527 / 591
第18章 発展のアルトラルサンズとその影編
第518話 アルトレリアに出来た小学校の内検 その3
しおりを挟む
次に訪れたのは家庭科室。
「ここは各机に水道とコンロ? 料理する部屋ですか?」
「そうだね。料理だけじゃないけど、主に家庭に関連する座学以外の実践的なことを学ぶ部屋かな」
「全員参加ですか?」
「その予定だけど……何か疑問でも?」
「いえ、わたくしは家のことには関わっていないので、嫌がる子とかもいるのではないかと」
「そりゃ居るかもしれないけど、それでも全員参加だね。子供の頃って何が自分に合ってるのか分からないし、幅広く何かを経験することで、自分に合うものが見つかるかもしれないしね」
「なるほど」
もっとも……大人になっても何が自分に合ってるか見つけられない人はそれなりに居るだろうけど……
「調理器具とかも後で取り揃えるのですか?」
「そうだね。それらが無いとこの部屋では何もできないからね。給食室同様に電子レンジやオーブンレンジも必要かな。開校までにきちんとしておかないと」
「その給食室を家庭科室にすることはできないのですか? そうすれば備品台も浮くのでは?」
「…………それだと子供たちの給食はどこで作るの?」
「そ、そうですね……」
「それに調理だけじゃなくて被服に関することとかもやるからミシンやら針やら裁縫道具も必要になってくる。衛生的な面を考えても給食室と一緒にはできないよ」
まあ、トロル族は免疫力もバカ高いから衛生的な面は多少無視しても大丈夫そうではあるが……
他国の家族が生活する国になってきた以上、その子供が通うことも想定される。トロル族以外の子の免疫力が高いかどうかは分からないから、やはり清潔にしておくのがベターだろう。
「しかし機械を沢山導入するとなると、それなりにお金がかかってしまうのでは? だとすれば給食の提供か家庭科室の備品のどちらかを削った方が良い気がしますが……?」
確かに……アルトラルサンズは新興国だし、まだまだ資金も潤沢にあるとは言えない。
多分『給食』が提供されるってところだけ見ても、旧トロル村のヒトたちにとっては一大事だろう。
が、
「その提案はもっともだけど、やっぱりここは削るべきところではない気がする。次世代を担う子たちを育てるのだから、ここを削るなら別のところを削ってでも、教育の方を重要視したいと思う」
「そこまでですか?」
「子供をきちんと育てられる環境でないと、国が滅びるからね」
「我々の常識からすれば、子供など放っておけば勝手に育って行くと思っていましたが……」
「まあ、勝手に育つことは育つと思うよ。栄養不足でも貧困でも食べられてさえいれば生きられるし、放っておいたって何とか子供なりに考えて生活しようとするし。でもリーヴァントは栄養不足で育ってみてどうだった?」
私のその返答に顎に手を当てて少しの間考え、
「………………あまり良いとは言えませんでしたね。生活環境も泥に塗れた環境でしたし。やはり多少発展したからには次世代にはそれなりの食生活を送らせるべきだと思います」
「でしょ? そういうわけだから、なるべくなら国政よりこちらを優先させて。とは言え最高級の備品を備えるなんて余裕も必要も無いから、最低限勉強に支障が出ないような環境整備を」
「分かりました」
家庭科室見に来て、こんな重い話をすることになるとは思わなかったな……
◇
次は音楽室。
「ここは何の部屋ですか?」
「音楽室だね」
「音楽を勉強するのですか? 音楽って勉強するものですか? 音楽なんて思い思いにその辺りにあるものを打ち鳴らすくらいのものですよね?」
ここって楽器が存在したことがないから、リーヴァントの認識はその程度ってわけなんだな。
「音楽ってのは実に幅広くてね、リーヴァントが言うような打ち鳴らすのももちろん音楽の一種なんだけど、弦楽器やら打楽器やら管楽器やら鍵盤楽器やらと沢山あるんだよ。それから、声楽や歌劇、オペラ、演劇を経て、テレビ映像、映画なんかでは効果音やBGMが創作され、果ては声優やら歌手やらバンドやらVtuberやらが生まれてくるまでに発展するんだよ」
「すみません、半分以上何を言ってるか分からないのですが……」
「まあ、要するに楽しいことは音楽から発生すると言っても過言ではないってことかな。つまりリーヴァントが知っている音楽はほんの小ぃ~~さな部分の更に狭い範囲の一部分ってわけ」
「はぁ……」
「以前水の国に行った時にどこからか音楽が鳴ってたりしなかった?」
「…………ああ! そういえば! 路上でも行く先々でもそれぞれ違う音楽が流れていました! あれが音楽! 我々が打ち鳴らすものとは大分違いますね!」
「そういうのを生み出せるように、子供の頃に音楽の基礎を勉強するのがこの音楽室ってわけ」
「なるほど! これは確かに我が国が発展するのに必要な気がします! ところで……ここに入った時から気になっていたのですが、壁中穴だらけですね……これには何の意味があるのですか?」
「音楽室って大きい音を立てるからね、この穴が発生する振動を軽減させてくれて防音になるのよ」
「ほぉ~、そんな機能が」
「まあ完全防音ってわけじゃないから、いくらかは外に漏れてしまうだろうけどね」
その“いくらか聞こえる音”までシャットアウトしてしまうと、『学校』での活動ではないみたいだし、完全防音にする必要は無いだろう。
多少は漏れてくれた方が音が聞こえた時に、『あ、音楽室使ってるな』って分かって、ちょっとワクワクするし。
「壁にかかってる深い緑色の板は何ですか?」
「え? 黒板だけど……」
「何に使うんですか?」
あ! このヒトまだ黒板を知らないのか!
この町って黒板よりホワイトボードの方が導入が先だったから!
役所で会議する時はホワイトボードだったもんな。
「児童たちからよく見えるように、あそこに先生が字を書いて勉強を教えるの」
「ホワイトボードと同じ用途ということですか? ホワイトボードではダメなんですか?」
「う~ん……線が細いから見えにくいんじゃない?」
「いや、この部屋程度の距離なら部屋の端からでも見えますよ!」
「そりゃ、あなたたちは目が良いから後ろに居ても見えるだろうけど……他の種族、特に都会から来た子たちは多分それほど目が良くないと思う。発展してる都市部ほど視力の低下は顕著だからね。黒板にチョークの方が線が太い分多少は見え易いと思う」
日本では最近ホワイトボードとスクリーンを併用することが増えたそうだが、そんなデジタル環境はまだ魔界のどこにも無い。
『デジタルを人間に伝えた悪魔がいない』 (第291話参照)ってところから考えるに、デジタル分野は地球の人間たちの方がいくらか先を行ってるらしい。
「この五本の線は何ですか? 邪魔では?」
五線譜を邪魔扱いするなよ……
「それは音楽の授業をするのに必要な要素だからそれで良いのよ」
「あ、よく見ればこの黒板左右に動きますね。中にもう一枚黒板が」
「中にある黒板は五線譜が無いから、普通の黒板として使える仕様だよ。さて楽器もまだ無いし次へ行きましょう」
◇
次は理科室。
「ここも各机に水道があるのですね」
「手に付いたら危ない薬品とかも扱うからね」
「子供が? まさか身体が溶けたりなんて薬も……?」
「使うよ」
「危ないじゃないですか!!」
「まあ流石に即座に命に関わるような薬は使わせないから。薬品が付いても洗い流せるように水道もあるわけだしね」
溶けるって言ったって、手にちょっと付いた程度なら洗い流せばせいぜいヒリヒリするくらいだし、小学生レベルで劇薬なんか使うわけないし。
まあ……服に塩酸がかかったのを知らずに生活してて、丸く破れてしまったって人が居たが……流石に肌に付いたら分かるだろうし。
「もう一つ部屋があるようですね」
「そっちは理科準備室だね。授業に使う色んなものを置いておく部屋」
――なんだけど……実はこの理科準備室、ほぼ入ったことがないから何があったかすらほとんど知らない。
確か……古いビーカーやら試験管やらが沢山置いてあったのは覚えてる。当時はさっさと捨てれば良いのにとか思ったこともある。
他には……人体模型があったな。あとホルマリン浸けとか。魚だかカエルだかを解剖したものが入ってた記憶がある。しばらく授業で使ってないのが丸わかりで、ホルマリン液が乾いて固まってちょっと汚くなってた記憶もあるわ……
私らの時にはどっちも授業で使わなかったから、『何のために置いてあるんだ? あれはいつ使うんだ?』とそれが授業に登場する日を楽しみにしてたけど……結局卒業まで使わず仕舞い。きっと時代にそぐわなくなって使わなくなったんだろう。
「あ、既に何か置いてありますよ」
「え? …………ああ、そういえば来年開校に向けてアクアリヴィアに発注した『理科教材セット一式』の一部が、手違いでかなり早く来ちゃったって言ってたっけ。これのことかな?」
「人形に見えますが……半分皮剥がされたようで、何だか気持ち悪い人形ですね。作るのに失敗しているようです」
「人体模型だね。サイズは私が見たことあるものより大分小さめだけど」
確かに……教材セットの資料には『人体模型』の文字があったはずだけど……
人体模型って普通1/1サイズとかじゃないんだろうか?
これはどう見てもフィギュアくらいのサイズしかない。まさか日にちだけでなく、発注までミスってる?
「おぉっ!? よく見ると複数ありますよ!」
「台座に名前書いてあるね。『亜人 (スタンダードタイプ)』……何だコレ……?」
スタンダードタイプ? 人体模型だけで複数あるのか?
こんなの聞いてないぞ?
「こっちに沢山あります。『人魚タイプ』、『人馬タイプ』、『人蜘蛛タイプ』、『人蛇タイプ』、『牛人タイプ』、『山羊人タイプ』、『羊人タイプ』、『鳥人タイプ』、『竜人タイプ』、その他にも様々な『獣人タイプ』などなど……」
「人体模型だけで何個あるのよ……」
どれもこれも内臓の位置やら数やらが全然違っている。中にはドラゴンの『息袋』 (第430話参照)のように人間には無い器官、牛人のように胃袋が複数あるタイプも……
この世界の人体の勉強って大変だわぁ……特に医者になろうってヒトはその違いにかなり苦労することだろう。
「あ、奥にまだ何かあるようですよ! 骨……ですね」
「骨格標本か……こっちも人体模型同様に小さめだわ」
あ! 何で1/1サイズじゃないのか今分かった。
魔界の亜人で人体模型を作ろうとするとそれぞれの種族ごとに身体の形が違い過ぎて、『人間』のように一つの生物として統括することができないんだ!
だから、身体構造の異なる種族ごとに作らざるを得なかったと。
そのため、沢山種類が作られてしまって置いておくスペースを大幅に取らなければならないから、小さめに作られているんだろう。
ってことは、この人体模型ってセット販売?
「でもこれを前の机に置かれたところで、目が悪い子は見えないし、目の良い子も見難いしで教材として適当かどうかは疑問だわ」
それに私個人の意見では正直、こんなに沢山要らんと思う……各種族の生態だけで年間の授業日数を消化してしまうよ……
まあ、子供からしたら自分の生態の見本が無いとガッカリするのかもしれないが……
などと制作の裏側を想像していたところ、説明書を見つけた。
「ん? あ、これ大きくなるんだ」
どうやら魔力を込めることで巨大化する特殊素材で出来ているらしい。
しかも空気で膨らむわけではないため、この模型そのままの形で縮尺だけ巨大化するようだ。
「なるほど、こうやって1/1サイズにするわけか。魔界には便利な物質があるもんだ」
用が済んだら台座のスイッチを押して魔力を放散させることで、元のサイズに戻るのだとか。
私が説明書を読んでる一方でリーヴァントは――
「ほぉ~~、人魚の骨ってこうなってるんですね」
――人魚の骨格標本を見て感心していた。
私も一緒に見てみたところ色んなことに気付く。
「凄い! 人魚って本当に人の上半身と魚の下半身が合体してるんだ!」
これは『人魚形態』の時の骨格標本らしい。骨盤から太ももの骨くらいまでは人と大した違いはないが、そこから先はくっ付いて一本の尾びれに集約している。よく見てみると魚のような縦の尾びれじゃなくて、イルカのような横の尾びれだと分かる。
ただ、魚やイルカの骨と違って太ももから下、尾びれへ繋がる骨全体に左右に分かれると思われる亀裂が入っている。多分、陸に上がった時にはこの部分が分かれて脚になるんだろう。
その他に、末端の尾びれに関しても通常の魚の骨とは違い、どこか人の足を思わせる骨組み。これも陸に上がると足に変形するためと思われる。
下半身全体を見た印象としては、『魚の骨とは似て非なるもの』という感じ。
見終わった直後にリーヴァントが人馬の骨格標本へ目を移したため、流石に時間のことを考えて声をかける。
「全部見てると遅くなっちゃうから次へ行きましょう」
「ああ、はい……」
「ここは各机に水道とコンロ? 料理する部屋ですか?」
「そうだね。料理だけじゃないけど、主に家庭に関連する座学以外の実践的なことを学ぶ部屋かな」
「全員参加ですか?」
「その予定だけど……何か疑問でも?」
「いえ、わたくしは家のことには関わっていないので、嫌がる子とかもいるのではないかと」
「そりゃ居るかもしれないけど、それでも全員参加だね。子供の頃って何が自分に合ってるのか分からないし、幅広く何かを経験することで、自分に合うものが見つかるかもしれないしね」
「なるほど」
もっとも……大人になっても何が自分に合ってるか見つけられない人はそれなりに居るだろうけど……
「調理器具とかも後で取り揃えるのですか?」
「そうだね。それらが無いとこの部屋では何もできないからね。給食室同様に電子レンジやオーブンレンジも必要かな。開校までにきちんとしておかないと」
「その給食室を家庭科室にすることはできないのですか? そうすれば備品台も浮くのでは?」
「…………それだと子供たちの給食はどこで作るの?」
「そ、そうですね……」
「それに調理だけじゃなくて被服に関することとかもやるからミシンやら針やら裁縫道具も必要になってくる。衛生的な面を考えても給食室と一緒にはできないよ」
まあ、トロル族は免疫力もバカ高いから衛生的な面は多少無視しても大丈夫そうではあるが……
他国の家族が生活する国になってきた以上、その子供が通うことも想定される。トロル族以外の子の免疫力が高いかどうかは分からないから、やはり清潔にしておくのがベターだろう。
「しかし機械を沢山導入するとなると、それなりにお金がかかってしまうのでは? だとすれば給食の提供か家庭科室の備品のどちらかを削った方が良い気がしますが……?」
確かに……アルトラルサンズは新興国だし、まだまだ資金も潤沢にあるとは言えない。
多分『給食』が提供されるってところだけ見ても、旧トロル村のヒトたちにとっては一大事だろう。
が、
「その提案はもっともだけど、やっぱりここは削るべきところではない気がする。次世代を担う子たちを育てるのだから、ここを削るなら別のところを削ってでも、教育の方を重要視したいと思う」
「そこまでですか?」
「子供をきちんと育てられる環境でないと、国が滅びるからね」
「我々の常識からすれば、子供など放っておけば勝手に育って行くと思っていましたが……」
「まあ、勝手に育つことは育つと思うよ。栄養不足でも貧困でも食べられてさえいれば生きられるし、放っておいたって何とか子供なりに考えて生活しようとするし。でもリーヴァントは栄養不足で育ってみてどうだった?」
私のその返答に顎に手を当てて少しの間考え、
「………………あまり良いとは言えませんでしたね。生活環境も泥に塗れた環境でしたし。やはり多少発展したからには次世代にはそれなりの食生活を送らせるべきだと思います」
「でしょ? そういうわけだから、なるべくなら国政よりこちらを優先させて。とは言え最高級の備品を備えるなんて余裕も必要も無いから、最低限勉強に支障が出ないような環境整備を」
「分かりました」
家庭科室見に来て、こんな重い話をすることになるとは思わなかったな……
◇
次は音楽室。
「ここは何の部屋ですか?」
「音楽室だね」
「音楽を勉強するのですか? 音楽って勉強するものですか? 音楽なんて思い思いにその辺りにあるものを打ち鳴らすくらいのものですよね?」
ここって楽器が存在したことがないから、リーヴァントの認識はその程度ってわけなんだな。
「音楽ってのは実に幅広くてね、リーヴァントが言うような打ち鳴らすのももちろん音楽の一種なんだけど、弦楽器やら打楽器やら管楽器やら鍵盤楽器やらと沢山あるんだよ。それから、声楽や歌劇、オペラ、演劇を経て、テレビ映像、映画なんかでは効果音やBGMが創作され、果ては声優やら歌手やらバンドやらVtuberやらが生まれてくるまでに発展するんだよ」
「すみません、半分以上何を言ってるか分からないのですが……」
「まあ、要するに楽しいことは音楽から発生すると言っても過言ではないってことかな。つまりリーヴァントが知っている音楽はほんの小ぃ~~さな部分の更に狭い範囲の一部分ってわけ」
「はぁ……」
「以前水の国に行った時にどこからか音楽が鳴ってたりしなかった?」
「…………ああ! そういえば! 路上でも行く先々でもそれぞれ違う音楽が流れていました! あれが音楽! 我々が打ち鳴らすものとは大分違いますね!」
「そういうのを生み出せるように、子供の頃に音楽の基礎を勉強するのがこの音楽室ってわけ」
「なるほど! これは確かに我が国が発展するのに必要な気がします! ところで……ここに入った時から気になっていたのですが、壁中穴だらけですね……これには何の意味があるのですか?」
「音楽室って大きい音を立てるからね、この穴が発生する振動を軽減させてくれて防音になるのよ」
「ほぉ~、そんな機能が」
「まあ完全防音ってわけじゃないから、いくらかは外に漏れてしまうだろうけどね」
その“いくらか聞こえる音”までシャットアウトしてしまうと、『学校』での活動ではないみたいだし、完全防音にする必要は無いだろう。
多少は漏れてくれた方が音が聞こえた時に、『あ、音楽室使ってるな』って分かって、ちょっとワクワクするし。
「壁にかかってる深い緑色の板は何ですか?」
「え? 黒板だけど……」
「何に使うんですか?」
あ! このヒトまだ黒板を知らないのか!
この町って黒板よりホワイトボードの方が導入が先だったから!
役所で会議する時はホワイトボードだったもんな。
「児童たちからよく見えるように、あそこに先生が字を書いて勉強を教えるの」
「ホワイトボードと同じ用途ということですか? ホワイトボードではダメなんですか?」
「う~ん……線が細いから見えにくいんじゃない?」
「いや、この部屋程度の距離なら部屋の端からでも見えますよ!」
「そりゃ、あなたたちは目が良いから後ろに居ても見えるだろうけど……他の種族、特に都会から来た子たちは多分それほど目が良くないと思う。発展してる都市部ほど視力の低下は顕著だからね。黒板にチョークの方が線が太い分多少は見え易いと思う」
日本では最近ホワイトボードとスクリーンを併用することが増えたそうだが、そんなデジタル環境はまだ魔界のどこにも無い。
『デジタルを人間に伝えた悪魔がいない』 (第291話参照)ってところから考えるに、デジタル分野は地球の人間たちの方がいくらか先を行ってるらしい。
「この五本の線は何ですか? 邪魔では?」
五線譜を邪魔扱いするなよ……
「それは音楽の授業をするのに必要な要素だからそれで良いのよ」
「あ、よく見ればこの黒板左右に動きますね。中にもう一枚黒板が」
「中にある黒板は五線譜が無いから、普通の黒板として使える仕様だよ。さて楽器もまだ無いし次へ行きましょう」
◇
次は理科室。
「ここも各机に水道があるのですね」
「手に付いたら危ない薬品とかも扱うからね」
「子供が? まさか身体が溶けたりなんて薬も……?」
「使うよ」
「危ないじゃないですか!!」
「まあ流石に即座に命に関わるような薬は使わせないから。薬品が付いても洗い流せるように水道もあるわけだしね」
溶けるって言ったって、手にちょっと付いた程度なら洗い流せばせいぜいヒリヒリするくらいだし、小学生レベルで劇薬なんか使うわけないし。
まあ……服に塩酸がかかったのを知らずに生活してて、丸く破れてしまったって人が居たが……流石に肌に付いたら分かるだろうし。
「もう一つ部屋があるようですね」
「そっちは理科準備室だね。授業に使う色んなものを置いておく部屋」
――なんだけど……実はこの理科準備室、ほぼ入ったことがないから何があったかすらほとんど知らない。
確か……古いビーカーやら試験管やらが沢山置いてあったのは覚えてる。当時はさっさと捨てれば良いのにとか思ったこともある。
他には……人体模型があったな。あとホルマリン浸けとか。魚だかカエルだかを解剖したものが入ってた記憶がある。しばらく授業で使ってないのが丸わかりで、ホルマリン液が乾いて固まってちょっと汚くなってた記憶もあるわ……
私らの時にはどっちも授業で使わなかったから、『何のために置いてあるんだ? あれはいつ使うんだ?』とそれが授業に登場する日を楽しみにしてたけど……結局卒業まで使わず仕舞い。きっと時代にそぐわなくなって使わなくなったんだろう。
「あ、既に何か置いてありますよ」
「え? …………ああ、そういえば来年開校に向けてアクアリヴィアに発注した『理科教材セット一式』の一部が、手違いでかなり早く来ちゃったって言ってたっけ。これのことかな?」
「人形に見えますが……半分皮剥がされたようで、何だか気持ち悪い人形ですね。作るのに失敗しているようです」
「人体模型だね。サイズは私が見たことあるものより大分小さめだけど」
確かに……教材セットの資料には『人体模型』の文字があったはずだけど……
人体模型って普通1/1サイズとかじゃないんだろうか?
これはどう見てもフィギュアくらいのサイズしかない。まさか日にちだけでなく、発注までミスってる?
「おぉっ!? よく見ると複数ありますよ!」
「台座に名前書いてあるね。『亜人 (スタンダードタイプ)』……何だコレ……?」
スタンダードタイプ? 人体模型だけで複数あるのか?
こんなの聞いてないぞ?
「こっちに沢山あります。『人魚タイプ』、『人馬タイプ』、『人蜘蛛タイプ』、『人蛇タイプ』、『牛人タイプ』、『山羊人タイプ』、『羊人タイプ』、『鳥人タイプ』、『竜人タイプ』、その他にも様々な『獣人タイプ』などなど……」
「人体模型だけで何個あるのよ……」
どれもこれも内臓の位置やら数やらが全然違っている。中にはドラゴンの『息袋』 (第430話参照)のように人間には無い器官、牛人のように胃袋が複数あるタイプも……
この世界の人体の勉強って大変だわぁ……特に医者になろうってヒトはその違いにかなり苦労することだろう。
「あ、奥にまだ何かあるようですよ! 骨……ですね」
「骨格標本か……こっちも人体模型同様に小さめだわ」
あ! 何で1/1サイズじゃないのか今分かった。
魔界の亜人で人体模型を作ろうとするとそれぞれの種族ごとに身体の形が違い過ぎて、『人間』のように一つの生物として統括することができないんだ!
だから、身体構造の異なる種族ごとに作らざるを得なかったと。
そのため、沢山種類が作られてしまって置いておくスペースを大幅に取らなければならないから、小さめに作られているんだろう。
ってことは、この人体模型ってセット販売?
「でもこれを前の机に置かれたところで、目が悪い子は見えないし、目の良い子も見難いしで教材として適当かどうかは疑問だわ」
それに私個人の意見では正直、こんなに沢山要らんと思う……各種族の生態だけで年間の授業日数を消化してしまうよ……
まあ、子供からしたら自分の生態の見本が無いとガッカリするのかもしれないが……
などと制作の裏側を想像していたところ、説明書を見つけた。
「ん? あ、これ大きくなるんだ」
どうやら魔力を込めることで巨大化する特殊素材で出来ているらしい。
しかも空気で膨らむわけではないため、この模型そのままの形で縮尺だけ巨大化するようだ。
「なるほど、こうやって1/1サイズにするわけか。魔界には便利な物質があるもんだ」
用が済んだら台座のスイッチを押して魔力を放散させることで、元のサイズに戻るのだとか。
私が説明書を読んでる一方でリーヴァントは――
「ほぉ~~、人魚の骨ってこうなってるんですね」
――人魚の骨格標本を見て感心していた。
私も一緒に見てみたところ色んなことに気付く。
「凄い! 人魚って本当に人の上半身と魚の下半身が合体してるんだ!」
これは『人魚形態』の時の骨格標本らしい。骨盤から太ももの骨くらいまでは人と大した違いはないが、そこから先はくっ付いて一本の尾びれに集約している。よく見てみると魚のような縦の尾びれじゃなくて、イルカのような横の尾びれだと分かる。
ただ、魚やイルカの骨と違って太ももから下、尾びれへ繋がる骨全体に左右に分かれると思われる亀裂が入っている。多分、陸に上がった時にはこの部分が分かれて脚になるんだろう。
その他に、末端の尾びれに関しても通常の魚の骨とは違い、どこか人の足を思わせる骨組み。これも陸に上がると足に変形するためと思われる。
下半身全体を見た印象としては、『魚の骨とは似て非なるもの』という感じ。
見終わった直後にリーヴァントが人馬の骨格標本へ目を移したため、流石に時間のことを考えて声をかける。
「全部見てると遅くなっちゃうから次へ行きましょう」
「ああ、はい……」
0
あなたにおすすめの小説
美化係の聖女様
しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。
ゴメン、五月蝿かった?
掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。
気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。
地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。
何コレ、どうすればいい?
一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。
召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。
もしかして召喚先を間違えた?
魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。
それでも魔王復活は待ってはくれない。
それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。
「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」
「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」
「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」
「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」
「「「・・・・・・・・。」」」
何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。
ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか?
そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!?
魔王はどこに?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
不定期更新になります。
主人公は自分が聖女だとは気づいていません。
恋愛要素薄めです。
なんちゃって異世界の独自設定になります。
誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。
R指定は無しの予定です。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる