556 / 591
第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編
第546話 『祓魔の鉄』が……!?
しおりを挟む
クジ引きが開催されている奥、『祓魔の鉄』が展示されている場所の近くに、塵や埃のようなものが集まり人の形を形成する。
集まった塵はキツネの面を付けた細身の人物へと変化した。
「え?」、「何だ?」、「なに?」、「キツネのお面?」、「何だ突然?」
「今……塵が集まってヒトに?」、「だ、誰?」、「突然現れたぞ?」
「何であんなところに?」、「女のヒト?」、「精霊かな?」、「でも尻尾があるぞ?」
「獣人?」、「でも今精霊みたいに登場したけど?」「お~い、クジ引くならこっちだぞ?」
突如出現した人物に、集まった訪問客らから口々に驚きや疑問の声を上げる。
「寺院側の演出じゃないよね?」
「俺は毎年来てるけど、そんな演出があった年なんてない!」
「様子が変だぞ?」
そしていずれの者からも少し動揺の混じった声。
そんな空気もよそに、そのキツネ面の人物は一言声を発する。
「すまぬが一刻を争うでな、この刀少々借りるぞ」
キツネ面の人物は『祓魔の鉄』に向かって右手を伸ばす。
その手は、そこに何も無いかのように展示クリアケースをどかすことなく通り抜け、中に展示されていた刀を難無くケース外へと取り出す。
周囲に居た警備員も、突然の予想だにしない出来事に驚き一瞬対応の遅れが出た。
「ハッ! な、何してる! つ、捕まえろ!」
「逃がさん!!」
屈強な二人の警備員がキツネ面の人物の肩と腕を両側からガッチリ掴んで拘束した。
「我が国の宝具を盗もうとするとは……このまま軍へ連行させてもらうぞ」
キツネ面の人物は体格的にも細身だし、もう動くことができないだろう……そう考えていたが……
次の瞬間、警備員二人に不思議なことが起こった。
「うおっ!」
「うわっ!」
両側から拘束していた二人の警備員が交差するように数歩よろめきながら崩れ落ちるように転倒。左側で腕肩を掴んでいた警備員は右へ、右側で拘束していた警備員は左へと、よろけるように移動して、石畳の上にスッ転んだのだ!
そして二人がよろめき倒れたにも関わらず、真ん中で二人に捕まれていたキツネ面の人物は奪った解呪刀を持ったまま何事も無いようにその場に佇んでいた。
転んだ警備員は『確かにガッチリ捕まえていたのに』とでも言いたそうな表情でキツネ面の人物を見上げている。
転倒して体勢を立て直せていない警備員を見下ろし、キツネ面の人物は――
「明日にはきちんとお返しするゆえ、案ずる必要は無い。では、御免」
――という一言を残して、身体が破裂。再び塵と化しこの場から綺麗さっぱり消え去った。
まんまと解呪刀を持ち去られてしまったようだ。
その場に居た全員が唖然……シンと静まり返った数瞬後、訪問客が騒ぎ出した。
「おい! 寺院、どういうことだ!」
「盗まれたんじゃないのか!?」
「警備員何やってんだ!!」
「今年は解呪の儀式やれないってこと!?」
「金返せ!」
口々に叫ぶ訪問客に対し、僧侶はその返答に困っている。
「へ、返金には応じかねます……」
「み、皆様落ち着いてください……あ、明日にはお返しいただけるということですので……クジを続けましょう」
この寺院側の一言に訪問客ヒートアップ。
「正気か? 戻って来る確証も無いのに?」
「そんな場合じゃないだろ!」
「一旦中止するのが筋じゃないか?」
訪問客は口々に寺院の僧侶たちを罵倒する。
一年に一回の大入りイベントの手前、すぐに中止するという判断が取れなかったのも無理もない。確かに七億の収入が消えるというのは……
でも『僧侶がその対応で良いのか?』とは思うが。
まあ仏教なんて無い世界だし、僧侶の定義が少々異なっているのかもしれない。
「そ、そうですね。ま、まずは警察と軍に届けましょう」
事態をやっと把握したのか通報する方針に。
それにしても軍にまで? 土の国の『宝具』だからか?
「刀無くなっちまったし、帰るか……」
「明日返って来る可能性があるなら、当たる可能性を信じてクジを引いておこうかな」
「せっかく当たり引けたのに……」
そして諦めて帰ろうとする者、それでも戻って来ることを信じてクジを引こうとする者がいる。
私はというと、クジの権利が行使できるかどうかの心配よりも、目の前で起こった『瞬時に現れて瞬時に消えた現象』に興味が湧きカイベルに小声で質問する。
「……今の何? 警備員さんたちがキツネ面のヒトをすり抜けて転倒したように見えたけど、砂の精霊とは違うよね?」
普通の精霊とは魔力の質が違ってるように思えた。
「……はい、今の方は獣人ですね」
「……獣人!? そう言えば尻尾があった! でもとても獣人のような挙動じゃなかったけど?」
「……はい。あれは世にも珍しい物質系統に属する転移魔法です。自身の身体を分子レベルにまで分解し、転移先の現地で再構成する魔法です。刀が納められたクリアケースや警備員様たちがすり抜けたように見えたのも、キツネ面の方が自身の身体を一時的に分子レベルにまで分解しながら刀に手を伸ばしたためです。仮に名付けるなら『分解転移魔法』とでもしましょうか。空間転移魔法のように魔力残滓を辿る必要が無いため、その気になれば世界中のどこへでも瞬時に移動が可能です」
「身体をバラバラに分解!? 死なないの!?」
「……はい。上手く身体を再構成できなければ下手をすれば死んでしまいますし、再構成に失敗すれば周囲の分子を取り込んで混ざりあってしまうこともあります。ですので、使える者は滅多に居ません。洋画の『蛾男』という映画をご存じですか?」
「……観たことはないけど……さわりくらいなら知ってる」
確か……『物質をバラバラに分解して別の場所に転送する研究』をしてた科学者が、自身の身体を用いた転送実験をした時にたまたま転送機械の中に一緒に紛れ込んでしまった蛾と融合してしまい『蛾男』になってしまうという話。蛾と融合してしまった科学者は、その後人格が徐々に消えていき最終的には人間に危害を加えるようになってしまっため秘密裏に処分されてしまうっていうホラー映画だったはず。
放映時期には両親すら生まれてないから観たことなど無いため、詳しい内容までは知らないが……
「……下手をするとその『蛾男』のように自身の身体と別の物質との融合が起こってしまう転移魔法です。もし今のすり抜けで魔法が失敗していれば警備員様と同化していたかもしれません。扱いが極度に難しいため、使い手は恐らく物質の精霊様、それもかなり高位の能力を持つ精霊様くらいしかおられないかと思います。獣人でそれが可能なのは今ここから刀を盗んで行ったキツネ面の方しかいません」
「それ凄いね! かなりの実力者ってことじゃない?」
「そうですね」
「……それで、刀盗んで行ったのは誰なの?」
「……樹の国三大盗賊団勢力の一つ『霊獣旅団』の頭目『タマモ・ナインテイル・ゴルゼン』です。現在の名は『タマラ・ウェアフォクス・イリナリス』ですね」
タイランテスに続いて樹の国の三大盗賊団の頭目と立て続けに遭遇するとは……
「何で名前が二つあるの?」
「『タマモ』の方は前世の名前で、『タマラ』の方は現在の名前です」
ああ、一度死んでるから前世の名前があるのか。私と同じってわけね。
「……『ナインテイル』って……九尾の狐のこと? 『霊獣旅団』の頭目って言うと、一度死んで精霊化した獣人とかいうヒトだっけ?」
「はい」
九尾の狐って、確か凄い大妖怪だったはず。
ヒト種族からの精霊化は強い力を得るって聞いたし、精霊化しているから獣人でありながら分解転移なんて高度なことができる能力があるのか。
エールデさんが、精霊化した生物は身体から微かに光を放ってるからすぐ分かると言っていたが、確かに身体の表面がちょっと光って見えた。 (『霊獣旅団』と精霊化した生物については第524話参照)
「……何でその盗賊団がこんなことをするの?」
「……それはあの方の――」
カイベルとの話の最中、ナナトスから声がかかる。
「アルトラ様~、刀持ってかれたッスよ? これからどうするッスか?」
「我らで捕まえるか? カイベルの占いならヤツがどこへ行ったか分かるのではないか?」
フレアハルトは捕まえる気マンマンだな。
「じゃあ、刀盗んでったヤツがどこへ行ったか占える?」
「はい、少々お待ちください」
すると目を閉じて占うポーズ。
「…………ここから北東の方角ですね。第二首都から少し外れた場所にある、林に囲まれた大きなお屋敷です。土の国では珍しく木々の密集している場所ですのですぐに分かると思います」
「よし、じゃあ行って来る」
「アルトラ様、一言だけ申しておきます。黒は同期しています」
「? 何のこと?」
「行けば分かると思います」
私にだけ分かるように濁して伝えたのか?
更に小声で、
「……アルトラ様の性格上、恐らく関わりになるかと思いますので覚えて行ってください」
つまり、トラブルが待ってるわけなのね……
「何だ今の一言は?」
「さあ? 私にも何のことか分からない……」
フレアハルトにも分からなかったってことは、私にだけ気付けるようにこの先に起こることを予想して伝えてくれたのかもしれない。
飛び立とうとしたところナナトスからの質問。
「お、俺っちたちはどうすれば良いッスか!?」
「ごめん、なるべく早く取り返してくるから適当に時間潰してて! これを預けておくから自由に使ってくれて良い」
換金してあったストルン通貨の入った財布を投げて渡す。十万ストルンに少し届かないってくらいは入ってるはずだから数時間くらい時間を潰すには十分な金額だろう。
◇
カイベルが言うように北東へ飛び、林の中にある閑静な豪邸の上空に着いた。
屋敷を見下ろしてフレアハルトが一言。
「でかい家だな。ここか?」
「『林に囲まれた大きな屋敷』って言うとここくらいしか無いしね」
周囲を見回してみてもここ以外に家は無い。カイベルの言う『林に囲まれてる』という特徴も一致してるからこの屋敷で間違い無いだろう。
「嫌な雰囲気のある屋敷だな……魔力が淀んでおる……」
フレアハルトも感付いているようだが、本当に嫌な気配のする豪邸だ。豪邸ながら絶対住みたくない。
魔力感知すると屋敷から黒い魔力が流れ出てるのが見える……こんなにくっきり見えることは滅多に無いのだが……
「おい、門の前に見張りが居るぞ。相当な金持ちなのではないか?」
「とりあえず気付かれる前に降りようか」
屋敷の門から少し離れたところに着地。
「この家、ただごとではないな」
「みたいだね。犯人はこれを何とかするために解呪刀を持って行ったのかも」
でも何で樹の国の盗賊が土の国の貴族 (?)の家に?
「さて、どうやって入れてもらおうか……」
盗んだ人物を捕まえるにしても入れてもらえないのでは不可能だ。
「普通に言えば良いのではないか? 『解呪刀を盗まれてここに持ち込まれるのを見た』と」
「いやいやいや、ここからムラマサ寺院までどれだけ離れてると思ってるのよ! 流石にその理由には無理がある。それにもしこの屋敷のヒトが盗賊と関わりがあるなら、捜査権も無い私たちを入れてくれるわけないし」
ここからムラマサ寺院までは、多分直線距離で百キロくらい、もしかしたらそれ以上離れている。身体を分解して移動できるあの能力があるのに、この家に持ち込んだところを私たちが目撃できるわけがない。
「確かによく当たるカイベルが言ったこととは言え、確証があるわけではないしな……」
カイベルが言う以上、ここに刀が持ち込まれたのは確定なんだろうが……入れてもらうための理由が無い。
「どうするかな……」
「強行突破でもするか? 我らなら可能だぞ?」
「そんなことしたらアルトラルサンズの信用が失墜するわ! 私、これでも一応国家元首だからね?」
「ではどうする? お得意の認識阻害魔法で潜入するか?」
「う~ん……それをしたところで犯人を発見したらやっぱり騒動になるわけで……」
もしこの屋敷と犯人が関わりがあるのなら、そこから大騒動に発展するのは必至だろう。これだけのお屋敷なら多分社会的な信用も相当大きいだろうし、不法侵入は下手したら国家間問題に……?
「とりあえず何か動きがあるまで待機してみる?」
「長くかかりそうだな…………ん? 誰か屋敷に向かって歩いてくるぞ」
「ホントだ」
でも……あれ? この魔力の持ち主って……
集まった塵はキツネの面を付けた細身の人物へと変化した。
「え?」、「何だ?」、「なに?」、「キツネのお面?」、「何だ突然?」
「今……塵が集まってヒトに?」、「だ、誰?」、「突然現れたぞ?」
「何であんなところに?」、「女のヒト?」、「精霊かな?」、「でも尻尾があるぞ?」
「獣人?」、「でも今精霊みたいに登場したけど?」「お~い、クジ引くならこっちだぞ?」
突如出現した人物に、集まった訪問客らから口々に驚きや疑問の声を上げる。
「寺院側の演出じゃないよね?」
「俺は毎年来てるけど、そんな演出があった年なんてない!」
「様子が変だぞ?」
そしていずれの者からも少し動揺の混じった声。
そんな空気もよそに、そのキツネ面の人物は一言声を発する。
「すまぬが一刻を争うでな、この刀少々借りるぞ」
キツネ面の人物は『祓魔の鉄』に向かって右手を伸ばす。
その手は、そこに何も無いかのように展示クリアケースをどかすことなく通り抜け、中に展示されていた刀を難無くケース外へと取り出す。
周囲に居た警備員も、突然の予想だにしない出来事に驚き一瞬対応の遅れが出た。
「ハッ! な、何してる! つ、捕まえろ!」
「逃がさん!!」
屈強な二人の警備員がキツネ面の人物の肩と腕を両側からガッチリ掴んで拘束した。
「我が国の宝具を盗もうとするとは……このまま軍へ連行させてもらうぞ」
キツネ面の人物は体格的にも細身だし、もう動くことができないだろう……そう考えていたが……
次の瞬間、警備員二人に不思議なことが起こった。
「うおっ!」
「うわっ!」
両側から拘束していた二人の警備員が交差するように数歩よろめきながら崩れ落ちるように転倒。左側で腕肩を掴んでいた警備員は右へ、右側で拘束していた警備員は左へと、よろけるように移動して、石畳の上にスッ転んだのだ!
そして二人がよろめき倒れたにも関わらず、真ん中で二人に捕まれていたキツネ面の人物は奪った解呪刀を持ったまま何事も無いようにその場に佇んでいた。
転んだ警備員は『確かにガッチリ捕まえていたのに』とでも言いたそうな表情でキツネ面の人物を見上げている。
転倒して体勢を立て直せていない警備員を見下ろし、キツネ面の人物は――
「明日にはきちんとお返しするゆえ、案ずる必要は無い。では、御免」
――という一言を残して、身体が破裂。再び塵と化しこの場から綺麗さっぱり消え去った。
まんまと解呪刀を持ち去られてしまったようだ。
その場に居た全員が唖然……シンと静まり返った数瞬後、訪問客が騒ぎ出した。
「おい! 寺院、どういうことだ!」
「盗まれたんじゃないのか!?」
「警備員何やってんだ!!」
「今年は解呪の儀式やれないってこと!?」
「金返せ!」
口々に叫ぶ訪問客に対し、僧侶はその返答に困っている。
「へ、返金には応じかねます……」
「み、皆様落ち着いてください……あ、明日にはお返しいただけるということですので……クジを続けましょう」
この寺院側の一言に訪問客ヒートアップ。
「正気か? 戻って来る確証も無いのに?」
「そんな場合じゃないだろ!」
「一旦中止するのが筋じゃないか?」
訪問客は口々に寺院の僧侶たちを罵倒する。
一年に一回の大入りイベントの手前、すぐに中止するという判断が取れなかったのも無理もない。確かに七億の収入が消えるというのは……
でも『僧侶がその対応で良いのか?』とは思うが。
まあ仏教なんて無い世界だし、僧侶の定義が少々異なっているのかもしれない。
「そ、そうですね。ま、まずは警察と軍に届けましょう」
事態をやっと把握したのか通報する方針に。
それにしても軍にまで? 土の国の『宝具』だからか?
「刀無くなっちまったし、帰るか……」
「明日返って来る可能性があるなら、当たる可能性を信じてクジを引いておこうかな」
「せっかく当たり引けたのに……」
そして諦めて帰ろうとする者、それでも戻って来ることを信じてクジを引こうとする者がいる。
私はというと、クジの権利が行使できるかどうかの心配よりも、目の前で起こった『瞬時に現れて瞬時に消えた現象』に興味が湧きカイベルに小声で質問する。
「……今の何? 警備員さんたちがキツネ面のヒトをすり抜けて転倒したように見えたけど、砂の精霊とは違うよね?」
普通の精霊とは魔力の質が違ってるように思えた。
「……はい、今の方は獣人ですね」
「……獣人!? そう言えば尻尾があった! でもとても獣人のような挙動じゃなかったけど?」
「……はい。あれは世にも珍しい物質系統に属する転移魔法です。自身の身体を分子レベルにまで分解し、転移先の現地で再構成する魔法です。刀が納められたクリアケースや警備員様たちがすり抜けたように見えたのも、キツネ面の方が自身の身体を一時的に分子レベルにまで分解しながら刀に手を伸ばしたためです。仮に名付けるなら『分解転移魔法』とでもしましょうか。空間転移魔法のように魔力残滓を辿る必要が無いため、その気になれば世界中のどこへでも瞬時に移動が可能です」
「身体をバラバラに分解!? 死なないの!?」
「……はい。上手く身体を再構成できなければ下手をすれば死んでしまいますし、再構成に失敗すれば周囲の分子を取り込んで混ざりあってしまうこともあります。ですので、使える者は滅多に居ません。洋画の『蛾男』という映画をご存じですか?」
「……観たことはないけど……さわりくらいなら知ってる」
確か……『物質をバラバラに分解して別の場所に転送する研究』をしてた科学者が、自身の身体を用いた転送実験をした時にたまたま転送機械の中に一緒に紛れ込んでしまった蛾と融合してしまい『蛾男』になってしまうという話。蛾と融合してしまった科学者は、その後人格が徐々に消えていき最終的には人間に危害を加えるようになってしまっため秘密裏に処分されてしまうっていうホラー映画だったはず。
放映時期には両親すら生まれてないから観たことなど無いため、詳しい内容までは知らないが……
「……下手をするとその『蛾男』のように自身の身体と別の物質との融合が起こってしまう転移魔法です。もし今のすり抜けで魔法が失敗していれば警備員様と同化していたかもしれません。扱いが極度に難しいため、使い手は恐らく物質の精霊様、それもかなり高位の能力を持つ精霊様くらいしかおられないかと思います。獣人でそれが可能なのは今ここから刀を盗んで行ったキツネ面の方しかいません」
「それ凄いね! かなりの実力者ってことじゃない?」
「そうですね」
「……それで、刀盗んで行ったのは誰なの?」
「……樹の国三大盗賊団勢力の一つ『霊獣旅団』の頭目『タマモ・ナインテイル・ゴルゼン』です。現在の名は『タマラ・ウェアフォクス・イリナリス』ですね」
タイランテスに続いて樹の国の三大盗賊団の頭目と立て続けに遭遇するとは……
「何で名前が二つあるの?」
「『タマモ』の方は前世の名前で、『タマラ』の方は現在の名前です」
ああ、一度死んでるから前世の名前があるのか。私と同じってわけね。
「……『ナインテイル』って……九尾の狐のこと? 『霊獣旅団』の頭目って言うと、一度死んで精霊化した獣人とかいうヒトだっけ?」
「はい」
九尾の狐って、確か凄い大妖怪だったはず。
ヒト種族からの精霊化は強い力を得るって聞いたし、精霊化しているから獣人でありながら分解転移なんて高度なことができる能力があるのか。
エールデさんが、精霊化した生物は身体から微かに光を放ってるからすぐ分かると言っていたが、確かに身体の表面がちょっと光って見えた。 (『霊獣旅団』と精霊化した生物については第524話参照)
「……何でその盗賊団がこんなことをするの?」
「……それはあの方の――」
カイベルとの話の最中、ナナトスから声がかかる。
「アルトラ様~、刀持ってかれたッスよ? これからどうするッスか?」
「我らで捕まえるか? カイベルの占いならヤツがどこへ行ったか分かるのではないか?」
フレアハルトは捕まえる気マンマンだな。
「じゃあ、刀盗んでったヤツがどこへ行ったか占える?」
「はい、少々お待ちください」
すると目を閉じて占うポーズ。
「…………ここから北東の方角ですね。第二首都から少し外れた場所にある、林に囲まれた大きなお屋敷です。土の国では珍しく木々の密集している場所ですのですぐに分かると思います」
「よし、じゃあ行って来る」
「アルトラ様、一言だけ申しておきます。黒は同期しています」
「? 何のこと?」
「行けば分かると思います」
私にだけ分かるように濁して伝えたのか?
更に小声で、
「……アルトラ様の性格上、恐らく関わりになるかと思いますので覚えて行ってください」
つまり、トラブルが待ってるわけなのね……
「何だ今の一言は?」
「さあ? 私にも何のことか分からない……」
フレアハルトにも分からなかったってことは、私にだけ気付けるようにこの先に起こることを予想して伝えてくれたのかもしれない。
飛び立とうとしたところナナトスからの質問。
「お、俺っちたちはどうすれば良いッスか!?」
「ごめん、なるべく早く取り返してくるから適当に時間潰してて! これを預けておくから自由に使ってくれて良い」
換金してあったストルン通貨の入った財布を投げて渡す。十万ストルンに少し届かないってくらいは入ってるはずだから数時間くらい時間を潰すには十分な金額だろう。
◇
カイベルが言うように北東へ飛び、林の中にある閑静な豪邸の上空に着いた。
屋敷を見下ろしてフレアハルトが一言。
「でかい家だな。ここか?」
「『林に囲まれた大きな屋敷』って言うとここくらいしか無いしね」
周囲を見回してみてもここ以外に家は無い。カイベルの言う『林に囲まれてる』という特徴も一致してるからこの屋敷で間違い無いだろう。
「嫌な雰囲気のある屋敷だな……魔力が淀んでおる……」
フレアハルトも感付いているようだが、本当に嫌な気配のする豪邸だ。豪邸ながら絶対住みたくない。
魔力感知すると屋敷から黒い魔力が流れ出てるのが見える……こんなにくっきり見えることは滅多に無いのだが……
「おい、門の前に見張りが居るぞ。相当な金持ちなのではないか?」
「とりあえず気付かれる前に降りようか」
屋敷の門から少し離れたところに着地。
「この家、ただごとではないな」
「みたいだね。犯人はこれを何とかするために解呪刀を持って行ったのかも」
でも何で樹の国の盗賊が土の国の貴族 (?)の家に?
「さて、どうやって入れてもらおうか……」
盗んだ人物を捕まえるにしても入れてもらえないのでは不可能だ。
「普通に言えば良いのではないか? 『解呪刀を盗まれてここに持ち込まれるのを見た』と」
「いやいやいや、ここからムラマサ寺院までどれだけ離れてると思ってるのよ! 流石にその理由には無理がある。それにもしこの屋敷のヒトが盗賊と関わりがあるなら、捜査権も無い私たちを入れてくれるわけないし」
ここからムラマサ寺院までは、多分直線距離で百キロくらい、もしかしたらそれ以上離れている。身体を分解して移動できるあの能力があるのに、この家に持ち込んだところを私たちが目撃できるわけがない。
「確かによく当たるカイベルが言ったこととは言え、確証があるわけではないしな……」
カイベルが言う以上、ここに刀が持ち込まれたのは確定なんだろうが……入れてもらうための理由が無い。
「どうするかな……」
「強行突破でもするか? 我らなら可能だぞ?」
「そんなことしたらアルトラルサンズの信用が失墜するわ! 私、これでも一応国家元首だからね?」
「ではどうする? お得意の認識阻害魔法で潜入するか?」
「う~ん……それをしたところで犯人を発見したらやっぱり騒動になるわけで……」
もしこの屋敷と犯人が関わりがあるのなら、そこから大騒動に発展するのは必至だろう。これだけのお屋敷なら多分社会的な信用も相当大きいだろうし、不法侵入は下手したら国家間問題に……?
「とりあえず何か動きがあるまで待機してみる?」
「長くかかりそうだな…………ん? 誰か屋敷に向かって歩いてくるぞ」
「ホントだ」
でも……あれ? この魔力の持ち主って……
0
あなたにおすすめの小説
美化係の聖女様
しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。
ゴメン、五月蝿かった?
掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。
気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。
地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。
何コレ、どうすればいい?
一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。
召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。
もしかして召喚先を間違えた?
魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。
それでも魔王復活は待ってはくれない。
それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。
「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」
「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」
「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」
「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」
「「「・・・・・・・・。」」」
何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。
ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか?
そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!?
魔王はどこに?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
不定期更新になります。
主人公は自分が聖女だとは気づいていません。
恋愛要素薄めです。
なんちゃって異世界の独自設定になります。
誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。
R指定は無しの予定です。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる