敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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1.身代わりのお見合い

身代わりのお見合い③

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 しかも菜々美のために用意された振袖は派手すぎて、香澄にはお世辞でも似合わなかった。だから、着物は自分で用意をした。
 いつも書道の表彰式などでお世話になっている美容院の先生に自宅まで来てもらって着付けをしてもらう。

「柚木先生、今日は可愛いお着物ですねぇ。まるでお見合いみたいだわ」
 香澄は鏡の前で軽くため息をつく。
「その通りなんです」
「あ……ら。あらあら、まあまあ。じゃあ、可愛く仕上げましょうね」

 どうして着付けの先生がこうも嬉しそうなのか。
 オフホワイトの生地に桜と明るい紫の鹿の子を足元にあしらった柄は縁起もよく、見た目にも明るく華やかだ。それでいて落ち着いている。

 それに銀糸の帯と濃い紫の帯留を合わせると振袖でも年相応の落ち着きが出た。
 髪は綺麗にまとめて花を散らされる。

 お見合いは憂鬱だけれど、綺麗な着物には気分が上がるものだ。それにはなから断ってもいいと言われているお見合いである。

 お相手には失礼かもしれないけれど、香澄にとってはそれほど真剣になる必要はないと思えば、気持ちも楽になった。
 それに交際したことがないだけではなくて、香澄には男性が苦手な理由がある。
 それはほぼ男性恐怖症と言うに相応しいようなものだった。

 だからこそ、中学、高校、大学と女子校に通い、学校の先生や身内の男性ならば恐怖心を覚えることなく話すことができる。

 父はそれを知っているはずだった。
 それでも娘の花嫁姿を見たいという気持ちに揺らいで、つい叔父の言うがままにしてしまったのだろう。
(まぁ……お父様の気持ちも分からなくはないけれど……)

 香澄は子どもの頃から書道が大好きだった。たまたま運良く師匠にも恵まれて早くから才能を見出されており、教室には塾よりも熱心に通った。

 そのせいだ。あれは小学生くらいの時だったと思う。帰りが遅くなった時に知らない大人の男性に声をかけられた。
「君、おうちはどこなの? こんな時間にうろうろしていては危ないよ」
 もしかしたら、親切心かもしれないと香澄も一瞬は考えた。

 しかし、子ども心に見上げるような大人の男性が自分の前に立ちはだかって、今にも腕を掴みそうな雰囲気で言われたのはとても怖かったのだ。
 怖くて「ごめんなさい~!」と泣きながら師匠の教室に戻った。そこからは父が迎えに来てくれて、送迎がつくようになった。

 後から聞いた話では、後日その男が不審者として警察に捕まったそうで、奇しくも香澄の勘は当たっていたわけだ。

 それから香澄は、男性が一切ダメになってしまった。
 二十年近く経っているはずの今でもだ。

 叔父はそんなこととは知らず、会場に向かう車の中で「美味しいものを食べられると思えばいいじゃないか」なんてのんきに話していた。
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