敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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9.お願いとおしおき

お願いとおしおき ③

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 二人で並んで座って、お茶を淹れながらお菓子の話を聞いたりするのはとても楽しいことだった。
 初めて食べるショートブレッドは確かに神代が言う通り、ほろほろと口の中で崩れる食感がなんとも言えない。紅茶も少し濃い目なのが神代式なのか濃いこともあり、まるでコーヒーのような味わい深さがあった。

「香澄さん……」
 美味しくいただいていると名前を呼ばれて香澄は顔を上げる。
「今日みたいなことはやめてください」
「はい……」
 きっと本当に心配をかけてしまったのに申し訳ない。香澄はしゅんとしてしまった。

「いるかと思ったのにいなくて驚いて、しかもどこにいるか分からなくて心配で仕方なかったんです」
 切なげな瞳でそう言われて、香澄はハッとした。自分は菜々美のことや、新しいことをするのにいっぱいいっぱいになってしまって、そんな風に心配をかけてしまうことに思いは至っていなかった。

「ごめんなさい」
「赦さないです」
 いつも香澄に甘い神代に赦さないなんて強い言葉で言わせてしまったことを悔やむと同時に涙が込み上げてきた。
(どうしよう……赦してくれないなんて……)
「本当に、心配かけてごめんなさい」
「悪いって思ってますね?」
 こくこくっと一生懸命香澄が頷くと神代からは深いため息の音が聞こえてきた。
 そしてソファの上でふわりと抱き寄せられて、神代の膝の上に乗せられた。端正な顔がものすごく近い。

「あの……重くないですか?」
「全然。そんなことより反省しましたか?」
 怒っているはずなのに、どこか甘い顔は香澄を戸惑わせるばかりだ。距離も近いし、誰かの膝の上なんて物心ついてからは乗ったことはない。
「反省しました」
 真面目にそう言わないと許してくれないような気がしたし、神代に心配をかけたことは香澄は心から反省していたのだから一生懸命香澄は伝える。神代が零れかけた香澄の目に浮かんだ涙を指先で拭ってくれた。
「こちらこそ、ごめんなさい。泣かせるつもりはなかった」
「いいえ。神代さんは怒って当然です」

「ではお願いを一つ聞いてもらおうかな? おしおきもまだでしたね」
 怒っていたはずの神代はなんだか妙に楽しそうになってきて、んん? と香澄は首を傾げる。
「おしおき……」
 お願いとおしおきとは?

 
「お願いです。俺のこと、名前で呼んでください」
 掠れたような神代の声を聞いて、香澄は胸がぎゅっとなった。
「名前……ですか?」
 名前はもちろん知っている。
「佳祐……さん」
「はい。なんですか? 香澄さん」
「もう、呼べって言ったから呼んだだけなのに」

 言われた通りにしただけなのになんですかと聞かれてしまって、香澄は神代の胸を軽く叩く。それすらも神代は楽しそうだった。
「知ってます。一生懸命名前を呼ぶ香澄さんが可愛すぎて、返事したくなったんです」
 優しく目元を笑ませた神代はふわりと柔らかく香澄の唇と自分の唇を重ねる。
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