【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

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「大変有意義な時間でした。明日にでも署名を。キベット殿、よろしいかな?」

「ああ、勿論だ。トレードとは今後も良い関係を築けそうで嬉しいよ。なあ、ハザック。」

「はい、ルイーズ様も素晴らしい方ですから。」

「ハザック様のような方に褒めていただけるなんて、光栄です。」

「ふむ。我らの国々の未来は明るいですな。・・・では、また夕食でお会いしましょう。」





会談は明日へと持ち越され、一旦解散となった。
ルイーズはハザックの元へ向かい庭の散策を提案する。
ハザックは内心「はぁ~面倒くせぇ~」とも思ったが今後も付き合っていくパートナーのような相手であるルイーズからの誘いを無碍にもできない。
「喜んで」と明るく返事をして、ルイーズと共に会議室を出た。

庭に向かう途中、ふう、とルイーズは小さなため息をついた。



「肩が凝りますね。」

「同感です。」

「庭師が丹念に世話をしている庭ですから、気分転換には丁度いいかと思いまして。」

「お気遣いありがとう・・・、と、喋り方は崩しても?」

「構いません。私は日頃からこうですから。ハザック様はお好きなように。」

「ああ、助かる。固苦しいのは苦手なんだ。俺のことはハザックと呼び捨てで構わない。ルイーズ、と呼んでも?」

「勿論ですよ、ハザック。これからよろしく。」



ふわりと、微笑んだルイーズはやっと見えてきた庭の奥を指差す。



「あっちのガゼボで末の弟を待たせてるんだ。真ん中の弟とは・・・ちょっと折り合いが悪くてね。別々に紹介するよ。」

「別に構わないぜ。ルイーズに似てどちらの弟も美しいんだろうな、きっと。」

「・・・・・・私なんかより、ずっと、ずっと、美しいんだ、リシェルは。」

「・・・リ、シェルって言うんだな。末の弟だったか?」

「ああ。私と真ん中の弟と、リシェルは母親が違うんだ。」


そう言って微笑んだルイーズから背中がぞくっとする雰囲気を感じたハザックは「へえ・・・」と返事を返すしかできなかった。


しばらく歩くと、ガゼボが見えてきた。
一面に広がる緑の庭にガゼボの白亜の柱が映えている。
そしてそのガゼボのベンチに座っている青年が、一人。
その見覚えのある後ろ姿を見た瞬間、ハザックの心臓は大きく動き出した。




「・・・なあ、ルイーズ。あれが弟か・・・?」

「?ああ、そうだよ。黒髪が美しいだろう?・・・どうしたんだい、ハザック。顔が赤いようだけど。」

「・・・・・・また会えた。」

「・・・え?」




ハザックの喜びが身体中から溢れ出る。
獣人同士だったら、すぐにでもその匂いで自分のことが分かるだろうに・・・、その後ろ姿の青年は人間だ。
だから、その匂いを分かってもらえない。
それがハザックにとって、実にもどかしい。

突然尻尾が左右に揺れ出したハザックにルイーズは困惑を隠せない。
ルイーズにとってもまた、リシェルは特別な存在だから。



「リシェル・・・そうか、彼はリシェルと言うのか。」

「・・・ハザック?私の弟がどうかしたのか・・・?」

「探してたんだ、彼を。」

「・・・は?」

「すまないが、先に行く。」

「はっ、ちょっ、待ってくれ!!弟は人見知りで、」




ルイーズの静止の言葉はハザックの耳には届かない。
豹の獣人、と言うだけあってハザックは脚力に自信がある。

しかももう会えないかもしれない、と今朝まで落ち込んでいた彼にこんなところで会えたのだから、いつもより何倍も、何倍も速く走れる気がした。
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