6 / 16
6
しおりを挟む
ラファドとリーシュが共に食事をしたり、しなかったり・・・、そんな日が何日か続いている。
リーシュは"塵"について話す機会を探していたが、共に食事をするときもラファドは時間を気にしており、なかなか聞けずにいた。
先日、ラファドが言っていた"面倒なこと"以外にも近隣の森に魔物が出たり、第1王子・第2王子の補佐をしたり・・・と、忙しいようだ。
専属魔法士であるリーシュもラファドの護衛につくが、勤務中はゆっくり話す時間が取れないのである。
第1王子の補佐をする際、リーシュには自由な時間が与えられることが多い。
執務室には近衞騎士も多いし、第1王子の専属魔法士のリカルドがいる。だから「護衛は十分」なのだそうだ。
ラファドとしては、恐らく良かれと思って自由な時間をリーシュに与えたのだろう。
しかし、リーシュにとってその対応は、「お前は必要ない」と言われたような気持ちになって、胸がきゅっと、締めつけられる。
「・・・思い上がるな。馬鹿か、僕は。」
ぽつりと呟き、濃紺に銀色の刺繍の入った自分のローブの裾を強く掴み、執務室を後にするリーシュだった。
浮かない気分の時は大体決まって、マイクやゴルドの元へ行く。彼らは、良い話し相手だ。
この日は訓練直後だったらしい。
額の汗を布で拭くマイクは、とぼとぼ浮かない足取りで自分の方に向かってくるリーシュを見つけると、思わずため息を漏らす。
「あーあ。今日は捨て犬ちゃんの日かよ~。辛気臭えなぁ。」
「別に・・・捨てられてません。」
「はいはい。ほら、飴やるから元気出せよ~。」
「・・・・・・・・・飴は有り難く頂戴します。」
リーシュは眉間に皺を寄せながら、ポイッと口に飴を放り込む。
甘いものは心にゆとりをくれる。
リーシュも飴のおかげで、少し落ち着いた。
訓練着から着替えたマイクとゴルドはリーシュと共に、訓練場の端にあるベンチに座る。
3人で座るとギュウギュウなので、ゴルドは何も気にする様子なく、地面にそのまま腰を下ろした。
ごくごくごく、と音を立てて水分補給をするマイクは、リーシュを横目で確認した後、少し考えたような顔をする。
「・・・・・・なあ、リーシュ。捨て犬の日にこんなこと聞くのも悪いけどよ。」
「僕は歴とした人間です。」
「お前、何で"契りの耳飾り"してねぇんだ?他の専属魔法士はしてるだろ?ほら、左耳に、」
そう言いかけたマイクの頭をパチーーーンと、容赦なく叩いたのはゴルド。
「いってぇ・・・っ」と呻き声をあげるマイクの頭頂部にもう一発、チョップを入れた。
「マイク、お前・・・・・・本当に考えなしだな。」
「だってよお。もし違ったら・・・、いつまでもメソメソさせてんのも可哀想だろ・・・」
「万が一、リーシュを泣かせでもしてみろ。お前・・・終わりだぞ。」
「俺はまだ死にたかない。」
「・・・ほら、リーシュ。今度はこれ食え。口開けろ。」
「・・・・・・別に僕は泣きませんよ。」
苦笑いをするリーシュの口にゴルドが違う味の飴を入れてくれた。
2人とも何だかんだ最近のリーシュの様子を心配してくれているらしい。
そう考えるだけでリーシュは心が温かくなった。
「リカルド様が優秀で、僕が不要なのは承知してます。これも仕事ですから、割り切って・・・考えないとですよね。」
「・・・んー・・・俺らが言いたいのはそういうことじゃなくてだな・・・」
「・・・あ、そういえば、ち・・・?ち、ちぎり、の耳飾りでしたっけ。それは一体何ですか?」
「「・・・・・・マジか。」」
「・・・・・・・・・?」
リーシュがこてんっと首を傾げると、騎士2人は互いに顔を見合わせて、苦虫を噛んだような顔をした。
「・・・知らなかったんだな。」
「は、はい・・・そうです、ね?」
「そりゃそうか。お前、元々専属魔法士になる予定でもなかったみてぇだし、事前の教育とかすっ飛ばしてるよな。」
「そ・・・うかも?」
「・・・・・・・・・」
赤髪の頭を雑に掻くマイクは助けを求めるようにゴルドを見る。
その目線にすぐ気がついたゴルドはハァッとあからさまに嫌そうなため息をついたあと、契りの耳飾りについて説明を始めた。
リーシュは"塵"について話す機会を探していたが、共に食事をするときもラファドは時間を気にしており、なかなか聞けずにいた。
先日、ラファドが言っていた"面倒なこと"以外にも近隣の森に魔物が出たり、第1王子・第2王子の補佐をしたり・・・と、忙しいようだ。
専属魔法士であるリーシュもラファドの護衛につくが、勤務中はゆっくり話す時間が取れないのである。
第1王子の補佐をする際、リーシュには自由な時間が与えられることが多い。
執務室には近衞騎士も多いし、第1王子の専属魔法士のリカルドがいる。だから「護衛は十分」なのだそうだ。
ラファドとしては、恐らく良かれと思って自由な時間をリーシュに与えたのだろう。
しかし、リーシュにとってその対応は、「お前は必要ない」と言われたような気持ちになって、胸がきゅっと、締めつけられる。
「・・・思い上がるな。馬鹿か、僕は。」
ぽつりと呟き、濃紺に銀色の刺繍の入った自分のローブの裾を強く掴み、執務室を後にするリーシュだった。
浮かない気分の時は大体決まって、マイクやゴルドの元へ行く。彼らは、良い話し相手だ。
この日は訓練直後だったらしい。
額の汗を布で拭くマイクは、とぼとぼ浮かない足取りで自分の方に向かってくるリーシュを見つけると、思わずため息を漏らす。
「あーあ。今日は捨て犬ちゃんの日かよ~。辛気臭えなぁ。」
「別に・・・捨てられてません。」
「はいはい。ほら、飴やるから元気出せよ~。」
「・・・・・・・・・飴は有り難く頂戴します。」
リーシュは眉間に皺を寄せながら、ポイッと口に飴を放り込む。
甘いものは心にゆとりをくれる。
リーシュも飴のおかげで、少し落ち着いた。
訓練着から着替えたマイクとゴルドはリーシュと共に、訓練場の端にあるベンチに座る。
3人で座るとギュウギュウなので、ゴルドは何も気にする様子なく、地面にそのまま腰を下ろした。
ごくごくごく、と音を立てて水分補給をするマイクは、リーシュを横目で確認した後、少し考えたような顔をする。
「・・・・・・なあ、リーシュ。捨て犬の日にこんなこと聞くのも悪いけどよ。」
「僕は歴とした人間です。」
「お前、何で"契りの耳飾り"してねぇんだ?他の専属魔法士はしてるだろ?ほら、左耳に、」
そう言いかけたマイクの頭をパチーーーンと、容赦なく叩いたのはゴルド。
「いってぇ・・・っ」と呻き声をあげるマイクの頭頂部にもう一発、チョップを入れた。
「マイク、お前・・・・・・本当に考えなしだな。」
「だってよお。もし違ったら・・・、いつまでもメソメソさせてんのも可哀想だろ・・・」
「万が一、リーシュを泣かせでもしてみろ。お前・・・終わりだぞ。」
「俺はまだ死にたかない。」
「・・・ほら、リーシュ。今度はこれ食え。口開けろ。」
「・・・・・・別に僕は泣きませんよ。」
苦笑いをするリーシュの口にゴルドが違う味の飴を入れてくれた。
2人とも何だかんだ最近のリーシュの様子を心配してくれているらしい。
そう考えるだけでリーシュは心が温かくなった。
「リカルド様が優秀で、僕が不要なのは承知してます。これも仕事ですから、割り切って・・・考えないとですよね。」
「・・・んー・・・俺らが言いたいのはそういうことじゃなくてだな・・・」
「・・・あ、そういえば、ち・・・?ち、ちぎり、の耳飾りでしたっけ。それは一体何ですか?」
「「・・・・・・マジか。」」
「・・・・・・・・・?」
リーシュがこてんっと首を傾げると、騎士2人は互いに顔を見合わせて、苦虫を噛んだような顔をした。
「・・・知らなかったんだな。」
「は、はい・・・そうです、ね?」
「そりゃそうか。お前、元々専属魔法士になる予定でもなかったみてぇだし、事前の教育とかすっ飛ばしてるよな。」
「そ・・・うかも?」
「・・・・・・・・・」
赤髪の頭を雑に掻くマイクは助けを求めるようにゴルドを見る。
その目線にすぐ気がついたゴルドはハァッとあからさまに嫌そうなため息をついたあと、契りの耳飾りについて説明を始めた。
147
あなたにおすすめの小説
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています
水凪しおん
BL
「お前は役立たずだ」――。
王立錬金術師工房を理不尽に追放された青年フィオ。彼に残されたのは、物の真の価値を見抜くユニークスキル【神眼鑑定】と、前世で培ったアンティークの修復技術だけだった。
絶望の淵で、彼は王都の片隅に小さな修理屋『時の忘れもの』を開く。忘れられたガラクタに再び命を吹き込む穏やかな日々。そんな彼の前に、ある日、氷のように美しい一人の青年が現れる。
「これを、直してほしい」
レオと名乗る彼が持ち込む品は、なぜか歴史を揺るがすほどの“国宝級”のガラクタばかり。壊れた「物」を通して、少しずつ心を通わせていく二人。しかし、レオが隠し続けたその正体は、フィオの運命を、そして国をも揺るがす、あまりにも大きな秘密だった――。
過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件
水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」
製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。
しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。
ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。
「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」
真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。
師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。
「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」
これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
絶対的センターだった俺を匿ったのは、実は俺の熱烈なファンだったクールな俳優様でした。秘密の同居から始まる再生ラブ
水凪しおん
BL
捏造スキャンダルで全てを失った元トップアイドル・朝比奈湊。絶望の淵で彼に手を差し伸べたのは、フードで顔を隠した謎の男だった。連れてこられたのは、豪華なタワーマンションの一室。「君に再起してほしい」とだけ告げ、献身的に世話を焼く『管理人さん』に、湊は少しずつ心を開いていく。しかし、その男の正体は、今をときめく若手No.1俳優・一ノ瀬海翔だった――。
「君のファンだったんだ」
憧れの存在からの衝撃の告白。クールな仮面の下に隠された、長年の熱烈な想い。
絶望から始まる、再生と愛の物語。失われたステージの光を、二人は取り戻せるのか。
処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される
水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。
しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み!
生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。
ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。
しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。
「――俺の番に、何か用か」
これは破滅を回避するためのただの計画。
のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。
悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる