建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編

第546話 『祓魔の鉄』が……!?

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 クジ引きが開催されている奥、『祓魔ふつまくろがね』が展示されている場所の近くに、塵や埃のようなものが集まり人の形を形成する。
 集まったちりはキツネの面を付けた細身の人物へと変化した。

「え?」、「何だ?」、「なに?」、「キツネのお面?」、「何だ突然?」
  「今……塵が集まってヒトに?」、「だ、誰?」、「突然現れたぞ?」
 「何であんなところに?」、「女のヒト?」、「精霊かな?」、「でも尻尾があるぞ?」
「獣人?」、「でも今精霊みたいに登場したけど?」「お~い、クジ引くならこっちだぞ?」

 突如出現した人物に、集まった訪問客らから口々に驚きや疑問の声を上げる。

「寺院側の演出じゃないよね?」
「俺は毎年来てるけど、そんな演出があった年なんてない!」
「様子が変だぞ?」

 そしていずれの者からも少し動揺の混じった声。
 そんな空気もよそに、そのキツネ面の人物は一言声を発する。

「すまぬが一刻を争うでな、この刀少々借りるぞ」

 キツネ面の人物は『祓魔ふつまくろがね』に向かって右手を伸ばす。
 その手は、そこに何も無いかのように展示クリアケースをどかすことなく通り抜け、中に展示されていた刀を難無くケース外へと取り出す。
 周囲に居た警備員も、突然の予想だにしない出来事に驚き一瞬対応の遅れが出た。

「ハッ! な、何してる! つ、捕まえろ!」
「逃がさん!!」

 屈強な二人の警備員がキツネ面の人物の肩と腕を両側からガッチリ掴んで拘束した。

「我が国の宝具を盗もうとするとは……このまま軍へ連行させてもらうぞ」

 キツネ面の人物は体格的にも細身だし、もう動くことができないだろう……そう考えていたが……
 次の瞬間、警備員二人に不思議なことが起こった。

「うおっ!」
「うわっ!」

 両側から拘束していた二人の警備員が交差するように数歩よろめきながら崩れ落ちるように転倒。左側で腕肩を掴んでいた警備員は右へ、右側で拘束していた警備員は左へと、よろけるように移動して、石畳の上にスッ転んだのだ!
 そして二人がよろめき倒れたにも関わらず、真ん中で二人に捕まれていたキツネ面の人物は奪った解呪刀を持ったまま何事も無いようにその場にたたずんでいた。

 転んだ警備員は『確かにガッチリ捕まえていたのに』とでも言いたそうな表情でキツネ面の人物を見上げている。
 転倒して体勢を立て直せていない警備員を見下ろし、キツネ面の人物は――

明日あすにはきちんとお返しするゆえ、案ずる必要は無い。では、御免」

 ――という一言を残して、身体が破裂。再びちりと化しこの場から綺麗さっぱり消え去った。
 まんまと解呪刀を持ち去られてしまったようだ。
 その場に居た全員が唖然……シンと静まり返った数瞬後、訪問客が騒ぎ出した。

「おい! 寺院、どういうことだ!」
「盗まれたんじゃないのか!?」
「警備員何やってんだ!!」
「今年は解呪の儀式やれないってこと!?」
「金返せ!」

 口々に叫ぶ訪問客に対し、僧侶はその返答に困っている。

「へ、返金には応じかねます……」
「み、皆様落ち着いてください……あ、明日にはお返しいただけるということですので……クジを続けましょう」

 この寺院側の一言に訪問客ヒートアップ。

「正気か? 戻って来る確証も無いのに?」
「そんな場合じゃないだろ!」
「一旦中止するのが筋じゃないか?」

 訪問客は口々に寺院の僧侶たちを罵倒する。
 一年に一回の大入りイベントの手前、すぐに中止するという判断が取れなかったのも無理もない。確かに七億の収入が消えるというのは……
 でも『僧侶がその対応で良いのか?』とは思うが。
 まあ仏教なんて無い世界だし、僧侶の定義が少々異なっているのかもしれない。

「そ、そうですね。ま、まずは警察と軍に届けましょう」

 事態をやっと把握したのか通報する方針に。
 それにしても軍にまで? 土の国の『宝具』だからか?

「刀無くなっちまったし、帰るか……」
「明日返って来る可能性があるなら、当たる可能性を信じてクジを引いておこうかな」
「せっかく当たり引けたのに……」

 そして諦めて帰ろうとする者、それでも戻って来ることを信じてクジを引こうとする者がいる。
 私はというと、クジの権利が行使できるかどうかの心配よりも、目の前で起こった『瞬時に現れて瞬時に消えた現象』に興味が湧きカイベルに小声で質問する。

「……今の何? 警備員さんたちがキツネ面のヒトをすり抜けて転倒したように見えたけど、砂の精霊とは違うよね?」

 普通の精霊とは魔力の質が違ってるように思えた。

「……はい、今の方は獣人ですね」
「……獣人!? そう言えば尻尾があった! でもとても獣人のような挙動じゃなかったけど?」
「……はい。あれは世にも珍しい物質系統に属する転移魔法です。自身の身体を分子レベルにまで分解し、転移先の現地で再構成する魔法です。刀が納められたクリアケースや警備員様たちがすり抜けたように見えたのも、キツネ面の方が自身の身体を一時的に分子レベルにまで分解しながら刀に手を伸ばしたためです。仮に名付けるなら『分解転移魔法』とでもしましょうか。空間転移魔法のように魔力残滓ざんしを辿る必要が無いため、その気になれば世界中のどこへでも瞬時に移動が可能です」
「身体をバラバラに分解!? 死なないの!?」
「……はい。上手く身体を再構成できなければ下手をすれば死んでしまいますし、再構成に失敗すれば周囲の分子を取り込んで混ざりあってしまうこともあります。ですので、使える者は滅多に居ません。洋画の『蛾男』という映画をご存じですか?」
「……観たことはないけど……さわりくらいなら知ってる」

 確か……『物質をバラバラに分解して別の場所に転送する研究』をしてた科学者が、自身の身体を用いた転送実験をした時にたまたま転送機械の中に一緒に紛れ込んでしまった蛾と融合してしまい『蛾男』になってしまうという話。蛾と融合してしまった科学者は、その後人格が徐々に消えていき最終的には人間に危害を加えるようになってしまっため秘密裏に処分されてしまうっていうホラー映画だったはず。
 放映時期には両親すら生まれてないから観たことなど無いため、詳しい内容までは知らないが……

「……下手をするとその『蛾男』のように自身の身体と別の物質との融合が起こってしまう転移魔法です。もし今のすり抜けで魔法が失敗していれば警備員様と同化していたかもしれません。扱いが極度に難しいため、使い手は恐らく物質の精霊様、それもかなり高位の能力を持つ精霊様くらいしかおられないかと思います。獣人でそれが可能なのは今ここから刀を盗んで行ったキツネ面の方しかいません」
「それ凄いね! かなりの実力者ってことじゃない?」
「そうですね」
「……それで、刀盗んで行ったのは誰なの?」
「……樹の国三大盗賊団勢力の一つ『霊獣旅団』の頭目『タマモ・ナインテイル・ゴルゼン』です。現在の名は『タマラ・ウェアフォクス・イリナリス』ですね」

 タイランテスに続いて樹の国の三大盗賊団の頭目と立て続けに遭遇するとは……

「何で名前が二つあるの?」
「『タマモ』の方は前世の名前で、『タマラ』の方は現在の名前です」

 ああ、一度死んでるから前世の名前があるのか。私と同じってわけね。

「……『ナインテイル』って……九尾の狐のこと? 『霊獣旅団』の頭目って言うと、一度死んで精霊化した獣人とかいうヒトだっけ?」
「はい」

 九尾の狐って、確か凄い大妖怪だったはず。
 ヒト種族からの精霊化は強い力を得るって聞いたし、精霊化しているから獣人でありながら分解転移なんて高度なことができる能力があるのか。
 エールデさんが、精霊化した生物は身体から微かに光を放ってるからすぐ分かると言っていたが、確かに身体の表面がちょっと光って見えた。 (『霊獣旅団』と精霊化した生物については第524話参照)

「……何でその盗賊団がこんなことをするの?」
「……それはあの方の――」

 カイベルとの話の最中、ナナトスから声がかかる。

「アルトラ様~、刀持ってかれたッスよ? これからどうするッスか?」
「我らで捕まえるか? カイベルの占いならヤツがどこへ行ったか分かるのではないか?」

 フレアハルトは捕まえる気マンマンだな。

「じゃあ、刀盗んでったヤツがどこへ行ったか占える?」
「はい、少々お待ちください」

 すると目を閉じて占うポーズ。

「…………ここから北東の方角ですね。第二首都から少し外れた場所にある、林に囲まれた大きなお屋敷です。土の国では珍しく木々の密集している場所ですのですぐに分かると思います」
「よし、じゃあ行って来る」
「アルトラ様、一言だけ申しておきます。黒は同期リンクしています」
「? 何のこと?」
「行けば分かると思います」

 私にだけ分かるように濁して伝えたのか?
 更に小声で、

「……アルトラ様の性格上、恐らく関わりになるかと思いますので覚えて行ってください」

 つまり、トラブルが待ってるわけなのね……

「何だ今の一言は?」
「さあ? 私にも何のことか分からない……」

 フレアハルトにも分からなかったってことは、私にだけ気付けるようにこの先に起こることを予想して伝えてくれたのかもしれない。
 飛び立とうとしたところナナトスからの質問。

「お、俺っちたちはどうすれば良いッスか!?」
「ごめん、なるべく早く取り返してくるから適当に時間潰してて! これを預けておくから自由に使ってくれて良い」

 換金してあったストルン通貨の入った財布を投げて渡す。十万ストルンに少し届かないってくらいは入ってるはずだから数時間くらい時間を潰すには十分な金額だろう。

   ◇

 カイベルが言うように北東へ飛び、林の中にある閑静な豪邸の上空に着いた。
 屋敷を見下ろしてフレアハルトが一言。

「でかい家だな。ここか?」
「『林に囲まれた大きな屋敷』って言うとここくらいしか無いしね」

 周囲を見回してみてもここ以外に家は無い。カイベルの言う『林に囲まれてる』という特徴も一致してるからこの屋敷で間違い無いだろう。

「嫌な雰囲気のある屋敷だな……魔力が淀んでおる……」

 フレアハルトも感付いているようだが、本当に嫌な気配のする豪邸だ。豪邸ながら絶対住みたくない。
 魔力感知すると屋敷から黒い魔力が流れ出てるのが見える……こんなにくっきり見えることは滅多に無いのだが……

「おい、門の前に見張りがるぞ。相当な金持ちなのではないか?」
「とりあえず気付かれる前に降りようか」

 屋敷の門から少し離れたところに着地。

「この家、ただごとではないな」
「みたいだね。犯人はこれを何とかするために解呪刀を持って行ったのかも」

 でも何で樹の国の盗賊が土の国の貴族 (?)の家に?

「さて、どうやって入れてもらおうか……」

 盗んだ人物を捕まえるにしても入れてもらえないのでは不可能だ。

「普通に言えば良いのではないか? 『解呪刀を盗まれてここに持ち込まれるのを見た』と」
「いやいやいや、ここからムラマサ寺院までどれだけ離れてると思ってるのよ! 流石にその理由には無理がある。それにもしこの屋敷のヒトが盗賊と関わりがあるなら、捜査権も無い私たちを入れてくれるわけないし」

 ここからムラマサ寺院までは、多分直線距離で百キロくらい、もしかしたらそれ以上離れている。身体を分解して移動できるあの能力があるのに、この家に持ち込んだところを私たちが目撃できるわけがない。

「確かによく当たるカイベルが言ったこととは言え、確証があるわけではないしな……」

 カイベルが言う以上、ここに刀が持ち込まれたのは確定なんだろうが……入れてもらうための理由が無い。

「どうするかな……」
「強行突破でもするか? 我らなら可能だぞ?」
「そんなことしたらアルトラルサンズの信用が失墜するわ! 私、これでも一応国家元首だからね?」
「ではどうする? お得意の認識阻害魔法で潜入するか?」
「う~ん……それをしたところで犯人を発見したらやっぱり騒動になるわけで……」

 もしこの屋敷と犯人が関わりがあるのなら、そこから大騒動に発展するのは必至だろう。これだけのお屋敷なら多分社会的な信用も相当大きいだろうし、不法侵入は下手したら国家間問題に……?

「とりあえず何か動きがあるまで待機してみる?」
「長くかかりそうだな…………ん? 誰か屋敷に向かって歩いてくるぞ」
「ホントだ」

 でも……あれ? この魔力の持ち主って……
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