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26 甘
しおりを挟む魔物は死ぬ間際、相手に呪いを残すことがある。
残った魔力全てを込めた魔法はじわじわと相手の生命力を奪っていき、死に至らしめる。
これが呪い。
共に逝こう、道連れに。
魔族最期の足掻き方。
----------------
早朝、甘い匂いで満ちた宿舎の台所。
お久しぶりのアイラさんが街でいろんな果物を仕入れて来てくれたことを思い出し、俺は朝からジャム作り。
今日は非番のカルマがまんまと匂いに誘われて、ご飯の出来上がりを待つ子どもみたいにワクワク顔で俺の後ろに座っている。
「飯、パンケーキ焼け。」
「・・・今、鍋四つ稼働中なんだけど。」
「てめえらの痴話喧嘩に俺を巻き込んだこと忘れてねえからな。」
「あ、あれはっ、ち、痴話喧嘩とかじゃなくてっ、」
「あっんな顔面強い男に言い寄られてお前も大変だなあ?」
「いっ、言い寄られてなんかない!!」
「あ、俺その柑橘のがいい。」
「話聞けよ!!」
両手を上に伸ばし、ふわあ~と大きな欠伸をするカルマを横目に俺はジャムを焦がさないよう神経を使う。
そういえばカルマとこんな気軽?な感じで話すのも、宿舎に帰って来てからは初めてかも。
誰これ構わず威嚇する男。
この数ヶ月、寝ても覚めても一緒だったイルがいない。
なんか、妙に静かで変な感じだ。
「おはよ~・・・って、うれし~!朝からパンケーキとか最高~!レヴィくんありがとう♡」
「アイラさんのおかげでジャム作れたので。」
「おい、カルマ。あたしに感謝しろよ。」
「ざーす。」
「軽。・・・あれ?レヴィくんの砦様は?」
「アイラにもああ言われてんぞ。」
「・・・・・・えっとですね、」
今日はこの国の偉い人たちと話があるとかなんとかで、イルはルドラ様に今朝早く(嫌々)連れて行かれた。
そもそも俺が朝からジャムを煮ているのもイルに起こされたからである。
だからてっきり同行するものだと思っていたんだけど、ルドラ様といくつか言葉を交わしたあと「宿舎から絶対に出るな」との予想外の指令が下って、手持ち無沙汰になった。
結果として少し痛み始めていた果物を見つけて、こうしてジャムにできたし、半ば仕方なくだけど久しぶりにパンケーキ朝食だし・・・・・・まあいっか。
「目に浮かぶわ~。不機嫌な砦様。」
「イルは見た目通り面倒くさがりだからですね・・・」
「あはは。ちがうちがう。そうじゃなくて。レヴィくん置いていかないといけないことに、だし。」
「・・・俺?」
「ジェイスのあの言い方だと、本部の団長と国の官僚ってことだろ?」
「そりゃあレヴィくん連れて行けないよねえ。」
「・・・??何でですか?」
「チビだから。」
「パンケーキ返せ!!」
カルマの皿を奪おうと手を伸ばしたが空振りに終わり、皿に残っていたパンケーキは全てカルマの口の中へ。
悔しいことにさすが騎士だけあって本当動きが俊敏なんだよなあ。
それにしても何で俺は連れて行けないんだ・・・・・・?
「レヴィくんさ、サドエラの生き残りなんでしょ?」
「あー・・・よくわかんないけど、そうらしいですね。」
アイラさんはパンケーキを一口食べるたび、にこーっと笑う。嬉しそう。
そんなに喜んでくれるなら作ってよかった。
口いっぱいにパンケーキをもぐもぐ頬張るアイラさんは、カルマに茶を入れてくるように命じて、悪態をつきながらもカルマは席を立ちティーポットを取りに台所へ向かった。
「サドエラは特別自治区の人たちの総称でさ、とにかく物凄く貴重な力を持ってたわけですよ。」
「は、はあ。」
「みーんな死んじゃっていなくなったと思ってたのに、レヴィくんが生き残ってた。さて、どうなると思う?」
「・・・?別に何ともならない、」
「ぶっぶー!」
「んえ?!」
腕を交差させ大きなバツ印を作るアイラさんの背後にティーポットとティーカップを持ったカルマが立っていた。
仕方なさそうな顔で茶を注ぐカルマには触れず、えーっとね、と少し考える素振りをしたアイラさんは皿に残っていた一欠片のパンケーキに、俺が作った数種類のジャムを器用に乗せ始めた。
カルマは「その乗せ方は反則じゃね?!」と、大声で抗議していたけど、アイラさんは全部無視。
パンケーキの欠片に乗せた山盛りのジャムを指さした。
「見て、超豪華。美味しそうでしょう?」
「あ、はい。」
「みんな、食べた~いってなるよね。」
「まあ・・・甘党なら。」
「これがレヴィくんのことね。」
「え?」
「じゃ、いただきまあす。」
大口を開き、ぱくり、とひとくち。
ん~♡と幸せそうな顔で、最後の味を楽しんでいるご様子。
カルマはぶすくれた顔で淹れたての紅茶にジャムを全種類入れ始め、竜騎士はみんな甘党なのかなと意識がつい逸れた。
「砦様はそうなるのを阻止しに行ったんじゃないかなあ。たぶん。」
「ジェイスもだろ。」
「・・・阻止?」
「サドエラの民ってことが公になったら、レヴィくんきっと色んなところに連れて行かれちゃうし。大変だと思うんだよね。まあ、あたし達も力借りたいし、人のこと言えないけど。」
「だから圧かけて箝口令まで敷いてんだろ。」
「はあ?」
「レヴィくん、愛されてんね~♡」
「・・・???!」
意味がわからないという顔を隠しきれていなかった俺に、アイラさんは皿を下げたあと一冊の本を持って来てくれた。
ディランさんが置いていった本らしい。
国宝じゃないですよね、と問うと、知らな~い、とだけ返ってきてちょっと不安。
「ほらここ。"サドエラと竜人は古き良き友"ってあるじゃん。」
「本当だ・・・」
「いくらサドエラが強くても、敵に数でゴリ押されちゃ敵わないしさ。」
「竜人も魔族の呪いを解く術がない。」
「・・・必要な時に手を組んでたってことですね。」
「正解!レヴィくん、おりこうさんね♡」
よしよし、と頭を撫でられる俺は今、アイラさんの小さな妹三人と同じ扱いをされている。
でも不思議と嫌じゃないのは、アイラさんの性格が大きい。完全なる姉気質。
「砦様はレヴィくんを国からも守る気でいるんだろうね。」
「やっぱ一回戦ってみてえ。」
「カルマ、まじで死ぬって。」
「レヴィくんも体鍛えないとねえ。私より筋肉ないでしょ。」
「・・・ガンバリマス。」
ルドラ様がわざわざ出てきたのも、俺に関する箝口令を確固たるものとして強調したかったんじゃないかとのことだった。
俺の魔力が変わってるとは言えそんな大事になっているとは知らず・・・。イル、そういうことはあんまり話したがらないし。
そしてこの後、非番二人と俺は食後の運動と称して訓練をすることになり、皿を洗って各自着替えに部屋へ戻った。
着替えの途中、イルの「宿舎から絶対に出るな」という言葉を思い出した。
ここからすぐ近くの訓練場ならいいだろうと俺は一人で解釈して、部屋の扉を静かに閉めた。
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