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10 本
しおりを挟む『すぐに慣れるよ』
弾むような声がして、振り返る。
『・・・何言ってんだ?』
『何だろうね?』
質問に質問で返すな。
お前さ、今絶対笑ってるだろ。
確信的なのに確認できないのがもどかしい。
見渡す限り何もない、白い、白い、空間。
濃霧が満ちていて、足元しか視認できない。
間違いなく聞き覚えのあるこの声は、忘れることなんてできない。
ついに直接話しかけにきたのか、と実は動揺している。
『僕、ちょっと怒ってるんだけどさ』
『・・・・・・お前・・・一体、誰だ・・・?』
『僕?僕はね────・・・』
さあっと風が吹き、霧が薄くなる。
俺よりも一回り小さな体がうっすらと見えた。
・・・・・・もしかして、子ども・・・・・・?
はっきりと顔が見えない。
口がゆっくりと弧を描いてから、開く。
そして、次の言葉を聞くより先に勢いよくバァーンと開いた扉の音で、俺は飛び跳ねるようにして目を覚ました。
どくどくと大袈裟に音を立てる胸に手を当て、扉に目を向けると、両脇に何やら大荷物を抱えたスキンヘッド登場。
ここは急遽、医務室仕様に整えられた宿舎の一室。
今朝まで寝ていたあの部屋は、窓ガラスどころか壁まで破壊されて、とても休める場所ではなくなった。(犯人にはたっぷり説教しておいた)
「あら、ごめんなさいね?寝てたかしら。」
「・・・大丈夫です。あの・・・その荷物・・・?」
「ああ、これ?あなたを調べるための道具と文献よ♡じゃじゃーん♡」
「・・・・・・はい?」
急に何言ってんだこの人。
すげえわくわくした顔で、一冊ずつ文献?とやらを机に並べながら、この本は────に詳しくて、こっちは────に詳しくてね、と丁寧に説明しだす。
目がマジだ、怖い。
・・・あ、あれ・・・・・・?
そういえば俺、さっきどんな夢見てたっけ・・・?
頭に靄がかかったみたいに、思い出せない。
なんか・・・大事な夢、だった気がするのに・・・
ぼーっと足先あたりを眺めていると、ディランさんが視界に入り込んできた。
咄嗟のことで声も出ず、体がビクッと跳ねたけどそんなことはお構いなしにディランさんは一冊の本をベッドに置く。
木の表紙。
掘り込みが細かくて、宝石?みたいな色のついた石が所々埋め込まれている。
どういう意図があるのか分からず、本とディランさんを見比べた。
ディランさんはぱらぱらと数ページめくり、にっこりと微笑む。
年季が入りかなり黄ばんだページには文字一つ書かれていなかった。
「このページに手を置いてほしいの。」
「・・・え、嫌です。」
「さっき協力を約束してくれたわよねえ。」
「はい、そうでした、すみません、わかりましたから、首掴もうとするのやめてください。」
「・・・よかったあ♡じゃ、どうぞ♡」
「・・・・・・」
この人、怒らせたら誰よりも怖いタイプの人間。
大人しく言うこと聞こう。
・・・でも、この本すげえ嫌な感じがするんだよな。
恐る恐る手を伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込め、を三度繰り返したところで舌打ちが聞こえた。
音がした方を怖くてみられない。
・・・腹を括れ、俺。
「なっ、なんかあったらすぐ助けてくださいよ・・・?」
「やーね、もちろんよ!そもそも何も起きないわ。測るだけ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・わ、わかってますから、首に手を伸ばすのやめてください。」
「うふふ♡ついね、つい。」
「・・・じゃ、い、いきます・・・」
棘のある花に手を伸ばすように、そっと本に手を触れる。
無意識のうちに息を止め、目を閉じていた。
・・・十秒は経った。
よし、とりあえず息吸おう。
意外(?)にも痛かったり、爆発したり、そんなことは今の所起こってない。
でもディランさんが妙に静かなのも不気味。
もしかして・・・期待外れだったのかも?
この本で何を測るのかさえ理解できてないけどさ。
片目を開けて、手元を見る。
「・・・ひっ、」
手のひらを囲むように文字のようなものが浮き出ていた。
しかも何も書かれていなかったページを埋め尽くすくらい、びっしりと。
まるで蟻が集っている果物みたいで、俺は咄嗟に手を引っ込める。
すると何事もなかったかのように、すー・・・っと全てが消えていった。
「・・・あのっ、い、今のも、ま、魔法なん、」
「ねえ、レヴィちゃん。」
「・・・っ、は、はい・・・」
さっきまでとは違う落ち着いた声色に、思わず肩に力が入る。
名前が呼ばれた方を向くと、視線がぶつかる。
口元は穏やかに笑っているのに、青灰色の瞳はこれっぽっちも笑っていなかった。
「あなた、一体何者?」
耳の奥でキーンと音が鳴る。
窓際のカーテンがふわりと揺れて、外からは降り始めの雨の匂いがした。
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