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自分よりも大きな生き物に、腕力で勝つのは難しい。
だからこそ馬は馬舎、牛は牛舎。
力で敵わない相手が暴れたり逃げ出したりしないよう、鎖や縄で繋いでおく。
それが当たり前だと思っていた。
《 このニンゲン良い匂いだねえ 》
「んひぃっ!」
《 噛んでいいか? 》
「くっ?!」
《 こいつにちょっかい出したら噛み殺すぞ 》
「殺っ・・・・・・って、お前は俺の何なんだよ。」
騎士団の本拠地、広大な敷地の片隅にこれまた巨大な建物あり。
その巨躯を日差しや雨から守る為の大きな屋根と簡単に壁で区切られたスペース。
さすがに扉まではついてないけど、これはもう立派な家だ。
ただし、奴らの行動を制限するための鎖は一切見当たらない。
足についた鎖は国章を付けるためだけのもので、繋ぐ目的はないらしい。
人間の力で、敵うはずがないのに。
「だっ、大体なぁ、俺は早く帰りてぇの!」
《 マジで小せぇな、こいつ 》
「お前の相棒はどこに消えたんだよ?!」
《 ほんとほんと!子鹿みた~い 》
「おいっ、聞いてんのか?!」
《 俺の子分に馴れ馴れしくすんな! 》
「だぁれが!子分だ!アホ!」
ふんっと大きく鼻を鳴らす親分気取りの竜、深緑色の巨躯で俺を囲うイーライ。
そのイーライ相手に《独り占めずるい!》《どけ!邪魔!》とにじり寄るのは、まだ見慣れない二頭の巨躯。
合計三頭もの竜に取り囲まれ、ヤンヤ、ヤンヤ、の大騒ぎ。
頭の中に直接響くこいつらの声は、普通に耳で聞く音と違って防ぎようがなく、かなり騒がしい。
強引にダートへ連れてこられてまだ一時間も経っていないはずだけど、この慣れない"騒音"にギリギリと歯軋りする程度には苛立っていた。
《 レヴィ、出し過ぎだ 》
「・・・・・・なにがだよ・・・っ」
《 そのうち暴発するぞ 》
「だからっ、なにが、ひいっ」
黒竜の顔がぐんっと近づき、俺の匂いをしきりに嗅ぎ始める。
イーライはその黒竜の行動が気に食わなかったらしく、猛獣のように(猛獣みたいなもんだけど)喉を鳴らして威嚇し追い払っていた。
《 凄い勢いで溢れてきたねえ 》
「・・・は?」
《 ニンゲンの魔力って言うより、俺たちみてえな匂いだな 》
「・・・・・・は?」
首を傾げた俺に合わせ、三者三様の面持ちで同じように首を傾げる竜。
大層バカにするような目で俺を見ているのが分かる。
今、間違いなく"魔力"と言ったが俺に魔力なんてない。
赤子の時に神殿で測ってみたがこれっぽっちも反応しなかった、と爺ちゃんが言っていた。
と言うよりも、魔力を持つ人間がとても稀少。
そしてこの国の魔力持ちのほとんどがこのダートに集結し、騎士や研究者として働いている・・・はず。
《 チビのうえに魔力もわかんねえのかよ? 》
「チビは今関係ねえだろ!」
《 魔法が解けたんだねえ。よかったねえ 》
「???」
《 俺らの言葉わかるっつってもただのアホじゃん 》
「てめえら言いたい放題だな!」
「えらく楽しそうだね。」
「#%$○*!?んぎゃーーーー!!」
三頭に気を取られすぎた。
俺を囲うイーライの後ろから背の高い知らない男が顔を出してきて、尻尾を踏まれた猫みたいに飛び跳ねて絶叫。
そんな俺の反応が想像以上だったらしく、男は口元を押さえ、遠慮することなく肩を揺らしている。
「んふっ、驚かせたみたい・・・で、ぷふ、ごめん、ね・・・ぐふっ、」
「・・・・・・俺、帰りたいんですけど。」
《 フェイだ!オシゴトはもう終わったの!? 》
「フェイ?」
「へ~・・・本当にこの子達の言葉が・・・ねえ?」
「ひいっ」
金髪を短く切り揃えたキツネ顔の男の名がフェイと言うらしい。
その細目でじろじろと頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見られるのは正直あまり気分が良くない。
すかさずイーライはさっき黒竜相手にしたようにグルグル喉を鳴らし威嚇を始めた。
フェイさんは瞬時に身を引いて距離をとり、赤竜の体をバシバシ叩きながらぶつぶつ何か独り言を言っている。
・・・あのジェイスとか言う騎士はまだ帰ってこないし、このキツネ顔の方が雰囲気的にいろいろ聞きやすいかも・・・?
「・・・あの、何で俺・・・ここに連れてこられたんですか。」
「あー・・・ジェイスから聞いてない?」
「そうですね。何も。」
「君、今日からここの見習いね。」
「・・・ん?」
「あ、そうだ。みんな、おやつだよ~」
「・・・・・・!???」
人は、あまりにも理解が追いつかないと思考が停止する。
俺は今、身を持って体感しているところだ。
フェイさんは自分が持っていた籠の中身を手に取り、ぽ~いと三頭の口に投げている。
俺はしばらくその様子を、何も言わずぼーっと眺めていた。
竜って、果物も食うんだな。
「・・・って、違う違う!見習い?!?お、お、俺が!?」
「ジェイスはその手続きに行った。」
「・・・はっ、は?!へ?!」
「・・・ぐふっ、あはっ、君、その顔・・・っ、最高に可愛いね!あはははっ、」
「~~~っ、わ、笑い事じゃな、うぶっ、」
《 せいぜい俺が可愛がってやるよ 》
「お、おまっ、イーライっ!舐め、舐めるの、やめっ、うぶっ」
《 あー!ずるい!ミシャもする! 》
《 俺はグリムな。よろしく、チビ 》
「~~~~~っ、全員っ、うるせぇええええ!」
しばらく笑い転げたフェイさんから「まあ落ち着きなよ」と余った果物を口に押し込まれ、話が通じない相手がいることを実感した、初めての王都だった。
だからこそ馬は馬舎、牛は牛舎。
力で敵わない相手が暴れたり逃げ出したりしないよう、鎖や縄で繋いでおく。
それが当たり前だと思っていた。
《 このニンゲン良い匂いだねえ 》
「んひぃっ!」
《 噛んでいいか? 》
「くっ?!」
《 こいつにちょっかい出したら噛み殺すぞ 》
「殺っ・・・・・・って、お前は俺の何なんだよ。」
騎士団の本拠地、広大な敷地の片隅にこれまた巨大な建物あり。
その巨躯を日差しや雨から守る為の大きな屋根と簡単に壁で区切られたスペース。
さすがに扉まではついてないけど、これはもう立派な家だ。
ただし、奴らの行動を制限するための鎖は一切見当たらない。
足についた鎖は国章を付けるためだけのもので、繋ぐ目的はないらしい。
人間の力で、敵うはずがないのに。
「だっ、大体なぁ、俺は早く帰りてぇの!」
《 マジで小せぇな、こいつ 》
「お前の相棒はどこに消えたんだよ?!」
《 ほんとほんと!子鹿みた~い 》
「おいっ、聞いてんのか?!」
《 俺の子分に馴れ馴れしくすんな! 》
「だぁれが!子分だ!アホ!」
ふんっと大きく鼻を鳴らす親分気取りの竜、深緑色の巨躯で俺を囲うイーライ。
そのイーライ相手に《独り占めずるい!》《どけ!邪魔!》とにじり寄るのは、まだ見慣れない二頭の巨躯。
合計三頭もの竜に取り囲まれ、ヤンヤ、ヤンヤ、の大騒ぎ。
頭の中に直接響くこいつらの声は、普通に耳で聞く音と違って防ぎようがなく、かなり騒がしい。
強引にダートへ連れてこられてまだ一時間も経っていないはずだけど、この慣れない"騒音"にギリギリと歯軋りする程度には苛立っていた。
《 レヴィ、出し過ぎだ 》
「・・・・・・なにがだよ・・・っ」
《 そのうち暴発するぞ 》
「だからっ、なにが、ひいっ」
黒竜の顔がぐんっと近づき、俺の匂いをしきりに嗅ぎ始める。
イーライはその黒竜の行動が気に食わなかったらしく、猛獣のように(猛獣みたいなもんだけど)喉を鳴らして威嚇し追い払っていた。
《 凄い勢いで溢れてきたねえ 》
「・・・は?」
《 ニンゲンの魔力って言うより、俺たちみてえな匂いだな 》
「・・・・・・は?」
首を傾げた俺に合わせ、三者三様の面持ちで同じように首を傾げる竜。
大層バカにするような目で俺を見ているのが分かる。
今、間違いなく"魔力"と言ったが俺に魔力なんてない。
赤子の時に神殿で測ってみたがこれっぽっちも反応しなかった、と爺ちゃんが言っていた。
と言うよりも、魔力を持つ人間がとても稀少。
そしてこの国の魔力持ちのほとんどがこのダートに集結し、騎士や研究者として働いている・・・はず。
《 チビのうえに魔力もわかんねえのかよ? 》
「チビは今関係ねえだろ!」
《 魔法が解けたんだねえ。よかったねえ 》
「???」
《 俺らの言葉わかるっつってもただのアホじゃん 》
「てめえら言いたい放題だな!」
「えらく楽しそうだね。」
「#%$○*!?んぎゃーーーー!!」
三頭に気を取られすぎた。
俺を囲うイーライの後ろから背の高い知らない男が顔を出してきて、尻尾を踏まれた猫みたいに飛び跳ねて絶叫。
そんな俺の反応が想像以上だったらしく、男は口元を押さえ、遠慮することなく肩を揺らしている。
「んふっ、驚かせたみたい・・・で、ぷふ、ごめん、ね・・・ぐふっ、」
「・・・・・・俺、帰りたいんですけど。」
《 フェイだ!オシゴトはもう終わったの!? 》
「フェイ?」
「へ~・・・本当にこの子達の言葉が・・・ねえ?」
「ひいっ」
金髪を短く切り揃えたキツネ顔の男の名がフェイと言うらしい。
その細目でじろじろと頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見られるのは正直あまり気分が良くない。
すかさずイーライはさっき黒竜相手にしたようにグルグル喉を鳴らし威嚇を始めた。
フェイさんは瞬時に身を引いて距離をとり、赤竜の体をバシバシ叩きながらぶつぶつ何か独り言を言っている。
・・・あのジェイスとか言う騎士はまだ帰ってこないし、このキツネ顔の方が雰囲気的にいろいろ聞きやすいかも・・・?
「・・・あの、何で俺・・・ここに連れてこられたんですか。」
「あー・・・ジェイスから聞いてない?」
「そうですね。何も。」
「君、今日からここの見習いね。」
「・・・ん?」
「あ、そうだ。みんな、おやつだよ~」
「・・・・・・!???」
人は、あまりにも理解が追いつかないと思考が停止する。
俺は今、身を持って体感しているところだ。
フェイさんは自分が持っていた籠の中身を手に取り、ぽ~いと三頭の口に投げている。
俺はしばらくその様子を、何も言わずぼーっと眺めていた。
竜って、果物も食うんだな。
「・・・って、違う違う!見習い?!?お、お、俺が!?」
「ジェイスはその手続きに行った。」
「・・・はっ、は?!へ?!」
「・・・ぐふっ、あはっ、君、その顔・・・っ、最高に可愛いね!あはははっ、」
「~~~っ、わ、笑い事じゃな、うぶっ、」
《 せいぜい俺が可愛がってやるよ 》
「お、おまっ、イーライっ!舐め、舐めるの、やめっ、うぶっ」
《 あー!ずるい!ミシャもする! 》
《 俺はグリムな。よろしく、チビ 》
「~~~~~っ、全員っ、うるせぇええええ!」
しばらく笑い転げたフェイさんから「まあ落ち着きなよ」と余った果物を口に押し込まれ、話が通じない相手がいることを実感した、初めての王都だった。
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