「さてと………おしゃべりしすぎたようだな………。そろそろ、裁きの時間だ」

「えっ………?」

「いい風だな。気持ちよく飛べそうだ」

そう言うと、先生は心地よさそうに両手を広げた。

「先生………?」

「俺の罪は俺が自分で裁く」


それって、まさか!!


「前にも言ったが、飛天のこと泣かせたら、化けて出るからな?」


嫌な予感が頭を掠めた瞬間。


「大事にしてやれよ?」


先生は視界から消えていた。


「先生!!!!!」

慌ててフェンスにしがみついた僕。

「ぴかり~ん!ばっちりだよ!!ばっちり受け止めた~!!」

その陽気な声に慌てて下を見ると、ばかでかいマットレスの上で、洋司さんが手を振っていた。

「俺だってやるときゃやるのよ?OK?」

マットレスの中央では、狐につままれたような顔をした風祭先生がいた。


「もう、誰も死なせたりなんてしないもん!!」


「光………!!君、まさか、こうなることを予想して………」

「罪は生きて償わないとダメなんだよ!!ね?先生!!死んだりなんかしちゃ、だめだからね!!」

「ぷっ………ははははは………!!飛天………お前には負けたよ!!はははははは!!」


ふと見ると、光の目には涙が光っていた。

そして、思った。

そんな彼女が、堪らなく綺麗だと。

僕は思わず、光を抱き締めていた。

「え~?何~?悟~。苦しいよ~」

「光」


今、僕は心から言える。

君を好きになってよかったと。


「私………ようやくわかった。事件にかかわるっていうことは沢山の人の悲しみに触れることなんだね」

「光なら………人の痛みがわかる、暖かい名探偵になれるよ」

「ほんと?」

「うん。もちろんさ」

「わ~い!!ありがとう!!悟!!」

「よ。今回も大活躍だったな。名探偵」

「絵里奈!!」

「今回はうちもばっちりスクープもらったよ」

絵理奈は急に真顔になると、

「だけど、あたしは今回のこと………記事にする気はねぇよ」

と呟くように言った。

「えっ?」

「ま、スクープだけが大事なんじゃないんだな。それが………あたしにもようやくわかった………」

「絵里奈………」

「ははは。ま、これからも活躍してくれよ?今度こそ、記事にしないと、干上がっちまうからな」

そう絵理奈の明るい笑い声に、猛烈な勢いで開いたドアの音が重なる。

「待たせたなあ。光!!この前の事件では………ちょっと失敗したが、今度は完璧なロジックでお前をぎゃふん!!と言わせてやる!!覚悟しろ!!
さあ、早速、この推理クイズで勝負だ!!」

「は~。懲りない奴だなあ。大地~。お前も毎度毎度………」

「うるさ~い!!今度こそ、俺は最強の名探偵の座をお前から奪ってやるんだ!!はははははは!!」

「一生やってろ」

「ねえ、悟、大地。絵里奈ちゃん。みんなでこのお菓子の家、食べようよ」

そう言うと、体育館からこの生徒会室へ移動させた「お菓子の家」を指さした。

「お、いいねえ」

絵理奈と銀のシャープペンシルを一回転させたけど、僕と大地の顔は一様に引きつった。

「うわっ………。ま、マジかよ!?か、勘弁してくれよ。あ。俺………急用を思い出した………。ちょいと失礼するわ」

「えっ!?に、逃げるなよ!!藤堂君!!」

「俺、前にも言ったけど、お菓子関係はしばらくパス」

「うわっ!ちょっと!!僕だってこりごりだよ!!」


何せ、失敗作を一番食べさせられたのは、他ならぬ、僕なんだから!!


「じゃ、後は頼んだ。健闘を祈る」

そう言うと、大地は脱兎のごとくドアに消えた。

「藤堂く~ん!!」

「なんだよ。なんだよ。悟。見損なったぞ。愛しの恋人の作ったお菓子なんだろう?食べてやれよ」

「あのな~。絵里奈!!君は何にも知らないから!!」

「ほら、いいから。食べろよ。ほら。光。あたしが悟、押さえててやるから、しっかり食わせてやれ」

「うん。ありがとう!!」

「ひい~!!は、離してくれぇ~!!」

「ほら~。悟。口開けて。あ~ん☆」

「い、嫌だ~~~~~~~~!!」


END
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