エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら

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8.サプライズデート

サプライズデート③

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「あ……、この近くには美術館もあります」
「シカゴ美術館だな。良いらしいけど行ったことはないから、ぜひ行ってみたい。よし、美術館に行こう」

 取りあえず近くにあるから提案しただけなのに、あっさり行こうと言われて莉桜は焦ってしまった。

「いいんですか? 五十里さんが行きたいところはないです?」
「シカゴ美術館も行ってみたかったよ。機会がないと行かないだろう。見どころがたくさんあるらしいからな。楽しみだよ」
 五十里に後ろからハグされていて、莉桜はどきどきしてしまう。

 気づいたら視線が絡んでいた。
 意志の強そうな眉や、その下の輝く瞳、仕事の時はバックにまとめている髪もオフの時はふわりと自然になっていていつ見ても端正のかたまりみたいな人だ。

 その顔が近づいていた。
「あ……」
 莉桜が戸惑っている間にふっと唇が触れる。

 一瞬柔らかく触れた唇は、何度も角度を変えて重ねられた。
 鼓動が大きくなり、顔も身体すらも熱くなってくる。優しく舌が唇にふれて莉桜がそっと唇を開くと、舌が口の中を探るように絡められる。

 熱くて、とろけそうなキスだった。
「五十里……さ、ん」
「とろけている顔、可愛いな」

 そのキスは官能的で甘やかで、立っていられなくなるくらいだ。
 いつの間にか包み込まれるように抱き締められていて、莉桜はうっとりとそのキスに溺れさせられてしまった。
 五十里にもたれてきゅっと手を背中に回す。

「このままじゃ、観光にいけなくなるぞ」
「え? それはダメです」
 莉桜の返事を聞いて、五十里は苦笑して身体を離してくれた。

「仕方ない。じゃあ、今は勘弁してやろう」
(今は? じゃあ、いつかは勘弁してくれないってこと?)

 いつのことかは分からないが、それはそう遠くない気がした。
 いたずらっぽい五十里の表情にも胸をどきどきさせていると、五十里が莉桜の手を指を絡めて繋ぐ。

「じゃあ、行くか」
 向けられた華やかな笑顔に莉桜も笑顔を返した。
「はい!」

 平日の美術館は人も少なく、二人は時に一緒に同じ絵を見たり時に自分たちのペースで作品を観覧したりして時間を過ごす。

 それでも五十里は必ず莉桜の目の届くところにいてくれて、莉桜もゆっくり見たい作品はゆっくりと見て、五十里がゆっくり見ている時は休憩したりしながら美術館を巡った。

「これ、美術の教科書に載ってましたね。教科書で見たものを自分の目で大人になってから見るのって不思議な感じです」

 ゴッホの絵の前で莉桜は立ち止まって、五十里にそっと話しかける。

「そうだな。俺も海外出張で時間があると、たまに美術館へ行ったりするな。ニューヨークの近代美術館なんかもとてもいい」

 もちろん莉桜もそれは一緒だ。海外でステイのときは観光地を巡ることも多く、一時期は美術館巡りも随分としたものだった。

「私も近代美術館好きです!」
「ルーブルやオルセーも行った?」
「行きました。特にオルセーは印象派の絵画がたくさん置いてあってよかったです。建物も美術館らしいというか」

「確かにオルセーの建物は綺麗だよな。ルーブルの近代的な感じもいいが」

 行ったことのある美術館のことで莉桜と五十里は話が弾んでしまう。

「ニューヨークの近代美術館はショップも楽しいんですよねえ」
「これ本当に使うのか? というようなデザインも見るのは楽しいしな」

「私、フォトフレーム買いました。すごくおしゃれなの。そういえばあのフォトフレーム、まだしまってあるかも」

 買ったお土産が無駄になってももったいないので、莉桜は買って帰ってきたら基本的にすぐにパッキングは開けることにしていた。
 けれどそのフォトフレームは入れる写真がなくて、そのままになっていたのを思い出したのだ。

「海外での買い物は慎重にした方がいい、という例か?」
「いいえ。フォトフレームは素敵なんですけど、いい写真がなくて」

「では、今回たくさん撮るか。そのフォトフレームにどの写真を入れたらいいか迷うくらいにな」

 にっと笑顔になる五十里に莉桜は胸がきゅんとした。気持ちのままにきゅっと五十里の手を繋いでぎゅっとする。

「どうした?」
「楽しいんです」
「そうか。気が合うな。俺もだ」
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