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17 織
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密着した体から心臓の音がする。
人間よりも、もっとのんびりとした穏やかな音。
どうやら俺は座った誰かの膝の上で、抱えられているらしい。
目を開けると、俺の体を覆うたくさんの織物や毛皮が見えた。
赤や青、白に緑、時々金。
鮮やかで、目が覚めるような色ばかり。
おかげで目がしぱしぱする。
横から冷たい風がひゅうっと吹いてきて、くしゃみがでた。鼻のむずむずに耐えていると、視線を感じて顔を上げる。
目が合って何度か瞬きをした琥珀色の鋭い瞳の持ち主は、俺の予期せぬ行動に怪訝そうな顔をした。
「何の真似だ。」
「・・・折るのも、一苦労だったろうなと思って。」
俺の言葉にぴくりと眉が動くのを確認してから、俺は角から手を離す。
少しカサカサした表面に、相当硬そうな感触。
もう一本の折れた方も触ろうとしたら頭を後ろに逸らされて、空振りに終わった。
「ひと月以上経った。」
「・・・・・・本気で、言ってる?」
「俺が冗談を言うと思うか?」
「・・・・・・」
黙っていると大きなため息をつかれた。
こうして近くで見ると、瞳の琥珀色が透き通ってて、キラキラしてる。
でも眼光が・・・・・・鋭すぎて、目だけで魔物とか殺せそう。
この目で冗談は言わないだろうし、本当に一ヶ月・・・経ってるってことか。
体に掛けられた織物の下、体をもぞもぞ動かすとあちらこちらから、パキ、ポキ、と骨と関節が悲鳴をあげた。
「通りで・・・体、痛いし。」
「・・・何?どこだ、どこが痛い?見せろ。ここか?!」
「いぎゃっ!そ、そんなに触んなよ!くすぐった・・・・・・、なっ!何で、俺、裸?!!はっ、恥ずっ、恥ずかっ、し、ゲホッ、ゴホッ、」
「お前の裸なんぞ、何とも思わん。いちいち騒ぐな、餓鬼め。」
「~~~~?!」
待て待て待て!
自分の体を手でぺたぺた触って確認する。
・・・服、着てない。意味わかんない。
もう一度顔を上げると、馬鹿にするような目で俺を見るあの男。
お前が何とも思わなくても、本人が色々思うんだが!?
「魔力を吸収するのに、服が邪魔だっただけだ。他意はない。」
「・・・よくわかんないけど、あんたは服着てんじゃん。」
「脱いでも構わんが?」
「・・・・・・結構です・・・」
今度は鼻で笑われた。
今すぐにでも立ち上がって、ちょっと離れたところから文句言いたい。
でも悲しいことに俺の体は、パキ、ポキいうだけでちっとも言うことを聞いてくれなかった。
目を逸らそうと周りを見る。
見覚えのある空間。
だけどあの時と違うのは、小さなテーブルや椅子はひっくり返って脚が折れ、ベッドに寝具は何もない。
外が見えた窓みたいな穴は歪に広がっていて、雨の降る景色が寂しげに見えた。
やっぱりここは、二人の────・・・
「あいつ、消えたよ。」
「・・・・・・」
「勝手なことすんなって、怒ってた。」
「・・・・・・そんな言い方しない。」
「あんたのことかわいい、だって。」
「・・・どこが?」
「俺に聞くなよ。」
さっき俺が見ていた窓の辺りを真っ直ぐ見る竜人。
琥珀色の瞳の代わりに見えたのは、ぎゅっと固く閉じられた薄い唇だった。
「伝言預かった。」
「・・・・・・言わなくていい。」
「本当、ヘタレ。」
「何とでも言え。」
「・・・・・・・・・イル様、」
濃紺色の髪が大きく揺れるくらい、勢いよくこちらを向いて喉を鳴らす。
呼び方一つで怒るんなら最初から大人しく聞けよ。
それにそんな怖い顔で睨んでも、俺はお前のこと怖くない。
「幸せな毎日と大好きなあなたのことを忘れなかった僕の勝ち。だってさ。」
にやにや笑ってたな、あいつ。
そういうところ、嫌いじゃない。
あいつの魔力が消えたところで、すべて終わるわけじゃない。
俺にとってはむしろこれからが始まりなわけだし、俺は生まれてから今までずっと、俺。
これからもよろしく、この体。
それにさ、お前のことはあの夢とあいつから聞いた話だけでよく知らないけど、唇噛んで血が滲んで、泣くの我慢するくらいあいつが大事だったってことだろ?
それならちょっとくらい、仲良くしてやってもいい。
「また泣かないでって言われるぞ。」
「・・・・・・お前、何を見た?」
「何って・・・死ぬ直前のところ?」
「・・・泣いていない。」
「へえ。そうですか、おヘタレ様。」
「・・・・・・舌を引き抜くぞ。」
目がマジだ。
慌てて口を閉じると、ごちん、と額に頭突きをされた。
音の割にそれほど痛くなかったけど、そんなことされるとは思ってないからめちゃくちゃ吃驚して、口がぽかーんと開いてしまった。
「赤子のクロは、こうするとよく笑った。」
「・・・え、俺、今あやされたの?・・・ん?クロ?黒?」
「俺がつけたあいつの名だ。」
「何とまあ単純な名ま、イデッ!つ、つ、強くすんなっ!頭割れる!!」
「赤子扱いも当然の餓鬼め。」
「誰が赤子だ!俺はもう立派な成じ、ゲホッ、ゴホッ、?!うわ!ち、ち、血!!」
「・・・・・・本当に騒がしい。」
そして、俺はハッとする。
再び血まみれになった手よりも、掛けられていた上等な織物に血がついてしまったのではないか、と。(貧乏性)
そして慌てて織物を退けようとして、裸だったことを思い出し、また叫んでさらに血が出た。
俺の叫び声を聞きつけ、外から飛んできたコルヴィとミシャ、そしてフェイさんにかなりの動揺を与えてしまい、真っ赤な顔で謝罪する羽目になったのだった。
人間よりも、もっとのんびりとした穏やかな音。
どうやら俺は座った誰かの膝の上で、抱えられているらしい。
目を開けると、俺の体を覆うたくさんの織物や毛皮が見えた。
赤や青、白に緑、時々金。
鮮やかで、目が覚めるような色ばかり。
おかげで目がしぱしぱする。
横から冷たい風がひゅうっと吹いてきて、くしゃみがでた。鼻のむずむずに耐えていると、視線を感じて顔を上げる。
目が合って何度か瞬きをした琥珀色の鋭い瞳の持ち主は、俺の予期せぬ行動に怪訝そうな顔をした。
「何の真似だ。」
「・・・折るのも、一苦労だったろうなと思って。」
俺の言葉にぴくりと眉が動くのを確認してから、俺は角から手を離す。
少しカサカサした表面に、相当硬そうな感触。
もう一本の折れた方も触ろうとしたら頭を後ろに逸らされて、空振りに終わった。
「ひと月以上経った。」
「・・・・・・本気で、言ってる?」
「俺が冗談を言うと思うか?」
「・・・・・・」
黙っていると大きなため息をつかれた。
こうして近くで見ると、瞳の琥珀色が透き通ってて、キラキラしてる。
でも眼光が・・・・・・鋭すぎて、目だけで魔物とか殺せそう。
この目で冗談は言わないだろうし、本当に一ヶ月・・・経ってるってことか。
体に掛けられた織物の下、体をもぞもぞ動かすとあちらこちらから、パキ、ポキ、と骨と関節が悲鳴をあげた。
「通りで・・・体、痛いし。」
「・・・何?どこだ、どこが痛い?見せろ。ここか?!」
「いぎゃっ!そ、そんなに触んなよ!くすぐった・・・・・・、なっ!何で、俺、裸?!!はっ、恥ずっ、恥ずかっ、し、ゲホッ、ゴホッ、」
「お前の裸なんぞ、何とも思わん。いちいち騒ぐな、餓鬼め。」
「~~~~?!」
待て待て待て!
自分の体を手でぺたぺた触って確認する。
・・・服、着てない。意味わかんない。
もう一度顔を上げると、馬鹿にするような目で俺を見るあの男。
お前が何とも思わなくても、本人が色々思うんだが!?
「魔力を吸収するのに、服が邪魔だっただけだ。他意はない。」
「・・・よくわかんないけど、あんたは服着てんじゃん。」
「脱いでも構わんが?」
「・・・・・・結構です・・・」
今度は鼻で笑われた。
今すぐにでも立ち上がって、ちょっと離れたところから文句言いたい。
でも悲しいことに俺の体は、パキ、ポキいうだけでちっとも言うことを聞いてくれなかった。
目を逸らそうと周りを見る。
見覚えのある空間。
だけどあの時と違うのは、小さなテーブルや椅子はひっくり返って脚が折れ、ベッドに寝具は何もない。
外が見えた窓みたいな穴は歪に広がっていて、雨の降る景色が寂しげに見えた。
やっぱりここは、二人の────・・・
「あいつ、消えたよ。」
「・・・・・・」
「勝手なことすんなって、怒ってた。」
「・・・・・・そんな言い方しない。」
「あんたのことかわいい、だって。」
「・・・どこが?」
「俺に聞くなよ。」
さっき俺が見ていた窓の辺りを真っ直ぐ見る竜人。
琥珀色の瞳の代わりに見えたのは、ぎゅっと固く閉じられた薄い唇だった。
「伝言預かった。」
「・・・・・・言わなくていい。」
「本当、ヘタレ。」
「何とでも言え。」
「・・・・・・・・・イル様、」
濃紺色の髪が大きく揺れるくらい、勢いよくこちらを向いて喉を鳴らす。
呼び方一つで怒るんなら最初から大人しく聞けよ。
それにそんな怖い顔で睨んでも、俺はお前のこと怖くない。
「幸せな毎日と大好きなあなたのことを忘れなかった僕の勝ち。だってさ。」
にやにや笑ってたな、あいつ。
そういうところ、嫌いじゃない。
あいつの魔力が消えたところで、すべて終わるわけじゃない。
俺にとってはむしろこれからが始まりなわけだし、俺は生まれてから今までずっと、俺。
これからもよろしく、この体。
それにさ、お前のことはあの夢とあいつから聞いた話だけでよく知らないけど、唇噛んで血が滲んで、泣くの我慢するくらいあいつが大事だったってことだろ?
それならちょっとくらい、仲良くしてやってもいい。
「また泣かないでって言われるぞ。」
「・・・・・・お前、何を見た?」
「何って・・・死ぬ直前のところ?」
「・・・泣いていない。」
「へえ。そうですか、おヘタレ様。」
「・・・・・・舌を引き抜くぞ。」
目がマジだ。
慌てて口を閉じると、ごちん、と額に頭突きをされた。
音の割にそれほど痛くなかったけど、そんなことされるとは思ってないからめちゃくちゃ吃驚して、口がぽかーんと開いてしまった。
「赤子のクロは、こうするとよく笑った。」
「・・・え、俺、今あやされたの?・・・ん?クロ?黒?」
「俺がつけたあいつの名だ。」
「何とまあ単純な名ま、イデッ!つ、つ、強くすんなっ!頭割れる!!」
「赤子扱いも当然の餓鬼め。」
「誰が赤子だ!俺はもう立派な成じ、ゲホッ、ゴホッ、?!うわ!ち、ち、血!!」
「・・・・・・本当に騒がしい。」
そして、俺はハッとする。
再び血まみれになった手よりも、掛けられていた上等な織物に血がついてしまったのではないか、と。(貧乏性)
そして慌てて織物を退けようとして、裸だったことを思い出し、また叫んでさらに血が出た。
俺の叫び声を聞きつけ、外から飛んできたコルヴィとミシャ、そしてフェイさんにかなりの動揺を与えてしまい、真っ赤な顔で謝罪する羽目になったのだった。
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