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リシェルは白亜のガゼボで、静かに本を読んでいた。
本の世界に没入しているのか背後のハザックに全く気がついていない。
リシェルの近くには護衛騎士のグラッツが居たがすぐにハザックが何者か気付いたようだ。
剣に伸ばした手を即座に引き、片膝をついてハザックに頭を下げた。
愛しい自分の番を守る騎士にしては、まあ悪くない。
「お前は下がれ」と動作でハザックに伝えると、グラッツは小さく礼をして少し離れたところに移動する。
そんなやりとりにさえリシェルは気付かず、本と向き合ったままだった。
少々心配になったが、これからは自分が近くに居ればいい。
ハザックの心の中はリシェルへの愛で溢れかえる。
その華奢な肩をそっと叩くと、ようやくリシェルは本の世界からこちらに帰って来たようだった。
きっとルイーズが来たと思ったのだろう。
満面の笑みをハザックに向ける。
あの店で近寄った時には見られなかった、リシェルの笑みに、ハザックの尻尾は嬉しさで左右に大きく揺れていた。
「兄さ・・・・・・・・・、えっ?」
「また会えた・・・っ、今度はどうか逃げないでほしい・・・」
「あ、なたは・・・えっ、どど、ど、うして王宮に?!!それにその格好・・・えっ?!」
ハザックは今、アグリアの王族の正装姿。
王族の相手をする、と聞いていたから、リシェルはアグリアについて勉強した。
だからその繊細で伝統的な刺繍が施されたジャケットを見て、すぐにハザックがアグリアの王族だと分かったのだろう。
驚きでリシェルはうまく言葉が出てこない。
それに加えて「あの店のことがバレたらどうしよう」と恐怖に似た感情で頭の中が埋め尽くされた。
リシェルの異変に気がついたハザックは優しく微笑むと、彼の耳元に顔を寄せ、小さな声で囁いた。
リシェルからは、とても甘い良い香りがする。
「内緒にしておく。秘密にしたいんだろ?」
「へっ??!あ、え、っと・・・・・・・・・・・・・・・、は、い。」
「・・・ふふ。分かった。俺はアグリア第一王子のハザックだ。よろしく。」
「はい、よろし・・・・・・・・・・・・、ん?だだだだ第一王子ですか!???」
白亜のベンチから飛び上がる姿は、まるで小動物のよう。
その愛らしい姿に堪らなくなったハザックは、そっとリシェルに向けて手を伸ばした。
だが、ハザックの手がリシェルの柔らかな黒髪に届くことはなかった。
その太い腕を乱雑に掴み、息を切らせたルイーズが現れたからだ。
「・・・っ、ハザック、弟から離れてくれ。気安く・・・リシェルに触ってほしくない。」
「ルイーズ・・・っ、彼と話をさせてくれ。人間には分からないかもしれないが・・・彼は俺の、」
ハザックは、必死にルイーズへ懇願する。
獣人にとって【番】とは時に自分の命よりも優先される存在。
相性の良い番に生きている間に出会えない獣人だっている。
だが、ハザックは奇跡的に会えたのだ。
自国をいくら探しても見つからなかったのに、まさかこんなところで。
相手は番の匂いもわからない人間だったけれど、そんな小さな事、ハザックにはどうでもよかった。
しかし、ハザックと同じようにルイーズにも譲れない理由があった。
なかなか腕を引こうとしないハザックに向けて、ルイーズの身体から冷気が溢れ出す。
恐ろしい程の魔力を感じたハザックがルイーズの美しい顔を見上げる。
その青い瞳は、凍えそうなほどに冷たかった。
「ルイーズ!怒りを鎮めてくれ、頼む・・・っ!君の大切な弟かもしれないが、彼はっ、」
「離れろと、言ったはずだ。」
有無を言わさない、ルイーズの唸るような声。
同時にとんでもない強さの風が吹き荒れた。
会話にあまりついていけなくなっていたリシェルがその風の強さに思わず「わぷっ」と口と目を閉じた。
すると自分の身体が突然ふわりと浮き上がり、誰かに抱えられた。
恐る恐る目を開けるとすぐ近くにあの美しい銀の髪と青い瞳が見えた。
「ルイーズ兄様、僕、お、重いですから、下ろしてください!」
「・・・急に魔法を使ってごめんね、リシェル。もう大丈夫だから。それにリシェルは羽のように軽いから平気だよ。」
「・・・?!ぼ、く、一人で立てま、」
「だめ。大人しく抱っこされてなさい、リシェル。」
ダンスの練習の時よりも顔が近い。
青い瞳の奥にはまだ怒りの炎が見える。
顔はこんなにも優しく微笑んでいるのにリシェルを抱く手の力はは恐ろしく強かった。
いつもとは何かが違うルイーズの様子を感じ取り、リシェルは「はぃ・・・」と小さく返事をするしかできなかった。
本の世界に没入しているのか背後のハザックに全く気がついていない。
リシェルの近くには護衛騎士のグラッツが居たがすぐにハザックが何者か気付いたようだ。
剣に伸ばした手を即座に引き、片膝をついてハザックに頭を下げた。
愛しい自分の番を守る騎士にしては、まあ悪くない。
「お前は下がれ」と動作でハザックに伝えると、グラッツは小さく礼をして少し離れたところに移動する。
そんなやりとりにさえリシェルは気付かず、本と向き合ったままだった。
少々心配になったが、これからは自分が近くに居ればいい。
ハザックの心の中はリシェルへの愛で溢れかえる。
その華奢な肩をそっと叩くと、ようやくリシェルは本の世界からこちらに帰って来たようだった。
きっとルイーズが来たと思ったのだろう。
満面の笑みをハザックに向ける。
あの店で近寄った時には見られなかった、リシェルの笑みに、ハザックの尻尾は嬉しさで左右に大きく揺れていた。
「兄さ・・・・・・・・・、えっ?」
「また会えた・・・っ、今度はどうか逃げないでほしい・・・」
「あ、なたは・・・えっ、どど、ど、うして王宮に?!!それにその格好・・・えっ?!」
ハザックは今、アグリアの王族の正装姿。
王族の相手をする、と聞いていたから、リシェルはアグリアについて勉強した。
だからその繊細で伝統的な刺繍が施されたジャケットを見て、すぐにハザックがアグリアの王族だと分かったのだろう。
驚きでリシェルはうまく言葉が出てこない。
それに加えて「あの店のことがバレたらどうしよう」と恐怖に似た感情で頭の中が埋め尽くされた。
リシェルの異変に気がついたハザックは優しく微笑むと、彼の耳元に顔を寄せ、小さな声で囁いた。
リシェルからは、とても甘い良い香りがする。
「内緒にしておく。秘密にしたいんだろ?」
「へっ??!あ、え、っと・・・・・・・・・・・・・・・、は、い。」
「・・・ふふ。分かった。俺はアグリア第一王子のハザックだ。よろしく。」
「はい、よろし・・・・・・・・・・・・、ん?だだだだ第一王子ですか!???」
白亜のベンチから飛び上がる姿は、まるで小動物のよう。
その愛らしい姿に堪らなくなったハザックは、そっとリシェルに向けて手を伸ばした。
だが、ハザックの手がリシェルの柔らかな黒髪に届くことはなかった。
その太い腕を乱雑に掴み、息を切らせたルイーズが現れたからだ。
「・・・っ、ハザック、弟から離れてくれ。気安く・・・リシェルに触ってほしくない。」
「ルイーズ・・・っ、彼と話をさせてくれ。人間には分からないかもしれないが・・・彼は俺の、」
ハザックは、必死にルイーズへ懇願する。
獣人にとって【番】とは時に自分の命よりも優先される存在。
相性の良い番に生きている間に出会えない獣人だっている。
だが、ハザックは奇跡的に会えたのだ。
自国をいくら探しても見つからなかったのに、まさかこんなところで。
相手は番の匂いもわからない人間だったけれど、そんな小さな事、ハザックにはどうでもよかった。
しかし、ハザックと同じようにルイーズにも譲れない理由があった。
なかなか腕を引こうとしないハザックに向けて、ルイーズの身体から冷気が溢れ出す。
恐ろしい程の魔力を感じたハザックがルイーズの美しい顔を見上げる。
その青い瞳は、凍えそうなほどに冷たかった。
「ルイーズ!怒りを鎮めてくれ、頼む・・・っ!君の大切な弟かもしれないが、彼はっ、」
「離れろと、言ったはずだ。」
有無を言わさない、ルイーズの唸るような声。
同時にとんでもない強さの風が吹き荒れた。
会話にあまりついていけなくなっていたリシェルがその風の強さに思わず「わぷっ」と口と目を閉じた。
すると自分の身体が突然ふわりと浮き上がり、誰かに抱えられた。
恐る恐る目を開けるとすぐ近くにあの美しい銀の髪と青い瞳が見えた。
「ルイーズ兄様、僕、お、重いですから、下ろしてください!」
「・・・急に魔法を使ってごめんね、リシェル。もう大丈夫だから。それにリシェルは羽のように軽いから平気だよ。」
「・・・?!ぼ、く、一人で立てま、」
「だめ。大人しく抱っこされてなさい、リシェル。」
ダンスの練習の時よりも顔が近い。
青い瞳の奥にはまだ怒りの炎が見える。
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