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第20章
第567話 おとぎ話『黒き邪神の物語』 その2
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もう一つ気になることがある。
『ピュアドラゴン』って、二番目に記載されてるってことは多分種族名だよね……聞いたことない種族名だけど、どんなドラゴンなんだろう?
「あと、この『ピュアドラゴン』って何ですか?」
「真っ白い身体で、薄っすらと光を放っているドラゴンと伝承されています」
「伝承? フリアマギアさんは見たことはないんですか? 百年以上生きてるんですよね?」
「よくご存じで……年齢についてアルトラ殿にしゃべった覚えは無いんですが……」
「ヘパイトスさんに聞いたんで」 (第439話参照)
「ああ、あのヒトからバレたんですね……あのヒト一時期樹の国で働いてたことありましたからね……」
フリアマギアさんでも年齢気にするのかな……?
「それで、話戻しますけど見たことが無いんですか?」
「とても珍しいらしくて生息地すら正確な場所は掴めていません。ご存じの通り私は百年以上生きてますけどまだお目にかかったことがありません。空を飛んだりするところを見かけたことすら無いです。もしかしたら魔力を隠蔽して一般人に紛れてるのかもしれませんね。“珍しい”って一点だけでも余計な煩わしさとかあるでしょうし」
「白いのに『ホワイトドラゴン』ではないんですか?」
「『白色より白い』ということで『純白』の名を冠しています。ドラゴンなのにウロコに体毛が生えている珍しい種族で、その姿は荘厳で美しいそうですよ。体毛に耐魔効果があり、余程強い魔法でなければ反射してしまうとされています」
「じゃ、じゃあホワイトドラゴンって存在しないんですか? ホワイトドラゴンが光のドラゴンかと思ってたんですけど……」
「ホワイトドラゴンは氷の国に多く住む氷を操る能力を持つドラゴンです。透明に近いウロコに覆われていて光を乱反射するために白く見えるのだとか。暑いのが苦手だそうで、氷の国以外で目撃されることは滅多にありません」
ホワイトって氷のドラゴンなのか……
シロクマの体毛みたいな特徴を持つウロコだな。
何だかフレアハルトの真逆のようなドラゴンね。
「最初に七つの大罪『傲慢』を継承した『初代のルシファー』が、これまた滅多にお目にかかれない『ピュアドラゴン族』であるってところも、伝承を信じ切れない一因になってますね。あまりに目撃されないので現在では絶滅説すら出てますし」
百年生きてて見たことないんじゃ、本当に絶滅してるのかもしれないね……
「原典についても何せ一万年の昔のものなので、誰も確認しようがありませんから」
「なるほど……」
何か重要なことのような気がしてならない……
な~んて……
たかがおとぎ話一冊に何マジになってんだか……
作者が一万年前の作者って言ったって、きっとただのファンタジー小説でしょ。
……
…………
………………
…………いや、さっき声がかき消された現象があったし、カイベルに聞いて不安材料を消しておくか。
◇
図書館を後にし、我が家へと帰宅。
『黒き邪神の物語』を借りて帰ってきた。
「カイベル、『黒き邪神の物語』について聞きたいんだけど……」
「はい」
「それを書いたのって本当に初代ルシファーなの?」
「そうですね」
一万年前の話なのにアッサリ認めるんだな……
まあ、それは特段重要なことではない。
問題は、『黒き邪神の物語』が書かれた理由だ。嫌な予感が私の思い過ごしなら良い。
「何でルシファーが書いたの?」
「………………申し訳ありません、『書いた』ということ以外は私にも知り得ないようです。何らかの力で妨害されており、私が干渉できない力のようです」
干渉できない!?
「つ、つまり……神様関係ってこと?」
「恐らくは」
ってことは、この本に出てくる邪神ってもしかしてその神様のことを綴っている?
これ、創作じゃなくて事実なのか!?
堕天する前の七つの大罪たちと邪神のことをモデルに物語に仕立てたもの……とか?
これは……もう不安が的中してるとしか考えられないわ……
「この本って何のために綴られたか分かる?」
「初代ルシファーが想像を働かせて創作したようです。『何のため』という理由は……特に思い当たらないですね」
ファンタジー小説を書き綴ったのに、その理由が無いのか? そんなことある?
普通は自分の作った小説でみんなを楽しませたいとか、自身が書いてて楽しいとか、有名になりたいとか、そんなような何かしらの動機や理由があると思うんだけど……
「これを書こうと思い立った理由とか分からないの?」
「ルシファーの真意ですか? ……私にも分かりません。ご本人は『思いついた』と周囲の方に語っていたようですが……当時は空想小説自体が皆無であったため、周囲には大好評だったようです。何せ、地球で最古の空想小説は現在から三千八百年ほど前に書かれた『ギルガメッシュ叙事詩』ですから、それより更に六千年以上も前に遡るので」
まさか……本当に何も考えず、無意識に書いたものなのか?
「『思いついた』? 他に真意が分かりそうな言動は無かったの?」
「この物語については多くを語っておりません。私は心の中まで覗けるわけではないので、それ以上について何か思惑があったとしても私には知り得ません」
『心の中が覗けるわけではないから、ルシファーが何を考えてこの原典を書き綴ったかまでは分からない』……か。
そしてカイベルでも手掛かりを得られないと。
彼の生前の言動から推察するしかないが、当の初代ルシファーは周囲の者に『思いついた』としか発言しなかったためカイベルにも推測が不可能だということなのだろう。
「しかし、一万年も前ですと魔界でもまだまだ創作とはかけ離れた時代で、文明という文明も無かったまさに戦乱の時代です。まだ物語と呼べるものが作られていないこの時代において、いくら初代ルシファーが元熾天使とは言えここまで詳細に想像を働かせられるのも不思議なことではありますが……――」
創作や芸術分野って、争いごとが落ち着いてから発展していくものだしね……不思議と言えば不思議だ。
「――予想できることとしては、やはり現実に起こったこと、つまり自身が経験したことを題材として物語に仕立てた可能性が高そうです」
「なるほど、やっぱりそう予想できるわけね」
以上のことから、私が推察するなら……
もし初代ルシファーがこの物語を執筆した本人で、物語に出て来るルシフェルが彼が堕天する前の姿だとするなら、この執筆時点で既に堕天してしまっているから肉体の支配権が邪神側にあると仮定できる。
物語を書いたのは『初代』。この『初代のルシファー』というのがキーワードだろう。
もしかしたら堕天してもなおルシフェルだった頃の意識や意思のようなものがまだ残っていて、無意識下で『邪神のことを書き記しておかないといけない』と思った、とか……?
理由としては…………例えば、今後復活するであろう邪神の対策のためにとか?
ってことは……
つまり、フリアマギアさんの認識を歪めてる現象やカイベルの干渉を妨害してるのって、この邪神ってことにならないか?
少し飛躍し過ぎかしら?
それに、この原典と全くの無関係なら、なぜ彼ら七天使と七つの大罪の関係を発声しようとすると声がかき消されてしまうのかって疑問が残るし。
ん? 『支配権が邪神側』にある?
自分で考えておきながら、これっておかしいな……
「そもそも、どうなって堕天したの? 私の知ってる説は『傲慢にも神に逆らったから、堕天させられて地獄に堕とされて』って説なんだけど……」
なぜ神への忠義が厚かったルシフェルが手のひらを返したのか。
「残念ですが……それも私には把握できません。ただ、干渉可能な範囲までの歴史に依りますと、神に逆らって堕天させられたわけではないと考えられます」
「ってことは、別に理由があるってこと?」
「確定的に言えませんが、恐らく……。神域である天球の様子まで視ることはできませんが、少なくとも七天使がこの魔界に降り立った時点では、まだ天使の姿をしていますから七つの大罪に変貌したのはその後と考えて間違い無いかと」
ってことは邪神が関わってる……?
現時点で答えは出ないな……
「原典が各地でバラバラに発掘されるのに理由はあるの?」
「それについても分かりません。とある時期を境に徐々に徐々に持ち出され、各地で埋められたり捨てられたりしたようです」
「『とある時期を境』に『徐々』に持ち出されて『バラバラになった』? 埋める? 捨てる? 何でそんなことに?」
「分かりません」
「不思議な現象だね。何だか操られてるみたい。それらのヒトが操られてる形跡は?」
「表面上はありません、正常です。ただ無意識下で深層心理に深く入り込むような何らかの能力だとすると本人の意識の話になってきますので、私にも知る術がありません。二度言いますが操られてるような形跡は表面上確認できません」
ここでも『心の中まで覗けない』って弱点に引っ掛かっちゃうわけか……
「筆跡のブレについては?」
「ブレ……ですか?」
何だこの反応? カイベルが知らないのか?
「少々お待ちください、木簡を確認してみます」
少しの間停止。
「………………確かに、ところどころ筆跡がおかしいところがありますね」
「その反応ってことは、カイベルにも分からないわけね?」
「はい、こちらに関しても、当時の執筆中のルシファーが操られているような様子はありません。しかし、心の中までは覗けませんので……」
これに関しても『心の中』に当たるわけか……
もしかしたら筆跡のブレも、ルシェール本人と継承した『傲慢』の大罪のせめぎ合いの結果なのかもしれない。年代を遡れば遡るほど大罪の力は強力だったって言うし。
しかし、確定しないことだらけだな……神様関連はカイベルに聞いても解決しないからモヤモヤが残る……
これらの行動は、一体何を示唆しているんだろう……?
今はまだ分からないが……何か重要なことのような予感がする……
「あなたはこの邪神が本当に存在してると思う?」
「…………何とも言えません……」
神様関連のことで『禁則事項に抵触します』ではなく、何とも言えないって……
これはどんなことを意味してるんだろう?
『本当に想像だにできない』のか、『邪神が存在していて禁則事項であることをボカした』のか、『存在しているが干渉できないから分からないと言っている』のか。
いずれのことも憶測の域を出ない。
「う~ん……」
不安材料を消しておくはずが、自身で想像を働かせて、こんな結論に思い至ってしまった……
こんな本に注目するんじゃなかったな……不安な要素が増えてしまっただけかもしれない……
しかも、この推論が合ってる保証も無いのに不安だけが残ってしまうとは……
「そうだ、もう一つ聞き忘れてたわ。この物語の七人の聖戦士と七つの大罪の関係を口にするとかき消されてしまうみたいなんだけど、それについて何か分かることがある?」
「それについても何らかの妨害があり、干渉できません」
「マジ?」
もう邪神が実在すること確定じゃないかコレ?
きっと邪神にとって都合が悪いことを隠されてるんだ!
恐らくこの原典は邪神が復活した時のための導と予想できる。
ってことは原典をバラバラにばらけさせたのは、やはり著者が意図したものではなく、邪神の思惑で操られたヒトたちが処分したとしか考えられない。
まあ、これはカイベルが認識できない以上『操られていた』とも『操られていない』とも、どちらとも推測できるから説としては弱いわけだが……
が、木簡にフリアマギアさんにも確認できない何らかの魔法的処置が施されていて損壊できないから、せめて各地へバラバラに捨てて真相を隠そうとしたとか。これなら、彼女が語っていた『壊したり燃やしたりできない』という伝承とも辻褄が合うし、邪神が弱点を隠そうとする思惑とも合致する。
それを、『ブックマン』ってヒトが集めて編纂してしまったから、今度は約定魔法で七つの大罪と七天使の名前の関係が繋がらないように縛ったと、そんな予想だ。
「………………」
だが、ここまで深く推察してみたが、どれ一つとして確定的な証拠が無いから私の想像でしかない。
しかし、確かな事実が五つある。
『初代ルシファーが書いた本である』こと、
『魔界に来た時点で七人の天使はまだ天使の姿だった』こと、
『堕天前と堕天後の名前を関連付けようとすると声が消される』こと、
『カイベルを妨害できるナニカが存在している』こと、
『原典が不自然なほどバラバラな場所に展示されている』ことである。
前半二つはカイベルを創った私以外には知り得ないことだし、後半の三項目については何かを隠す目的を持っている。
これによって、今後邪神の復活のような何らかの出来事が発生すると予想される。
が、それは明日なのか、一年後なのか、それとも百年、千年後なのかは見当も付かない。
願わくば、邪神など存在せず、今の平穏な暮らしが続くことが望ましいが……
下手をしたら、生前と姿形の全く違う私のこの“奇妙な転生”は、邪神に関わりがある可能性すらある。
「そもそもコレって私が何とかできる程度のことなのかしら……? まあ……起こることが起こってから対処するしかないが……」
相手がどんな存在なのかも分からないため、対策も何も現状でこちらが打てる手なんて無い。
ただの私の思い過ごしで、杞憂という可能性だってある。
結局のところカイベルに聞いても何の解決にもならず、このしこりは私が忘れるまでの数日間、頭の中に残ることになってしまった……
『ピュアドラゴン』って、二番目に記載されてるってことは多分種族名だよね……聞いたことない種族名だけど、どんなドラゴンなんだろう?
「あと、この『ピュアドラゴン』って何ですか?」
「真っ白い身体で、薄っすらと光を放っているドラゴンと伝承されています」
「伝承? フリアマギアさんは見たことはないんですか? 百年以上生きてるんですよね?」
「よくご存じで……年齢についてアルトラ殿にしゃべった覚えは無いんですが……」
「ヘパイトスさんに聞いたんで」 (第439話参照)
「ああ、あのヒトからバレたんですね……あのヒト一時期樹の国で働いてたことありましたからね……」
フリアマギアさんでも年齢気にするのかな……?
「それで、話戻しますけど見たことが無いんですか?」
「とても珍しいらしくて生息地すら正確な場所は掴めていません。ご存じの通り私は百年以上生きてますけどまだお目にかかったことがありません。空を飛んだりするところを見かけたことすら無いです。もしかしたら魔力を隠蔽して一般人に紛れてるのかもしれませんね。“珍しい”って一点だけでも余計な煩わしさとかあるでしょうし」
「白いのに『ホワイトドラゴン』ではないんですか?」
「『白色より白い』ということで『純白』の名を冠しています。ドラゴンなのにウロコに体毛が生えている珍しい種族で、その姿は荘厳で美しいそうですよ。体毛に耐魔効果があり、余程強い魔法でなければ反射してしまうとされています」
「じゃ、じゃあホワイトドラゴンって存在しないんですか? ホワイトドラゴンが光のドラゴンかと思ってたんですけど……」
「ホワイトドラゴンは氷の国に多く住む氷を操る能力を持つドラゴンです。透明に近いウロコに覆われていて光を乱反射するために白く見えるのだとか。暑いのが苦手だそうで、氷の国以外で目撃されることは滅多にありません」
ホワイトって氷のドラゴンなのか……
シロクマの体毛みたいな特徴を持つウロコだな。
何だかフレアハルトの真逆のようなドラゴンね。
「最初に七つの大罪『傲慢』を継承した『初代のルシファー』が、これまた滅多にお目にかかれない『ピュアドラゴン族』であるってところも、伝承を信じ切れない一因になってますね。あまりに目撃されないので現在では絶滅説すら出てますし」
百年生きてて見たことないんじゃ、本当に絶滅してるのかもしれないね……
「原典についても何せ一万年の昔のものなので、誰も確認しようがありませんから」
「なるほど……」
何か重要なことのような気がしてならない……
な~んて……
たかがおとぎ話一冊に何マジになってんだか……
作者が一万年前の作者って言ったって、きっとただのファンタジー小説でしょ。
……
…………
………………
…………いや、さっき声がかき消された現象があったし、カイベルに聞いて不安材料を消しておくか。
◇
図書館を後にし、我が家へと帰宅。
『黒き邪神の物語』を借りて帰ってきた。
「カイベル、『黒き邪神の物語』について聞きたいんだけど……」
「はい」
「それを書いたのって本当に初代ルシファーなの?」
「そうですね」
一万年前の話なのにアッサリ認めるんだな……
まあ、それは特段重要なことではない。
問題は、『黒き邪神の物語』が書かれた理由だ。嫌な予感が私の思い過ごしなら良い。
「何でルシファーが書いたの?」
「………………申し訳ありません、『書いた』ということ以外は私にも知り得ないようです。何らかの力で妨害されており、私が干渉できない力のようです」
干渉できない!?
「つ、つまり……神様関係ってこと?」
「恐らくは」
ってことは、この本に出てくる邪神ってもしかしてその神様のことを綴っている?
これ、創作じゃなくて事実なのか!?
堕天する前の七つの大罪たちと邪神のことをモデルに物語に仕立てたもの……とか?
これは……もう不安が的中してるとしか考えられないわ……
「この本って何のために綴られたか分かる?」
「初代ルシファーが想像を働かせて創作したようです。『何のため』という理由は……特に思い当たらないですね」
ファンタジー小説を書き綴ったのに、その理由が無いのか? そんなことある?
普通は自分の作った小説でみんなを楽しませたいとか、自身が書いてて楽しいとか、有名になりたいとか、そんなような何かしらの動機や理由があると思うんだけど……
「これを書こうと思い立った理由とか分からないの?」
「ルシファーの真意ですか? ……私にも分かりません。ご本人は『思いついた』と周囲の方に語っていたようですが……当時は空想小説自体が皆無であったため、周囲には大好評だったようです。何せ、地球で最古の空想小説は現在から三千八百年ほど前に書かれた『ギルガメッシュ叙事詩』ですから、それより更に六千年以上も前に遡るので」
まさか……本当に何も考えず、無意識に書いたものなのか?
「『思いついた』? 他に真意が分かりそうな言動は無かったの?」
「この物語については多くを語っておりません。私は心の中まで覗けるわけではないので、それ以上について何か思惑があったとしても私には知り得ません」
『心の中が覗けるわけではないから、ルシファーが何を考えてこの原典を書き綴ったかまでは分からない』……か。
そしてカイベルでも手掛かりを得られないと。
彼の生前の言動から推察するしかないが、当の初代ルシファーは周囲の者に『思いついた』としか発言しなかったためカイベルにも推測が不可能だということなのだろう。
「しかし、一万年も前ですと魔界でもまだまだ創作とはかけ離れた時代で、文明という文明も無かったまさに戦乱の時代です。まだ物語と呼べるものが作られていないこの時代において、いくら初代ルシファーが元熾天使とは言えここまで詳細に想像を働かせられるのも不思議なことではありますが……――」
創作や芸術分野って、争いごとが落ち着いてから発展していくものだしね……不思議と言えば不思議だ。
「――予想できることとしては、やはり現実に起こったこと、つまり自身が経験したことを題材として物語に仕立てた可能性が高そうです」
「なるほど、やっぱりそう予想できるわけね」
以上のことから、私が推察するなら……
もし初代ルシファーがこの物語を執筆した本人で、物語に出て来るルシフェルが彼が堕天する前の姿だとするなら、この執筆時点で既に堕天してしまっているから肉体の支配権が邪神側にあると仮定できる。
物語を書いたのは『初代』。この『初代のルシファー』というのがキーワードだろう。
もしかしたら堕天してもなおルシフェルだった頃の意識や意思のようなものがまだ残っていて、無意識下で『邪神のことを書き記しておかないといけない』と思った、とか……?
理由としては…………例えば、今後復活するであろう邪神の対策のためにとか?
ってことは……
つまり、フリアマギアさんの認識を歪めてる現象やカイベルの干渉を妨害してるのって、この邪神ってことにならないか?
少し飛躍し過ぎかしら?
それに、この原典と全くの無関係なら、なぜ彼ら七天使と七つの大罪の関係を発声しようとすると声がかき消されてしまうのかって疑問が残るし。
ん? 『支配権が邪神側』にある?
自分で考えておきながら、これっておかしいな……
「そもそも、どうなって堕天したの? 私の知ってる説は『傲慢にも神に逆らったから、堕天させられて地獄に堕とされて』って説なんだけど……」
なぜ神への忠義が厚かったルシフェルが手のひらを返したのか。
「残念ですが……それも私には把握できません。ただ、干渉可能な範囲までの歴史に依りますと、神に逆らって堕天させられたわけではないと考えられます」
「ってことは、別に理由があるってこと?」
「確定的に言えませんが、恐らく……。神域である天球の様子まで視ることはできませんが、少なくとも七天使がこの魔界に降り立った時点では、まだ天使の姿をしていますから七つの大罪に変貌したのはその後と考えて間違い無いかと」
ってことは邪神が関わってる……?
現時点で答えは出ないな……
「原典が各地でバラバラに発掘されるのに理由はあるの?」
「それについても分かりません。とある時期を境に徐々に徐々に持ち出され、各地で埋められたり捨てられたりしたようです」
「『とある時期を境』に『徐々』に持ち出されて『バラバラになった』? 埋める? 捨てる? 何でそんなことに?」
「分かりません」
「不思議な現象だね。何だか操られてるみたい。それらのヒトが操られてる形跡は?」
「表面上はありません、正常です。ただ無意識下で深層心理に深く入り込むような何らかの能力だとすると本人の意識の話になってきますので、私にも知る術がありません。二度言いますが操られてるような形跡は表面上確認できません」
ここでも『心の中まで覗けない』って弱点に引っ掛かっちゃうわけか……
「筆跡のブレについては?」
「ブレ……ですか?」
何だこの反応? カイベルが知らないのか?
「少々お待ちください、木簡を確認してみます」
少しの間停止。
「………………確かに、ところどころ筆跡がおかしいところがありますね」
「その反応ってことは、カイベルにも分からないわけね?」
「はい、こちらに関しても、当時の執筆中のルシファーが操られているような様子はありません。しかし、心の中までは覗けませんので……」
これに関しても『心の中』に当たるわけか……
もしかしたら筆跡のブレも、ルシェール本人と継承した『傲慢』の大罪のせめぎ合いの結果なのかもしれない。年代を遡れば遡るほど大罪の力は強力だったって言うし。
しかし、確定しないことだらけだな……神様関連はカイベルに聞いても解決しないからモヤモヤが残る……
これらの行動は、一体何を示唆しているんだろう……?
今はまだ分からないが……何か重要なことのような予感がする……
「あなたはこの邪神が本当に存在してると思う?」
「…………何とも言えません……」
神様関連のことで『禁則事項に抵触します』ではなく、何とも言えないって……
これはどんなことを意味してるんだろう?
『本当に想像だにできない』のか、『邪神が存在していて禁則事項であることをボカした』のか、『存在しているが干渉できないから分からないと言っている』のか。
いずれのことも憶測の域を出ない。
「う~ん……」
不安材料を消しておくはずが、自身で想像を働かせて、こんな結論に思い至ってしまった……
こんな本に注目するんじゃなかったな……不安な要素が増えてしまっただけかもしれない……
しかも、この推論が合ってる保証も無いのに不安だけが残ってしまうとは……
「そうだ、もう一つ聞き忘れてたわ。この物語の七人の聖戦士と七つの大罪の関係を口にするとかき消されてしまうみたいなんだけど、それについて何か分かることがある?」
「それについても何らかの妨害があり、干渉できません」
「マジ?」
もう邪神が実在すること確定じゃないかコレ?
きっと邪神にとって都合が悪いことを隠されてるんだ!
恐らくこの原典は邪神が復活した時のための導と予想できる。
ってことは原典をバラバラにばらけさせたのは、やはり著者が意図したものではなく、邪神の思惑で操られたヒトたちが処分したとしか考えられない。
まあ、これはカイベルが認識できない以上『操られていた』とも『操られていない』とも、どちらとも推測できるから説としては弱いわけだが……
が、木簡にフリアマギアさんにも確認できない何らかの魔法的処置が施されていて損壊できないから、せめて各地へバラバラに捨てて真相を隠そうとしたとか。これなら、彼女が語っていた『壊したり燃やしたりできない』という伝承とも辻褄が合うし、邪神が弱点を隠そうとする思惑とも合致する。
それを、『ブックマン』ってヒトが集めて編纂してしまったから、今度は約定魔法で七つの大罪と七天使の名前の関係が繋がらないように縛ったと、そんな予想だ。
「………………」
だが、ここまで深く推察してみたが、どれ一つとして確定的な証拠が無いから私の想像でしかない。
しかし、確かな事実が五つある。
『初代ルシファーが書いた本である』こと、
『魔界に来た時点で七人の天使はまだ天使の姿だった』こと、
『堕天前と堕天後の名前を関連付けようとすると声が消される』こと、
『カイベルを妨害できるナニカが存在している』こと、
『原典が不自然なほどバラバラな場所に展示されている』ことである。
前半二つはカイベルを創った私以外には知り得ないことだし、後半の三項目については何かを隠す目的を持っている。
これによって、今後邪神の復活のような何らかの出来事が発生すると予想される。
が、それは明日なのか、一年後なのか、それとも百年、千年後なのかは見当も付かない。
願わくば、邪神など存在せず、今の平穏な暮らしが続くことが望ましいが……
下手をしたら、生前と姿形の全く違う私のこの“奇妙な転生”は、邪神に関わりがある可能性すらある。
「そもそもコレって私が何とかできる程度のことなのかしら……? まあ……起こることが起こってから対処するしかないが……」
相手がどんな存在なのかも分からないため、対策も何も現状でこちらが打てる手なんて無い。
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そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
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