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第17章 風の国ストムゼブブ『暴食』の大罪騒乱編
第494話 知らされるフレアハルトの悲報
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入院して三日が経過。
風の国首都ボレアース病室にて――
左腕は見た目には完全回復できたものの動きが悪い。とは言えきちんと指全部が動くから神経は回復できているようだ。あとは少しのリハビリか。
右腕と両太ももの傷はもう完治。既に歩けるようになっている。
ここに運び込まれて、起き上がれるようになった時にもう一度羽を出して再生できないか試してみたところ、何も起こらず……
気持ち、ほんの少しだけ再生力が上がったかな?程度。目立つからずっと出してるわけにはいかないし……
カイベルに聞くも――
「禁則事項に抵触します。それについてはご自身で理解してください」
――と言われてしまった……
「何かヒントとか貰えない? 自分で理解するにも何が何だかさっぱりなんだけど……」
「……では少々お待ちください」
何だ? 一点を見つめて動かなくなった……
「ではヒントだけ差し上げます――」
そして急に動き出す。
何だったんだろう今の間は……どこか分からんところにお伺いでも立ててたんだろうか?
「――病院と赤龍峰の違いは何でしょうか?」
は?
違いも何も、何もかも違ってて意味が分からないんだけど……
「そ、それだけ?」
「はい。あとはご自身でお考えください」
より分からなくなったわ……
「これってそんなに大事なことなの……?」
「大事……かどうかは私には判断付きませんが、私からはそれ以上言えることはありません」
ぐぬぬぬぬ……
◇
そんな時、フレイムハルトさんが病室を訪れた。
「アルトラ殿、ご機嫌いかがですか?」
「フレイムハルトさん! お蔭様で大分元気になってきましたよ!」
見舞いに来た割りには表情が暗い。
弟さんが一人で来ることに違和感はあったものの、その場の流れで――
「フレアハルトは一緒じゃないんですか?」
――と聞いたところ、その瞬間に表情が一層暗くなった。
「…………それが……」
フレイムハルトさんから、カゼハナで起こった赤アリとの戦闘の顛末を聞いた。
「フレアハルトが……行方不明……?」
「はい、我々は生きてると信じて捜索してきました。しかし兄上の消息が分からなくなってから三日間レッドドラゴン総出で探しましたが、未だ見つからず……場所が場所だけに我々しか入れないような高熱を放っていますので、人海戦術も使えません。既にマグマも冷えて固まって来ているので、このままでは身体すら見つけられないかもしれません……」
し……死んだ……!?
フレアハルトが死んだ……? しかも遺体も上がらない……?
「カゼハナは元々の火山のような溶岩地帯ではありませんので、タイムリミットは精々残り四日ほどといったところでしょう。それ以降は完全に溶岩が固まってしまい捜索はできなくなります。現在は風の国の空間魔術師にお願いして、赤龍峰のみんなを呼び寄せて捜索に加わってもらいましたが……望みは薄いかもしれません……」
「そう……ですか……」
ハッ! まさか三日前にアスタロトが言い淀んでたことってこれのことか……?
「では、私も引き続き兄上を探さなければなりませんので、早急ですがご報告だけで失礼します」
急ぎ早に出て行った……
病室に誰もいなくなったため、カイベルに質問する。
「そうだ! カイベルならフレアハルトの居る場所分かるよね!? 生きているの? 死んでるの?」
「…………分かりません……」
「分からない!? 『生きてる』とか、『死んでる』じゃなくて、『分からない』の!? もし気を遣って言ってるんならそんなのは無用だからはっきり言って」
「……本当に分からないのです。この冥球に居るかどうかすら定かではありません」
冥球に居ないかもしれない? どういうこと?
「赤アリと戦って生死不明になったってのは聞いてたよね? その後にどうなったのか分からないの? 何で冥球に居ないことになるの!?」
「申し訳ありません。赤アリとの戦闘により、赤アリとの戦闘以降のフレアハルト様のデータが取得できません。そのためフレアハルト様が現状どうなってるのか分からないのです」
「いや、だってあなたならデータは後からいくらでも取得できるんでしょ?」
天界だか宇宙の中心だかどこだか知らないところから、アカシックレコード的なやつ (※)でデータ取得してるはずだし。
フレアハルトのデータだけ取得できないってのはおかしい。
(※アカシックレコード:宇宙創世からのあらゆる情報が得られるとされている精神世界にある書庫のようなものと考えられています)
「いえ……フレアハルト様が赤アリと戦っていた辺りの時間歴データがポッカリ穴が開いたように取得できません。取得できないと言うか……アクセスできないと言った方が正確かもしれません」
穴が開いたように……?
「じゃあフレアハルトは、カイベルでも観測できないところに居るって言うこと?」
「居るかもしれませんし、居ないかもしれません」
さっきから何言ってるんだ? カイベルらしくないな……
「じゃあ、あなたが観測できないところの定義ってどうなってるの? この冥球でも『地獄』みたいな神域は無理だってのは以前聞いたけど、他にも条件があったりするの?」
「はい、私が個人を捕捉できない条件がいくつかあります」
「その条件ってのは?」
「一つ目は『死んでいる場合』。これは捕捉対象が神域に行ってしまうため、それ以降の行動は把握できなくなります。神域は『地獄』の他にも、『天球』……地球から見れば天国に当たる場所ですが、ここも神域の影響を受けているため観測できません。ただし、『死んでいる』という事実を知ることはできます」
「『死んでいる』事実を知ることはできるのに、フレアハルトが生きてるか生きてないか分からないの?」
「はい」
『知ることができる』はずなのに『分からない』って矛盾してる!
「何で!?」
「はい、それは順を追って説明します。まずは条件の続きを説明します。二つ目は捕捉対象が『魔力濃度地帯に居る場合』です」
「基本的なことを聞くようだけど、『魔力濃度地帯』ってなに?」
「その名の通り魔力が濃くなり過ぎた地帯ということです。そういう場所は特殊な魔石が発掘されたり、生物の進化が促されやすくなったり、通常は起こり得ないことが起こり易くなる場所……と言われています。また、濃い魔力に慣れが無い者が立ち入ると体調に異変をきたすなど、悪い影響が出ることがあります」
「なるほど、それでなぜその『魔力濃度地帯』では捕捉できないの?」
「私自身、アルトラ様の魔力によって創られた存在ですので、魔力が濃すぎる地帯に捕捉対象が居る場合、濃すぎる魔力がジャミング (※)のような役割をして捕捉しにくくなります。とりわけ『超濃度地帯』となっている場所は、百パーセントに近い確率で捕捉できません」
(※ジャミング:一般的には通信などを電波によって妨害することを指すようです。今回は妨害の意味で使っています)
「魔力超濃度地帯ってどこにあるの?」
「今この魔界には五つ存在しています。樹の国の『ユグドの大森林』――」
トリニアさんが話してくれた虹色の膜が見えたあの場所か。 (第320話参照)
そういえば『獣人はあそこから進化・発生した』みたいな話があったっけ。
「――土の国の『特殊鉱石採掘場』――」
あ~、これは多分ミスリル銀とかリダクティウム鉱石が採れる現場かな? (第279話や第379話参照)
魔石に特化した濃度地帯ってことかな?
「――氷の国の『永久氷晶地帯』――」
これはまだ聞いたこともないな……氷の国にも超濃度地帯があるのか。
「――そして、今回新しく出来た風の国の超濃度地帯です。女帝蟻と戦った『東ボレアース平原』とカゼハナの溶岩地帯化してしまった『カゼハナ盆地』です」
「女帝と戦ったあの平原も濃度地帯に変貌しちゃったの?」
「クレーターが出来ていた辺りを中心に超濃度地帯になっていますね。恐らく三人もの魔王が【魔王回帰】して高濃度に達する魔法を使ったことによって、超濃度地帯化してしまったのでしょう」
「カゼハナの溶岩地帯化してしまった盆地ってのはフレアハルトたちが戦ったっていう赤アリが出現したところ?」
「はい。元々は今回のジャイアントアント騒動で最初に女帝蟻が発見された巣穴があった場所ですね。巣穴周辺半径一キロほどが溶岩地帯化し、そこを中心に超濃度地帯になっているようです」
つまり、超濃度地帯化したことにより、フレアハルトたちと赤アリとの戦闘もカイベルの観測の範囲外になってしまったわけか。
「ただ、新しく出来た後者二つに関しては、すぐに魔力の拡散が行われ、数ヶ月から三年ほど経てば濃度地帯ではなくなるでしょう」
ってことは時が進めば、その場所の観測が可能になるってことか。
ん?
「ちょっと待って、平原も超濃度地帯って言ったけど、あなた気絶から覚めた時にデータ取得するような動きしてたじゃない! あの場でデータ取得してたんじゃないの!?」
「あの時はデータを取得しようとした際、エラーが出てしまって、私が気絶していた間にどんなことが起きていたのか知ることができませんでした。私の周囲に集まっていた方々の心配しているような表情と状況、そして救護部隊の方が仰った『蘇生した!』という一言から判断して、私がシステムダウンして仮死状態のようになっていたと結論付けました」
カイベルのデータ取得にもエラーを出すほどの高濃度の魔力ってことか。
「じゃあ『カゼハナ盆地』と『東ボレアース平原』はどの時点までデータ取得が可能なの?」
「『カゼハナ盆地』の方はフレアハルト様とフレイムハルト様が【インフェルノ・ブレス】を同時に放った直後まで、『東ボレアース平原』は女王お二人が【魔王回帰】した直後までですね。ここ以降は魔力が濃くなり過ぎてデータ取得できません」
フレアハルト、息袋に傷を負ってるって言ってたのに【インフェルノ・ブレス】使ったのか……それほどの強敵だったわけね。二人同時に放ったから濃度地帯化したってわけか。 (息袋については第430話参照)
「条件について話を続けますね。三つ目は『捕捉対象に魔力が全く無い場合』。これも私には捕捉できません。とは言え、この魔界に魔力が全く無い生物・物質というものは存在しませんので、捕捉できなくなる可能性は限りなく低いですが」
「ってことは、私が【魔力遮断】を使っている時には捕捉できていないってこと?」
「はい、そうなります。もっとも……その状態で移動すれば、周囲に漂う他の魔素を押しのけて移動するので、押しのけられた魔素の動きを分析すれば場所の特定くらいは可能ですが」
「あ、そうなの?」
これって魔力が無い者でも個人捕捉は可能ってことになるのかな?
でも、仮に魔力を遮断した部屋で何かをしていても、それをカイベルが知る術は無いってことか。そんなわざわざ隠して何かするようなことがあるのかは私には分からないが……
「そして最後に四つ目は『異次元に行ってしまった場合』です」
「異次元!?」
「はい、この世界には一応空間魔法で異次元に行った前例があります。 (第306話参照)そして以前お答えしたように、私には異次元で起こった現象を知る術はありません。つまり、フレアハルト様がこことは別の異世界に行ってしまっている場合は、生きていても死んでいても知る術がありません。もっとも……フレアハルト様は空間魔法の素養はありませんので、この推論は限りなく現実的ではありませんが……」
「そっか……」
条件を聞く限り、フレアハルトの生存は絶望的と言わざるを得ない……
樹の国は風の国の隣だから、『風の国に出来た超濃度地帯から樹の国の超濃度地帯まで飛ばされた説』に希望を見出したいところだが……数百キロも離れている場所へ飛ばされるとは考えにくい。
それに超濃度地帯を一瞬でも離れれば、飛ばされて行く間のフレアハルトを捕捉できるはずだからこの説も恐らく無い。
『異次元へ行ってしまった説』も、空間魔法の使えないフレアハルトがそんな次元を超える穴を作り出せるとは思えない。
「それで……一つ目の条件で“『死んでいる』という事実を知ることはできる”って言ったけど、超濃度地帯で死んだ場合であってもそれを知ることは可能なの? 不可能なの?」
ここでカイベルが『可能』と答えてくれれば、『死んでない』ことが確定するから希望が見えるが……
「はい、そのケースでは二つ目の条件が邪魔になります。今お伝えしたように超濃度地帯そのものが、私にとってブラックボックスになってしまいますので超濃度地帯での生死の判別は不可能です。もしそこで死んでいる場合、その後魂は、特別な未練が無い場合は遅くとも数日で神域に行ってしまうため、これもまた捕捉不可能となります。また、生きている場合でも超濃度地帯に居る限り捕捉できません。ですので現在フレイムハルト様やレッドドラゴンの皆様がカゼハナの溶岩地帯でどのように捜索に当たっているかも全く不明です」
つまりは『知ることは不可能』ってわけか……
ということは、三日も探して見つからないことを考えると、希望はほぼ無いに等しい……カゼハナの溶岩地帯に沈んでしまっているか……赤アリの攻撃で跡形も無くなっているか……
「何ヶ月か後に超濃度地帯でなくなった場合、そこにフレアハルト様のご遺体が埋まっているかどうかくらいは分かる日が来るとは思いますが、現時点では……」
聞いていて絶望的な感覚が身体を支配する。
「………………」
カイベルに聞けば希望があるかと期待していただけに、もうそれ以上は話すことができなくなってしまった……
「……いずれにしても、フレイムハルト様からの続報を待ちましょう」
「……ごめん、疲れたから寝るわ……」
風の国首都ボレアース病室にて――
左腕は見た目には完全回復できたものの動きが悪い。とは言えきちんと指全部が動くから神経は回復できているようだ。あとは少しのリハビリか。
右腕と両太ももの傷はもう完治。既に歩けるようになっている。
ここに運び込まれて、起き上がれるようになった時にもう一度羽を出して再生できないか試してみたところ、何も起こらず……
気持ち、ほんの少しだけ再生力が上がったかな?程度。目立つからずっと出してるわけにはいかないし……
カイベルに聞くも――
「禁則事項に抵触します。それについてはご自身で理解してください」
――と言われてしまった……
「何かヒントとか貰えない? 自分で理解するにも何が何だかさっぱりなんだけど……」
「……では少々お待ちください」
何だ? 一点を見つめて動かなくなった……
「ではヒントだけ差し上げます――」
そして急に動き出す。
何だったんだろう今の間は……どこか分からんところにお伺いでも立ててたんだろうか?
「――病院と赤龍峰の違いは何でしょうか?」
は?
違いも何も、何もかも違ってて意味が分からないんだけど……
「そ、それだけ?」
「はい。あとはご自身でお考えください」
より分からなくなったわ……
「これってそんなに大事なことなの……?」
「大事……かどうかは私には判断付きませんが、私からはそれ以上言えることはありません」
ぐぬぬぬぬ……
◇
そんな時、フレイムハルトさんが病室を訪れた。
「アルトラ殿、ご機嫌いかがですか?」
「フレイムハルトさん! お蔭様で大分元気になってきましたよ!」
見舞いに来た割りには表情が暗い。
弟さんが一人で来ることに違和感はあったものの、その場の流れで――
「フレアハルトは一緒じゃないんですか?」
――と聞いたところ、その瞬間に表情が一層暗くなった。
「…………それが……」
フレイムハルトさんから、カゼハナで起こった赤アリとの戦闘の顛末を聞いた。
「フレアハルトが……行方不明……?」
「はい、我々は生きてると信じて捜索してきました。しかし兄上の消息が分からなくなってから三日間レッドドラゴン総出で探しましたが、未だ見つからず……場所が場所だけに我々しか入れないような高熱を放っていますので、人海戦術も使えません。既にマグマも冷えて固まって来ているので、このままでは身体すら見つけられないかもしれません……」
し……死んだ……!?
フレアハルトが死んだ……? しかも遺体も上がらない……?
「カゼハナは元々の火山のような溶岩地帯ではありませんので、タイムリミットは精々残り四日ほどといったところでしょう。それ以降は完全に溶岩が固まってしまい捜索はできなくなります。現在は風の国の空間魔術師にお願いして、赤龍峰のみんなを呼び寄せて捜索に加わってもらいましたが……望みは薄いかもしれません……」
「そう……ですか……」
ハッ! まさか三日前にアスタロトが言い淀んでたことってこれのことか……?
「では、私も引き続き兄上を探さなければなりませんので、早急ですがご報告だけで失礼します」
急ぎ早に出て行った……
病室に誰もいなくなったため、カイベルに質問する。
「そうだ! カイベルならフレアハルトの居る場所分かるよね!? 生きているの? 死んでるの?」
「…………分かりません……」
「分からない!? 『生きてる』とか、『死んでる』じゃなくて、『分からない』の!? もし気を遣って言ってるんならそんなのは無用だからはっきり言って」
「……本当に分からないのです。この冥球に居るかどうかすら定かではありません」
冥球に居ないかもしれない? どういうこと?
「赤アリと戦って生死不明になったってのは聞いてたよね? その後にどうなったのか分からないの? 何で冥球に居ないことになるの!?」
「申し訳ありません。赤アリとの戦闘により、赤アリとの戦闘以降のフレアハルト様のデータが取得できません。そのためフレアハルト様が現状どうなってるのか分からないのです」
「いや、だってあなたならデータは後からいくらでも取得できるんでしょ?」
天界だか宇宙の中心だかどこだか知らないところから、アカシックレコード的なやつ (※)でデータ取得してるはずだし。
フレアハルトのデータだけ取得できないってのはおかしい。
(※アカシックレコード:宇宙創世からのあらゆる情報が得られるとされている精神世界にある書庫のようなものと考えられています)
「いえ……フレアハルト様が赤アリと戦っていた辺りの時間歴データがポッカリ穴が開いたように取得できません。取得できないと言うか……アクセスできないと言った方が正確かもしれません」
穴が開いたように……?
「じゃあフレアハルトは、カイベルでも観測できないところに居るって言うこと?」
「居るかもしれませんし、居ないかもしれません」
さっきから何言ってるんだ? カイベルらしくないな……
「じゃあ、あなたが観測できないところの定義ってどうなってるの? この冥球でも『地獄』みたいな神域は無理だってのは以前聞いたけど、他にも条件があったりするの?」
「はい、私が個人を捕捉できない条件がいくつかあります」
「その条件ってのは?」
「一つ目は『死んでいる場合』。これは捕捉対象が神域に行ってしまうため、それ以降の行動は把握できなくなります。神域は『地獄』の他にも、『天球』……地球から見れば天国に当たる場所ですが、ここも神域の影響を受けているため観測できません。ただし、『死んでいる』という事実を知ることはできます」
「『死んでいる』事実を知ることはできるのに、フレアハルトが生きてるか生きてないか分からないの?」
「はい」
『知ることができる』はずなのに『分からない』って矛盾してる!
「何で!?」
「はい、それは順を追って説明します。まずは条件の続きを説明します。二つ目は捕捉対象が『魔力濃度地帯に居る場合』です」
「基本的なことを聞くようだけど、『魔力濃度地帯』ってなに?」
「その名の通り魔力が濃くなり過ぎた地帯ということです。そういう場所は特殊な魔石が発掘されたり、生物の進化が促されやすくなったり、通常は起こり得ないことが起こり易くなる場所……と言われています。また、濃い魔力に慣れが無い者が立ち入ると体調に異変をきたすなど、悪い影響が出ることがあります」
「なるほど、それでなぜその『魔力濃度地帯』では捕捉できないの?」
「私自身、アルトラ様の魔力によって創られた存在ですので、魔力が濃すぎる地帯に捕捉対象が居る場合、濃すぎる魔力がジャミング (※)のような役割をして捕捉しにくくなります。とりわけ『超濃度地帯』となっている場所は、百パーセントに近い確率で捕捉できません」
(※ジャミング:一般的には通信などを電波によって妨害することを指すようです。今回は妨害の意味で使っています)
「魔力超濃度地帯ってどこにあるの?」
「今この魔界には五つ存在しています。樹の国の『ユグドの大森林』――」
トリニアさんが話してくれた虹色の膜が見えたあの場所か。 (第320話参照)
そういえば『獣人はあそこから進化・発生した』みたいな話があったっけ。
「――土の国の『特殊鉱石採掘場』――」
あ~、これは多分ミスリル銀とかリダクティウム鉱石が採れる現場かな? (第279話や第379話参照)
魔石に特化した濃度地帯ってことかな?
「――氷の国の『永久氷晶地帯』――」
これはまだ聞いたこともないな……氷の国にも超濃度地帯があるのか。
「――そして、今回新しく出来た風の国の超濃度地帯です。女帝蟻と戦った『東ボレアース平原』とカゼハナの溶岩地帯化してしまった『カゼハナ盆地』です」
「女帝と戦ったあの平原も濃度地帯に変貌しちゃったの?」
「クレーターが出来ていた辺りを中心に超濃度地帯になっていますね。恐らく三人もの魔王が【魔王回帰】して高濃度に達する魔法を使ったことによって、超濃度地帯化してしまったのでしょう」
「カゼハナの溶岩地帯化してしまった盆地ってのはフレアハルトたちが戦ったっていう赤アリが出現したところ?」
「はい。元々は今回のジャイアントアント騒動で最初に女帝蟻が発見された巣穴があった場所ですね。巣穴周辺半径一キロほどが溶岩地帯化し、そこを中心に超濃度地帯になっているようです」
つまり、超濃度地帯化したことにより、フレアハルトたちと赤アリとの戦闘もカイベルの観測の範囲外になってしまったわけか。
「ただ、新しく出来た後者二つに関しては、すぐに魔力の拡散が行われ、数ヶ月から三年ほど経てば濃度地帯ではなくなるでしょう」
ってことは時が進めば、その場所の観測が可能になるってことか。
ん?
「ちょっと待って、平原も超濃度地帯って言ったけど、あなた気絶から覚めた時にデータ取得するような動きしてたじゃない! あの場でデータ取得してたんじゃないの!?」
「あの時はデータを取得しようとした際、エラーが出てしまって、私が気絶していた間にどんなことが起きていたのか知ることができませんでした。私の周囲に集まっていた方々の心配しているような表情と状況、そして救護部隊の方が仰った『蘇生した!』という一言から判断して、私がシステムダウンして仮死状態のようになっていたと結論付けました」
カイベルのデータ取得にもエラーを出すほどの高濃度の魔力ってことか。
「じゃあ『カゼハナ盆地』と『東ボレアース平原』はどの時点までデータ取得が可能なの?」
「『カゼハナ盆地』の方はフレアハルト様とフレイムハルト様が【インフェルノ・ブレス】を同時に放った直後まで、『東ボレアース平原』は女王お二人が【魔王回帰】した直後までですね。ここ以降は魔力が濃くなり過ぎてデータ取得できません」
フレアハルト、息袋に傷を負ってるって言ってたのに【インフェルノ・ブレス】使ったのか……それほどの強敵だったわけね。二人同時に放ったから濃度地帯化したってわけか。 (息袋については第430話参照)
「条件について話を続けますね。三つ目は『捕捉対象に魔力が全く無い場合』。これも私には捕捉できません。とは言え、この魔界に魔力が全く無い生物・物質というものは存在しませんので、捕捉できなくなる可能性は限りなく低いですが」
「ってことは、私が【魔力遮断】を使っている時には捕捉できていないってこと?」
「はい、そうなります。もっとも……その状態で移動すれば、周囲に漂う他の魔素を押しのけて移動するので、押しのけられた魔素の動きを分析すれば場所の特定くらいは可能ですが」
「あ、そうなの?」
これって魔力が無い者でも個人捕捉は可能ってことになるのかな?
でも、仮に魔力を遮断した部屋で何かをしていても、それをカイベルが知る術は無いってことか。そんなわざわざ隠して何かするようなことがあるのかは私には分からないが……
「そして最後に四つ目は『異次元に行ってしまった場合』です」
「異次元!?」
「はい、この世界には一応空間魔法で異次元に行った前例があります。 (第306話参照)そして以前お答えしたように、私には異次元で起こった現象を知る術はありません。つまり、フレアハルト様がこことは別の異世界に行ってしまっている場合は、生きていても死んでいても知る術がありません。もっとも……フレアハルト様は空間魔法の素養はありませんので、この推論は限りなく現実的ではありませんが……」
「そっか……」
条件を聞く限り、フレアハルトの生存は絶望的と言わざるを得ない……
樹の国は風の国の隣だから、『風の国に出来た超濃度地帯から樹の国の超濃度地帯まで飛ばされた説』に希望を見出したいところだが……数百キロも離れている場所へ飛ばされるとは考えにくい。
それに超濃度地帯を一瞬でも離れれば、飛ばされて行く間のフレアハルトを捕捉できるはずだからこの説も恐らく無い。
『異次元へ行ってしまった説』も、空間魔法の使えないフレアハルトがそんな次元を超える穴を作り出せるとは思えない。
「それで……一つ目の条件で“『死んでいる』という事実を知ることはできる”って言ったけど、超濃度地帯で死んだ場合であってもそれを知ることは可能なの? 不可能なの?」
ここでカイベルが『可能』と答えてくれれば、『死んでない』ことが確定するから希望が見えるが……
「はい、そのケースでは二つ目の条件が邪魔になります。今お伝えしたように超濃度地帯そのものが、私にとってブラックボックスになってしまいますので超濃度地帯での生死の判別は不可能です。もしそこで死んでいる場合、その後魂は、特別な未練が無い場合は遅くとも数日で神域に行ってしまうため、これもまた捕捉不可能となります。また、生きている場合でも超濃度地帯に居る限り捕捉できません。ですので現在フレイムハルト様やレッドドラゴンの皆様がカゼハナの溶岩地帯でどのように捜索に当たっているかも全く不明です」
つまりは『知ることは不可能』ってわけか……
ということは、三日も探して見つからないことを考えると、希望はほぼ無いに等しい……カゼハナの溶岩地帯に沈んでしまっているか……赤アリの攻撃で跡形も無くなっているか……
「何ヶ月か後に超濃度地帯でなくなった場合、そこにフレアハルト様のご遺体が埋まっているかどうかくらいは分かる日が来るとは思いますが、現時点では……」
聞いていて絶望的な感覚が身体を支配する。
「………………」
カイベルに聞けば希望があるかと期待していただけに、もうそれ以上は話すことができなくなってしまった……
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「……ごめん、疲れたから寝るわ……」
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そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
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