【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O

文字の大きさ
9 / 16

しおりを挟む
リーシュが転移した先は、彼がよく魔物討伐をしていたギデオン家領地内の森だった。
暗闇の中、ぽつんと自分一人。



「逃げちゃった・・・どうしよう。」



どうしようと言っても、事情を説明するためには家に戻るしかない。
リーシュは一先ず近くの小川に行くと周囲に結界を張った。
ポケットに入れていたハンカチを川の水に浸し、ギュッと絞って瞼に当てる。


ひんやりして、気持ちいい。


リーシュの脳内では、先ほどまでの出来事が何度も何度も繰り返されていた。




「ラファド様は優しいから僕のこと心配してそうだな。」


温くなったハンカチを、もう一度川に浸ける。
水面に映った自分の顔が、情けなく見えた。



「・・・これ護衛放棄だよな。最早解雇案件・・・・・・いや、そもそも正式な契約してないし・・・?父上と兄上に謝らないと。」



リーシュは考えがまとらない。
しばらく夜風を浴びて、あのもやもやした気持ちを無理やり落ち着かせた。



冷やしたハンカチを当てたことで、赤くなった目元もましになった。
ふぅーーと、深呼吸をしてからまた転移魔法を使い、約4ヶ月ぶりの実家へとリーシュは転移した。








屋敷に戻るとすでにリーシュの父と兄が玄関で待ち構えていた。
2人とも何か言いたげな顔をしていたが、リーシュの顔を見るなり、更に顔を歪ませた。




「父上、それから・・・兄上。連絡もせず突然申し訳ありません。」

「・・・ああ。」

「あの・・・もしかしてご存知かと思いますが・・・一旦、家に入ってもよろしいでしょうか?」

「・・・・・・ジョンソン、飲み物を用意してくれ。」





ガーディナーの言葉に「畏まりました」と執事のジョンソンが一礼する。


そして兄のラズワルドは、何も言わずリーシュをそっと引き寄せて抱きしめた。











王宮から通信魔法ですでに連絡が来ていた。
もちろん差出人はラファドである。


『リーシュがそちらに向かった。必ず保護してくれ。』

それだけが、書かれていたそうだ。






懐かしい気持ちで座った椅子。
リーシュの目の前にはすぐにいい香りの紅茶が出された。
ゆらゆら上がる紅茶の湯気を見ながら、リーシュはこの約4ヶ月間のことを話し始めた。






正式な専属魔法士の契約まで至っていなかったこと。
自分はそれを今日まで知らなかったこと。
ラファドにはとても良くしてもらったこと。
自分の意思で勝手にここへ戻ってきたこと。
もう恐らく解雇されること。




ラファドを慕っていることはさすがに恥ずかしいので、リーシュは敢えて伏せておいた。





父も兄もリーシュがぽつりぽつりと話す間、静かだった。それがまたリーシュの目頭を熱くさせたのだが、必死に耐えた。





「申し訳ありません。伯爵家に泥を塗るような真似をしてしまいました。」

「何を・・・言っている。」

「お怒りになるのも当然です。僕は・・・職責を放棄したのですから。」

「だから、何を」

「僕はこの地の魔物討伐に専念致します。ラファド様には・・・文で謝罪を・・・」

「リーシュ、待て。」

「それも否とするのであれば、少し時間をください。平民となり、他国へ」




カシャンっと大きな音を立ててティーカップを置く音がした。
言いかけた自分の言葉を飲み込んだリーシュは、ビクっと肩を揺らす。
いつの間にか下を向き、自分のきつく握りしめた両手を見ていたことにリーシュは気づいた。




恐る恐る顔を上げた先に見えたのは怒りに満ち溢れた兄、ラズワルドの顔。
こめかみに青筋が浮かび、手元のティーカップがわなわなと震えている。
ジョンソンは何も言わずに彼に近寄ると、ティーカップを下げた。





「リーシュよ!!さっきから何を言っている!?」

「申し訳ありま、」
「今回のことは!!あちらの!!落ち度だ!!」

「・・・・・・へ?」


予想外の返答に、リーシュから気の抜けた声が漏れる。
それでも尚、ラズワルドの勢いは止まらない。
彼の隣に座ったガーディナーのティーカップまでカタカタ音を出して揺れていた。




「愛らしいリーシュの目元をこんなにして・・・・・・っ、あ゛あ!王族とて許されぬ!」

「あ、兄上?ちょっと、」

「あれ程!入念に忠告したというのに!!」

「忠告とは、一体何のことでしょう、兄上。」

「・・・・・・あ゛」




それまで一人で憤慨していたラズワルドの動きがはたっと止まる。
その顔に"しまった"と書かれているように見えた。


兄と弟が見つめ合い、お互い逸らさない。いや、逸らせない?
リーシュの黒い瞳、ラズワルドの灰色の瞳。
両者の視線が重なったままだ。





リーシュは思い出していた。
そういえばリーシュが王宮に行く前、ラズワルドがアカデミーを卒業し、領地へ戻ってきた頃のことを。
何故か彼は何処かへ出掛けることが増え、家に居ないことが多い時期があった。

アカデミーのことを彼の口から聞くこともなかった。
まあ、リーシュはアカデミーには全く興味がなかったので、自身が通うこともなければ、話にも興味がなかった。
・・・いや今はそんなことどうでも良い。


そもそもラズワルドはラファドと学友だったのではないか、と。





「・・・ええと、ラファド様とは割と?気の知れた仲でな・・・」

「ほう。」

「いつだったかなー・・・、リーシュがその・・・」

「ちゃんと僕は聞いておりますよ。どうぞ、続けてください。」

「・・・・・・・・・知っていることを全て話す。そんな目で兄を見るな。俺の心が死んでしまうだろ・・・・・・」

「・・・・・・全て、ですよ。兄上。」




はああ、と観念したように両手を上げ、ラズワルドは話し始めた。
彼の話が完全に寝耳に水のリーシュ。
それからリーシュの小さな口は、しばらく開いたまま塞がらなくなるのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8+2話完結】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」 製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。 しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。 ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。 「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」 真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。 師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。 「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」 これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

処理中です...