エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら

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3.二度目は偶然

二度目は偶然①

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 その時、逆の手を引かれて美声が莉桜の耳に届いた。
『彼女は俺の恋人だ。触れるのはやめてくれ』
 声の方を見上げて莉桜はハッとする。五十里だったからだ。

 ローカルの人は手を離しながら、ちょっと聞くに耐えない罵声を浴びせて離れていった。
(こ、怖かった……)
 安心して莉桜は一気に体の力が抜ける。
 それを五十里が支えてくれた。

「大丈夫か?」
 聞かれても、今起こったことがよく分からなくて、莉桜は呆然としてしまう。

「だ……いじょうぶです」
「悪かったな。助けたくて、つい……」
 申し訳なさそうな五十里を見て、莉桜は首を横に振る。

「とても怖かったので、助かりました」
「まあ、こっちの人は大柄だし怖いよな? 君は……客室乗務員だったな」
 極力顔が見えないように伏せながら頭を下げたのだが、機内でも助けてもらったのだとバレてしまったらしい。


「本当に何度も申し訳ございません! でも、本当にありがとうございました!」
 バレたものは仕方ない。
 ぺこっと莉桜はもう一度頭を下げる。

 一瞬五十里は驚いたような顔をしていたが、くつくつと肩を揺らして笑うとにっと莉桜に笑いかけた。

「気を付けて。もしかしたら、きみは隙だらけなのかもな。まあ、分からなくもないが」
 隙だらけって……ほとんど初対面なのに失礼ではないだろうか。

 それでも助けてもらってばかりいるので否定はしきれないのがつらいところだ。
「あの……普段はこんなことないんですよ?」
 一応言い訳はさせてほしい。

「ふうん? 二度は偶然だが三度目は必然と言うな。三度目がないことを願っているよ」
(三度目はないからっ!)
 心の中で叫びながら、莉桜はにっこりとお仕事スマイルを向ける。

 五十里の方もいかにも表面上の笑みを莉桜に向けた。
「楽しみだな」
 そう言うと五十里は踵を返してエントランスに向かっていった。

 莉桜はその後ろ姿を見送ることしかできない。
(素敵だけど、紳士だけど、なんか意地悪……)

「倉木さん!」
 その時、大島に呼ばれて莉桜はロビーの方を見る。大島はエントランスに向かう五十里の後ろ姿を見ていた。

「あの方……」
「また、助けられてしまいました」
「あらら?」

 大島がうふふっと笑う。
「倉木さんにも春?」
「ないです! だって立場が違いますから」
 向こうは五十里重工の重役で御曹司。こちらはしがない客室乗務員なのだ。

「接点なんてないですよ」
 確かにいつもヒーローみたいに登場して助けてもらったりしているが、向こうにしてみれば、ただ面倒に巻き込まれているだけだろう。

 楽しみなんて言っていたけれど、それは単に嫌味を上手くオブラートに包んだだけだ。
「ちょっと意地悪だし……」
「えー? 五十里様が? そんなわけないでしょう」
 大島には一笑に付されて終わってしまった。

(いや、意外と大人げないですよ?)
 そのことは言わないでおく。莉桜は大島と夜景がきれいだというレストランへ向かうことにした。

「もー、すっごくお腹空いちゃいました!」
「本当よね。予約したレストランはお料理もおいしいから楽しみにしていてね!」


 帰りの飛行機ではさすがに五十里と一緒になることもなく、問題もなく快適なフライトだった。
 莉桜の初めての経験となるビジネスシート担当は緊張もしたけれど、いい経験となった。
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